1998年12月


雑感
   関東学院大学  本間英夫

未だ先見えず

先月号で企業淘汰が進んでいること、これから生き残るには技術が重要であり、技術者の育成について若干意見を述べました。
 バブル経済の後遺症がこんなに長引き、不適切な政府の舵取り、従来型の日本の対応では世界のマーケットから不信感を増幅するだけです。
 景気刺激策として、かなりのお金を政府が投入したにもかかわらず、景気が回復するどころか、手を打つ度に益々景気が停滞するばかりでした。この間の政治家の責任はきわめて重く、一連の金融法案対応の遅延、その間の日本売りの急激な進行、株価の下落、それに伴う長銀に代表されるような金融不安が蔓延しています。
 長銀は、対処が早ければ債務超過にはなっていなかったのに、対応の遅れから含み益がすべて吹っ飛び、自主再建の路が絶たれました。一時、国有銀行とした後は、どこかの銀行に整理後買い取らせるというシナリオを誰が想定できたでしょうか。
 全く政治家の無策ぶり、党利党略、政争の具にされた感がします。エゴが全面に出て醜く、皆が政治不信に陥り、特に、若者の多くは政治に全く無関心です。政治や経済のことなどほとんど考えていません。徹底的に修羅場をみるような状況にならねば考えないのか。あまりにも泰平的で、よく中村先生が云われていたように、行き着くところまでいかないと打つ手がないと言ったところでしょうか。この金融不安、不良債権問題を解決しない限りは、これからも日本の経済が、いや日本発の恐慌が世界全体に広まるとまで云われています。
 金融のグローバルスタンダードと言ってもよい、いわゆるBIS規制をクリヤーするために銀行の貸し渋りは、多くの企業を倒産に追いやっています。中には黒字倒産もあります。十一月の終わり頃にやっと金融システムの安定化に向けて、公的資金の注入の申請が本格化しました。
規模は一行を除く大手銀行がすべて五千億位を申請するとのことで、合計で六兆円を超えるようです。金融が安定化し、さらに実効性、緊急性、確実性を世界に向けてアピールしないと、世界のマーケットは評価しないでしょう。景気の回復の対策として、消費税の一時凍結が大きく取り上げられています。しかし税の本質を見失い、納税意識が間違った方向に誘導される結果になるのではないでしょうか。戻し税の方法として採用される商品券構想等は誰も良策だとは思っていないでしょうし、効果もほとんどないと云われているのに実行に移さねばならないのは、ある党のごね押しのようで納得がいきません。税金のとりやすい所から、しかも納税感がないまま天引きされているようでは関心が薄くなってしまいます。米国並に全員申告制にするとか、直間比率を見直し、間接税をもっと増やすべきです。自ら進んで税金を払っている実感が出るようになれば、個々人の意識が少しは変わってくるのではないでしょうか。
消費税を福祉目的税にする動きがありますが賛成です。さらに特別措置として、住宅着工にあたっては取得税やその他関連の税を凍結し、百五十平方メートルから二百平方メートルの土地付きで五千万から六千万円くらいで購入できれば、皆飛びつくと思います。現在、新築着工数は全国で百二十万棟と言われていますが、倍以上にはなるのではないでしょうか。これにより住宅関連の産業が活気だってくることは間違いありません。
 国の為政者は原稿無しで、またはプロンプターを設置してアドリブで国民に向かって、世界に向かって自信を持って演説をしないと、アピールになりません。
 我々が、学会で原稿をみながら講演をしていては誰が注目してくれるでしょうか。アドリブが半分以上です。その方が訴える力、説得力が大きいのです。
 マスコミが失言をすぐに報道するので、慎重にならざるを得ないのでしょうが、マスコミも報道姿勢、特に民放のテレビに問題があります。バラエティー番組や娯楽番組とは質的に違うのですから、もう少し批判ばかりではなく提案も含めコメンテーターも、重みのある知識人を入れるべきです。キャスターやアナウンサーは自分が、世の中を動かしているがごとく、しかも無責任な発言が多いような感があります。しかも皆同じ番組を見て、批判精神無しに、その人の意見を受け容れてしまう傾向があり、きわめて危険です。
 現在のようなデフレスパイラルの入り口にあると云われている状況下では、すべての経済活動、産業活動が停滞し、我々の身に降りかかってくるのです。
 実体から遊離したマネーゲームに踊らされ、行き着いた先が、金融破綻、上場企業の軒並み(約八割)減収減益、赤字転落企業続出(約二割)、ボーナスカット、賃金引き下げ、失業率の増加、新規雇用の低下、消費活動の冷え込み、追い打ちをかけるように少子化、高齢化、将来に対する不安等がキーワードになり、毎日のように報道機関は先行きの暗いニュースを流しています。したがって、心理状況としてはどうしても将来に対する不安から蓄えをと、貯蓄に走ります。これでは全くお金が循環せず景気は停滞したままです。ノンバンク系の金融業が増収増益だそうで、何とも皮肉な現在の世相を反映しています。資本主義の下ではすべてカネ、カネで世の中が動いているので、真の豊かさを皆が忘れ去ってしまったようにも感じます。モラルハザードは今に始まったのではないのですが、こんなにも政官財界にはびこっているのも、お金中心の世の中のせいでしょう。モラルの問題は、学校および家庭教育の見直しが必要です。すでに原稿は出来ているので、最近の学校教育の現状についていずれタイミングをみて紹介したいと思っています。

 皆様の会社において、従来の規格大量生産型、下請け装置産業的なやり方ではじわじわと、あるいはこれからは加速的に淘汰が進んでいくのではないかと心配になります。まさに、変革期においてはすべて従来型で、しかも保守的経営では通用しなくなってきています。
 時代の流れは、お役所日の丸、よらば大樹の陰、官や大企業主導がもはや通用しない、新しい経済システムに移行するのでしょうか。企業の体質改善や、新しい技術をベースにした積極経営が望まれています。


成功する企業

 二ヶ月ほど前、日経産業新聞にめっき技術で活躍している企業として、イビデンと新光電気が紹介されました。シリーズもので紙面の四分の一位を割いて、かなり詳しく紹介されていたと思います。中身はほとんど忘れてしまいましたが、電子材料の生産にあたってめっきの重要性を認識し成功したことが書かれていました。
 今まさにめっき技術は、重要な要素技術になってきています。その技術を推進した人物はいずれも私の知り合いでした。技術力で燦々と輝く会社になったと紹介していました。いずれの方とも学会で知り合いました。ただ単に名刺を交換するような表面的なつきあいではなく、学会の中で分科会活動や各種の委員会を通じていろいろ論議をするとともに、会議終了後はアフターファイブよろしく金額のはらない居酒屋に繰り出し懇親を深めました。
 この両者に代表されるように、学会での活動に協力し、奉仕の精神で参画している方々は技術をきっちりと把握し、今後の技術展開に積極的に取り組んでいます。
 もう一つの例としては、5,6年前に学会の分科会活動として、若手の経営者を中心とした懇話会を結成しようと云うことになり、海老名君や吉野君らが中心になり全国から会員を選びました。この会に関しては当初、長続きせず、せいぜい2年くらいでつぶれるだろうと、冷ややかな目で見ている人もいました。私は彼らと結成に携わっていましたので、会が消滅しないよう魅力ある会にするよう、努力してきたつもりです。定期的に経営について語り合い、技術動向にも熱心に耳を傾け会は益々発展しております。今後とも表面処理業界の担い手になっていくことは確実です。

技術者育成に対する上司の役割

 技術者集団における上長として、単に年功序列でその職に就いた場合は最悪です。技術に対するセンス、包容力、的確な判断、これからは特に発想の豊かな、示唆力にとみ正しい方向に誘導できる力量を持った人が上に立たねばならないでしょう。
 以下によい上司十ヶ条としてまとめてみました。

・ 目標、目的をしっかり明示する。
・ 自ら進んで技術開発に取り組むようやる気を刺激する。
・ 経験を豊富に持たせる。
・ 失敗を恐れない勇気を持たせる。
・ 行き詰まり、当初の計画から大幅に遅れた時の的確な判断
・ ともに悩みともに解決に向けてアイデアを出しあう。
・ 定期的に真剣な論議
・ 本人に任せ、自信を持たせる
・ ねばり強く忍耐強く
・ 若い技術者に早く成功体験を持たせる

 これらのことを実行できる人は、過去に技術に対する豊富な成功と失敗の経験を持ち、指導力に長けた人でなければなりません。部下の成果を自分のものにしてしまう人は、信頼を徐々に失うことになります。部下のやる気が急に低下するでしょう。

適材適所

過去三十年以上にわたって卒業研究、大学院の研究指導にあたってきました。たかだか一年(卒研)から三年(大学院)の指導ですが、その間に、この学生は将来技術職または技術をベースにした営業職に就けば、成果を上げるとにらんだ学生はほとんど企業で活躍しています。 
又、そのような能力をすべての学生に付けるよう努力をしております。私の研究室から、すでに三百名以上巣立っていきましたが、技術者として全くセンスがない学生はほんの数えるくらいで、ほとんどの学生はある程度自信をつけて社会に出ていきました。彼らの多くは技術関連で活躍しています。企業に入ると三ヶ月は試用期間と云うことになっており、関連の職場を回るようですが、その間その人の適正を判断するのであれば、大いに意味があります。しかし、どうもプログラムがルーチン化されており、やらされている方も、やらせている方もただ消化しているだけで、あまり意味がないように思います。もっとやる気を出せるような、研修法に切り替えるべきでしょう。極端の言い方をすれば、大学時代で十分訓練されてきているのに、画一的なプログラムが組まれており意気込みがそがれてしまっています。研究室を選んで採用すればかなりの確率でそんなことをしなくても、満足のいく結果が出るでしょう。しかしながら、一般には会社に入ってからうまく活用されず、又本人もセンスがないと思い込み、折角の能力が埋もれてしまっている場合が多いのではないでしょうか。私自身も決して、初めから能力が発揮できたわけではなく、又、私以上に能力のある同僚が何人もいたと思います。私は他の同僚よりも鈍重でねばり強く、事にあたっただけです。
 以下に紹介することは、昨年の春からの出来事です。
私の大学では勤労学生のための夜間部があります。表面処理の会社に勤めながら勉学にいそしんでいる学生が、4年生になり私の部屋に卒研生として希望して入ってきました。昼間働いてから研究をするわけですから時間の制約があります。しかし、本人はやる気十分で、土曜日会社の休みを利用して、朝から昼間の学生と一緒に研究をやるようになりました。と言っても一週間に一度ですので、昼間の学生の手伝いのようなことになってしまいます。本人は若干不満があったのでしょう。
 夏期休暇中はお盆の一週間以外は、毎日朝から研究室で実験をするようになりました。私は直接には本人に指導せず、すべて昼間の学生と大学院の学生に任せていました。十二月中旬頃でしたか、本人が相談したいことがあると部屋に訪ねてきました。 
 本人曰く、「先生私の卒業研究の単位に不可をつけてください。」「会社を休職して、もう一年間卒業研究をやりたくなりました。」本人の意図をじっくり聞きましたが、本人のやる気、真剣さがひしひしと伝わってきました。大学を卒業するとその上に専攻科と大学院がありますので、専攻科に入学することを勧めました。入学後すでに八ヶ月が過ぎましたが、会社では現場の一作業者として採用されていたのですが、目的意識が高いので熱心に研究し、かなりレベルの高い、しかも研究室では本年から始めた新しいテーマに取り組みました。
 まだ論文を書いたことがないので荒削りですが、その領域の技術者はすぐにでも飛びつきたくなるような成果を上げています。先日、企業の技術者向けに卒業研究の中間報告会をやりましたが、その会社の技術者がびっくりしていました。あいつがこんな研究をやりこなしたのかと、信じられないと絶賛していました。ただし、まだテーマを自分で見つけることは出来ません。もしそこからスタートさせると、おそらく惨憺たる結果になるでしょう。テーマは私がほとんど考えます。テーマの設定にあたっては、もしこれがうまくいけばおそらくこの様になるだろう。この様な応用があるだろうと予測はつけています。しかし、それをうまくやりこなすかどうかは、その当人の能力とセンスが大いに関係してきます。センスのない学生は、一生懸命実験をしているのですが成果が出ません。そのときは実験の進捗状況実験の進め方を詳しく本人から聞きセンスを磨くよう、実験を進める上でのこつを教えます。果たしてこの様なきめの細かい指導は、企業でもやっているのか少し疑問に思います。いわゆるOJTが技術者を養成する上で効果を発揮するでしょう。それにもまして上司のセンス、経験がものを云うのではないでしょうか。
 この話はこれくらいにしておきますが要は、能力が隠されているのです。各企業にそれなりの人材がいるのです。上司がそれを見抜いていないのです。もう少しわくわく人間が本来持っている創造性豊かな仕事に就かせるよう努力をする必要があります。
 私は企業を訪問する度に、大学は素人の集団であり、私だけが少しだけ中身が分かっている半玄人なのですよと。なぜ一年にかなりの新しい技術を公に紹介できるのか。みなさんの会社はプロ集団のはずではないですか。これまでの効率追求型、総花型から早く脱却し、創造性の高い、選択または集中型にギアを切り替える必要があるのではないでしょうか。それには今までとは意識の異なる技術集団を作る必要があり、いずれ号を改めて考えを述べさせていただきます。