1999年2月


雑感
               関東学院大学 本間英夫

プラス成長の可能性は?

 政府は「今年は積極予算を組んだのでプラス成長になる」と言っていますがどうなるでしょうか? エコノミストは誰もプラスになるとは見ていません。
 日本経済の発展過程で財源の一部は、赤字国債の発行でまかなわれてきました。昨年暮れの本年度の予算政府案は、相変わらずの不況打開策として公共事業費を中心とする予算になっていました。国税収入は四七兆円で、十二年ぶりに五〇兆円を割り込んだそうです。従って財源をまかなうために赤字国債二一兆円と九兆円強の建築国債が新規国債として発行されました。赤字国債の発行額は昨年度の一七兆を上回り、歳入に対する国債依存度は三七・八パーセントとなり、過去最悪であった七九年度の三九・六パーセントに並ぶ水準だそうです。
 地方財政も悪化しており本年度は四十七都道府県中四十二が税収不足の見通し。神奈川県は財政再建団体転落回避に向けて背水の陣、県有財産の売却に踏み切っており、今年度は二千二百億円の赤字が見込まれているとのことです。国、地方あわせた債務は六百兆にも達するとのこと。景気がよくなれば税収も上がり、赤字の埋め合わせが出来ると云っていますが、こんなにも累積した赤字を埋め合わせることなど出来ないはずです。いずれ返さなければならない借金、大きなつけを後世に残すことになります。いくらお金をつぎ込んでも経済効果はさっぱり、十数年前は大型公共投資をやれば、その波及効果は二倍以上であったものが、最近では一・二倍くらいにしかならないと聞いたのは数年前でした。現在の状況では更に効果は薄れることになるでしょう。
 それでも政府は従来型の公共投資に重点を置いた予算編成をしました。新しい発想で思い切って実行しなければ、この事態からの脱却は免れないと、政府の諮問機関である経済戦略会議では一六〇項目以上の提案に関する中間報告書を昨年末にまとめています。おそらく小さな政府に切り替え公務員の人数も削減することを初めとして、中長期的な展望にたって思い切った提案がなされているはずです。
 要は、政府がいかにこれらの提案を実行するかであり、いつも選挙民を意識したやり方では何の解決にもなりません。政治、経済の仕組み自体を変えねばならないことは、バブルの潰えた十年くらい前から分かっていたことです。経済企画庁が九八年経済のいわゆるミニ白書でバブル処理の遅れの反省、デフレスパイラルと呼べる状態に入っていること、現在の不況の原因は、官民ともに中長期的課題を先送りし、短期的な対応を繰り返してきたツケの累積であると、初めて認めました。現在の様な状況になることは、エコノミストの多くが予測していたことです。対症療法的な対応しかやってこなかったとを政府が認めたのですが、またもこれを契機にどこかの政党のように批判ばかりをするのではなく、みんなが痛みを分かちあい、この難局を打開するような指導力を発揮してもらいたいものです。政治討論会を見ていても次元が低く、もっと先を予測した説得力のある論議をしてもらいたいものです。自自連立後、積極的アクションをとって政府の本年度〇・五%のプラス成長は如何に?

米国に並んだ失業率

 昨年暮れ、いくつかの企業の中間決算報告書を眺めてみました。いつもは概況をちらっと見て(いずれの会社の概況もほとんど同じで一つ読めば事足りますが、後はどの部門がどれくらい収益をあげているのかを見て)ゴミ箱入りになります。軒並み無配転落か減配企業。また従業員の増減などには、全く興味はなかったのですが、従業員の数がすべての企業でマイナスでした。従業員の増減まで記しているのは、一部の自信のある元気な企業だけだとは思いますが。
 企業の倒産やリストラで失業率が昨年十一月で四・四%、米国と同率になりました。おそらく年末の統計結果はこの原稿を書き終えた後に出ると思いますが、四・五%を越えているでしょう。日本の雇用制度は終身制で、今までは企業に対する帰属意識が高く、一体感を持って日本流にやってこれましたが、これだけマイナス成長が続き、しかも収益をあげねば企業として存立できないので、過剰雇用を切っていかねばならなくなってきました。従って企業のリストラが更に進み、エコノミストのシュミレーションによれば本年度末で失業率が五・五%に、中には六%を越えるとの予測もあります。
 米国の場合は、失業しても短期間に再就職できるシステムになっていますし、元々終身雇用ではないので、能力があれば皆どんどん一つの企業にはとどまらず、あちこち動きます。若い人は新しいビジネスを起こそうとベンチャー企業も盛んです。ですから失業率が米国と並んだと云っても意味が違います。日本の場合はきわめて深刻な事態です。
 最近、ニュービジネスを起こす人が増えてきているようですし、中小企業庁が助成を積極的にやるようになってきました。小生の大学の近くにも、横浜市が建設したテクノセンターがあり、その中にエレクトロニクスの材料系をやっている人がいます。大企業の関係事業部から、引き合いが殺到しているとの事でした。
 しかしながら、日本はまだこの種の経験が浅く、受け入れの素地も整っていません。成功例は少ないようです。事業を大きくしようとして人を採用しようとしても、新しい事業には旧来の感覚ではついていけません。従って再雇用のための教育がこれからはもっと必要になるでしょう。
 そういえば、最近職業訓練所の入所倍率が二倍から三倍に急上昇しているとのことです。専門性が要求される領域では試験として数学や国語が課せられるようです。失業しても円滑に再雇用されるには職業訓練教育が必要です。公的な訓練学校がこの様な状況ですし、これからの産業にマッチした新しい教育訓練の場が必要になってきています。広い意味での教育産業の育成、活性化が急務でしょう。
 ニュービジネスのチャンスは多くなってきましたが雇用促進の大きなインパクトは、まだまだ先になるでしょう。従って、国家的なプロジェクト、例えば米国に大きく後れをとっている、インターネット構想、不安のない快適な住環境整備、福祉関連、バイオ、高度道路交通システム(ITS)、その他の新規分野の開拓など、従来型の公共投資から切り変えていく必要があります。すでに公共投資に多額のお金がつぎ込まれ、その分野に関する効果は出てきているはずです。それと同時にこれからはどうするのか中期や長期のロードマップから自ずから重点分野が決まってくるのではないでしょうか。

携帯電話のインテリジェントな活用を

 携帯電話の使用台数がPHSと併せて四千四百万台になったそうです。国民の三十パーセント、小中学生、それと家庭の主婦やお年寄りはあまり使いませんので、若者から中高年のビジネスマンまでで見積もると、おそらく7割以上の人は使っているのではないでしょうか。町に出かけて数えると、一瞬だけで十人に一人は電話をしながら歩いています。すでに重量が七十グラムを切り、ポケットに入れてもそれほど違和感がないのでしょう。ところかまわずどこでも会話している感じがします。
 私の持っているのは初期のもので、二百グラム以上の大きくて重い、しかもいちばん安価なPHSです。車の移動中にかけるくらいで、あまり使用しません。基本料金を除く実際の使用料金は、平均すると三百円くらいですか。発信専用で、ほんの一分程度ででほとんどの用件はすみます。ですから月の支払いは基本料金込みで四千円くらいです。
私の研究室には学生が十七名いますが、その中の十五名が携帯電話を持っています。彼らはそれほど頻繁には使用していないようで、月の使用料金は七千から八千円だと言っています。下級年次生の講義を週に三コマ担当していますが、最近は留守電機能が充実し、講義中にピーピーならす学生もいなくなりました。また現在預かっているサッカーの部員は四十名くらいですが、彼らはすべて携帯電話を持っています。試合や練習場所、時間の連絡、試合当日に緊急連絡で時間の変更や中止の連絡が入ったりしますので、必携のアイテムになっています。しかも彼らはサッカー以外ではあまり充実感を見いだせないのか、頻繁に友達と連絡しあっています。
学会の用事で東京へ出かけることが多いのですが、電車に乗っているとあっちこっちでピーピー鳴っています
高校生や大学生、最近では主婦までが車内で「ワタシー今電車…」と他愛のない会話が目につきます。女子高生や女子大生は月に二万から三万も払っているとのことです。寂しいのか孤独が嫌いなのか、いつも誰かに電話をかけないときがすまないのでしょう。
 全使用者の月間使用量を少なく見積もって一万円としますと四千四百億円、年間では五兆三千億以上になります。プリント回路の産業規模は一時、一兆円の大台に乗ったことがありますが、現在は年間で八千億円くらいでしょう。半導体も一兆円産業と言われていますし、それと比較すると使用量だけでこれだけの売り上げるわけですから、携帯電話の本体をただ同然で提供して使用量で稼げばいいわけです。
 最近はモバイル通信も少しずつ浸透してきましたが、モバイル型のパソコンを携帯電話の新規契約の際に無料で提供するキャンペーンも出てきています。又、地球全体に静止衛星を七十七個打ち上げ、世界のどこからでも衛星を使って通信できるイリジウム計画が現実味を帯びてきました。(イリジウムは元素名でその原子番号が七七、ですから計画では衛星を七十七個打ち上げることになっているはずです)現在のところ六十六個打ち上げられています。まだ電話本体が二十万円程度、使用量も携帯電話の十倍以上ですので特殊な用途にしか使用されていません。いずれは手軽に使えるようになります。まだまだ時間がかかると思いますが、このように情報インフラが整備されてくれば現在のような使い方の他に、これからはもっとインテリジェントな使い方が出てくるでしょう。
 これらの携帯機器には要素技術としてめっきが多用されています。筐体への電磁波シールドを初めとして、配線基板はビルドアップ工法で作成されています。この工法は日本で開発された方法で、現在小型軽量でしかも高機能が要求される携帯機器を初めとしてゲームマシン、ビデオ等に応用されています。

インターネット爆発的普及

インターネットの利用者は世界で一億人突破とのこと。もっと利用者が多いのかと思っていましたが、米国が突出しているのでしょう。日本においてもウィンドウズ95の発売から利用者が急増しています。ある会社のアンケート調査によりますと一ヶ月に一度以上インターネットを利用した大学生は、九十七年の二十パーセント弱から昨年は五十パーセント以上に上昇、又、二十代の社会人では二十パーセントが三十パーセント以上になったとのことです。学校や会社でメールのやりとりやホームページの閲覧、ネット上で複数の人間が意見を交わし合うチャットが増加し、新たなコミニュケーションツールとして定着しつつあります。私のところにきた年賀状にもメールアドレスを付記する卒業生が多くなってきました。
プロバイダーの数も数年前の数十倍、数百倍と多くなり、それに伴い各種サービス、利用料金も安くなってきました。インターネットの利用目的は大学生や社会人男性では「ホームページの閲覧」、女性では「電子メール」としての利用が多いとのことです。いつでもどこでも簡単にを謳い文句にインターネット用のアクセス機器がどんどん市場に出現するでしょう。
米国ではインターネットを利用したオンラインショップの売り上げが昨年一兆三千億円に達したとのこと。かってのカタログ販売からいよいよバーチャルショップが現実のものとなってきました。今後はもっと接続容易なディスプレー付き電話、携帯端末機器、テレビ用接続端末機器が出てくるでしょう。総合家庭用AV機器としてテレビやビデオ、ゲーム、CD、電話といったものが、全て一家に一台のパソコンになる日も遠くはないかもしれません。
 現在、私の研究室ではエレクトロニクス関連のマイクロファーブリケーションについて研究をしていますが、この領域は日本が得意とする分野であり、マイクロセンサーや移動体通信、光通信部品など大きな可能性を秘めています。
それにしても豊かさとは何だろうか、明るく魅力のある快適な社会とはどうすればよいのか、真の豊かさは?物から質へ、景気の停滞に伴う閉塞感からの脱却、犯罪の凶悪化、陰湿化、低年齢化、結局は知育、体育、徳育の教育の見直しが急務なのでしょう。