1999年5月


雑感
          関東学院大学   本間英夫

産学協同プロジェクトの推進

 産学官の交流や、共同プロジェクトの推進に関する報道が、最近目につくようになってきました。実際、文部省、通産省が中心となり、大型のプロジェクト作りがなされ、技術の活性が心掛けられています。またTLOと言う活字も目に止まるようになってきました。これは技術移転事業 Technology Licensing Organization のことで、大学等の技術の研究成果を、民間企業に移転することを目的とした事業です。
 現在、東京大学、東北大学、私立では早稲田大学、立命館大学で、この事業が発足しました。これは、大学における企業との共同研究、委託研究、奨学寄付金等による産学連携、更には、ベンチャービジネスラボラトリーやリエゾンオフィスを設置して、更に積極的に共同研究を推進しようとするものです。
 文部省と通産省が共同で、大学等の技術に関する研究成果を、民間事業者へ移転するための法制化を初めとして、環境整備がなされています。大学の研究成果が、民間企業に移転され、ロイヤリティー等の報酬が研究者個人や研究室の新たな研究資金として還元できれば、研究者のインセンティブが高まり、また大学関係者の産業界への貢献志向、研究成果の事業化、ベンチャー企業の創出が期待されます。
 米国では、すでに大学における先端的な発明や、発見がハイテクベンチャー等の民間企業に移転、事業化され、新しい成長産業が創出される仕掛けが構築されています。日本では、企業からの研究テーマに対して委託を受ける方法が一般的です。また、一部の大学を除いて、ほとんどの大学では、特許を初めとする知的の所有や権利化のシステムが整備されていません。従って、共同研究の結果として、特許を取るにあたって、企業が出願人となるケースが多く、大学には全く権利が残らないのが一般的でした。これでは全く大学側にメリットがなく、それ故、TLOの整備が急がれたわけです。
 今からニ五年から三〇年前、多くの大学で産学協同粉砕とのスローガンの下、あの激しい学園紛争を経験しています。それ以降、日本の大学では企業と距離を置くようになりました。従って、多くの大学では真の意味での人材教育、新しい技術が育たない体質になってしまいました。
 果たして、あの忌まわしい洗礼を受けた大学の先生方が中心となって、産学の連携がうまく機能するのでしょうか。産学協同に関してアレルギーを示していた先生が、法的にまた環境が整備されたからと云って、この事業が即座に機能するはずがありません。

産学協同のモデルケース

 多くの方々がご存じのように、我々の大学では、今から四〇年以上前から大学の中に、木工とめっきのニつの事業を行っていました。その事業部で働く若者の多くは、昼間キャンパス内の工場で働き、夜は本学の高等学校または大学で勉学にいそしんでいました。木工工場の製品は、学院の机、椅子などは勿論、家具類は横浜の高島屋の注文を受けていました。めっき工場は、特にバンパーを始めとした車載用のめっき加工が行われていました。
 斉藤先生は現役では、本学の産学協同の歴史を知る、また歴史と共に歩んできた唯一の生き証人です?
 中村先生が、回顧録や「めっき馬鹿人生」の中でお書きになっていましたが、本学のめっき工場が技術的な難問にぶつかった際、当時、横浜の指導所におられた先生を大学事業部の技術担当者が訪ね、幾度となくアドバイスを受けたとのことでした。
 それが切っ掛けとなり、先生が本学の機械科の助教授及び事業部の部長として奉職されたのが昭和三一年です。それから事業部の技術力は急速に向上し数年後には学会から技術賞を学院の創始者である坂田 祐先生が代表して受賞しています。さらに数年後には、プラスチックス上のメッキを世界に先駆けて工業化されたことはあまりにも有名です。その技術のキーになっている無電解銅めっきを電気化学的に反応を明らかにされたのが斉藤先生で混成電位論を提唱されたことで今度は学会賞を受賞されています。このあたりから、小生も専攻科生、大学院生として研究または工業化のお手伝いをすることになりました。事業部の規模は大きくなりそれに伴って、利益もでるようになり一部は工学部の研究費として還元されていました。当時の実験の進め方、新しい技術の現場への適用はすさまじいもので、多くの失敗を繰り返しながら果敢に挑戦し、最終的にはすべてが成功にいたりました。。従って私はすでに大学院時代から現場に直結した技術開発に着手していたことになります。ニ三、四歳からのこの経験は、その後研究室での技術開発に、多いに役立っています。
 このように、本学では、すでに四十年前に産学協同のモデル事業が進められていたわけです。しかも、世界に先駆けて工業化に成功したプラメッキの研究成果は、すべて公表し特許は取らなかったのです。なぜ特許を取らなかったかは、大学の校訓「人になれ奉仕せよ」を実践したもので、中村先生の回顧録に詳しく書かれています。私は米国の学会で、これまで何度か招待講演を依頼されましたが、その度に下手な英語で本学の産学協同の歴史を必ず枕に話してきました。その際、おまえの大学はスタンフォードのミニチュア版だねと云われたものです。
 このように私は過去の経験、成功体験から産学協同の推進にあたってどのような哲学、思想性を持ち産業界と連携していけばよいか、私なりの手法を習得しました。
 果たして他大学で、今盛んに叫ばれている産学協同がうまく機能するだろうか危惧されます。箱ものや法整備などは整備されましたが、多くの失敗、成功の経験をし、また中村先生のような強力なリーダーシップを取る人が出てこないかぎり、また奉仕の精神で事に当たらねば、うまく運用出来ないと思います。
 
日本でのコンソーシアムは成功するか?

 最近、エレクトロニクス関連のコンソーシアムが出来ましたが、参加している企業の思惑が交錯し、すでに一年経過していますが、円滑に運営されていません。話が具体化すればするほど、リターンは何かと企業が要求するようになってきています。
 おそらく、この種のコンソーシアムが設立された背景は、米国や欧州ですでにいくつものコンソーシアムが設立され、実際に多くの成果を上げているからです。日本でも遅ればせながら、始めねばならないとの焦燥感から始まったものです。経営者はあまり直接的なリターンを期待していませんが、担当者レベルになると、どうもそうはいかないようです。
 この一年間は設立の主旨、規約等の整備、権利関係に関する会員相互の理解を深めることに注力していたようで、具体的な研究成果は出ていません。 先日、その委員会に出席を要請されました。実装関連のコンソーシアムで五年から十年先のロードマップが出来上がり、ショートスパンでの要素技術の必要性を感じて呼ばれたものと思います。
 朝の十時に委員会が始まり、終了したのが夕方の五時でした。上述のように、すでに計画から一年経過しているにもかかわらず、殆ど具体的な成果は出ていません。小生が共同で研究を行うにあたって、あまり直接的な利益や権利だけを主張せず、お互いに探りを入れるような、後ろ手にしているようなスタンスではなく、研究に積極的に各社が参画し、成果をお互いに分かち合うようにすべきであると訴えました。
 米国の産学官のプロジェクトの中で、半導体産業がよく引き合いに出されます。米国の半導体産業はすそ野が広く深く、ものすごいパワーがあり総合力、高い技術力があります。米国の半導体工業界では昨年暮れに、産学官の研究プロジェクト「フォーカスセンターリサーチプログラム」を旗揚げしています。インテル社の社長が仕掛け人の一人で、十年間に六億ドルを提供するとのこと。インテル社の他IBM、ルーセントテクノロジー等が参画しています。
 今、米国のハイテク企業は、材料研究や微細加工の研究に力を注ぎ、日本は大きく水をあけられています。八〇年代の後半からすでに工業界から年間五〇〇人規模の大学院生に対する奨学金の提供があり、年々関係業界の若手技術者が育っています。
 日本では、七〇年代に通産省の音頭で超LSI研究組合を作り、巨額を投じてDRAMで成功しました。これが不公正なやり方だと日米の半導体摩擦に発展し、その反動からその後は官民のプロジェクトは全く影を潜めました。
 米国はこのやり方をやり玉に挙げておきながら、その後、日本に多くの商務省の役人や財界人を送り込み、綿密にヒアリングをし、今度はその方法を更に発展させました。
 現在は大規模なコンソーシアムがいくつもできています。これを見て日本でも産学官の連携を強めようと、やっと通産省がバックアップした超先端電子技術機構が立ち上がりました。半導体の業界が注目する電子ビーム描画技術が中心テーマーになっています。この種の国家プロジェクトがうまく機能するかどうかは、指導者の強いリーダーシップにかかっています。さらには、前述のコンソーシアムの欠点を指摘しましたが、企業の技術者がもっと大きな視点に立ってプロジェクトを動かさない限り、成果はあまり期待できないでしょう。
 日本の産業界は業績悪化から、今までのように基礎研究分野への投資を減額せざるを得ない状況にあります。しかしながら、今後も地道に研究活動や産学官の協力関係を構築していかないと、どんどん先進国から取り残され、並の国になってしまうでしょう。

リストラの荒波の中で

 戦後最悪の苦境に直面していると云われる日本の産業界、多くの企業が希望退職、早期退職、大幅人員削減を余儀なくされています。したがって、個々人が生き抜く魅力ある技術力を構築しておく必要があります。また、履歴書に書けるようなキャリアを持っていなければ通用しなくなってきました。日本の代表するNECが一万五千人、ソニーが一万七千人、日立四千人、、、、、、等、新聞には毎日のように大規模な人員削減が発表されています。皮肉なことに、このようなリストラを大胆に敢行している企業の株価は、最近上がりだしています。一方、躊躇している企業に対しては無反応か、じり安の状態です。外資系の企業のリストラは、すでに二年くらい前から始まっていました。早期退職者には割増金をと、入社数年の二十五歳以上の一般職、三十歳以上の総合職全員に手紙が出されたと聞いていました。今年に入ってからは、当たり前のように頻繁にこの種の記事が出るようになってきました。安全失業率は当分の間上昇を続けるでしょう。最早、サラリーマンは一つの会社に終身雇用される確率が減り、従来の雇用慣行が大きく変わること、組合活動の限界を認めざるを得なくなってきています。日本のこれまでの終身雇用制から人材の流動化の流れをくい止めることは最早不可能なのでしょう。この荒波を乗り切るには、技術者は、したがって売り物に出来る誰もが買ってくれる高い技術能力を付加するしかありません。

資格取得の吟味を!

 最近のように景気が停滞し、人員削減、学生にとっては超氷河期と云われる就職状況下においては、少しでも自己の品質を上げるため?各種の資格取得が流行ります。私の後輩の中にも学生時代から片っ端から資格を取った資格マニアがいました。彼は十数種の資格を持っています。役に立つているのは、その中の一つか二つだけです。
 現在は、社員の通信教育費や講習費を会社が一部または全部を負担し、資格取得を奨励している会社が多くなってきているようです。また、資格取得後は特別手当や奨励金がでるようです。一般論としてはきわめて結構なことであると思いますが、資格取得に全精力を使い果たし、まるで受験生のような感覚で臨んでいる人もいるようです。資格が果たして真にその個人にとっても、企業にとっても、意味があるのか一度冷静に吟味する必要があるのではないでしょうか。不景気になってくると、とりあえず何でも資格を持っていれば自分のキャリアにとって、有利であるとの判断からブームになっています。このような風潮の中で人の心理を巧みに利用した、まがい物の資格講座がなかにはあるようですので注意して下さい。先日卒業生から電話がありました、電気技術者の資格講座のダイレクトメールが本人宛にあり、一週間以内に講座の登録をすると特典があり本校の卒業生で、すでに五人登録をしていると。人を疑わない、素直で正直な人ほど、まんまと罠にはまるのです。彼は私にこの種の資格講座を知っているか、電話をかけてきたので事なきを得ました。「講座をどう思いますか?」本人はだいぶ暗示にかかっているようであり、すぐにでも登録料を払いたいらしい。「気をつけろ!」 「今そのような悪徳商法が流行っているぞ」 暗示にかかっているようなので、強圧的に云っても埒があかないと思い、「俺の云うことが信用できなければ、ひとまず講座の主催者ではなく、その資格を認定すると記してある財団や法人の電話を探して、確認するようにと忠告をしておきました。一時間後に本人からメールが入り「先生ありがとうございました。先生の云うとおり、そのような資格は財団にないとのことでした」と、、、、  皆様も利口になりましょう。