2000年1月


雑感シリーズ
          関東学院大学  本間 英夫

企業の変革

 基幹産業として日本をリードしてきた大手の自動車や電機メーカーは、収益力が落ち込み、今や傘下の企業群を束ねていく力を失ってきている。一方、技術力の高い部品メーカーは系列を越えて顧客を確保し、グローバル化の中で高い収益をあげている。生産性の向上の追求のみに注力し、開発に力を入れてこなかった企業はどうだろうか。
 大手企業に限って言及すると、企業名をあげるまでもなく株価がその企業体質を反映している。例えば、エレクトロニクス部品メーカーの中でも、つい十年くらい前までは同じように高収益をあげていたが、新技術の開発に乗り遅れたメーカーのその後の凋落ぶりが激しい。
 今まで何らかの形でコンタクトのあったエレクトロニクス部品メーカーはかなりの数になるが、現在も関係を持ち続けている企業は躍進している。これらの企業は当然開発に積極的で、研究の支援をしてくれている。これらの企業は業界全体が苦しい時期においても研究の手をゆるめることはなかった。一度手をゆるめてしまうと、研究に携わっている技術者のレベル低下は著しい。また、産業界をリードしている企業群は、当然の事ながら学会活動への参加も積極的である。
 一方、学会活動に無関心、非協力的で、受け身的にしか参加しない企業も多いのには驚く。オンリーワンの企業を目指すとか、であらねばならないとする経営者が意外に多いようだが、一時期オンリーワンであったとしても、永続は望めない。製造業から見ると、国際的な統一基準の中で、一部を除いてその条件に沿った製造を余儀なくされている。ごく先端的なところでは、若干のタイムラグはあるが、ほぼ同じ技術が同じテンポで進展していく。したがって、同じレベルでの競争と協調がうまくマッチングし、国際レベルでの学会発表も活発である。国際会議は一部の研究者や技術者に任せるとしても、我々の業界においても、とにかく、関連学会の学術講演大会くらいは意識のある技術者が積極的に参加、または、発表する雰囲気を醸成すべきである。
 産業構造の変化は急峻である。単にものを大量に作る時代から、質の高い技術を駆使した物作りや、そのプロセスのノウハウを提供する時代になってきた。本誌購読者のほとんどは、表面技術を専門にする企業の方々であるが、企業の規模よりも質的向上が肝要であり、着々と技術者を養成し、これを推進させねばならない。これからの時代を予測し、研究に力を入れてきた企業は、大きく発展するだろう。それにしても、キラッと輝く技術者が意外と少ないのは、なぜなのだろうか。

技術環境の整備

 生産に直結する設備投資を積極的に行うことは、企業を発展させ、存続させるためにはごく当然である。しかし、研究開発費となると、本業界の中で果たして、何社がきちっと年間計画の中で予算を組み込んでいるだろうか。今までは、技術の環境など考えなくても、何とか持ちこたえてきた。したがって、技術、研究の環境は、一部の企業を除けば劣悪である。この状況は本業界に限ったことではなく、急成長を遂げた一部や二部上場企業の中にも見受けられる。
 設備と薬品さえ導入すれば仕事が出来た装置産業型生産は、どんどん海外に展開していく。したがって、これからは高い技術力も持っていないと完全に取り残され、じり貧になってしまう。従来は、技術者というと便利屋で、工程の改善やトラブルの解決を行う人と認識されていたようである。
 技術に携わっている人にとっては、開発や研究を円滑に遂行できる環境整備を望んでいる。それにはまず、最低限の評価道具を自社内に持つことが必要である。めっきを中心としているので、取り扱っている前処理から後処理までの湿式分析、ビーカー、フラスコ、シリンダー、ピペット、ビュレット等はマクロ分析道具として不可欠である。しかしながら、これらの一番基本的な道具を完全に常備している企業はどれくらいあるだろうか。しかも、それを使いこなす技能者、技術者がどれくらいいるだろうか。日々のルーチンワークとして不可欠な分析作業がなおざりになっているのではないだろうか。
 基本的な分析を忘れて、機器分析だけに頼り、高価な機器を駆使していれば、品質が安定すると思ったら大間違いである。先日、サブミクロンのきわめて細かい配線をめっきで作成する実験をするにあたり、組成が少し複雑なめっき液が緊急に必要となった。研究室内でこの液を調製するよりも、実際の現場で使われている液を持ってきたほうが、不純物レベルも少なく精密濾過さえ行えば、当初の目的は達成できると考えた。
 早速、ある会社から液をもらい実験を行うと、予期した以上に良好な結果が得られたので、すぐに論文を投稿する準備に取りかかった。いくら短い速報であったとしても論文を出すまでは何度も実験を繰り返し、その結果を吟味する。その後、もう少しデーターを取る必要が生じ、もう一度同じメッキ液をもらって実験を進めた。
 学生が即座に「前の液とどうも違うようです。今度は全くうまくいきません。」と言う。早速、その会社に連絡し、液の状態について尋ねた。案の定、液の分析がなおざりになっていた。めっきにおいては如何に処理液を定常状態に保つかが、最も基本的で大切なことである。プロセスウインドーが広いので、最近は分析の頻度を少なくしていたとのことであった。
 しかしながら、不良が出てからあたふたするのではなく、日頃からきちっとやるべき事をやっておく必要がある。
 表面処理の分野で必要な機器分析としては、分光光度計、原子吸光、イオンクロマト、最近威力を発揮している細管式電気泳動などがある。これらは日常の分析に使用する以外に、開発や研究を進める上に必要な道具である。これらの機器を導入している企業は、技術に対してその必要性を理解し、これからも業界の中でリーダー的な立場を維持するだろう。 経営者は従来の考えを変え、利益の一部を積極的に研究開発費に投入すべきである。成果がすぐに現れてこないので、今まではなおざりになっていたのではないだろうか。
 また、機器を導入しても、今まで技術者が便利屋になっていたので、彼ら自身がその道具を使えず、さらにそれらの道具を駆使して開発をする手法にも長けていない。折角、技術者を採用しておきながら、前述したようなルーチンワークや便利屋になっていることに対して、技術者は無抵抗に受け入れ、年を取れば取るほど感激もなくなり、情熱を持って新しい仕事にチャレンジする気持ちが薄れてしまっている。技術者を本来の意味での技術者として、生かしてもらいたい。
 そのほか、この業界で是非とも導入しなければならない評価道具として電子顕微鏡や、微視的領域における表面分析計、X線回折計等をあげることが出来る。いずれにしても、この種の評価道具は利益が出たら、少しずつ揃える必要がある。
 大手の加工組立型の企業は、個々の要素技術に弱く、部品メーカーにしても、めっきの領域は余り強くない。だから、これは出来ないか、こんな事はめっきで可能かなど、多くの要求が皆様の企業にきているはずである。しかも、相手はリスクを回避するため、成果を早く出すために、複数の企業に同じ内容の仕事を委託している場合が多いようである。
 これらの要求を整理してみると、難めっき材料(マグネシュウム、フェライト等)へのめっき、プラスチックス、セラミックス、ガラスへのめっき、ドライでは採算の合わない超大物への成膜から、逆に超微細な領域への選択めっき、電気、磁気、機械、光学その他の特性をめっきによって創生する技術等。これらのめっきは、今後益々重要になってくるだろう。
 日常のルーチン、研究開発すべてに汎用性のある道具を準備することは、なかなか困難だが、設備投資を積極的にやってきたと同じように、研究投資にも今後は力を入れねばならない。

プラめっきに関連の深い実装技術

 ICは処理速度が益々高速化する中で、パッケージは多ピン化せざるを得ない。特定用途向けIC(ASIC)は千から二千ピンが現在主流である。ロードマップによると、二年後には四千から五千ピンになると予測されている。したがって、ピン数の増大により当然同じ大きさのパッケージを作るとすれば、ピンの間隔を狭くしなければならない。千ピン以上になってくると、ピンから出てくる導線を一枚のプリント板のパッケージでは配線が出来なくなる。そこで配線層と絶縁層を何層か積み上げて出来たのが、ビルドアップ多層パッケージである。このパッケージの作成にはプラめっきの技術が駆使されている。(例えば、密着形成のためのエッチング、触媒化、無電解めっき、電気めっき、層間導通のためのめっき工程、パターン形成のためのめっき工程、BGAのめっきバンプなど。)プラスチックスパッケージを作成する際のキーになる工程に、絶縁層を介して配線層同士の接続のための導通路(ヴィア)の形成がある。
 ヴィアを形成する方法としては、感光性の材料を絶縁材料に混ぜ合わせ、絶縁層を形成した後に露光、現像するフォト法が一般的であった。しかしながら、配線密度の増大に伴って、ヴィアの直径を小さくしなければならなくなった。現在は未だ一〇〇ミクロン位が主流だが、四千ピンにもなると直径が三〇ミクロン位になり、当然、配線幅も二〇ミクロン程度になる。こうなるとフォト法では限界であり、レーザーでヴィアホールを形成するのが主流になる。未だレーザー法が主流ではなかった今から四、五年前に、あるメーカーの技術のトップが研究室を訪れ、どちらが良いか尋ねた。私は即座にレーザーでしょうと、根拠は、一連のメッキ工程を考えると、フォト法では処理によっては絶縁層にダメージを与える事、および密着層の形成に困難を伴う事を指摘した。
 レーザー法では材料に制限がないので、あとは材料に対していかにめっきを行うかを考えれば良い、と私の考えを伝えた。その技術者は私の目の前で、ぱーんと手を大きく打った。本人はどちらにしようか、当時はフォト主流であったので、多いに悩んでいたのである。私は単にちょっと本人の背中を押しただけであり、現在その企業は外販も積極的に行い、事業部自体は大きく伸びている。
 恐らくつぎに、それではレーザーで炭酸ガスかYAGかということになってくると思われる。現在は主流が炭酸ガスだが、これも私の経験から何れはYAGになると予想している。その根拠は、ヴィア径が三〇ミクロンまで小さくなってくると、穴の中に残留する樹脂が問題になってくるはずである。YAGを用いると、ショットによってプラズマ状態になり樹脂が完全に除去できる。現在はコストが高いのでそれほど普及していないが、ロードマップから見ても、まもなく主流はYAGになると思われる。これらのパッケージやそれを担うプリント基板の製造には、今後益々めっき技術が重要になってくる。

早起きは三文の損?

 早起きの人は、朝寝坊の人よりもはるかにストレスがたまると、英科学誌に発表された。
午前五時二十二分から十時三十七分までに起きる被験者四十二人を選別し、午前七時二十一分を境に「早起きタイプ」と「朝寝坊タイプ」に分け、だ液中に含まれるストレスを引き起こすホルモンの量を調べた結果、早起きタイプのだ液には、朝寝坊タイプより多量のストレスホルモンが含まれることが判明した。さらに、高濃度の同ホルモンが終日、体内に残ることも分かった。
その後も十週間にわたり被験者を追跡調査し、早起きの人は筋肉痛や頭痛などの症状が、朝寝坊タイプの人よりも顕著である事をみいだしている。また、睡眠時間の長さとストレスホルモンとの間に相関関係はみられなかったそうである。
ストレスは癌の元、皆さん朝寝坊しましょう。