雑感シリーズ

関東学院大学  本間 英夫



日本型システムの転換期か?



 「相談があるんですが」卒業生からの、このフレーズから始まる電話、私は用件を聞く前にすかさず「辞めるのか?」と切り返す。ほとんどが会社に対する不満、同僚や先輩との人間関係から嫌になって転職したいというのである。

 この種の相談は滅多に無く、数年に一度くらいであった。今までは事情を聞いて余程のことが無い限りは、今は凌ぎの時、とやかく文句を言う前にしっかり能力をつけるようにと諭(さと)してきたものだ。

 しかし、この数ヶ月、辞めたいとの電話やメールが続いている。今までの理由とはかなり違う。仕事が極端に少なくなり残業カット、ボーナスカット、配置転換、能力給を重視した年俸制の導入、先行きに対して不安を感じている。

 だけど、辞めてどこへ行こうというのか?同じ業界にて転職しようとしても、どこも同じ状況だぞ。現実は多くの大量生産型の仕事は、海外の賃金の安いところにシフトしている。今までの大量生産を中心としたシステムが大きく変わろうとしている。

 君が今後とも、技術をベースに生きていくには、今、耐えることが大切。今までの生活を2割くらいカットして生き抜けないか。

 日本全体の経済状況を見てみなよ。当人にとってこのような話は、どこまで通用するのかわからない。今までは凌げと慰留に努め、ほとんどそれで上手くいっていた。

 しかし、今回は社会全体のシステムが大きく変わろうとしている。通用しなくなってきているのかもしれない。



最悪期をどう乗り切るのか?



 失業者が120万人増え、失業率は7%台へ、企業倒産は過去最悪を更新。6月初め、サラリーマンに対するアンケート調査をニュースで知ったが、4人に一人が失業の不安を感じているという。経済構造改革、不良債権の最終処理の痛みか。景気回復を図りながらの構造改革は所詮無理なのであろうか。

最終処理の対象となる大手銀行の不良債権は約13兆円といわれている。また、地銀、第二地銀も同じように最終処理を迫られ、24兆円といわれている。

24兆円のうちゼネコン・不動産、ノンバンク、流通が主で特に半分以上はゼネコン向けである。

中村先生がよく言われていた、こうなったら借金の棒引きしかないよ!

ゼネコンは債権放棄で生きながらえてきており、それが逆に、業界全体が過当競争の構造不況に陥って、このままでは共倒れだと、淘汰を望む声が大きくなってきている。

 問題企業を生き長らえさせることは、従来の手法と同じく問題の先送り。小泉内閣は構造改革を旗印にハードランディング路線を取るのだろう。昨年の企業倒産件数は、約2万件で過去最悪。今年はさらに3万件近くに達するといわれている。

 24兆円の不良債権が切り捨てられるとなると、さらに120万人が失業することになり、現在の350万人から470万人に増加すると試算されている。

このように構造改革は痛みを伴ない日本経済を悪化させるのは確実だが、新内閣は改革と回復の両立を目指すという。

 財政再建を強調する小泉首相は失業者のセイフティーネットに2兆円から3兆円使うといっている。都市整備やIT関連に予算を配分し、景気を下支えしながら、構造改革と景気回復の両立をしていくという。

しかし、多くのエコノミストは、これまでの問題先送りを続けてきたツケは想像以上に大きく、しかも、12兆7000億円分を直接処理しても、問題企業向け債権が151兆円もあることが判明した。銀行保有株取得機構、証券税制改革、土地流動化策と対策がとられようとしているが、日本経済の起死回生にはつながらない。景気回復との両立など不可能だと。

 一度、落ちるとこまで落ちてみないと、日本経済の再生などあり得ないとコメントしている。これも良く中村先生が言っていましたね。工学の用語の中にサイバネチックスってあるが知っているか?産業界にも当てはまるぞ。徹底的に落ちるところまで落ちないと分からないものだよと。



21世紀型の新しい経営の模索



戦後、日本は「追いつき追い越せ」を合言葉にがむしゃらに働き1987年にはアメリカをGDPやGNPで追い抜いた。これまでは大量生産で物をどんどん作り、国内を初め世界に向けてジャンジャン売れば、経済成長間違いなしであった。

 表面処理の産業に限ってみても、生産を重視し、思い切って設備投資を重ね、薬品メーカーからそれに見合った薬品を購入すれば、どんどんその企業は成長した。しかしながら、大量生産型のほとんどが海外に移り、国内には、かなり高度な技術を必要とする領域しか残っていないという。最先端の技術も日本の頭を超えて中国本土に生産拠点が移っているという。

90年代に入ってからは、いわゆる失われた10年といわれるよう土地神話の上に建てた砂上の楼閣がドサドサと崩れさっている。

 ユニクロ現象に見られるように、ネット社会は情報スピードが速くなり、地域格差はなくなり、グローバル経済化が一層進む。すべての製品に今までに無い競争原理が働き、利潤はどんどん低下していく。最後に残るのは最も付加価値の高いサービスなのだろうか。頭脳だけを使った最もエネルギー効率の高いソフト技術が残るのか。

 物質的な価値より考え方とかソフトサービスのほうが価値が高い。

生産手段が途上国に提供されればされるほど、日本では付加価値の高い大量生産が困難である。

 高い知識、ノウハウを持っていなければ出来ないような、技術や物作りしか生き残れないのか。たとえば実装関連で言えば、板厚が6ミリ以上穴径0.3ミリ程度すなわちアスペクト比が20以上の基板が国内のメーカーを回っているという。これをこなせる企業は10社もないという。

 また、新しい技術に挑戦している企業が多くなってきたようであり、Eメールや電話で技術的な質問が多くなってきた。海外からもメールで多くの質問が入ってくる。中には直接的で浴の組成を全て教えろという。これは論外として、なかなかチャレンジングな内容が多くなってきているので協力するようにしている。

 しかし、前にも研究所の設立の緊急性を問いたが、これからは今までとは違ったやり方、すなわち、研究に対する大学としての権利を守り、再投資の原資を稼ぎながら、研究をしていかねばならない時期が到来した。

 他大学と同じ事を、しかも後追いでやっていても、これからはどんどんジリ貧になることは確実である。一点豪華主義とまでいかなくても50年以上前の大学の事業部をルーツとした表面工学、それを発展させたエレクトロ二クス実装の産業界に確実に我が大学を卒業した連中が活躍してくれている。

 文部科学省は国立大学の再編、統合、効率化を各大学に求め、予算の大幅削減、独立法人化を具体的に進めている。その内容を紹介すると国立大学に民間的発想の経営手法の導入、再編、統合の大幅推進、早期独立法人化。第三者評価を導入等である。

 さらに、国立、私立大学の中で評価の高い30大学に資金を重点配分するという。小泉内閣の「骨太の改革大学バージョン」ということになる。したがって、我々の大学への国からの補助金は益々削減されることになる。

 大学は研究型、研究教育型、教育型に区分され、大きな変革期を迎えている。

 蛙は熱い湯の中に入れるとびっくりして飛び出すが、ぬるま湯から徐々に温度を上げていくと死んでしまうという。

我々の大学は、まだまだぬるま湯体質から抜けきれていない。このままでは蛙と同じ運命をたどることになる。