雑感シリーズ

関東学院大学  本間 英夫



依存体質からの脱却



表面技術協会の会長の任に就いている関係上、関連団体の協議会、総会、懇親会でスピーチを依頼されることが多い。年の初めから5、6回この種の会に出席したが、世情を反映して暗い話ばかりであった。多くの代表は、政治に期待したり、地方自治体へのお願いと言うか、おねだりのような話が多かった。表面処理の業界の会員数は、この10年間で、3000社から2000社くらいまでに激減したという。

組合や連絡協議会などはどうしても業界全体のことを考えねばならないので、弱者を救済する意味で景気の後退期には陳情団体になってしまうが、パイが縮小した現在、結局は強い企業だけが生き残っていくことになる。いずれにしても、依存体質から早く脱却しないと、まだまだこの先、廃業や転業をせざるを得ない会社が続出するであろう。私はいつも、ピンチがチェンジのチャンスと、積極的な展開の必要性を語ってきた。



ピンチをチャンスに



先が無い、見通しが立たないと悲観的な企業が多いようだが、そのような企業の中でも実はキラッとした技術を持っているのに、それに気づかずにいる場合がある。一方、積極的に展開している企業は魅力のある、自分たちにしか出来ない技術を構築し大きな飛躍につなげている。

最近、いろいろな商品を見ると、機能性を付与するためのめっきが使われる頻度が多くなってきている。ひとつの例を挙げると、半導体の製造に関しては、従来ドライプロセスが主流といわれてきたが、実は半導体の製造装置、周辺の評価道具だけで莫大なコストがかかり、しかもこの領域の技術の進展があまりにも早いので、減価償却を終える前に、次世代のプロセスを確立しなければならなくなってきている。

IBMのフェローで、すでにリタイヤーされたと思うが、ロマンキュー博士が40年以上にわたり、入社当時からドライからウエットへとチャレンジされてきていた。それが磁気ディスクの無電解めっきであり、ヘ ッドのめっきによるコイルであり、半導体の電気めっきによるダマシンプロセスである。

最近、ウエットプロセスが世界的に認識されてきたようで、ドライプロセスからめっきに替えられるものは積極的に取り込んでいこうとの機運が出てきている。MEMS(Microelectronics mechanical system)やバイオチップの製造技術にも、かなりめっきが関係する。これらはまさにこれからの夢のある表面処理技術だ。





マネージメントと技術力



これからの経営は、経営者のマネージメント能力と技術力が大きく勝敗を決める。技術的に力が無い企業は、これから当然消え去る運命、逆に、地道に技術力を高めてきた企業で経営者のマネージメント能力がすぐれていれば、この先さらに大きく成長するであろう。

高度成長期は、自社内に技術力が無くても、薬品や設備の供給メーカー、依頼する大手の企業が技術的にサポートしてくれた。それによって大きく利益を上げ、規模の拡大につなげてきた企業も多い。しかしながら、これまでに利益を上げてきた企業も、成熟技術が中国をはじめとする東南アジア諸国にシフトしパイが大幅に縮小し、将来の見通しが立たないでいる。

下請け産業から抜け出なければいけないと、中村先生はバブル絶頂期に警鐘を鳴らしておられた。さらには、いくらこのようにいってみたところで、落ちるところまで落ちないと実感としてわからないものだよとも言っておられた。したがって、新技術を追い求めようとしても、多くの表面処理を中心とした下請け加工企業は、技術の蓄積、技術者の養成を怠ってきたので対応できないでいる。自らの積極的な判断と展開で技術をキャッチアップし新技術を創製できるのはほんの一握りの企業群である。

組合を中心とした組織では、高度成長期のサロン的な雰囲気から脱却せねばならない。現在、表面処理の産業界でも産学官連携事業の推進と協議会の活動が始まったが、論議だけで終わるのではなく具体的に実行する仕掛けを構築せねばならない。



薬品メーカーの役割



薬品メーカーは、これからは今まで以上に新技術に対して魅力的な商品を開発し、関連企業とタイアップし、技術のサポート体制をさらに強化していかねばならない。

その技術力の源泉はとなると、直言すると、今までの多くの薬品は独自にメーカーで作られたものよりも、ヨーロッパやアメリカで開発された薬品を日本流に改良したものがほとんどであった。しかしながら、これからは日本発の独自の魅力ある商品を開発することが大切である。

勿論、これまで通りグローバルな視野を持ち、日本以外でいい商品があればどんどん導入するべきであるが、日本発の魅力のある技術をベースにした商品を持っていれば、世界戦略の中で互角に交渉できる。



技術者の待遇



日本の技術者は、技術の開発よりも改良が得意であるといわれているが、それはこれまでの技術のベースがヨーロッパであったりアメリカであったりしたので、日本の技術者はこれらの技術をさらに完成度を上げたのである。

ちなみに、最近では日本発の開発商品も、領域によっては多くなってきており、開発から改良まで技術者は情熱を持って事にあたってきている。

しかしながら、特にエレクトロニクス産業界で繰り広げられてきた、バブル崩壊後の人減らしを中心とした技術者の処遇に、特に中年を過ぎた人たちは大きな不満を経営者に抱いている。

経営者は、株主向けに利益の出る体質に会社を変えていかねばならなかったので、致し方ない面もあるだろうが、中年層を中心とした人員整理によって現在多くの大企業では、これまで培ってきた技術力が大きく低下している。

また、このように冷遇されていた技術者は、その技術を海外に持ち出していることも、少しこのシリーズで触れたことがある。モラルハザードと言われても、経営者の対処の仕方に対するしっぺ返しともとれる。それによって日本の企業がますます弱体化していくとすれば大きな問題である。

ある中年の技術者が言葉少なに、昔の「士農工商の階級制度ですよ」といっていた。多くの企業の経営者人を見てみると、確かに経営陣には技術者の比率は低い。海外へ人材が流れるのを、手をこまねいて静観しているようでは問題だ。今こそ技術力をさらに上げるには、これらの優秀な人材を中小企業が積極的に獲得することである。

そこで注意をしなければならないのは、果たして日本の技術の担い手である中小の企業に、彼らが適応できるかである。ひとたび採用すれば、不向きだとすぐに辞めてもらうわけにもいかないので、きちっと適応性を判断しなければならない。

優秀な人材の確保と同時に、技術革新のテンポが速いので、表面技術の基礎から応用にいたるまで、一企業で完成させるには莫大なエネルギーが必要である。これからの時代は、効率よくフットワークよく、大学も積極的に仲間入りし、新技術を創製できるような新しいアイデアをどんどん出していかねばならない。