雑感シリーズ

関東学院大学  本間 英夫



データーの改ざんおよび捏造のルーツは?

工科系の大学では実験科目の比率が極めて高い。ほとんどの工科系の大学では中堅から上級技術者を養成することを目的として1年生、2年生でそれぞれ数科目の実験を履修、さらに3年生では専門に入るための分野別の実験を履修することになる。最後の4年生になると卒業研究、この科目は全員必修で年間を通して研究中心の生活になり、学生諸君もその時点ではじめて学生としての充実感が芽生え、自主的に研究に励むようになる。

ところが、大学によってはこの卒研を必修からはずしているようで、日本のこれからの担い手をしっかり育てなければならないのに、逆行することになり老婆心ながら心配である。私の経験では4、50人学生がいるとすれば、レポートのまとめの発信地の違いから、4タイプから5タイプのグループに分けることが出来る。学生は巧みに丸写しを避け、あたかも実験を繰り返し行い再現性や考察に工夫を加えているようであるが、こちらはプロとして即座にデーターの捏造を見抜き、みんなの前でそれを指摘する。また、稚拙な文章でもよいから自らが考え、工夫するように仕向けるようにしてきた。そうすることによって、彼らはモラルも向上し実験に対する態度も変わってくるはずである。 

先生方は基礎実験だからと目をつぶっているようだが、下級年次にその癖がついてしまうと、後々までそれで調子よく通せるとモラルが大きく低下し、工学に進むものとして許せない行動を助長することになりかねない。最近では私自身、大学の中では最年長の部類に入り、卒研に入る前までの基礎実験を直接担当することがほとんどなくなり、若手の先生方が実験の指導に当たるようになってきている。

工科系の実験科目について触れた理由としては、最近の原発や車、食料品の販売などに関わるデーターの改ざん、捏造に関係するからである。卒研に入るまでの基礎実験では、実験を終えた一週間後に、その結果に関するレポートを提出することになっている。いつの時代も変わらないが、必ず何人かはまじめに実験をやり、きちっとレポートをまとめている学生が標的になる。一人がそのレポートを丸写し、それが即座に広がっていく。特に最近では情報機器および情報メディアの発達に伴って安易に行われているようである。また、標的にされたいわゆるまじめな学生も一昔前と違い、インターネットの普及に伴って、検索用語を入力すればかなりの確率で自分が望んでいる情報を入手できるので、必然的に出来上がったレポートは、内容がちぐはぐ、しかもその出所(発信地)となった学生は数人で、それが全員にいきわたる。なかには、一瞬なかなか工夫したすばらしい考察だと感心していると、なんてことはない全て情報源を介した丸写し。それも情報を検索する力がついてきているので、参考書以外にこの種の情報収集の力は大きく評価してやらねばならないが、余りに頼りすぎると考察する力が落ちてしまう。

教員側は、よく注意して彼らの意識を変えるように仕向けねば大変なことになる。なんだか、捏造の始まりのようで、モラル教育を平行して実施するというか常に教員は頭の片隅に置き、学生に自信を持って全人教育を意識しておかねばならない。最近は学生に対して例の歌手のうたい文句ではないが「お客様は神様です」と迎合しすぎて、いずれの大学でも学生に対するサービスの充実と相談室を拡充する動きがある。

従来はこの相談室というのは経済的に困ったり、精神的に病んでいる学生を指導したりするいわゆるカウンセリングセンター的なもので、利用者もそれほど多くはなかった。また担当の先生方も親身に学生の指導にあたれた。ところが最近の傾向としては上述のように大学が大衆化し、学生の意識も低くなり、学生は何でも与えられるものと安易に相談をするような傾向があるようだ。

大学側も実績とばかりに相談者が何名あったと、中身の論議はそっちのけで、数値で評価している。中には利用者が少ないからもっと利用実績を上げたいと、何でも良いから学生に相談に来させるようにと、担当の先生がアナウンスするにいたっては、本末転倒もはなはだしい。いったい本来の教育を捨ててこれで良いのか、各大学ともこのあたりで考え直すべきであろう。

教員は一人一人がそれぞれのキャラクターで、日常の学生とのふれあいの中で愛情を持って教育にあたれば、こんなバカなことにはならないはずだ。ただどこの大学でも入試科目の関係から基礎力がない学生が増え、どうしても導入教育を先ずやらねばならなくなったことは、確かである。

そのための相談室であれば補正導入教育として理解できるが、利用者が少ないからもっと利用させようとするのは本末転倒。

教員のほうも本来の教育とは何かをよく考えねばならない。残念ながら大学の教員全てが教育力の面で高いわけではない。最近ではいずれの大学でも講座性が大きく崩れ、いい意味での教育のノウハウの伝授がなくなってきている。教員になるには、資格は専門の業績が中心で、教育のプロは極めて少ないのである。したがって個々の先生が長い時間をかけて自分なりの教育方法を身につけてきているのである。

最近は何でもセクハラだ、パワハラだ、アカデミックハラースメントだと教員がビクビクしている。このような理由で、日本の将来が大変なことになりつつあるようなので早い段階で軌道修正が必要である。



学ぶ姿勢の欠落

 共通1次が導入されてから久しいが、受験科目の少ない私立大学を受ける傾向が高まり、さらには、国公立大の授業料の値上げとともに、私大人気に拍車がかかった。
 特に、私大の文系学部では数学を受験科目から外しているところが多い。したがって文系志望の受験生のほとんどは、理系科目に興味を示さないように仕向けてきたことになる。さらには、その文科系の卒業者がこれまでは銀行をはめとした金融業や商社に入り工科系の卒業生よりも給料が1・5倍から2倍くらいの違いになり、生涯賃金ではさらに大きな差が出てきている。しかもほとんど現在どの領域でも文科系の指導者は異口同音に「私は数字に弱いから」と豪語する。現在の経済界を見ても先月号に工科系の経営者が増加傾向にあると記したが、それでもまだまだ、ほとんどの領域で文科系が支配している。小学校で算数や理科が好きで工科系に進みたいと思っていても、親や教員が文科系の道を子供に押し付けているとすれば、これは大きな問題である。

実際、小中学校の教員の多くは、理科系よりも文科系が多いようで、これからを担う少年の方向を誤っているのではないか。教育改革はこれからの日本の将来を展望する上で一番重要課題である。これまでの、ゆとり教育は完全に間違っていたと思う。鉄は熱いうちに打たねばならない。ゆとり教育の名の下にサラリーマン教員がますますサラリーマン化し、情熱を持って教育にあたる教員が少なくなっていったのではないだろうか。理科系科目が受験科目ではないという理由で初めから授業に熱が入らず、しかも、文科系では大学が受験科目から除外しているので大学で、理系科目の学力は身につけられなくなってしまう。
 こうして共通1次という受験制度は幅広い基礎的な学習をせねばならない時期に、受験のための勉強だけになり、さらには私学の受験においても3科目受験とか一芸入試とか基礎学力は大きく落ち込む結果になっている。この悪癖を解消しなければ、日本は世界から取り残されてしまう。



三週連続の国際会議

9月の19日から10月9日まで3週間連続の国際会議に出席しなければならなかった。ならなかったというのは、全て招待講演、シンポジュームのオーガナイザーとしての要請が半年以上前からあったからで、大学の中では3年前から大学院の委員長を務めているが大学の業務を主にしなければならないと、これまで2年間、この種の要請は全て断ってきた。しかしながら余り断りすぎると信用がなくなってしまう。

サーズの影響で延び延びになっていた中国で本年5月に開かれた国際会議でも招待講演を依頼されていたが、規模がそれほど大きな会議でなかったのでこちらの要望を入れてくれて土、日に会議日を設定してもらったので、大学の業務には支障がなかった。

本年の2月だったか3月だったか委員長選挙の際には、もう2年間もお勤めしたし、いろいろな要請に応えたかったこともあり、若い先生方にバトンタッチすべきだと委員会の席上で暗に示すようにしてきたが、残念ながらかなわず、僅差で再選されてしまった。その際に工学部の役職についている教授に、これまでの2年間は行動を自分なりに制約してきたが、これからは国際化している中で自分なりに行動したいと進言した。その後に満を持したように招待講演が続いて要請されたわけだ。

9月下旬のギリシャでの電気化学国際会議、その会議に臨む3週間前だったか委員会の席上で次回は、工学部の大学院専攻主任が集まる会議が丁度帰国する日、9月27日(月)にぶつかっていることに気づいた。そこで、代理を立てるようにその会議の席上で提案した。

定例の工学部の教員が集まる大学院の会議であれば、委員長名で会議の招集を行うので考慮しなければならないと思うが、上記の会議は専攻別の主任が集まるだけで総勢5名の会議。しかし、代理は今まで前例がないからだめだという。事務も教員も余りいい顔をしない。思い切って先鞭をつけるように、いろいろこれから、この種のことが誰にでも起こることだからお願いしたいと要請した。初めは最悪の場合は代理を立ててもいいと了承してくれそうな気配があったが、どうも雰囲気がよくない。仕方がないから一日前の便で帰るように旅行業者に交渉した。かろうじてビジネスは可能性があるという。実は9月の19日から一週間の中に旗日が2日ある。したがって実質的には企業に勤めている人にとってはその週は3日間だけ出勤日であるので海外に行きやすい。ということは、当然ながらみんな、土曜日か日曜日に帰って来たいので満席でキャンセル待ちとなった。幸いにキャンセル待ちで事なきを得たが、会議の席上で他の大学先生に様子を聞いてみた。「先生、なに言ってるんですか!そんなもの代理を立てるのが当たり前ですよ!」国際化しているので他大学から来ている先生方は簡単に代理を要請し会議に出席しているという。