雑感シリーズ

関東学院大学  本間 英夫



原発の事故

パレートの法則、ハインドリッヒの法則と2ヶ月不良対策、事故対策などに関して触れてきたので、この種のテーマから次のテーマと考えをめぐらしていた矢先(8月9日)、今度は美浜原発の事故。

しかも、長崎に原爆が投下されて59年目、まさにその原爆記念日に事故が起きるとは、原子力発電の危険性が新たに問いかけられる結果となった。これは数年前のナトリウム漏れに続く大事故だ。

日本の発電電力量の構成比は、原子力発電は約37%に達しており、原子力発電はエネルギー効率が高いからと日本の各電力会社は原子力発電を積極的に推進してきた。

しかしながら、スマイリーアイランドでの事故、チェルノブイリでの事故、さらには日本各地の発電所や東海村での事故、使用済み燃料の処理等の問題から、さらには最近では定期検査の改ざんなど信頼を失墜させる事件がおきていたので、追い討ちをかける結果になった。    

日本、韓国、チェコの三カ国は計十基の原発が新規稼働させ、原子力依存比率が高まる見通しであった。

1999年実績ではフランスが約75%で最も原子力依存比率が高く、以下ベルギー(58%)、スウェーデン(46%)、韓国(43%)と続き、日本はハンガリーと並び約37%。
 スウェーデンは1980年に原発全廃を国民投票で決めたが、その後、産業競争力への影響などから、当初2010年とした全廃時期の設定は先延ばしになっているようだ。
 ドイツで現在稼働中の原発は19基であり、寿命を30年とすると最も古い原発の一つで、1972年に建設された原発が2002年までに廃止され、1988年に建設された原発も2018年までに廃止となる。このように世界的に見ても原発は消極的になってきている。



ずさんな安全管理体制
 今回の美浜原発事故で4人が死亡、7人が重軽傷を負っている。タービンの蒸気漏れ事故で、配管は炭素鋼製。本来の肉厚は10ミリであったものが、事故後に破損部を測定したところ最小で1・4ミリまで薄くなっていたという。
 配管が冷却水による腐食などで薄くすり減る「減肉」という現象が知られており、9日の事故でも薄くなった配管が圧力によって延ばされ「延性割れ」という破損を起こした可能性が指摘されている。
 配管が肉厚4・7ミリ以下になると交換することになっていたにもかかわらず、1976年12月運転開始後、1度も超音波検査を受けず交換もされていなかったと報道されていた。

それが事実とすれば、これまでにも数多くの改ざんや隠蔽ともとれるような電力会社の対応からして、ますます原子力発電に対して不安がつのる。 

国の安全審査官によると、今回破損した配管は2次冷却水系で放射性物質を含んでいないため、原子炉等規制法などに基づく国の定期検査の対象ではないと説明した。

新聞に出ていた破損部の写真を見ても腐食が激しく、素人目に見ても超音波による検査のほかに、循環している冷却水中の鉄イオン濃度をセンサーでモニタリングしておれば腐食度合いが、かなり精密に測定でき、この種の事故は未然に防ぐことは可能のように思えるのだが。

ハインドリッヒの法則(ヒヤリハットの法則)は言葉で理解していても、改ざんや隠蔽の体質、下請けとの意見対立があるようでは、これからも事故は付きまとうだろう。

原子力発電は原子爆弾の爆発と同じ原理で核分裂反応を制御し、その際出てくる熱で、冷却水が沸騰し蒸気化、その蒸気で発電タービンを回して電気がつくられるという簡単な原理である。

しかし、原理は簡単でも、実際の構造は複雑だろうし、材質に関しても腐食や力学的な耐久性、その他綿密な設計から構成され、多くの技術者の下で作り上げられているはずだ。

したがって、責任体制、危険管理体制が分散し、それが今回のような事故につながったのではないだろうか。
 原発では日常的被曝、放射能漏れの危険、高熱の水蒸気の冷却装置の破損等による炉心溶融や水蒸気爆発などの危険性が極めて高い。一度大きな事故が起こると取り返しがつかない。特に日本は地震国、これからますます論議を巻き起こすであろう。



原発のコスト

原発はCO2の排出量が少ないといわれているが、確かにミクロ的に見ればそうだろうが、マクロで見るとどうだろうか。

ウラン採掘、精練、濃縮、輸送、放射性物質の処理などトータルで考えると、エントロピーを小さくするために膨大なエネルギーを使用している。

したがってCO2の排出だけを取り上げても風力や水力発電を上回るはずだ。
 このように我々の生活を支える原発は、非常にロスの大きい、高価なエネルギーということになる。
 また、原発は、点検や事故が起こったときに備えて、火力や水力などのバックアップ電源が必要である。しかも、常に変化する需要にあった微妙な出力調整が出来ないので、他の電源と合わせて運転しなければならない。

したがって、原発と共に火力発電所も必ず必要なのである。

本年の7月下旬から続いた猛暑、心配されていたピーク電力まで若干の余裕があった。大量エネルギー消費型の製造業が海外にシフトし、またクーラーを初めとした夏向きの商品は省エネルギー対策が講じられてきた結果なのか。

日本は資源がないからと、原子力への依存度を高めなければならないとする有識者の考えが果たしてこのままで良いのか、推進派と反対派の対立はますます激化する。



改ざん、捏造、その他、気になること

原発事故での配管の破裂状況写真が余りにも衝撃的であったので、原発に関して紙面を割いてしまったが、日本の製造業を中心にした産業全体で同じ問題が内包されているのではないかと気になっている。

このところ、いろんな企業でデーターの改ざん、捏造、隠蔽のニュースが目に余るものがある。三菱自動車のリコール隠しや、電力会社のデーターの改ざんや、養鶏場での隠蔽、雪印事件、工場の爆発事故、その他、学生用語で「えー!そりゃーないだろう!」と言うような、信じられないような事件、事故が続いている。

これらの多くは未然に防げるものが多い。しかしながら、技術的な面とモラル的な面、両方ともこの10年以上に渡る不況で低下し、なかなか深刻で根の深い問題である。

隠蔽や捏造が企業ぐるみになってくると、個々人の正義感、モラルは通用しなくなってくるのか。大きな如何ともしがたい流れの中で罪悪感は消えうせ、最後は匿名による内部告発から、まさかと思われるような数々の事件が明るみになっている。

各企業においても、例のハインドリッヒの法則ではないが、これは!と思う兆候が見えた時点で解決に当たるような仕掛けを構築しておかねばならない。

この間、各企業で新規採用を抑制し、派遣請負など非正規社員の数を増やしてきた。また経営の効率化から、これまでの終身雇用制度から任期制や契約制を導入しつつある。その根底には人材は流動化するものであり、従業員が自己責任でスキルアップするものとする考えを、浸透させようとしているようにも思える。

したがって、従業員への教育投資も大幅に削減。「労働費用に占める教育訓練費はバブル前の88年には2・4%であったがそれが2002年には1・5%に低下、逆に、欧米の企業では大幅に教育研修費用を増やしているとの事」(日経産業コラム欄から引用)。

日本は、先進国中もっとも従業員の教育に費用をかけなくなってきているという。また、新規採用の抑制、派遣社員やパートの依存度の増大により、製造現場での品質に大きな影響が見られる。

このシリーズの6月号に「ドタキャン」が多くなったと書いたことがあるが、ほとんどが製造現場での品質トラブルがその理由である。不良率がなかなか低下しない。経営者の多くは何故不良率が低下しないのか、その業務に当たっている技術者を叱咤激励している。

当然ながら、原因追求に当たる技術者が少なくなっている。また、経験豊かな50代後半から60代、日本の製造業をここまで高めてきた連中の大量退職、早期退職。

経営者は近視眼的に人件費が削減できると、短期的な利益追求に、ついつい目が向いてしまっており、技術者にかかる負担が増加している。

私の研究室をでた多くの技術に携わる連中は即戦力になるようであり、またそれを意識して育てているつもりだ。

彼らと会うと、ほとんどみんな学生時代よりも体重が5キロから10キロ減ったといっているし、中にはげっそりやせこけているのもいる。時間と人に余裕がないので、彼らが本来持っている技術に対する鋭い感覚も消えうせ、日々の対策ばかりに追われているようだ。

これでは、不良率を低下させることはなかなか困難であろうし、将来の新しい技術展開などに目を向ける余裕はない。

さらには、従業員の企業に対する忠誠心は大きく低下、また正規社員と非正規社員との間のミスマッチがおきている。したがって、品質を向上させるには、この壁をどのように乗り越えていくかに大きくかかっているように思える。



理系の社長
 国内の主要企業で、理系出身の社長が増えていることが新聞社の調査で分かった。その新聞を購読していないので早速インターネットで調べてみた。

主要企業120社のうち34社が理系社長で、最近5年間で8・5ポイント増加したという。さらには、これらの理系社長にアンケートを実施したところ、回答者の過半数が「理系は社長に 向いている」「どちらかというと向いている」と答え、技術や専門分野に対する理解 力が経営に役立つとの自信が覗える。

一方、向いているとは「思わない」は0人、「どちらかといえば思わない」は1人。残る8人は「一概に言えない」「無回答」だった。

また、「文理にとらわれず個々人の資質によるところが大きい」などの意見も (以上インターネットから)。

これは、主要企業といっても産業分野別とくに開発業務や製造業に限ってデーターを取れば、おそらくもっと理科系の比率は上がるであろう。

国家戦略としてIT,バイオ、環境、ナノテクに注力すべく、日本企業は大きな転換期を迎えた中で、理系のセンスが大いに期待される。

表面処理の業界においては、ほとんどがオーナー経営なので、どちらかというと経営者には文科系が多い。それでも私の知り合いの経営者から比率を出してみると理科系は30%くらいになる。

中村先生から引き継いだ海外研修事業を始めとして、委員会、学会を通して、これまでに多くの表面処理関連企業の経営者と交流があるが、理科系、文科系に関わらず積極的に展開する意気込みのある企業は、大きく伸びている。  

最近の傾向としては、試作を中心とした高度の技術力が要求される分野これまでの生産技術に関してもますます難易度が上がっており、企業間の格差が出てきているように思える。

これまでのように薬品と装置を購入し、手順に従って生産をすればよかった時代から高い技術力の要求される分野の比率が高くなってきている。したがってこれまで以上に従業員の技術教育に力を入れなければならない。

研究所には人材育成事業があるが、昨年に引き続き、本年も地方の企業から受け入れている。また、ハイテクノの教育事業は既に40年以上継続されているが、この講座を終了した諸氏は文科系、理科系に関わらず経営者として技術のトップとして、また中堅幹部として活躍されている。