雑感シリーズ (2月号)

関東学院大学  本間 英夫



低迷する日本経済

早期利上げ観測が支配的だった昨年前半とはまるで様相は一変し、昨年年末に、日銀の福井総裁が三年ぶりに景気は減速していると認めたことが市場に衝撃を与えた。
 米国の低所得者向けの、いわゆるサブプライムローン問題で、世界経済の先行きに対して不透明感が強まり、国内では、原油高、バイオエタノール、金属価格の高騰、さらにはすべての原材料価格の上昇により、製品の値上げが続いている。

また、二年前の建築の耐震偽装に端を発する建築基準法の厳正化により、新規住宅の着工数は三割減となった。住宅の着工が滞ると、当然内需の落ち込みが深刻になり、物価上昇と景気後退が同時に進むスタグフレーションさえ懸念される状況である。

さらには、日本の政治のねじれ現象が、世界からの信頼を大きく失墜させている。したがって、年末から年初にかけてのダウ平均株価が凋落の一途をたどり、金融政策の不透明感は増すばかりだ。

この原稿を書いているときに、昨年一年の株価下落率は世界二位とNHKのニュースが流れた。これまで日本買いをしてきた外国人投資家も、日本売りに拍車をかけている。

根本は日本市場の信用収縮が原因といわれている。我々の周りを見ても所得格差が益々増大し、グローバリズムとともに一部の企業を除いて成長性は大きく低下している。
 したがって、企業は成長する海外市場を宝の山とばかりに、海外展開をターゲットにせざるを得ないし、海外市場に出られない中小企業はますます凋落の一途をたどることになる。しかもその中小企業に働く人が七割とあっては、所得格差はさらに大きくなり、消費は冷え込み、ますます日本の魅力が薄れてくる。皮肉な言い方だが、外国人投資家は日本の株だけを売っている訳ではなくて、信用収縮する日本市場を売っている。



弛み無き挑戦を

「スマイルカーブ現象」という表現がある。これはもともと電子機械産業の収益構造を表す言葉である。川上の商品開発や部品製造と川下のメンテナンスやアフターサービスの部分の収益性は高いが、中間の製造業はあまり儲からない傾向をグラフ化すると、マンガで笑顔を描いたときのラインのようになることから、こう呼ばれている。
 この現象は、必ずしもすべての産業にあてはまるわけではないが、それにしても、我々の関係している表面処理を主とする産業界では収益性が低いように思える。

これまで企業は、給料を抑制しながら製造プロセスの効率化を中心に、利益の出る体質への変革が行われてきた。したがって、これまでの横並びから利益の出ている企業は賃金を上げるようにと、経団連の会長が年初に提案していた。しかし、スマイルカーブに見られるように中小の部品供給業者に大きなしわ寄せがなされているのであり、適切な利益分配をしないかぎり、ますます閉塞感が高まるだろう。
 経済発展に伴い、生活水準が向上し、多くの商品、サービスが市場にあふれ出す。したがって、供給過剰の市場では当然価格競争が激しくなり、中国をはじめとしたアジア諸国の安い商品が市場に出回ることによって、一層深刻さが増幅される。これまでのような、作れば売れる時代からの終焉、しかも、事業の存続さえ危ぶまれる時代に突入したといっても過言ではない。
 このような状況下にあっても収益を伸ばしていくには、中村先生がいつも言っておられたように、下請け産業からの脱却が必要である。ではどのようにすればそれが可能なのか。大企業にはない開発力、すなわち、商品開発に我々の大学のような研究機関との連携を強化して、基礎研究やR&Dとプロセスの融合性の重要性をしっかり認識することが大切である。また、得意とする領域への特化、いわゆる選択と集中、さらには思い切って新しい市場を創造、開拓する力が必要である。


技術立国日本の行方

いわゆる新・三種の神器と呼ばれる、薄型大画面テレビ、DVDレコーダー、デジタルカメラや、各種機能が付加された携帯電話の製品化が新たな市場を開拓し、景気の回復に貢献している。これらすべての製造には、めっきが重要な要素技術であり、単なる製造プロセスとの位置づけから、逆スマイルカーブになるように仕向けていく必要がある。
 商品の生産にあたっては、常に効率追求が念頭に置かれるので、成熟化に伴い中国をはじめとするアジア諸国へのシフトや分業が展開される。ここで重要なのは、日本の製造業の強みである製造技術のノウハウが、次々と失われてきたことである。

これまで、リストラにあった技術者が、売国奴といっては大げさかもしれないが、技術ノウハウを個人レベルで海外企業に展開していったことは事実として認識すべきである。これからは、技術や技能を移転する場合は適切な対価を確保して伝承していかねばならない。

製造業では、原材料にエネルギーをインプットすることで加工をし、製品が完成するわけだが、付加価値を向上させるにはサービスの付加がこれまで以上に重要になってきた。

最近発売され多くの若者に人気がある携帯電話で、P905i が人気商品になっているが、我々年配者には折角の付加価値も宝の持ち腐れである。どんどん厚みが増す取扱説明書、あれは何とかならないものか。しかし、若い世代はいとも簡単に使いこなすので、これからもいろいろ付加価値をあげた製品開発や新しい研究開発投資が重要なのであろう。

新しい産業が創出されれば新たな雇用の創出に繋がる。戦後まもなく、工業立国としての進展とともに労働者が第一次産業から第二次産業にシフトしたように、この十年で製造業を中心としたリストラのために、第二次産業から第三次産業にシフトしている。また、社会の成熟化に伴って、さまざまなサービスが産業化している。さらには、一部の高給者を除いて、上流と下級に完全に二極化してきている。

米国では、第三次産業の従事者がすでに労働人口の75%以上に達しているというが、日本でも第三次産業における新サービス開発によって、新たに500万人規模での雇用創出を目指そうという政策が提案されている。

果たして、技術立国日本としてこれでいいのだろうか。経済学者のこの種の提案にはいささか疑問を感ずる。

第三次産業の発達にともない、ほとんどの学生がサービス業でアルバイトをするのが当たり前となった。しかし、本業である学生としての勉学がそっちのけでは、若い世代の意識が低下していく。このままでは、今後様々な新分野を創出していくうえで問題となる。

日本の得意とする研究開発によって新分野の第二次産業を創製するか、第三次産業での新分野を構築せねばならない。第二次産業は上述のように、常に国際的競争にさらされ、結局はプロセスの効率化が追求されるので雇用は大きく減少する。

したがって大変努力が要るが、常にトップランナーとして新技術を新しい産業に結びつけていかねばならない。ナノテクをはじめとして、バイオ、IT、エネルギー変換、医工連携がこれからの分野として考えられている。しかしながらバイオにしてもそうだが、ハイテク分野は果たして雇用創出には大きく寄与するのだろうか。