雑感シリーズ (8月号)

関東学院大学  本間 英夫



社員のモチベーション

国際的競争力の中で、製造を中心とする多くの企業では、作業の効率化、集約化を図っている。さらには人件費削減の手段として、正社員の人数枠を下げ、終身雇用制度から任期制、契約制、派遣社員へと、採用形態をシフトしてきている。このような傾向は、企業を守るためには致し方ないし、ルーチンワークが中心の領域では問題がないはずだ。

しかしながら、それが製造現場での品質低下の主要原因となっているとすれば、大問題である。しかも、この傾向がこれまで働いてきた従業員のモチベーションを大きく低下させるとなると、ますます企業収益は低下する。最近は、このことに気付いていない経営者が多いのではないかと危惧する。

表面処理の製造現場では化学反応が主体となるため、機械を中心とした工程管理だけではうまくいかないことが多いはずだ。化学反応の基礎的素養が無く、単に指示書に従ってルーチン的に作業を行うようだと、最悪の場合、不良品だけを作っていることすらある。また、上司が単にがみがみ命令していても、不良率の低下には繋がらず、慢性的に不良品を作ることになってしまう。

化学反応をきちっと理解し、技術関連の人は鋭い観察眼を持っていなければならない。したがって、この種の意識と意義を持てるような初期教育が必要である。そういえば、一昔前はどこの企業でも、この種の初期教育はうまく機能していた。ところが最近は、その余裕がなくなってきているように思える。

つい最近、ある企業から、一週間を予定とした基礎的な教育の要請があった。派遣されてきた人は、工程の管理を任されている技術の責任者だという。したがって、基礎的素養はある程度持っているだろうと判断した。しかし、その人と話をしていくと、これまで薬品メーカーの薬品と装置メーカーの装置を購入し、その指示書に従って管理しているだけだったので、化学的な知識はあまりないとのことだった。そのため、表面処理の基礎的な講義をしても、いまひとつインパクトがない。

これまで、大学では学生に対して、表面処理の基礎的な講義を行ってきたし、学会ではセミナー講師として、企業の技術者に対して2時間くらいの講演を数多く行ってきた。このような経験を基に、派遣されてきた技術者には、面白く、わくわくする様に話したつもりだが、どうも張り合いがない。

その数日後、今度は他の企業から、1人の技術者が派遣されてきた。入社8年目という。ほんの数分間だが話を進めていく中で、この人はかなり化学的な素養もあるし経験もあり、「一を言えば十は理解する」と直感的に判断できた。したがって、短期間で様々な新しいことを行っていく中で、こちらが話した事柄をヒントとし、会社で早速検討出来るであろう。このように、従業員が大きく力をつけている企業と、従業員の意識の低い企業との大きな差ができている。



採用計画の見直しを

これまでの高度成長期では、いずれの企業も、従業員の採用は新卒者採用が中心で、中途採用はほとんどなかった。また、どの企業でも、3年くらいかけて社員教育してきたものだ。しかし、バブル崩壊と共に、ほとんどの企業には余裕がなくなってきた。10年以上前から、大企業において、数千人から数万人の大型のリストラが始まった。これにより、働き盛りの50代を中心として、海外の企業に自分の技術力を売り込む者、国内で他の企業へ転職する者が増えた。したがって、いずれの企業においても中途採用の比率は急上昇。これまでのコンスタントな新卒者の計画採用から、通年採用で、しかも中途採用に大きく舵を取っている企業が多い。

技術力に定評がある有名企業でも、経営者が変わってから、これまでの採用計画が大きく変わり、中途採用が7割、新卒が3割と比率を変えたところもある。経営者は、熾烈な競争の中で、人件費の軽減と高い専門性の必要性から、ある程度はこの傾向を容認しなければならないだろう。しかし、比率が逆転してしまうようでは、これまでの従業員と中途採用の従業員との間の協力体制が崩れていくことが多い。

それぞれの企業には、経営者のコンセプトの下に、企業独自の文化、DNAのようなものが脈々と受け継がれてきている。しかし、そこに上司として、また同僚として異文化で育った人が中途で入ってくると、うまく適応できないことが多い。その人が、謙虚で素直で協調性が高ければ問題がないのだが、実際には難しい。それは、中途で入ってきた人と前からその企業で苦楽を共有してきた人との間では摩擦が大きくなる場合が多いからだ。同じ年齢層で、しかも専門的に近い分野では、特に自己顕示欲が強いと、この職場は自分なしでは成り立たないとばかりに仲間を愚弄したり、侮辱したり、厳しく批判したりで、結局は仲間はずれにされてしまう。

各企業においては、成果主義の導入、高い専門性の必要性から、優秀な人材を確保するためには、大企業の技術者の中途採用が手っ取り早い解決策だと思っているが、負の効果のほうも頭に入れておかねばならない。特に経営者や企業の幹部は、注意しなければならない。



派遣社員について

 日本の派遣労働者の現状の厳しさには、4つのキーワードがあるという。1つは、いつクビを切られるか分からない雇用の不安。2つ目は、正社員に比べて各種手当てもつかない最低賃金での差別。3つ目は、正社員からロボットのように扱われる孤立感。4つ目は、定められた休みを取ることが出来ない責任のない立場。
特に孤立感は深刻で、2ヶ月くらい前の秋葉原で起きたあの忌まわしい殺傷事件をはじめとして、いろんな事件が起きている。

いくつもの業者が派遣元になっている職場では、雇用した企業がそれぞれを競わせる傾向があるし、彼らは単に労働から一定の賃金をもらうだけで、達成感や貢献度のような満足感はほとんどないであろう。そのため、一般社員のような連帯感も生まれてこないし、特に夜勤においてはよく管理しないと不良の山を作るようになってしまう。したがって、正規の技術者のかなり上の地位の人まで夜勤で工程を管理する必要性が生じるため、上司自身も昼夜逆転し、精神的にも肉体的にもボロボロになり、充実感は全くなくなってしまう。
 さらに、派遣労働の実質賃金は正規と比較すると半分以下であり、閉塞感に陥るのは当然である。働けば働くほどばかばかしくなり、頑張ることなど出来なく、一度この生活に入り込むと、あたかも麻薬に犯されたかのごとく抜け出すことが出来ずに絶望し、自殺者まで出るという。このような状況では、若者は将来の希望が持てるはずがない。

バブル崩壊後の90年代から急速に派遣社員が増え、それと共に企業内のモラルが低下してきている。以前に2度くらいこの雑感シリーズで触れたことがあるが、若者たちが正社員になれる確率が低くなり、フリーターや派遣社員ではいわゆる下級君といわれる言葉まで出来ている始末だ。将来が暗く、先が見えず、経済的に安定した若者が大幅に減り、充実感がなく、閉塞感から犯罪がどんどん増え、少子化にも拍車がかかる。
 こうした単純労働などの派遣社員を極力抑え、正社員と同等の待遇を設けたうえで、正社員への登用に対するルール化を明確にするように行政も各企業も早いアクションを取るべきである。

日本は物づくり大国であり、99%の中小企業が担い手となっている。そこに人材がどんどん集まるようにするべきである。