雑感シリーズ (9月号)



関東学院大学 山下嗣人



神奈川県の社会人研修制度

神奈川県では中小企業の振興および人材育成の一環として、高度成長期の昭和38年度に、中小企業技術者研修制度が発足して、今日に至っています。長期研修コース(機械、化学、電子科)のカリキュラムは講義、演習、実習から構成され、工学系大学並みの高度な教育システムが組まれています。私は昭和55年より、工業化学科(現材料化学科)で、基礎化学、物理化学の講義を担当しています。その前年に関東学院大学の専任講師に就任したのですが、担当科目は、物理化学の演習と実験であり、講義法は、この産業教育を通して学びました。

その頃の研修生は、仕事を終えた夜間の授業にもかかわらず、高い目標と使命感に燃えて学習に専念していました。成績優秀者には海外研修の機会があり、見聞を広めることもできます。

 

技術へのこだわりと伝承教育の大切さ

第35回神奈川県中小企業技術者海外派遣団長として、平成18年3月4日から12日迄の9日間、ドイツおよびスイスの化学工業ならびに精密機械加工などの企業を視察する機会に恵まれました。

 ドイツ、スイスの優れた科学技術は歴史が物語っており、世界が認めるところであります。科学技術の専門分野はもとより、歴史、文化、考え方、技術レベルの高さを保障し、産業発展や技術の伝承に貢献している教育制度、さらには、環境問題を含めた先端技術の現状と動向を認識し、将来を展望する指針になればと、大きな期待を抱いて訪欧しました。

 訪問した6企業は、世界あるいはドイツ・スイスのトップメーカーであり、高い精度と耐久性を維持するための「ものづくり」に対する思想が伝わってきました。両国ともに基本に極めて忠実で、自国の限られた資源を大切に活かし、これらを適切、且つ、効率良く最大限活用するための工夫がなされていました。

世界的に有名なBASF社では、数種類の原料から中間物質を経て、約8000種類の製品が作られていましたが、その利用効率は98%と極めて高く、卓越したシステムに感嘆しました。高精度と高密度化が要求される装置の製造には、材料の選択・調整・準備やデザイン、加工方法などに十分な配慮がされており、たとえ高価になっても「良いものをつくる」という、技術へのこだわり、技術者としての誇りが、ものづくりの基本姿勢にあると感じられました。また、技術者が高く評価されていることも特出すべきであります。

中学卒業後、医師、教師、弁護士志望の一部を除き、職業学校で3年(文系)または4年(工学系)間勉強しながら、週3日はマイスターの資格を有した先輩の指導を受けて、技術を習得します。それが伝承されていく微笑ましい光景を見ることができ、大変印象的でありました。資格を取得すると、大学卒と同等の給料が保証されている制度も適切に機能していました。

留学経験のある恩師から、「研究以外でも朝早くから真剣に働くドイツ人の勤勉な姿勢が印象的あった」と聞いていた私は、このような制度の中で、自分が学んだ技術を活かし、仕事に対する自信と誇りが、各職場での真摯な態度に?がっているものと思いました。

工場内は整然と配置されており、作業スペースは広く、人間工学的にも十分な配慮がなされていました。米国のゲイリー氏により提案された「安全第一」の標語が、まさしく遵守されていて、労災事故は皆無とのことでした。職業教育を受けた優秀な技術者らは、フレックス制度を利用し、マイペースで仕事に励んでいました。

世界に誇る製品は、このような恵まれた環境、素材を活用する工夫、技術者の高い意識と技術などによって、生まれるものと思われます。

一方、わが国の現状を見ると、「ものづくり」や「技術者」に対する評価は低く、人材不足が深刻な問題であります。したがって、技術の伝承もなされず、結果として、重大事故の発生およびトラブルが多発しています。団塊世代の定年に伴う人材確保が各分野で急務でありますが、教育現場では、すでに「引き抜き」や「大量採用」が始まっています。試験科目の削減、倍率低下による教師のレベルダウンも懸念されています。また、教員採用や昇任人事における不正が次々に明らかとなり、教育界を揺るがす社会問題に発展しています。

  

最近の大学入試と学生気質

2009年4月に開設予定の某大学新設学部では、学生が朝食をとり、新聞を読み、メールをチェックし、余裕をもって講義に出席できるよう、「1時限の講義開始時刻を午前10時40分に繰り下げる」と発表しています。専門分野の特異性を強調している一方、通学可能エリアが拡大することで、優秀な学生を集める入試戦略の一環とも考えられます。少子化に伴い、各大学では、学生確保を最優先しています。他方、受験生は「面倒見が良く、青春を謳歌できる大学」を志向しており、互いのベクトルは、「真理を追究する」という本来の大学教育を逸脱している感があります。受験生人口の激減、入試の多様化、「偉くなりたくない、のんびり暮らしたい」を希望し、無気力・無関心のまま入学してきた学生の意識を、どう改革すべきかが、今後の重要な課題となります。

学生が勉学への意欲と興味を持ち、自ら行動できるよう、少人数教育による演習と実験、さらには、インターンシップを課して、学習や働くことの意義、職業意識の高揚、社会の厳しさを体験させるべきです。これらを通して、学習や生活態度は改善できると思います。

大学教育における現実を正確に認識、分析して、学校・社会における教育や制度を早急に見直す必要があると思います。



地球温暖化防止は脱深夜型から

コンビニの深夜営業は必要でしょうか?軽井沢町では、1976年より実施していますが、最近、京都市や埼玉県などでも、「深夜営業自粛」を求める動きが広がっています。二酸化炭素の排出による地球温暖化防止の一施策として、自冶体が「脱深夜型」のライフスタイルを目指して、その取り組みが始まっています。

 数年前に、「早寝、早起き、朝ご飯」を実践した広島の小学生の成績が、全国平均より10ポイントも高かったことが報告されました。昔から、午前の頭は金、午後は銀、夜は銅の頭であると言われてきましたが、現実に証明されたことになります。「早起きは三文の徳」と言うことでしょうか。



生活スタイルの見直し

最近、若者による信じ難い凶悪事件が多発しています。彼らの共通した言い分として、「ストレス、イライラ、気に入らない」など、身勝手な理由を挙げています。将来を展望できない現実、非正規雇用者の増加、成果を第一に求める企業側にも要因はありますが、風土気候に合致した日本独自の風習、食事や生活環境に戻すことも必要です。

畳には集中力持続効果があります。畳教室で問題を解いた子供達の解答数が15%、正答率は3%増加したとの報告があります。「い草」の黄緑色が安心感を与え、その香りが心を癒し、集中できるのです。「い草」は昔から薬草として、最近では、食品、和紙、入浴剤としても利用され、抗菌効果も認められています。

 厚木市内にある大手の研究所では、20年前から畳の休憩室が用意され、研究員は横になって、休息、思考、読書など、自由に過ごし、その中から斬新的なアイデアと優れた研究成果が得られていました。

環境に優しいことは勿論、昔から受け継がれ、日本人の気質にあった「和風家屋」の良さを見直す時代が来ていると思います。