雑感シリーズ(1月号)

関東学院大学  本間 英夫



偽から偽へ

一昨年の暮れ、一年間を振り返って、世相を一文字で表す漢字として “偽”が選ばれていた。2年前から食に関してだけ取り上げても、あまりにも多くの事件が次から次へと起こった。

記憶をたどると、数年前の雪印牛乳事件は企業の存亡にかかわる大きな問題であったが、苦難の数年間を経てこの企業は再生している。過去にこのような大きな事件がありながら、企業の学習機能や危機管理意識に乏しいのか、2年前はミートホープ牛肉偽装、白い恋人の賞味期限の改ざん、赤福の不正表示、偽比内鳥、お菓子の偽装表示に端を発し、ついには廃業に追い込まれた吉兆、さらには昨年、牛肉、ウナギ、海藻、レンコン、タケノコ、米などの産地偽装などが明るみに出た。

このように消費者の信頼をあざむく食品偽装が後を絶たない背景には「儲かりさえすれば」「偽装しなければ競争に生き残れない」と根底には人間の欲望が渦巻いている。また、食の安全に関しては昨年のオリンピックの前後には冷凍餃子、冷凍インゲンへの農薬の混入や猛毒のカビを発生する事故米の食品への流用など、食品業界のモラルハザードの実態が浮かび上がってきた。このように一昨年からこの2年間は偽に始まり偽に終わり、食の安全や信頼が大きく崩れた。

しかしながら、この種の問題は急に降ってわいたわけではない。コスト競争、儲けるためには手段を選ばないとのモラル低下が根底に流れている。食品の種類や保存環境にもよるが、腐敗しやすいものに関しては安全を見越して厳格に表示すべきである。しかしながら食品の種類によっては賞味期限があまりにも安全を意識しすぎて過剰に短期間になっている場合もあるように思える。物によっては、これまでの賞味期間を見直したり、簡単なセンサーで感知したり、食品の賞味期限を延長できる手法を開発すれば一挙に解決につながる。

そういえば最近アービという会社の冷凍装置が流通・食品業界から注目を浴びている。磁場で水分子を振動させ、氷点下10度前後でも凍らない過冷却状態をつくり、次いで20度以下で細胞全体を一気に冷凍する方法である。この方法では細胞膜が破壊されず、冷凍が可能になるという。日本と欧米で特許を取得し5年ほど前から販売を開始している。豊作で取れすぎてもこれまでのように価格調整で廃棄することなしに、品質を低下させずに保存すれば、端境期に出荷できると言われており、テレビの特集番組で紹介されていた。この装置が食品流通で “革命的”とされるのは、加工品も高品質で冷凍保存できる点にあり、ハンバーグやステーキは焼いた後に冷凍できるし、焼きトウモロコシも可能という。あとは家庭や店舗でレンジ解凍するだけで、おいしく食べられるとのこと。冷凍~解凍が1回で済み、調理の手間が省かれるので大手商社も強い関心を示している。

愛媛県の漁協では、この装置を使って刺し身などの加工品を首都圏に出荷し業績を伸ばしている。また、精肉店やケーキ店や生酒の貯蔵に活用されている。さらには臓器移植や遺伝子工学の研究にも利用されている。この技術が普及すれば食の偽は大きく減少し、長期に保存でき無駄な廃棄もなくなり、安心して新鮮な食を楽しむことができる。また臓器移植をはじめとして医学分野にも大きく貢献することになる。

このように大きな社会問題が発生した時、しかも障壁が高ければ高いほど革新的な技術開発がおこなわれるし、その関連技術が注目される。例としてふさわしくないだろうが、戦争を契機として20世紀の主要な技術開発がなされてきていることは事実である。その意味では昨年の10月に始まった世界全体の大不況による致命的なダメージや困難がそれを克服する大チャンスであり今こそ金融経済をはじめとしてすべての領域での変革に向かって知恵が出さねばならない。

年初めにあたって、過去の反省ばかりでは閉塞的であるし、本雑感シリーズで昨年の10月から全て同じテーマで恐縮だが、100年に一度の経験ということで再度話題にした。情報化社会の中で上記のように同じ偽がこんなにも沢山出てくるのは一体なぜなのだろうか。

偽は絶対にあってはならないと分かっているはずなのに、組織となると、なぜこんなにまで常識から逸脱した行動が明るみに出るまで実行されてきたのだろうか。人間は個人レベルでみると、性善説と性悪説があるが、いずれにしても、人との触れ合いの中で、いろいろ学習し、考え、過去に犯した罪は罪として反省し、道徳的にも正しい道に成長して行くはずである。しかしながら、組織体になると効率追求、実績中心主義に拍車がかかり、仕事においては充実感が持てず、しかも競争社会の中で人間本来の一番大切なものが埋没してしまっているように思える。

今回は食に関しての“偽”にこだわって話を進めたが、産業界いや社会全体が実はかなり蝕まれている。全ては人間の原罪のようなもので共通する “悪”である。そのような悪を解消し豊かな社会を構築していくことは小さな組織体から始めねばならないのだろう。

小生はこれまで教育現場をはじめとして産業界とのお付き合いの中で、いろいろな偽に直面してきた。ある時は激怒し、ある時はやさしく本人の間違いを指摘し、ある時は心を鬼にして当人が認識し悔恨するまで待ったこともあった。小生はいつも“悪い報告は早く、いい報告はゆっくりと”と説いている。



社会的な鬱状態の中で

さて製造業の基幹を担っている表面処理産業界において将来に対する夢を抱きながら充実して事にあたっている企業はどれくらいあるのだろうか。

工程の改善や改良は当然としても、その努力と価値に対して評価はされず、作業にあたっている現場の担当者も技術者も全く充実感が出ない。しかも、今回のように大不況と、急激な円高で多くの企業はこの3月期は赤字に転落。これまで外需依存体質であったので、内需拡大に転換といっても、従来通り成長路線をとるのであれば、少子高齢化では、どうしても外需依存にならざるを得ない。

今回のように急激な円高で、いずれの企業も利益がすべて吹っ飛んでしまい、しかも多くの大企業はアメリカ式の経営に転換してきているので、経営者は株主を意識し従業員は二の次になっている。赤字に転落するようになるとこれまで努力してきた現場担当者、技術者、営業担当者、経営者会社全体が閉そく感と虚無感で会社全体が鬱状態になり心の病から体の病に蝕まれる状態になっている。

心の病の“名医”が小生の友人にいるが、彼は子供のころから小生と同じように快活で協調性が高く、特に中学時代から高校時代はともに行動したものだ。彼によると、現在の閉塞状況のなかでサラリーマンの6人に1人は鬱状態から鬱の病に近い状態であるという。

小生はそこで間髪を入れず“君たちがそのように診断し暗示にかけるようなことを仕向けているのではないのか”と少しきつく迫ったが、彼は確かに多くの医師はちょっとの兆しで、そのように診断するが自分は、坐禅の道場を開き、薬を用いないで精神的なストレスを解消する方法を採用しているという。

ただし漢方薬や東洋医学を採用しているとも言っていた。彼は医師になってからは、表面に出るようなタイプではなかったらしいのでインターネットで人名から索引してみると、白衣をまとい、にこやかな笑顔でスート懐に飛び込んでいけるような柔和な表情でこれなら絶対間違いなしとの印象を持った。さっそく本人に久しぶりに電話で話をしたがその際に時期を見て産業界の方々に対して講演してほしいとお願いしておいた。

最近あまりにも世の中、激変し机を前にして、いざ雑感を書こうと持っても整理ができなく、それこそ“鬱”の状態になってしまう。

研究開発のことは次号で書くことにして下記に最近われわれの研究所に来られた印象記を引用して本月号を閉じたい。

A氏

学生の報告会に臨席させていただき狙いや現象のすばらしさもさることながら、活発な意見交換、プレゼン能力に感心させられました。先生のおっしゃるとおり、「もっと早く行くべき」との感を改めて思い知らされ、反省しきりです。スマートな新技術で暗い世相を跳ね除けてくださるようお願いたします。

B氏

先生の研究そして教育にかける熱意をひしひしと感じると共に実用化へのアイディアそして展開、学ぶところが多くおおいに勉強させていただきました。学生さんは元気が良く、活き活きとしていたのも印象的でした。

C氏(同行された人事の方)

学生さんの活発な意見交換や研究熱心な姿がとても印象強く、個人的にも素人ながら化学の面白さを改めて感じた次第です。また、本間先生の表面技術研究・人材育成への情熱を目の当たりにし、深く感銘を受けました。弊社について少々触れますと、40年以上プリント配線板のメーカーとして、新技術・新製品の研究開発に携わっておりますが人員構成上、20代後半から30代前半が少ない状況です。

そのため、新卒で入社された方にも一般的な企業よりも早く責任ある仕事を任せ、活躍していただいております。貴研究室の学生さんにも是非ご入社いただき、活躍していただければと存じます。あらためて、上司とお伺いしたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。