雑感シリーズ(2月号)

関東学院大学  本間 英夫



今だからこそ

昨年後半から急激に押し寄せた未曾有の世界的大不況によって、特に自動車関連および電子部品関連企業では、昨年の9月頃までと比較して生産現場の稼働率が30%から50%に落ち込んでいる。

しかもこれらの関連企業は、何らかの形で輸出中心の製品を扱っているので、落ち込みが急激でしかも円高による為替差損が莫大である。したがって、各企業ではやむを得ず、派遣社員の契約打ち切りを手始めに、正社員の残業規制、時短、さらには金曜日も休みにせざるを得ない状況が年明けから一気に増えてきた。100年に一度といわれるこの大不況、いつまで続くのかは専門家の中でも意見が分かれ、3ヶ月程度で上向いてくるとの極めて楽観的な予測から、最低1年、大半は3年くらいはかかるだろうと予測されている。

今、まさに忍耐の時である。しかし、逆転の発想で、今だからこそ、これまで生産に追われ、改善しようと思っていても時間的なゆとりがなく放置されてきた工程改善で歩留まりを大きくアップさせる大チャンスである。

先日、ある会社に出かけて工程をつぶさに見せていただいたが、物によっては20%以上も不良が出ているという。それこそこれは宝の山で、今だからこそ技術者の出番で大いに歩留まりアップに注力できるチャンスですねとコメントした。

小生はこの種のコメントをするのには、根拠なしに単に頑張れよと激励しているわけではない。アドバイスで大きく歩留まりを向上させるヒントを与えてきているからである。これまでの自分のアドバイスで歩留まりが向上したり、大幅に工程を改善したり、新規の事業になったりした経験を挙げてみよう。特に、大手の企業では企業間の競争が激しく、なんでも秘密契約になっているようで、特に最近はその傾向が著しい。したがって、それが技術の停滞につながっている場合が多い。たとえば、新規の製品を世の中に出そうと、ヨーロッパの技術をライセンス契約したらしく、トップシークレットで大型投資をして設備を導入していた。実際稼働してみると歩留まりが20%くらいで、これではその事業部のトップが責任を取らねばならないところまで追い込まれていた。数年かけても原因がわからず、窮地に追いやられていた。その工程を小生が見ておそらく原因は、こうこうしかじかで、恐らくこのようにすればいいはずだと、アドバイスした。その結果、歩留まりが一挙に90%以上にあがった。

またある会社では、スポンジーなフイルムにロールツウロールめっきをやっていたが同じくその工程では半日は良品が出ないという。それに関しても解決策を提案した。

また無電解めっきはセンサーを用いて補給を行って、なるべく長期に安定して使用しているが、その間に不溶性の微粒子が浴の中に蓄積し、それが原因でいろいろ製品に悪さをする。そこで濾過をすればとまでは、誰でも思いつくのであるが、実はろ材の表面で無電解の反応が起きてしまい製品にめっきしているよりも、ろ材のまわりでの反応のほうが多くなってしまうので、あまり現場では使いたがらなかった。これもちょっとしたアドバイスで大幅にろ材の寿命が延長され、製品の歩留まりも上がり、その企業は大きな利益を上げるようになった。そのほか例をあげればきりがない。その意味では技術の伝承の重要さや、ちょっとした発想を試してみることが大切である。歩留まり向上のキーになるのは意外と基本的で単純で本質的なところに解決の糸口が転がっている。

パレートの法則について、以前触れたことがあるが、歩留まりを上げるための一番大切な因子を因子に入れないで、ああでもないこうでもないと右往左往しているように思えてならない。一番基本にある理屈を理解できておらず、発想が豊かでないことがこの種の問題解決能力が欠落することにつながっている。しかも製造現場では、一番感受性の豊かな若い大事な時期であるにもかかわらず、企業に入ってからはすぐに量産、量産と生産の効率追求に注力させられ、自分たちで苦労をして新しい技術を開発したりプロセスを導入してきた経験がなく、すでに確立された技術の延長線上でしか問題をとらえていないし、キーとなるノウハウや技術的な背景が伝承されてきていないところに大きな問題がある。

一昨年話題になった2007年問題、団塊の世代の大量退職による技術力やその伝承に対する危惧が取りざたされていた。最近の雇用体制ではそれがうまくいっていない。小泉政権の時のバブル後の変革で経営者はアメリカ的な経営を取り入れ、目先の利益追求に走り、従って人件費の削減の一環として派遣社員の大量導入、しかも利益の配分は役員の報酬や株主に対する配当金のアップ、この間一般の従業員の給料は平均では低下している。従って技術者に対する評価は低くやる気をなくしている。しかも、当然このような社会現象が理科離れに拍車をかけ、じわーっとボディブローのように効いてきて日本がこれまで技術立国としてトップ集団であったが、最近はかなり地に落ちたといわれている。



技術力アップの最大のチャンス

我々を始めとして、団塊の世代は何も無く自分たちで技術を確立する黎明期から携わってきた。したがって、例えば何故この薬品を使うのか、何故このような面倒な手順で処理を行うのかなど、失敗と成功を繰り返して創り上げられてきた物事の成り立ちから関わってきた。しかしながら、現在の学生達や企業にいる若い技術者たちは、すでに完成された後から、携わってきているので、物事の成り立ちを知らないことが多く、何故良いのか、何故悪いのかの理屈が欠落していることが多い。

小生は最近、そういった成り立ちを知る熟練技術者、知識と知恵を持った先人達の経験を若い人に伝える技術の伝承の重要性について、特に声を大にしてきた。若い人たちは、そういった先人の経験を積極的に吸収するべきであるし、同時に先人たちも「老兵は、ただ去るのみ」と言わず、また経営者は技術的に経験の豊富なシニアーを積極的に取り込み、若い人に伝承する責務がある。

仕事が減り時間のある今だからこそ、逆にチャンスなので、先人の経験を若い人に伝えること、またこのような停滞期にこそ新技術や大幅な工程改善ができ、企業全体の力を蓄え、力の底上げを図ることになる。

これまでにも、研究開発と技術の伝承の重要性については何度も語ってきた。今だからこそ、それらに力を注ぐことが重要であることも語った。そういった意味では、大いに大学を活用していただきたい。

いま大学は冬の時代から、さらに淘汰の時代を迎えている。国公立の大学でも学生が集まらず、今後統廃合が進んで行くだろう。しかし、大学は常に研究開発と技術の蓄積を連綿と繰り返してきた。その膨大な量の「知」を安易な統廃合で失ってしまうのは残念である。今だからこそ、その蓄積された「知」を企業は活用し力を蓄え、企業と大学が共に生き残っていくことが必要である。抑えつけられたバネが勢いよく跳ねあがるように、今は我慢の時、今だからこそ、力を蓄えるときである。

実を言えば、2007年ころから取りざたされた「技術の伝承」の危機は、難しい問題ではない。まさにこれからの雇用体制の見直し、定年退職を延長する、再雇用する、などの解決策が考えられる。むしろ、最近支配的になってきているアメリカ型の経営を見直し、これまで蓄積されてきた日本型の経営と技術の伝承こそ注目すべきである。

製造の見直し

 まず、製造現場の実態を見てみるとこれまでいくつかの大企業の事業所を訪ねたがその企業の中に外注・請負の企業があるのには驚いた。それが今や世の中の常識なのか。製造現場のあちこちで、異なる作業服を着たグループが作業をし、請負契約を結んだ“外注先”の作業員が、工場内で作業していた。

 これまでも企業によっては長髪や茶髪、作業服はよれよれ、トイレは劣悪、このような企業では当然仕事に対して喜びを感じていないようであり歩留まりは低い。多くのこの種の製造現場でほとんどの作業者が、外注先や契約社員で構成されて工場内に正社員の指導員が数名いるだけで、しかも請負契約だから外注先の作業者には直接に指示するのではなく、指示は外注先の責任者を通さなければならず、当然技術の伝承がスムーズにいかず不良の山を作っていた場合もある。

従来のように、作業者間の競争もなければ、仕事に対する喜びや目標は立てにくい。したがって、「技術の伝承」など極めて困難な状況で、それどころかほとんどの場合忘れ去られてさえいる状態だ。

 経営者が国際的な競争の中でまず人件費を削減するためにこのような、請負制と外注に依存する仕組みが取られてきたが、昨年末から年明けに始まった契約社員の雇用打ち切りなどで、「技術の伝承」が危機的な状況になりどんどん技術が劣化してきている。

 この辺で、生産性の追求のみに走ってきた手法を再検証し、思い切って抜本的に見直す時期である。これに早く気づいてアクションを早く取った企業が、未来を先取りできる。「技術の伝承」を確実に行うには、組織や人に思い切って手を入れたり、経営の仕組みを変えたりする革新的勇断の時だ。このままではグローバライズした経営、技術瞬時に情報が飛び交う社会においては、遠からず一企業だけでなく、国家的に禍根を残すことになるだろう。