雑感シリーズ(3月号)

関東学院大学  本間 英夫



技術と不況について

昨年暮れから同じ話題で恐縮だが、100年に一度の大不況、業種によって異なるが、自動車関連・エレクトロニクス関連の企業は大打撃で、生産の5割減は当たり前で7割から8割減のところも多い。従って、ほとんどの企業ではまず人件費の削減、さらには、出張制限、新人教育の短期間化、採用人数の削減、設備投資の延期や中止、ありとあらゆる領域での経費節減などの対策が取られている。今回は、あまりにも落ち込みが急激で、これから先の生産計画の予測がつかないと、多くの経営者は委縮してしまっている。しかしながらこの状態が永遠に続くわけではない。2月末の報道によると、在庫整理が進み鉄鋼や化学材料は若干上向いてきているようだ。景気いずれは回復する。その時期が予測できないから積極策が取られにくい。従って、この厳しい状況下で企業を存続させていくためには、削減しなければならない部分と投資すべき部分、企業にとってはキーになる技術力の部分と厳密に見極めることが大切である。

企業の生命線である技術や開発にまで人減らしの影響で、定常的に現場作業の応援に駆り出されているようでは技術者のやる気が喪失してしまう。今まさに、これまで好況時におざなりにされてきた不良対策、工程改善や設備の徹底的なメンテナンスをはじめとして、技術力を向上させる絶好のチャンスであり、会社全体の閉塞感を解消するように経営者も技術者も鬱状態から脱出しなければならない。

 最近、得意先からこれまで問題にされていなかったようなシミや色むらキズなどに対してクレームがつき、あたかも言いがかりのようで、正直腹立たしくなると2,3の企業の技術者が不平を漏らしていた。しかしながら考え方を変えれば、この種のクレーム対策こそ、品質向上や工程改善や不良対策で技術力の向上の絶好のチャンスである。今年に入ってから、これまで以上にクレーム対策のヒントをもらおうと相談に来る企業が増えてきた。しかも、これまでのように忙しい時は1人か2人位の技術担当者が来るのが常であったが、この頃は4,5人で来られることが多くなってきた。相談内容を聞くと対策のポイントはほとんどつかんでいないようだ。

すなわち表面処理関連の製造業は前から言っているように、装置産業化して薬品メーカーから薬品を買い、設備メーカーから設備を導入すれば、だれでもどこでも画一的に同じ仕事ができるようになってきているからである。内容を聞いてみるとちょっと工夫すれば解決するようなことで大した問題ではない。

しかしながら、生産だけに追われ、これまでほとんど薬品メーカーや装置メーカーに依存していた企業ではこの種のノウハウをほとんど持っていないようだ。

2007年問題と叫ばれてきた技術の伝承、OJTがうまくいっていないようだ。中にはこんな馬鹿げた話まである。ある企業では、技術の伝承と熟練社員の作業をビデオ撮影し、動画情報として残すなどの対策を講じてきたが、撮影目的が曖昧だったために、熟練技能を伝承するどころか、単なる作業風景としての映像にしか過ぎず、撮影した映像だけが蓄積される状況に陥っていたという。技術はこのような形ではなかなか伝えられるものではない。また、OJTは技術を伝えるいい手段なのだが、それが効率追求や若者の仕事に対する意識の低下さらには素直さ謙虚さの欠落からこれもうまく機能していないようだ。さらに追い打ちをかけるように技術者の早期退職、技術力や技能を持った高齢者の再雇用が閉ざされてきているので、ますます技術や技能は低下している。話は戻るがビデオの活用は多くの新入社員教育や技術者の力を向上させるには効果的な手法であり、ハイテクノでは、すでに100本以上にも及ぶビデオが作製済みである。会員企業の中でも有効に活用している企業とそうでない企業に2分されると思うが、まさに今こそビデオの活用を、声を大にして問いたい。その際、ビデオを作成した我々当事者がさらに解説するような方法が最も効果的である。時間とその環境を企業で構築していただければ出かけて行ってもいいと思っている。是非、経営者の方々には考えてもらいたいものだ。

この難局を乗り切るためには、社員が一丸となって、ことに当たらねばならない。開発型の企業では新規のプロセスや商品開発、今まさに知恵を出す絶好のチャンスであり人間の頭脳は一番エネルギー効率が高く、それほど費用をかけなくても「アッ」と思うような面白い、わくわくするような開発につながるものである。

われわれの研究所と付き合っている経営者の中には、モノ作りの根幹である技術力に注力しなければと気付いてきている。

それには若いエネルギーが最も効率よく、是非景気の後退期にも完全に採用をストップするのではなく意識の高い学生を技術者として採用すべきである。景気が回復してからアクションを取るようでは、技術の重要性を認識し技術力を蓄えてきている企業との間で大きな差が付いてしまう。技術を中心とした製造工場では少なくとも複数の柱が必要であり、三本の矢といわれるように今まさに次の柱を建てるには絶好のチャンスである。



就職難について

今を生き抜くためにどの会社も経費削減に必死で、経費削減の一貫として新人採用の枠も大幅に絞られ、就職氷河期と言われる状況に陥ってしまっている。しかしながら、この時期をあえてチャンスと捉えてもらいたい。それは就職倍率が高いということは、より多くの人材の選別を行えるということである。景気の良い時期には、会社のネームバリューも手伝って有名大手企業が良い人材を総取りしてしまう。しかしながら、大手の企業が新人採用を大幅に絞っているこの時期に、中小企業にもたくさんの人材の応募があり、良い人材を確保出来るチャンスである。良い人材の確保は会社の軸であり、ある会社では会社の景気が振るわない時期に採用をストップし、そのことが原因で技術力が低下し事業展開が進まず、倒産に落ちいってしまったケースもある。

「企業は人なり」アメリカの経営方式を表面的に模倣するのではなく、物作りに関してこれまで培われてきた肝心なところは残し、改善するところは思い切って改善する。これまでの日本に根付いた各企業の技術力は終身雇用制が大きく効果を発揮していたので長期雇用は維持すべきであろう。

また現在就職活動を行っている学生達にも、この様な時期だからこそ自分を磨くことを怠ることのないように意識付けし教育を行っていかなければならない。景気の状態が悪くなろうが、どの様な時期に直面しても豊かな人間性をベースに創造性と技術に関する展開力、問題解決能力を持てるように毎日のように学生を意識付けしている。また、英語の能力に関しては、いずれの領域でも必要なので、毎日朝9時過ぎから1時間研究所で訓練している。学生だけではなく社会人の方たちにも同様に言えることだが、仕事にて対しては常に好奇心を持って物事に取り組む姿勢を忘れてはならない。



元技術大国日本

 今となっては昔の話になってしまうのか。日本の技術能力は世界から見ても目を見張るものがあった。しかしながら、日本の技術力は大きく低下し、アジア各国に追いつかれ追い越されてしまうのではないかと危惧する。

技術力の低下に拍車をかけているのは現在の産業界の閉塞状態は勿論、ボディーブローのように効いてくる「若者の理科離れ」である。 小中高の教育では理科実験は危険性が高い、費用がかかるなどの理由で、多くの学校で行われなくなっている。そのため理科に対する興味を持たない若者が増えている。文系の就職先の方が、生涯賃金が多いと言われている中、さらに理系に進学する学生の減少に拍車がかかっている。

第2次大戦を通して、日本は多くの人間を失い、産業は壊滅状態になった。さらに物がない状態からのスタートで、あるのは人の知恵だけであった。そこから様々な方法を駆使して産業のきっかけを見出し、開発を行い、世界に通用するような技術を世に出してきた。

黎明期の技術や技能に対する飽くなき挑戦があってこそ、今の日本の経済があるということを戦後60年以上経過した今、再認識すべきである。日本のモノ作り技術は今では世界中どこでも用いられるようになっている。そのため今まで日本が行ってきた資源を輸入し付加価値をつけて輸出する生産方法から現地生産に「切り替えられていく。資源の少ない日本が自動車やエレクトロニクスをはじめとしてこれからの産業で生き残っていくためには、20世紀型の追いつけ追い越せで培ってきたモノ作り以外に新領域に関して優れた開発がおこなわれねばならない。



METEC09に参加して

2月18日から20日の3日間METEC09に参加したが、実行委員会から発表された参加者数は4万7千人以上であったことが報告された。この不況で出張などの経費が抑えられ参加者が大幅に減るのではと懸念されたが、昨年と同等の来場者数であった。これは大不況のなか各企業が新たな仕事を見つけるための市場動向調査が行われたのであろう。実際に説明員として研究所が出したブースで説明にあたっていた学生によると、共同で開発を行いたい・試作の検討を行って欲しいなどの要望を数多く承ったとの報告を受けた。