雑感シリーズ (11月号)

関東学院大学 山下嗣人    



関東学院大学における表面工学のルーツと今後の展開

 工業化学科が創設された翌年の昭和36年4月、金沢大学名誉教授の横山盛彰先生が教授として着任され、物理化学の講義が開講され、翌年には電気化学の講義も開講された。 

横山先生は、横浜高等工業学校(現横浜国立大学工学部)電気化学科助教授時代にドイツ、スイス、イギリス、アメリカなどへ一年半留学され、本邦に電気化学を紹介した人として評価された方である。その後、校長として金沢高等工業学校(現金沢大学工学部)へご栄転され、新制大学の学長就任要請(静岡・山梨・山形大学)を強く辞退し、金沢大学工学部長を務め、名教育者として退官されたのです。その後、横浜高等工業学校電気化学科時代の教え子であられた中村実先生(本間教授の恩師)のご尽力により、本学科へお招きする事ができたのです。ここに電気化学・表面工学の原点があります。

表面工学分野は中村・本間両先生のご業績により、国内外で高く評価されている大学の「宝」であるから、特化すべきとの声も聞こえる。この伝統を後世に伝承するため、本間先生が信頼関係を築かれた産業界との強力な人脈を通して、新たな展開を図っておられる。

2010年10月、表面工学分野の基礎研究を行うための「材料・表面工学研究センター」を横浜市工業技術支援センター内に開設し、25日にキックオフミーティングが行われ、関心・期待の高さが示された。さらには「専門職大学院(表面工学)」の開講が模索されている。本間・山下両研究室の大学院修了生は150名を超え、博士後期課程在学生5名は、電気化学・表面工学専修に所属(本間研究室3名、山下研究室2名)し、いずれも社会人である。大学院学生数の実績や教授陣の優れた研究業績と受賞歴、学会・社会における活動、卒業生の活躍、産業界・学会・公設機関からの強い要請など、有利な条件が揃っている。本間先生をサポートする学内外のマル合教授やスタッフの人材確保も慎重に進められている。なお、現存の表面工学研究所は、実用化・製品化に至る最新技術分野を展開していく事になる。大学側からは本間先生が技術顧問、私が副所長として参画し、両研究所が連携を図りながら歩む事になっている。

横山先生と私の出会いは、2年生の物理化学演習の時間であった。教室内を周りながら指導をされていた先生から、「君の出身地はどこか?」と尋ねられた事に始まる。先生は松本のご出身である。長野県人は、明治時代からの特色ある「信濃教育」や県歌「信濃の国」で知られるように同郷意識が強い。やがて、教員志望ならば「物理化学」を勉強するのが良いと勧められ、横山研究室で「電気化学」を専攻する事になった。

高校教員一級免許を取得するための専攻科を修了した後、横浜国立大学電気化学科研究生となり、進むべき道を模索していたが、助手に採用される幸運に恵まれ、国家公務員として大学での研究生活が始まった。研究テーマの一つであった亜鉛は、一次電池の負極に使用されているが、自動車による大気汚染が社会問題として取り上げられ始めた昭和40年代後半、二次電池化が話題となった。リチウム電池が世に出る以前に一回の充電で走行距離150Kmを達成するには、80Wh/Kgのエネルギー密度が必要で、空気-亜鉛電池がそれを満たす唯一の電池であった。

「めっき」とは異なり、放電時に生成した亜鉛酸化物表面には、充電時に還元析出した亜鉛は樹枝状に成長しやすく、脱落や短絡の原因となり、サイクル寿命が短命であった。昭和49年10月、日本化学会の秋季年会で、「樹枝状析出と不動態化防止」に関して発表した際に、東北大学工学部の外島教授から、「オーソドックスな研究が大切である」との暖かいコメントを賜った。この一言が、数年後に「学位論文」のご指導をしていただくきっかけとなった。この頃に研鑽した電気化学的平衡論・速度論、電気化学測定法を応用しての電極反応や電極/水溶液界面現象を解析した経験が、ハイテクを支えている「最先端の機能めっき」を側面からサポートする事に役立っている。

外島先生は、横山校長が着任する2年前に金沢高等工業学校をご卒業、東京工業大学に進学して電気化学を専攻されている。東工大では中村先生の2年ほど先輩になられる。不思議なご縁と出会いがあって、今の私があります。関東学院大学の表面工学には、横浜国立大学と東京工業大学「電気化学」の流れがあるのです。 

  

子供たちの将来への夢

 第一生命保険が幼児を含む小学生低学年の子供たちを対象に、毎年恒例で行っている「大人になったらなりたいもの」の調査で、人気の高かった上位の職業が発表されている。男の子の一位とニ位は例年と同様に野球選手とサッカー選手である。近年のノーベル物理・化学賞受賞の影響と思われるが、学者・博士が四位(前年は三位)に、警察官・刑事(前年十四位)や学校の先生(習い事の先生)などの公務員系が順位を上げて、ベストテンにランクされている。その一方で、調査を始めた1989年以降、常に人気が高かった「パイロット」が外れている。利用者離れによる業績不振や経営再建中の課題などを敏感に捉えているのかもしれない。

第一生命の分析によると、「憧れよりも安定した職業を意識しだしたのかもしれない」としている。夢よりも現実志向型のようである。私たちの頃は、数少ない遊びの中から、電車の運転手や車掌さん、野球選手に夢を抱く子供たちが多かったように思う。

 女の子の一位は13年連続で「食べ物屋さん」、以下、保育園・幼稚園の先生、看護師さん、歌手・タレントと続いている。男性と比較して、職業の選択範囲が限られている事も一因と思われるが、例年とほぼ同じ順位である。大手予備校の分析によると、女子学生は偏差値でなく、将来の仕事・職種を決め、自分が学べる学科・学部、そして大学を選んで進学してくるのだという。目的意識が高い女子学生は真面目に勉強し、優秀な成績を修めて、卒業式で総代を務めるケースが極めて多い。

 教員であった父は、都会に行く事を勧めた。母は「公務員の給料は安定していて、暮らすのに必要な最低限は保障されているから」と、田舎での生活を望んだが、中学三年生の修学旅行で訪れた「鎌倉・江の島・横浜」に憧れと希望を抱いたのかも知れない。

経営の神様「松下幸之助」は面接の際、今までの人生で、「自分は運がよかった」と答えた人のみを採用したといわれる。現在の私の生活を考えれば、正しく「運がよく」、最善の選択であったと思う。

 

生まれ変わったら就きたい職業 

 「夢と憧れ」を語った子ども時代とは異なり、人生経験を積んだ40歳以上の人に「生まれ変わって、20歳からの人生をやり直せるとしたら、何になりたいですか?」とのアンケートに対して、三千人余の回答が寄せられている(回答者の平均年齢は約55歳)。

 その職業の第一位は「大学教授・研究者」で25%の人が選んでいる。二位は「医師」、三位は「弁護士」、四位は「パイロット」、五位は「学芸員」、六位は「公務員」と、高学歴や高収入をイメージする職業が続いている。単なる憧れよりも、具体像を描きつつも夢半ばで挫折したほろ苦い思い出が多く寄せられている。また、人生の経験を積んだ上で「やはり、この仕事がいいだろう」と、冷静に選んでいるようである。

 十位以下の職業には、⑬作家、⑭カメラマン、⑮画家・芸術家、⑱伝統工芸職人が並んでいる。比較的手堅い職業が占めたトップテンとは様相が異なり、幼少期の夢への思いが残っているようである。

 2005年に開設された「13歳のハローワーク」では、職業の実情や職への就き方などを紹介している。利用者は中高生が多数を占めているという。本年6月のアクセス数による「人気職業ランキング」では、①中学・高校教諭、②パティシエ、③保育士、④ファッションデザイナー、⑤プロスポーツ選手、⑥看護師、⑦公務員、⑧漫画家、⑨小学教諭、⑩医師となっている。教員や看護師、公務員などの現実的な選択をしているが、2000年から導入された「総合学習」での授業(職業体験などキャリア教育)の影響が大きいと言われている。

キャリア教育は、2011年度から大学にも導入される予定であるが、現状の問題点を精査し、社会・産業界の動向や要望を踏まえ、さらには将来を展望しての適切なカリキュラムに基づく「職業像」を机上の学習だけでなく、実践体得させる事が必要である。その効果を期待したいが、それ以前に、挨拶ができない、礼儀を知らない、約束が守れない、コミュニケーションが図れないなど最低限の基本を身につけておく必要があろう。

 横浜市教育委員会では、中学生のための「礼儀・作法読本」を作成し、一年生に配っている。内容は「おはようございます・いただきます」の挨拶、食事・交通マナーなど多岐にわたっている。以前は家庭や地域で自然に身につけたマナーを「家庭には任せられない」と判断したという。社会で役立つように、  学校現場で実践教育してほしいものである。



理系出身者は文系出身者より高収入?

 理系出身者の収入が、文系出身者より高い傾向にある事が京都大学や同志社大学などのグループによる調査で明らかになった。インターネットで回答された20~60代1632人(平均年齢43歳)を分析したところ、文系出身988人の平均年収583万円に対して、理系出身者644人のそれは681万円であった。年代別、大学の難易度別、企業規模別、男女別で分析した結果、理系出身者の収入がすべて上回っている。理系のほうが選択できる職種の幅が広く、また、転職しても収入が下がり難いからではないかとみられている。

他の調査による約2000件(出身大学は全国国公私立180校)の結果でも文系551万円、理系639万円と、理系の年収が高い。理系の中では工学部が最も高く、理学部>薬学部>農学部の順である。文系では法学部が最も高く、経済学部>商学部>社会学部>文学部の順である。これらの傾向には、男女の比率が反映されているとの分析結果もある。事実、男性の比率が極めて高い工学部(男女の比率90:10)の収入が最も高く、一方、女性の比率が高い文学部(男女の比率25:75)の収入が最も低い。

 理系の授業料は高く、実験・卒論に追われてアルバイトもできない、文系よりも年収が低い(製造業のそれは非製造業より数%低い)。このような背景が、若者の文系志向を促す一因と私達理系の教員は解釈していたが、理系の年収が高いという事実が明らかになれば、本年のノーベル化学賞受賞の快挙も相まって、理工系受験者数の増加、さらには偏差値の上昇に繋がり、優秀な学生確保が期待できる。

理系の学問や研究成果が地球温暖化や環境・資源・食糧難・感染症など世界が直面する諸問題を解決し、また、産業界の発展にも貢献して、明るい未来が開けるであろう。大学側が現状と将来展望を積極的にアピールしてほしいものである。