雑感シリーズ(2010年4月号)

関東学院大学  山下 嗣人



大学教育現場の現状

 18歳人口がピークを迎えた1990年頃の4年生大学への進学率は約25%であったが、進学率が50パーセントを超え、さらに推薦入学者が過半数を占めるようになった昨今、何の目的で入学したのか、何を勉強したいのか、無気力学生の多いことが指摘されている。

「じっくり考える力」を養うべき小学校低学年の学校教育に問題があると言われている。10歳の頃に一つの壁があって、分数が解けない、文章の意味が理解出来ない子供に分かれてしまうという。国語だけを教える塾の様子がテレビで紹介されていた。声を出して読み、読解力や理解力が身につくと、他の教科の成績も向上してくるそうである。彼らの作文を見ると、話題が豊富で表現力も豊かである。広い視点から深く観察・洞察している。低学年次の「マンガ」から、年齢とともに小説など読むように成長するという。本を読む習慣をつけることが大切と説いている。

 中央教育審議会は「基礎的な読解力や文章表現力などを習得させることも重要」と指摘し、2011年以降実施される新学習指導要領では、小学校~高校において、全教科で「言語活動の充実」を図るとしている。語彙を豊かにし、思考力や判断力、表現力を高めて「生きる力」を育むという。

 本学工学部では2004年度から、一年次の学生に対して、5~6名の小グループでのセミナーを必修で課している。その内容としては、「学生とは、学ぶ・仕事・生きることの意味、文章作成、演習問題、調査研究、プレゼン技術」などである。これらを双方向の授業形態で学習し、目的意識の高揚に努めているが、少人数教育であっても、机上での学習には限界があり、その効果は疑問視される。受験の経験がない推薦入学生は、「勉強の仕方、講義の聞き方、ノートのとり方」を知らないのである。推薦入試制度の弊害の一つである。

 数年前に関西の大学教授が学生の成績と教室内での着席場所の関係を調査し、新聞紙上に報告している。前から3分の1の学生の成績が最も良く、中程の3分の1、後ろの3分の1の順番に10ポイントずつ低下している。後方にいて、成績不良の学生は教員の講義が悪いと責任転換する。

 しかし、一人一テーマでの卒論を経験することで、自ら考えて行動できるようになる。研究成果を学会発表した学生や企業との共同研究を担当した学生は、研究開発の一端を担う責任感とも相まって著しく成長する。工学部教育の素晴らしさがここにある。

 学生の意識を変えるには、実践教育が大切であり、社会経験の場としての「インターンシップ」が有効である。社会と接する心構えを養う機会を一ヶ月程度体験した学生の「目の色が変わる」事を認める大学関係者が多い。この効用を正式なカリキュラムに取り入れている大学が増えている。40年前の大学では、夏休みに企業にて実習を行い、スムーズに就職が決まっていたように思う。

必修科目としてインターンシップを開講し、「何のために学ぶのか・生きるのか・働くのかなど」を体験させ、自己分析した上で世の中に送り出すことが必要と思われる。学生の眠りを覚まし、潜在能力を引き出すための教育が望まれる。そのためには、企業側のサポートが不可欠である。

 2011年度から、大学の教育課程に職業指導(キャリアガイダンス)を盛り込むことが義務化されると発表された。学生が自立して仕事を探し、社会人として通用するように、文部科学省が設置基準を改正し、大学側も支援体制の見直しに入るという。この背景には、厳しい雇用状況や職業・仕事の内容が変化して、大学の教育や学生支援が十分に対応できていないこと、新卒者の定着率の低さなどが挙げられている。

 学内に就職支援センターやキャリアセンターを開設して対応している大学が増えている。必修科目として、将来の進路を考えるカリキュラム、「社会で自分を活かして生きていく力」を入学時から4年生まで実施して、就職率100%を達成している大学がある。



注目されるインドの教育

 近年、インドの教育が注目され、その教育内容がテレビで紹介されていた。NASAの33%、マイクロソフトの33%、シリコンバレーの30%をインド人が占めている。インド人が優秀で、英語を自由に話せるからという。義務教育としては認められていないが、子どもにインド式教育を受けさせようとする親が急増している。国際感覚を身につけさせたいと、日本にあるインド学校、インディアン インターナショナルスクール ジャパンへの入学希望者が殺到しているという。インドの教育は厳格で、毎年進級テストがあり、小学生でも落第する子どもがいると聞く。

 インド教育の特徴として、①義務教育年齢とされる5歳児クラスでの会話、授業はすべて英語で行われる。インドでは1ダース、12桁を基本としているので、5歳で二桁の九九を習う。このクラスには日本人20%が含まれている。7歳児のクラスでは三桁の掛け算、8歳では四桁の掛け算を習う。日本のカリキュラムは3学年遅れているという。②IT教育も5歳から始めている。マウスを使って図面を描いて色をつける。キーボードを使って文字を打ち込む。12歳ではプログラミングを簡単にこなす。早期のコンピュータ教育の成果が世界のIT分野をリードする基盤となっているのであろう。③ヨガの授業がある。祈り、精神を整える。体を柔軟にし、呼吸を整え集中力を高める。脳と体をリラックスさせる。④午後には課外授業がある。週に一回、学年の垣根を越え、「チェス」などで遊びながら脳を鍛える。⑤1時間目の開始前に「アンセンブリー」というカリキュラムがおかれ、毎朝実行されている。最近の出来事やニュース、格言、意見などを校内放送で発表することである。その後に全員でインド国歌を斉唱して、連帯感を高めている。

 スピーチにより、「人前力」が身につくのだという。インド人が国際舞台で堂々とプレゼンしている姿を見ると、この教育の成果であることが納得できる。幼い子どもたちの高い吸収力・順応力を理詰めで効率よく活用しているのである。長野の小学校時代、行事があるたびに、全校生徒で県歌「信濃の国」を合唱したものです。長野新幹線や特急あさま号が運行される以前の長野へ向かう急行列車「信州号」の車内でも、この歌声が聞こえ、同郷の結束力を強く感じたものである。これらが郷土や自然を愛し、「国を大切にする心」につながるのではないかと思う。

 インド式教育システムは世界的に広がり、世界の基準になるであろうとも言われている。この教育制度を分析・評価し、「ゆとり教育」の失敗を反省して、各自が何をしたいのか、選択できる力を養うことができる教育システムを構築してほしいものである。



勉強とスポーツとの相関関係は?

 全国学力調査で常に好成績を残している秋田県や福井県は2009年の全国体力調査(握力、反復横跳び、持久走または20mシャトルラン、50m走、立ち幅跳び、ボール投げ、上体起こし、長座体前屈)の順位でも上位に連ねている。秋田県の小学生は2009年の全国学力調査で国語が1位、算数が2位であり、全国体力調査の結果は前回と同じ2位であった。秋田県教育委員会の分析によると、「学校教育を中心として、家庭や地域の教育力がしっかりしている」ことを要因として挙げている。秋田県では2007年に、学力と体力の関係を275校分抽出して分析した結果、学力成績が良いほど体力の結果も良く、ほぼ右肩上がりの相関関係が認められたという。

 学力と体力との関係にいち早く注目したのはイギリスである。学力低下が社会問題となった90年代、体育のモデル校での成績が上がったことに着目したのである。体育が「学校への帰属意識」、「学習意欲」、「授業態度」などを向上させると分析し、2002年から体育振興の政策が導入されている。発育発達学の専門家は、「日常的に体を動かしていれば、早寝早起きの生活習慣が身につきやすい。子どもの体調は良く、頑張れることが学習にもつながる」と分析している。「運動は脳を活性化して、意欲を高め、その波及効果として学力が上がる」と分析する学者もいる。

 一方、「親の年収により、勉強やスポーツの習い事への投資額が異なるので、家庭環境が反映されている」と慎重な見方をする教育社会学専門家のコメントもある。

 地域社会や近隣との連携が一般的に希薄と考えられる都市部の体力順位(小学5年と中学2年の男女の平均)は、東京41位、神奈川42位、大阪44位であり、秋田県の分析結果に一致する傾向も見られる。子どもたちの教育や成長は、学校、家庭および地域社会との連携・協力によってなされるものであり、昔は当然のことであった。



雑誌離れが加速、休刊ラッシュ

 書籍、雑誌の販売金額が1996年をピークに年々減少し、2009年のそれは21年ぶりに2兆円を下回ると推定されている。例年に比較して、ベストセラーが少なかったこともあるが、雑誌離れの加速が最大の原因とされている。最小限の情報や世の中の動向はインターネットで得ることができるので、新聞さえも購読していない若者が増えている。2008年の新刊の刊行点数は1989年の約2倍の7万6千点に倍増しているが、売れない本が次々と出版社へ返品されているという。このような状況から、休刊ラッシュが続いている。2009年は10月までに170誌が休刊している。

 学習研究社は小学生向け学年別雑誌の「学習(1946年創刊)」と「科学(1957年創刊)」が時代のニーズに合わないと判断して、2010年3月をもって休刊すると発表した。家庭に直接届けられる便利さ、九九を歌って覚えるカセットテープ、理科の教材などユニークな付録人気に支えられてきたが、少子化や主婦層の在宅率低下、子供たちの多様化、活字離れ、インターネットの普及などの影響を受け、最近では最盛期(1979年670万部)の10分の1以下という。小学館も学習雑誌「小学五年生」と「小学六年生」の休刊を発表している。

 雑誌「科学」を通して理科に興味を覚え、理系への進学を決めた子供たちも多いと思われる。「科学」の休刊は残念なことであり、理科離れがさらに進むのではと懸念される。一方、「まちの科学実験教室」は、様々な不思議な現象に目を輝かせる子どもたちの興奮でいっぱいだという。身近な道具を使い、遊びながら科学の原理を知ることができるので、「学校ではできない実験ができて面白い」という。進学塾も実験教室を開いている。東京農工大学の科学博物館では約20年前から子供科学教室を開いている。参加者数は増加傾向にあり、2009年は209人という。特に見学する保護者の増加が著しく、「大学の先生が理系の楽しさを分かりやすく教えてくれる」ことに期待しているようである。理科実験を楽しむ効用として、学研教室の担当者は、難しい理屈は言わないが、教科書で習った時、実験の経験があるので「知っている」と思えて自信になるのだという。

 大学の教育施設を地域社会の方々に開放する「ふれあい祭り」で、子どもたちに「レモン電池」の実験教室を開いたことがある。様々な果物と材料を組み合わせた電池を作製し、音の高さで電池特性を判断するものであるが、予期せぬ展開がおこり、子どもたちの豊かな想像力に驚かされたものである。夏休みの自由研究の題材として、ご父母の方々にも好評であった。

ノーベル物理賞の益川敏英教授は、子どもは本来「好奇心いっぱいであり、親はそれをつぶさないようにしてあげることが重要である」と述べている。「体験させる」、「経験させる」ことが大切なのである。

 本学科では、毎年7月に中高校生を対象とした「夢化学」を開講し、表面工学や生命科学分野の基礎・応用実験を体験していただいている。受験重視の中学・高等学校では、考える力を養う事が出来る科学系の実験を、殆どしていないようである。無限の可能性を占めている子どもたちに「科学の面白さや魅力」を伝え、この分野の将来を担う人材の育成に努力しなければと思っている。