関東学院大学材料・表面工学研究センター

本間 英夫

これまで数回にわたり産学連携のルーツやその重要性をアピールしてきたが、一番重要な研究の進捗について語ってこなかったので、久しぶりに数回に分けて現在の研究の進捗状況を解説することにした。

プラメッキの新しい展開

昭和38年から39年にさかのぼるが中村先生、斉藤先生が中心となられ、本学でABS樹脂上のめっきプロセスが世界に先駆けて工業化された。当時、専攻科から大学院の学生であった私自身もこの開発に携わることができたことについては、これまで何度かに渡り語ってきた。
 プラめっきは、クロム酸や過マンガン酸などの強力な酸化剤を用いて、基板表面にサブミクロンからミクロンオーダーの凹部を多数形成し、絶縁層と導電層とのアンカー効果により密着性を得る方法で当時としては画期的な方法であった。しかしながら、六価クロムを含むクロム酸処理や過マンガン酸は人体への影響や環境への負荷などの問題点が挙げられていた。
 さらにこのプラめっきが工業化された直後の今から45年くらい前になるが、プリント基板の回路形成はサブトラクティブ法といわれる銅張り板にインクで回路を形成しインクの付着していない銅の露出している個所をエッチングして100ミクロン程度の回路を形成する方法が主流であった。
  40年くらい前になるが、ECSというアメリカの電気化学関連の論文誌にUV光を用いて選択的に回路を形成する方法が掲載されていた。それによるとマスクを用いて100ミクロン程度の回路を描く手法であった。これは面白いと当時の学生と、さらに細かい回路形成が出来ないか挑戦することにした。しかし樹脂材料に密着性の良好な金属を成膜するには先に記したように、ミクロンオーダーの凹凸をエッチングにより形成する必要がある。当時は半導体の最小線幅は1ミクロン程度で光学メーカーとレジストメーカーにお願いして石英に1ミクロンから100ミクロン程度の解像力パターンを作成していただいた。
  石英のマスクパターンを介して選択的にUV光を照射して樹脂表面に1ミクロン程度のパターンを形成することは、これまでのミクロンオーダーでエッチングした表面では不可能である。そこでほんの数秒間だけABS樹脂をクロム酸のエッチング液に浸漬することにより、密着を犠牲にして1ミクロンの回路が形成できるかトライしてみた。
 UVの照射時間やそれに続く前処理条件を変えながら無電解めっきをしていると、ある条件できちっと回路が浮かび上がってきた。しかし密着を犠牲にしているので、めっき後の洗浄で回路はすぐに剥離するものと思っていた。しかし、洗浄後も回路は剥離せず1ミクロンまで回路を形成することが出来た。これがきっかけとなり、その後UVを用いて微細回路形成の実験に着手することになる。
 そこでこの偶然の発見がヒントになり平滑な樹脂材料へのめっき法を検討してきた中で、本号ではフレキシブルやフイルムベースへのUV照射による平滑面への高い密着を得る手法について報告する。

平滑面へ密着性に優れたプロセスの進捗

昨今の情報ネットワークの進歩は目覚しく、取り扱う情報は大容量化・多様化しており、その伝送速度はより高いBit Rateを扱うことにより、演算処理を行うMPUクロック数も高くなるため、通信速度の高速化が求められている。
 また、通信分野においては高度情報化社会に対応するため、通信周波数の高周波化が進んでいる。信号伝搬速度は基材の比誘電率が小さいと速くなる。また、伝送損失は周波数が高くなるにつれ大きくなり、また誘電正接が小さいほど高周波領域では小さくなる。このことから、今後の高速伝送、高周波領域に使用されるPCB、FPC基板には低誘電率(低ε)、低誘電損失(低tanδ)および低吸湿性など優れた特性を持った材料が求められる。
 一方で、基材の特性だけでなく、誘電体損の原因の一つとして回路の平滑性が挙げられる。これまで金属/基材間の密着を得るために数μmの凹凸を過マンガン酸処理などで形成されてきたが、高周波対応や信号品質の向上(伝播速度の向上や低伝送損失など)が求められるようになり、表皮効果の影響が無視できなくなっている。
 このような背景から、今後求められる高速伝送、高周波基板の製造においては、優れた材料特性を持った基材上に、基材と回路の界面が平滑な回路の形成が理想であり、そのためのさまざま研究がなされている。
 しかしながら、平滑回路の形成と良好な密着力の導体形成は相反するため、基材および導体形成技術においてこれまでにない技術開発が必要とされる。
 我々はめっき前処理として、従来の材料表面の粗化および表面修飾の代替法として、先に述べたように大気下にて材料表面にUVを照射することで、表面を粗らすことなく密着性に優れた密着層形成の可能性に注力してきた。
 優れた電気特性を持つ材料としてポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFE)が挙げられるが、PTFEは化学的に極めて安定な材料であり、密着を得るための表面修飾手段としては金属ナトリウムの処理が採用されているが極めて危険であるし、成型性が悪く、高価である。さらに、廃棄後は焼却時にフッ化水素ガスが発生することなどから産業廃棄物として取り扱われている。
 そこで、次世代の高速伝送、高周波基板材料としてPTFEに非常に近い電気特性を持ったシクロオレフィンポリマー(以下、COP)と、また現在最も広くフレキシブル基板材料として用いられているポリイミドの代替として、より優れた電気特性を持つ液晶ポリマー(以下、LCP)へのUVを用いた新規のプロセスについて着目してきた。特にCOPに関してはUV照射以外に、プラズマ処理、薬剤エッチング、エキシマレーザー、コロナ放電などについても検討を行ってきたが、その中でも大気下でのUV照射が最も良好な結果が得られた。
 本手法の基本的な工程としては①UV照射、②脱脂、③触媒化、④無電解めっきの4工程から構成されている。エッチング工程をUV光照射に変えるだけでほとんどこれまでの前処理を変える必要が無い。また、UV照射後、表面の状態にはほとんど変化は認められず、断面観察から絶縁層と導電層の間に20から100nm程度の析出させた金属と樹脂の混合層が確認され、これが密着に大きく寄与していることが分かった。さらにUV照射によるこの混合層形成のメカニズムを解明するため、最新の分析ツールを用いて調べた結果、大気下にてUV照射することで発生するオゾンおよび活性酸素により、材料表面の最外層の分子結合が切断され低分子化されていた。この反応は時間経過とともに材料内部に進行していき、続くアルカリ脱脂処理によって一部の低分子化された化合物が溶出し、改質されたナノサイズの隙間内部から、めっき反応が進行していることを確認した。当初は密着性は満足できる値が得られなかったが、前処理および無電解めっき液を工夫することで、素材平滑面上に優れた密着性を持った導電層形成が可能となった。
 これまでの一連の研究で、UV照射法によって対応可能な材料、めっき処理の条件、密着強度、密着メカニズム、反応機構が、明らかになっている。次号ではUV以外のさらに環境に優しい方法の最新の検討結果を報告する。