雑感シリーズ (3月号)

関東学院大学材料・表面工学研究センター

                 本間英夫



おおらかに、おだやかに



『先生最近の雑感の話題は暗いですね!』家内いわく『貴方、最近顔付きが悪くなったわよ』と、自分の精神状態が文章、態度、特に顔に表れる。

学生や先生方、お付き合いをしている企業経営者や技術者の前で、家族の前で、平常心を装っても表情、特に顔に感情が正直に表れてしまう。そういえば、ケーブルテレビで「カリスマドッグトレーナ サブタイトル(犬の気持ちわかります)」という番組が昨年10月頃から2ヶ月くらい連日、かみつく犬、吠え続ける犬、主人の命令に従わない犬等の調教の様子が紹介されていた。

どんなに獰猛でも、歯をむき出しにして吠えたり、かみついたりする犬でも、一週間くらいの訓練で優しく従順な犬になる。攻撃的な顔から柔和な顔に大きく変わる。同じように自分も精神的に不安定な時は、顔にその感情が大きく現れていたのではと、大いに反省した。

一月号の雑感で冒頭、本年から年賀状は一部の旧友だけに限ると宣言したのも、落ち込んだ精神状態から書く気にならなかったからである。集中力、持続力は大きく低下していた。

また、一月の中旬だったと思うが、ある先生とお会いし、長時間いろんな話題で話す機会があった。その時、自分の悩みを打ち明けたのだが、即座に『本間先生、おおらかに、おおらかに、行きましょうよ』とその時、何か自分自身の悩みが一挙に吹き飛んだ。



研究をベースとしての学生との交流

これまで学生と向き合う時は気取らず、権威づけず、自然体であまり距離を置かずに付き合ってきた。若い頃は兄貴として、中年以降ではおじさんから、お父さんのような気持ちで、自分の気持ちをそのまま伝え、相談にも乗ってきた。

学生にとっては深刻な問題や、彼らの将来について真剣に語り合えるような関係を維持できるように努力してきた。彼らとは一方的に教育者面して自分の考えを押し付けるのではなく、いろんな話題から彼らに問題の解決能力をつけてもらいたかったし、正しい倫理観を持ってもらいたかった。更に、彼らとの会話を通して、自分自身教わることも多かった。

この様に、研究を通しての論議よりも、むしろ話題は如何に充実した人生を送るか、本学の大先輩の一人として学生と付き合ってきた。巣立っていった後輩はすでに400名を越えており、学生と私との間の関係は、ある面では不思議なくらい親子以上に親密になれた。

学生との関係は、利害関係が全くないし、気を張ることもなく、彼らが人間的にも成長してくれることを願っての純粋な関係である。

ところが、学生や旧友以外であまりお付き合いが無かった人と信頼関係を築くのはなかなか難しい。それぞれのキャリアー、過去の経験は千差万別であり、個々人の人生観、キャラクターが出来上がっている。

十人十色いろんな価値観を認めねばならない。お節介になったり、自分の考えを押し付けたりすることは厳に慎まねばならない。自分自身が誠実な生き方をしていればいい。騙されても騙すなとの心情である。



技術の伝承

最近は学生との年齢差が親父というよりも、お祖父さんになってしまったので、ケーススタディーとして、いろんな話題を提供し、自分の過去の経験を交えながら学生と意見交換するように努めている。技術は実験と結果の積み重ねである。我々も先達の経験の上に基礎から研究を進めてきた。しかしながら、その分野の技術が成熟期に入ると後進の研究者たちは、「これはそういうものだ」との先入観を持ち、「なぜそうなっているのか」という疑問を持たず、受け入れてしまう。したがって、なにか不具合が発生した場合でも、問題解決能力が低い。そこで、特に最近学生や若手の企業技術者に対して技術の伝承や研究開発能力を向上する方法をと模索していた。

昨年末、清川メッキの社長の発案で、企業の技術者向けに「創造の軌跡」と題して2ヶ月に一度のペースで学生と取り組んできた研究について語る機会を作るよう提案があった。

そこで、40年以上にわたって研究してきたオリジナルペーパー200報以上あるので、すべてPDFのファイルとして、報文を大きく分野別に分けた。後は、それぞれの担当の学生や企業の技術者を決め、研究内容を説明してもらい、そのあと小生が研究の意図や発想の経緯をコメントする方法を来月くらいから実行する予定である。



展望が開けない政策

日本経済はこれまでリーマン・ショックから脱しても、デフレ、円高、株安(最近少し回復)と危機は尽きないが、最近ようやく企業は明るさが見えてきているようだ。

しかしながら依然として全体的にみると産業界は稼ぐ力を失い、個人は雇用や所得に不安を抱え、国は税収減にあえいでいる。予算の半分以上が赤字国債に依存すると言った危機的な状況である。

それにもかかわらず政党間の駆け引きが続き、国際的な信頼も大きく低下している。迅速に国をあげての成長の道を描き直さないと、活力も豊かさも希望もない。

多くの企業経営者は、頼みの綱は輸出とばかりに生産の海外移管、海外生産拡大、国内工場の縮小などの見直しがなされている。

果たしてこの様な状況は健全なのか。国内は消費が大きく停滞し物価が下がるデフレスパイラルに陥っている。輸出に関しても、80円前半の円高で企業が予想する今後の成長率は年0.2%程度と試算されては、企業は脱日本と考えてもいたしかたない状況である。



政策のミスリード

尖閣列島、北方領土、普天間基地など全く解決策や見通しが立っていない。また子供手当、高速道路無料化、その他大衆に迎合した人気取り、票とりマニュフェストを掲げた民主党政権、公約が破たんしているにも拘らず認めようとはしない体制。さらには、一部にニッポンの製造業への決別や、成長は不要との声もある。このままでは子孫が国の借金を返すために働く国になってしまう。

電機や自動車などの産業が支払った給与総額は約25兆円と言われているが、これらの産業がこぞって海外にシフトしたら、大きく成長がストップしてしまう。最近の話題として、ある電機メーカーがコメを投入して、それがパンになる炊パン器?ゴパンと称して発売され、それが大人気で一年くらい予約が入ったと言われていた。

それなら国内に生産拠点を構築すれば、雇用促進にもなり経済効果が上がるのだが、中国に工場を新設したと言う。この話題は半年以上前のことで、その後の状況は定かでないが、企業は利益を追求するために人件費を抑え利益を優先したのであろうが、日本の食文化から出たものであれば日本で生産し、日本の雇用を促すほうが、長期的にも消費の促進にも大きな効果をもたらすのに近視眼的になっているように思える。

企業の業績の不振では、国の税収も伸びない。税金の配分が優先され、企業に負担を課す政策より、企業を優遇する法人税減税と輸出促進策のように、企業への手助けは将来の経済成長へ向けたステップになり民間が稼いで雇用を増やすと期待されている。

市場機能を生かして経済のパイを増やし、そこから配分の資源を生み出すような策が必要である。例を挙げるとサムスン電子はシャープより年2千億分の余裕資金があるとされる。そのサムスン電子は最近、20年までに売上高を4倍にする経営計画を固めたと言う。韓国政府が欧州と結んだ自由貿易協定では薄型テレビで14%、自動車で10%の関税がなくなる。その結果、GDPは3%上がるという。グローバルな勝ち組は国内雇用も増やしやすい。

新興国の台頭

日米欧の競り合いにアジアなど新興国が加わり国際競争は新たな局面にあり優遇策を講じて企業に活力が出るようにすべきである。急激な円高は企業の輸出競争力を損なう。国内経済のデフレ圧力にもなりかねない。円相場は安定が最優先で、慎重な発言が重要、疎いなどと言っているようでは見放されてしまう。アジア勢が追い上げる中でも、環境やロボットなどの最先端で日本は抜群の技術力を持っているはずだ。また、日用品や食品分野でグローバル化する企業も多くなってきている。日本はこれから先、何で稼いで行くのか。日本のように人口が減る国で子供手当に代表される家計部門への分配にばかり政策が偏っているようでは発展性が無い。企業が利益をあげなければ、一般家庭も回復しない。つけを子孫に残すのではなく全産業分野の雇用を促進し、明るい未来を拓くように積極策を為政者には模索してほしい。

次号は山下先生に担当していただくが、次々号では研究センターでの最近の研究成果を紹介する予定である。キーワードは「高速めっき」と「水による環境に優しい表面修飾」。久しぶりに研究をベースにした、明るい夢のある話題にしたい。乞うご期待!!