関東学院大学材料・表面工学研究所

梅田 泰

最近、本間先生から参考となる本を読でみるように薦められました。題名は「知者は点ではなく線で学ぶ」著者山岡歳雄、文芸社である。この本では自分の能力をどのように引き出していくかというノウハウ本であり、特に人間としてどのような心持で生きていかなければいけないかということについて、関東学院の創成期の内容に触れられて書かれておりました。
関東学院の校訓である「人になれ、奉仕せよ」は、初代関東学院長坂田祐先生の厳しくも、全ての人に優しさをもって接する心であり、九十年以上経って現在も脈々とその意思が受け継がれています。
本書の中に、経済学者ドラッカー氏が創始者坂田祐先生、それを継がれた白山源三郎先生を尊敬する人物として挙げていることに大変興味を持ちました。
筆者は大学二年と三年の間の春休みに京都の父親の会社を継いで社長をしていたお兄さんが交通事故で急逝された為、一年休学をして三年から復学するようになるわけですが、その当時白山源三郎学長のお嬢さんが留学中で、学長の奥様の郷里が京都であったことから、筆者に学長宅に書生のような形で同居するように勧められたそうです。
学長のもとで私設秘書のような仕事もされていた際に、白山先生を訪ねてくることになったドラッガー氏を郷里の京都に案内することとなり、その際に2人の恩師をドラッガー氏が尊敬している人物であると告げられたそうです。ドラッガー氏から信頼されている先生方であればこれは本物の世の中を自分の為にではなく、奉仕の心を持って日々を過ごされた方々であったことが伺い知ることが出来たそうです。
ドラッガー氏はマネージメントの中で、「企業は利益を追求することが最も重要なことではなく、企業の目的の定義は顧客創造である。そして利益は目的ではなく、必ず必要な条件である。」と説かれておりました。永遠に企業が残り得る考えだと気付かされましたが、まさしく自分の事だけではなく相手の事を考えると言う精神であり、「人になれ、奉仕せよ」と言う考え方にドラッガー氏は容易に賛同でき、先生方を慕われておられたのでしょう。
校訓について白山先生は次のようによく説明されていたそうです。「奉仕することは、自分を空にして全体のため、社会のため、または他人のために尽くすということで、人間として好ましい実践行動であり、共同社会ですべての人間が幸福に暮らしていくためには誰もが心掛けなければならぬ実践行動である。」
さらに、「奉仕には何らかの犠牲を伴うが、そのためには自らの力なり、資格なりを具えることが必要である。奉仕のためにはその前提となる自己の充実と完成がなければならない。資格はなにもライセンスではない。時間的、経済的な豊かさも大切である。そのためには努力も必要である。われらは奉仕を成し得るがごとき人間にまずなるべきである。」
「人になれ、奉仕せよ。」という言葉については関東学院の校訓として何度となく聞いていた言葉ですが、改めてこの言葉を深く考えてみますと、自分の生活もしっかりさせ、且つ社会や周りの人間を幸せに出来る様に努力しなければいけないということであります。しかし、自己実現をするために他人のことをどうしても忘れがちになるのは人間の性であるのですが、周囲の人達の幸せを目標にすることが出来れば、さらにその幸せの輪が大きく広がるはずです。
私の現在の職場である関東学院大学材料・表面工学研究所所長である本間先生からも日々の教訓として、「その動機善なりか、私心無かりしか。」と言われており、自分のみが良いということがないかどうかについて自問自答する毎日です。
関東学院大学は坂田先生、白山先生が協力され、現在の学院の礎を作って来られたのですが、その中で教育について非常に強い信念をお持ちであったことが告げられていました。

①「大学教授は学力人格ともに優れた人でなければならない。すなわち正教授はよほど厳選されなければならない。卒業生の優秀なものを大学院へ送り、また米国の二、三の大学に直結して毎年1,2名を留学せしめ、将来の正教授の養成をしなければならない。これは早急に始めるべきである。」

②「学生はよく勉強し、先生方には時間と心のゆとりをもってよく勉強して頂く。そうすれば先生方から良き講義を聴かせて頂けることになる。このように助け合いによって学風を興し、さらに高い学力水準の向上を図ろう。」

③「大学生は自主的でなければならない。大学という組織の中において、一定の大枠の中に収容されているけれど、大学はもともと一人ひとりの学生を一定の形の人間に作り上げようとは意図しない。学問技術の習得できる契機を供与し、環境を備えはするけれど、手を取ってこれを身につけさせる責任を持たない。これを自分のものにし、身につけるかどうかは大学生側にその責任がある。」

これらのまっすぐで清らかな考え方と言うのは偶然に生まれたものではなく、常に自分の事だけでなく、他の人の幸せも考えながら生きることで、またその生き方に共感する人たちがその廻りに集まってこられる。ドラッガー氏も関東学院の先達から大きな影響を受けられていたので関係を築かれたのでしょう。
この本の中にも多くの引用を含め、人間とはという点について述べられていますが、「人と言う字は二本の線で描かれていて、一本の線がもう一本の線で支えられている。人間は一人では絶対に生きられず、誰かに支えられてやっと生きられる。」「そんなことは無いと思ってもどんな人でも母親から産まれ、沢山の人に支えて貰い、沢山の経験を積んで一人前に育ってきたはずである。」
この話を振り返り、本当に人間は一人では生きて行かれないことを認識させられました。
「人になれ、奉仕せよ。」私たちはこれからもこの言葉の意味を噛みしめながら、東日本大震災以降の政治、経済混迷の現代を自分の為だけでなく、皆の幸せを考えながら生きて行かなければいけないのではないでしょうか。坂田祐先生により創設された愛に溢れる学院の環境が益々発展することと思います。これまでの貴重な変遷を経て立派に成長している学院の材料・表面工学研究所の一員として私自身も微力ながら尽力していきたいと思います。