関東学院大学材料・表面工学研究センター

本間 英夫

 ハイテクノの会員企業には3月中旬に拙書「教育研究と産学連携の軌跡」を献本しました。
本来はトレンディーの3月号と同時に配布すべきでしたが、一部の方々には混乱を招いたようでご容赦ください。
拙書に示しておりますように大学の研究センターが4月から研究所に昇格しました。
またハイテクノの講師を担当していただいている高井先生は3月末日に名古屋大学を定年退官され4月から本学の大学院教授、および我々の研究所の副所長として着任されます。
当初の計画では小生が本年3月に完全退職になるので、高井先生を所長としてお迎えする予定で大学と交渉してきました。
しかし、諸般の事情により大学としては規約を変えて小生に特別な称号を与え所長として残し、その間産業界の皆様に、高井先生の素晴らしさを理解いただき、いずれは所長に就任いただくのが良いとの結論に達しました。
大学では小生と高井先生には下記のように、これまでの活動状況が紹介されました。
 
本間英夫教授は、無電解および電気めっきを基本とした湿式成膜による機能性薄膜の創製について、過去40年以上研究を続けており、関連学会、公的研究機関ならびに産業界から大きな評価を得ている。
この分野に関して本学は産学協同のルーツであり、本間教授は大学院の一期生として、48年くらい前から当時収益事業として設立されていためっき事業部で研究されていたプラスチックめっきの応用技術に参画し、世界に先駆けてプラスチックめっきの実用化に貢献した。
 この研究成果を皮切りに、助手として本学に奉職してから現在に至るまで、プリント配線板作製のための高密度実装用微細めっき技術の研究開発を精力的に行っている。
この技術は、電子機器の小型化に大きく寄与する技術として世界的にも高く評価されている。
さらにガラス上の金属薄膜形成、平滑基板への密着に優れた薄膜形成および微細配線加工、各種セラミック材料のメタライジング、電鋳技術のMEMSへの応用とめっき技術分野全般の研究開発など多くの功績があり、この分野については、世界的にも第一人者である。
これら一連の研究成果が認められ、表面処関連技術での世界で最も権威のあるワークニック賞、および無電解めっき技術に関する卓越した研究業績が評価され米国電気化学会電解部門研究賞を始めとして、国内関連学会の論文賞、技術賞、神奈川文化賞、その他多くの賞を受賞している。
 この間、工業化学科、物質生命科学科の教員として学生の指導育成にあたり研究室を巣立っていった学生は学部生400名以上、大学院博士前期課程修了者約70名、後期課程修了者20名であり、卒業生は特にエレクトロニクス関連産業界でめっきを中心とした技術者として活躍している。
表面処理技術の応用分野は発展の一途をたどり、プラスチックへのめっき技術は自動車の部品や携帯電話の軽量化に、電子部品製造分野ではプリント配線板の高密度実装・微細化の発展に、さらには半導体のナノーオーダーの回路形成に応用され、これらの技術に大きく貢献している。
本学においては、平成17年から5年間ハイテクリサーチ整備事業のプロジェクトリーダーとして研究を牽引してきている。
また10年前に関東化成工業と表面工学研究所を立ち上げ、さらには本学の研究機構が整備された際に、125周年記念事業として産業界から寄付金を仰ぎ、賛同企業約40社からの研究費をもとに、横浜市工業支援センター内に本学の材料・表面工学研究センターを立ち上げ、神奈川県、横浜市の公的研究機関とも連携し産学官との研究開発に大きく貢献している。
社会および学会活動としては、文科省および経産省化学関連財団理事、経産省管轄公害委員、サポイン委員長、臨時審議委員、特許庁高密度配線板調査委員長、神奈川県技術アドバイザー、環境調和型研究顧問、技術審議委員、関連学会会長、副会長、編集委員長、庶務理事など歴任している。
学内では、大学評議委員、大学院委員長、大学院工学研究科委員長、入試局次長、工業化学科科長、工業化学科二部主任など務め、教育研究の推進に貢献している。
 以上の成果、貢献から、本間英夫教授は材料・表面工学研究センター所長としての活躍が期待され、特別栄誉教授の資格が十分であると認定するに至り、ここに推薦いたします。
 高井治教授は、環境およびバイオに関する時代の要請を先取りして、低環境負荷プロセスによる薄膜形成・表面改質について他の追従を許さない研究を行い、プラズマプロセス、自己組織化プロセスなどによる機能性薄膜・表面の創製に関して、世界をリードする数多くの独創的な業績を挙げてきた。これらは、以下の6つに大別される。


(1)窒化物系エレクトロクロミック薄膜の創製と調光デバイスへの応用

 1982年、世界ではじめて窒化物でエレクトロクロミック(EC)現象が生じることをイオンプレーティングで作製した窒化インジウム薄膜で見いだし、その機構の解明を行った。
本EC現象は、従来のEC材料とは異なり、表面での吸着機構によるため、早い応答速度が得られる。窒化スズ薄膜でも、同様のEC現象を見いだした。
窒化物薄膜では、赤外域においても光吸収の可逆的変化があり、赤外域での透過・吸収の制御へも応用できる。  
現在、可逆的な色変化を用いるスマートウインドウ、サングラス、光学フィルター、電子ペーパーなどへの応用展開をはかっている。


(2)高ガスバリア性硬質・透明シリカ薄膜の低温創製とプラスチック基材への応用

 世界に先駆け、有機シリコン原料を用い、プラズマCVDにより、透明で緻密なシリカ系薄膜の室温付近での低温成膜法を研究した。
硬さがガラスと同等以上の可視域での透明性に優れたシリカ膜をプラスチック基板に被覆し、民間会社との共同研究によりプラスチックの表面硬質化に貢献している。
当初、プラスチックレンズの表面硬質化へ応用され、現在は、自動車、新幹線などの車両のプラスチック・ウインドーにも応用されようとしている。一方、本薄膜は、プラスチック基材へ酸素および水蒸気の透過を軽減あるいは防止するガスバリア膜へと展開され、現在、ペットボトルへ応用されている。



(3)炭素系超硬質薄膜の創製と工具・金型・機械部品・バイオデバイスへの応用

ダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)、アモルファス窒化炭素など炭素系超硬質薄膜の作製を研究し、DLCの産業界での普及に多大な貢献を果たした。
民間企業との共同研究により、DLC膜は、当初、赤外域での反射防止膜へ実用化され、今では自動車部品に広範囲に使用されている。
また、プラズマプロセシングを用い、各種窒化炭素膜の作製を行ってきた。開発された炭素系薄膜は、生体適合性に高く、現在では、工具、金型、機械部品などへの応用のみならず、バイオ関係の製品に応用されている。




(4)希土類金属窒化物薄膜の創製と耐摩耗部品への応用

 希土類金属の窒化物については、ほとんど研究がなされていなかった。
窒素アークプラズマ中へ希土類金属を電子ビ
ーム法で蒸発させ、その窒化物を合成する手法を確立した。
セレン、イットリウム、サマリウムなど各種希土類金属の窒化物を合成し、その組成、構造、物性を明らかにした。
この内、窒化セレン、窒化イットリウムは、硬度が窒化チタンより高く、耐摩耗性に優れていることが判明し、機械部品への適用できる。




(5)透明・超はっ水薄膜の創製と光学・自動車部品、バイオ・電子デバイスへの応用

 希土類金属の窒化物については、ほとんど研究がなされていなかった。
窒素アークプラズマ中へ希土類金属を電子ビ
ーム法で蒸発させ、その窒化物を合成する手法を確立した。
有期シリコン化合物を原料にして、マイクロ波プラズマCVDにより、透明で、かつ水滴接触角が150度以上の透明・超はっ水薄膜の創製に世界ではじめて成功した。
この薄膜の堆積は室温付近の温度ででき、耐熱性に弱いプラスチック、紙などをはじめ、半導体、金属、セラミックス、ガラスなど多くの基板に作製できる。
現在、光学・自動車部品、バイオ・電子デバイスなどの製品に応用されようとしている。
また、超はっ水領域/超親水領域のパターン化基板を作製し、プリント基板回路形成、ナノ/マイクロ粒子選択的集積、細胞アレイ・毛細血管形成、三次元立体細胞培養などさまざまな分野へ応用している。


(6)有機シラン系自己組織化単分子膜の創製とナノ・マイクロパターニングへの応用

有機シラン系自己組織化単分子膜を、CVDを用いて形成する手法を発展させ、産業界への応用展開を進めている。
当初、基板の大きさが1 cm角、堆積温度100~150℃、堆積時間1~2時間であったのを、触媒を使用する方法を開発し、現在では、A2サイズの大面積基板に、室温付近で、1分間で堆積させることが行える。  
本単分子膜をレジストとして用い、パターニングを行い、シリコンのエッチング、金属ナノワイヤーの形成、ナノ粒子の位置選択的析出、DNA・細胞アレイの形成、人工細胞膜の作製、書き換え可能な分子メモリーの作製など、幅広い分野で応用できることを実証した。
 以上、高井治教授は35年以上にわたり、一貫して各種機能性薄膜・表面の創製と応用に関する研究を深い洞察力を持って進め、その成果は極めて本質的・独創的であり、また、提示されたデータやモデルは、世界中の当該研究者にバイブルとして用いられている。
特に、各種機能性薄膜の開発手法の発明、また開発した機能性薄膜の実用化を達成したことなどは、薄膜研究の歴史に残る世界に誇るに足る卓越したものである。
これらの業績は400編を越える学術論文として刊行されている。
高井先生は、上記の功績により、永井学術賞(1998年)、表面技術協会論文賞(2000年)、同協会賞(2006年)、日本学術振興会プラズマ材料科学賞(2000年)、アルゼンチン共和国原子力委員会(CNEA)功績賞(2007)、国際協力機構(JICA)理事長表彰(2008年)、韓国表面工学会功績賞(2010年)、英国物理学会フェロー(2004年)、応用物理学会フェロー(2009年)、文部科学省政策科学研究所・ナイスステップな研究者2010(2010年)など数多くの賞を受賞している。
 上記のように、高井 治先生は、材料・表面工学分野において、世界を代表する研究者として活躍しておられ我々の研究所の副所長として先ずは着任いただきますが、今まで手掛けてきためっきを中心としたウエットプロセスにドライプロセスの研究開発が加わり研究所の昇格に伴ない21世紀を担う技術提案を進めていく。