関東学院大学

本間 英夫

大学の現状

大学の知を活用しようと1998年に大学等技術移転促進法(TLO法)が施行されて、産学官連携が推進されてきたが、十数年経過した今、果たしてその実効性はあったのか。産業界のニーズと大学の研究機関とのシーズがうまく合致し成功した例は極めて少ないようだ。さらに2009年、21世紀は「知の時代」、「大学の知の創造と承継」を担うという観点から国立大学は法人化された。法人化の理由として、これまでの国立大学は文部科学省の内部組織であったため、大学が新しい取組をしようとする場合に制限が多かった。例えば、学科名称変更の場合は、省令の改正が必要であり、また、不要になったポストを新たに必要となるポストに替えるだけでも、そのつど文部科学省に要請し、総務省や財務省との調整が必要であった。これでは、大学が改革しようと思っても迅速に実行できない。人件費、施設費、研究費など大半が国の税金から予算編成されているので、詳細な規定や規則、項目にしたがって使用せねばならず煩雑な手続きが必要で硬直化していた。
欧米諸国においては、国により大学制度は異なるが、国立大学や州立大学は法人格で、しかも日本の国立大学に比べて自由な運営ができる形態になっている。日本の国立大学についても、以上のような不都合な点を解消し、優れた教育や特色ある研究に各大学が工夫を凝らせるようにして、より個性豊かな魅力のある大学になっていけるようにするために、国の組織から独立した「国立大学法人」にすることになったのである。2009年に法人化された国立大学では、独自性を出すことが出来るようになったが、引き続き予算の多くは国民の税金に支えられている。しかし、国は1000兆円近くの負債を抱え財務がひっ迫しているので毎年大学への予算を削減せざるを得ない。また、国立大学法人制度では、大学外部の人が大学運営に参加するなど、大学運営の透明性を確保するための仕組みが導入され各大学が自己責任をきちんと認識して、積極的に情報を発信し、国民の理解と信頼を得られるような国立大学になっていくことが期待されると文科省は法人化の意義を説明している。
しかしながら、国立大学の法人化で大学が独自性を出せるようになったと言っても、国から交付される運営費交付金が、毎年、前年度比1%削減という効率化係数が適用されて、漸減することとなっている。したがって、必要な人数の教員や職員を確保できない事態が発生している。これは、国立大学の特徴である少人数教育を年々困難にしつつあることになる。また、研究費調達は各大学の自助努力が求められるようになったため、寄付を募るなど運営が私立大学に近いものになってきている。ある有名な国立大学でも最近では一講座の研究費が年間200万円程度という。さらには地方大学になると年間100万円にも満たないという。したがってその予算では研究はほとんどできず、学会への出張もままならない。一部の活躍している教授のみが外部資金としての文科省の競争型資金を獲得したり、企業からの委託研究費を獲得し、益々教授間での研究能力の格差が開いてきている。切実な問題なのだろうが、先生方のかばんの中には外部資金を稼ぐための委託研究や共同研究のパンフを常に携帯しているという。大学トータルとしては、教育に対するカリキュラムに歪みが発生し、研究能力は大きく低下し、一部では専攻閉鎖等も危ぶまれている。また、法人化に伴い、すでに事務の統合や大学の統合が進んでおりさらに今後はこの傾向が加速化されるであろう。
私学はさらに現実を直視すると深刻な問題であり、少子高齢化に伴い18歳の受験人口は大幅に低下し、多くの私学では定員割れ、募集停止、廃校が起こり、半数は赤字経営になっているようだ。

表面処理関連産業界への貢献

我々の研究所は、表面処理関連の研究実績において国内外で高い評価を得ており、特に湿式製膜の代表であるめっきを中心とした表面処理分野のリーディング研究所として認知されている。さらに、近年のエレクトロニクス部品の高機能化にかかわる研究実績には、産業界および学会から注目されており、産官学連携の中立で公正な新研究機構の構想を一昨年公表してからは表面処理業に携わる企業から次世代のデバイス・センサー、その他新技術の研究開発に協力したいとの要請のもと本学の特色を生かした研究が推進できる体制が整ってきた。
また、一昨年3月に終了したハイテクリサーチプロジェクトでは5年間にわたりマイクロからナノ構造創製の技術開発を構築し、さらに基本となる個々の構造と機能性の関連を解明してきた。これらの要素技術をベースに応用を実現化することは、次世代の電子回路・デバイス・センサー技術分野に大きく貢献できる。また、コストパフォーマンスの高い湿式に自己組織化の手法を組み合わせた生産技術化に成功すれば、高度なインテリジェント機能を有する材料の低コストによる次世代の分野の産業界への大きな貢献となりえる。よって、国内初の表面処理専門の研究所としてトップクラスになることを目指し、国内外に向けさらにアピールできることは過言ではない。

研究題目及び研究概要
環境調和型微細配線形成技術の開発

一般的に用いられる絶縁樹脂材料および次世代絶縁材料に対し、UV照射単独、もしくはUV照射と光触媒を併用することで、最表面 30~50nm 部分にのみ改質層を形成し、従来法と同程度の約 1.0 kN/m の密着強度を得ることを目標としている。これまでの研究からL/S=10μm以下の回路形成が可能となり、今後の高速伝送に大きく寄与することが期待されセンター内にその設備が整ってきている。

微小領域への導電層形成および埋め込み

プリント配線板の層間接続に用いられるスルーホール、特に高アスペクト比のスルーホール内部に均一な導電層形成を行うこと、さらにはスルーホールに対しては、新規添加剤を合成し、ボイドやシームの無い埋め込みを行うことで高密度実装に適した配線板の形成が可能となる。これまで電析条件によるスルーホール内部での析出挙動を精査し、埋め込み可能な電析条件が絞り込まれてきている。本年度からは、溶液攪拌、電気波形制御、新規添加剤の使用によって、スルーホール内部の段階的な析出形状制御および埋め込み挙動の解明、更には、新規添加剤の合成をセンター内で実施できる体制が整ってきた。

硫酸銅めっき浴における添加剤分解挙動の
解析および新規添加剤開発による
銅めっき浴の長寿命化

銅めっき液の長寿命化および単純化を視野に入れ、添加剤の分解挙動について解析している。さらに、浴の長寿命化に適した種々の添加剤の設計および合成をおこなったが、その中でもトリアジンジチオールのトリアジン環を簡素化させ、吸着力のあるチオール基のみでの導入を試み、電気化学手法による解析が進んでいる。

ビアフィリング用銅添加剤作用機構の解明

微小凹凸部における銅電析を促進、制御する添加剤の吸着について電気化学顕微鏡を用いて解析し、この手法は世界的に注目されるに解析手法になりつつある。

高耐食性Ni-Sn-PおよびNi-P-W系多層膜の作製と物性

ナノ多層膜を作成し、その微細構造を解析し機能発現機構を明らかにするとともに電気化学的手法による高機能化薄膜作製技術を確立に向けて注力している。薄膜化と多層膜界面近傍の合金組成、結晶の配向性・形態、内部応力などの関連性について検討を行い、さらに各種センサーへの応用を試みている。

自己組織化単分子膜(SAM)を用いた機能性表面の開発

気相法および液相法により作成した自己組織化単分子膜(SAM;Self-Assembled Monolayer)を、各種材料の表面機能化に応用する.パターニング、超はっ水・超親水処理、表面安定性など機能化の基礎を開発する。

プラズマプロセスによる機能性表面の開発

スパッタリング、イオンプレーティング、プラズマCVDなどのプラズマプロセスにより各種材料の表面機能化をはかる。耐擦傷性にすぐれたプラスチック表面、耐摩耗性・潤滑性に優れた金属表面、超はっ水膜、ガスバリアー膜などの開発を進める。