関東学院大学材料・表面工学研究所
本間英夫
カリフォルニア大学(アーバイン校)との共同研究の概要
1. はじめに
2年前の大震災の一カ月後カリフォルニア大学(アーバイン校)(以下UCI)の教授2人が我々の研究所にこられて協同研究をしたいとの要請があった。協同研究を始めるに当たって契約に至るまで綿密な打ち合わせに半年以上かかったが、本格的に研究が始まってほぼ一年になる。協同研究内容の詳細はサポートしていただいている企業の優位性を考慮し、ここではこれまでの進捗状況について簡単に説明し参考に供したい。
UCI内で行われている研究はMEMS及び医療分野への応用であり、特に身体モニタリングや医療診断を目的としたセンサ、マイクロスピーカーやマイクロスイッチなどである。したがって、我々もMEMSや医療分野への応用に注力するようにしてきている。
2. 求められる技術について
UCIにおいて求められるめっき技術のキーワードは『パターニングができること』であり、この一点について強く要求されることが多い。また、密着性については実用に耐える程度の密着強度(例えば、屈曲試験やテープ剥離に耐える程度)で十分である。
2-1. 材料
 ①シクロオレフィンポリマー(COP)
 その優れた透明性、電気特性、屈曲性から医療用センサ部品や基板としての応用を考えている。
 ②シリコーンポリマー(PDMS)
 カテーテルにも用いられているような生体適合性から体内に挿入するようなセンサや治療器具として医療部品として、またその柔軟性、離型性からMEMS用の型としての応用を考えている。
 ③アクリル(PMMA) 安価かつ優れた加工性から、めっき後に有機溶剤などで溶解剥離するMEMS型としての活用が考えられている。
 ④ポリピロール
 圧電素子であるポリピロール上に配線形成することで、医療用センサやタッチパネルとしての活用を考えている。
 ⑤ナイロン(PA)
 化学繊維であるナイロンの布上に配線形成することで衣服に直接取り付ける(縫い付ける)ことが可能なセンサの活用について考えている。
2-2. 新たなめっき技術
 ①選択めっき
 各種素材上に直接金属回路形成が可能となる技術が強く求められており、現状では幅50um、膜厚10um以下の配線形成が要求されている。
 ②シアンフリー各種貴金属めっき
 生体適合性の観点から、体内に挿入する部品には特定の金属のみ使用が可能となる。具体的には、Au、Pt、Ti(条件によってのみPd)。また、下地にNiやCuを使用することも不可となる。したがって、素材上に直接的にめっき可能な無電解Auめっき、無電解Ptめっきなどの開発が要求されている。加えて、医療用部品に使用するためシアン浴の使用は非常に嫌われる。
 ③ ZnOめっき
 半導体、透明電極材料として用いることが可能なZnOを不動態上に直接めっきを行う無電解ZnOめっきおよび電気ZnOめっきの開発が求められている。
3. 研究内容
3-1. L-MEMS(ラミネートメムス)
 L-MEMSと呼ばれるビルドアップ多層基板に似た技術により、多段にめっきと樹脂露光を繰り返すことで、超小型のマイクロフォンやマイクロスイッチを作製している。特にマイクロスイッチについては応用の範囲が広い。動作電力が非常に小さく、サイズも非常に小さいため、多数のマイクロスイッチの導入による軍事用の多周波数型アンテナレーダーの周波数走査、オフィス全体の消費電力を低減するsmart gridの分野での活用も期待されている。
さらなる小型の構造体を作製するために、塗布した樹脂材料の表面を粗さずに金属層を形成する技術の開発が求められている。
3-2. Body worn sensor network (BWSN)
 繊維もしくは布上に回路形成および圧力や音センサを作製し、グローブや衣服に縫い付けることで、障害者のリハビリ器具や常態的に身体モニタリングを行うシステムの開発が行われている。特に、圧力センサだけでなく、関節の動きや血流の流れを音によってもモニタリングする(Acoustic Intra body communication)ことで、身体内部の動きについても管理することができることが期待される。
 現在は別の化学繊維上にエッチングにより作製した回路基板(布)を衣服に縫い付けているが、今後は衣服の上に直接選択的に回路形成が可能なめっき技術の開発が求められている。
3-3. Micro Fluidic cell
血液検査用マイクロ流路チップの開発を行われている。この場合は、血液と薬剤を流路内にて一定割合で混合し、末端のカップ部分で結果を確認する方式となっている。しかしながら、より高度な検査のためには材料が現在の不透明なエポキシ材料から、光学特性に優れた材料に置き換えることが求められている。また、その他にも流路の両脇から伸びた流路末端から電荷をかけることで電気泳動によってガン細胞と正常な細胞を選り分けるガン検査用チップの開発も同時に行っている。
 透明材料(COP、Glassなど)の流路形成法としてのめっき技術の応用や、より安価かつ優れたガン検査用チップの電極形成技術の開発が求められている。
3-4 Cancer test chip
ガラス板上にフォトリソグラフィーにより約50um程度のピラー構造体を作製し、上部より血液などの細胞を含んだ溶液を乗せることで、ピラー上部に細胞を付着させ、続いてピラーを折って付着した細胞を回収、培養することで、ガン細胞などの検査を行う。ピラー間の空間には空気の層がバリアーとなり、ピラー上部にのみ溶液が触れず、細胞が付着しない。
 今後は、より高確率で細胞を吸着させるために、ピラー表面の表面処理が必要となる可能性がある。
4. 実験進捗状況
4-1. MEMS用PDMSテンプレート上へのめっき
 MEMSテンプレートを目的としたPDMS上に無電解めっきおよび電気めっきを行い型を取る。
【仕様】
めっきの仕様:E.L.Ni / E.Cu (0.6um/20um)
(本来は電気Niめっきによる厚付けが求められるが、今回は都合上、電気Cuめっきにて代用した)
UV法を用いることで、PDMSの3次元構造に追随する形で金属膜の形成が可能となった。さらに形成した金属膜を引き剥がした結果、PDMSの型が残ることなく容易に剥離することが可能となった
4-2. COP上へのダイレクトパターニングによる医療用両面基板の作製
 COP上へUVを用いた選択めっき法により、医療用センサ用両面基板を作製する。
UV照射時に石英マスク、もしくはペーパーマスクを石英板で挟んだものを用いることで、スルーホール内および基板表面に選択的に回路形成をすることが可能となった。Ni膜厚が2.0 um以上になると屈曲試験で配線にクラックが入ることが確認されたので、Ni膜厚は0.6 umとした。また、E.L.Cuめっき後に熱処理を行うことで、テープテストにも耐えられる密着強度を得ることが可能となった。 現在は、本処理において作製した基板を用いて、UCI側でアッセンブリを行い、センサとしての動作試験を行う予定である。
5. まとめ
 UCIとの共同研究プロジェクトが始まり、ちょうど一年が経過した。これらの研究以外にもSiウェハ関連の応用についても研究が進んでいる。今後はさらに共同研究を深化させより多くの新しい技術に挑戦していくことが非常に重要であると実感している。