関東学院大学材料・表面工学研究所
本間英夫
  安倍政権になり景気刺激策が打ち出されており先行指標としての株価は政権発足後50%以上も上昇し、さらには実態経済を反映する指標も上向いてきているようだが全体的には、まだまだ明るさが見えて来ていない。GDPから1990年以降日本は低成長に入ったが、以前プラス成長をしており、2012年現在のIMFデータから、アメリカ15,684億ドル、中国8,227億ドル、で3位に日本5,963億ドルとなっている。一人あたりのGDPを見た場合トップ3がルクセンブルグ107,206億ドル、カタール99,731億ドル、ノルウェー99,461億ドル、11位アメリカ49,922億ドル日本は13位46,142億ドル、韓国34位23,112億ドル、中国87位6,075億ドルとなっており、日本はトップグループの約半分程度の位置付けとなっており、世界的な水準からは決して高いとは言えない。
今回我々の研究所で企業の経営者、技術系中間管理職のメンバーを中心に勉強会を開催した。 その際にほとんどのメンバーから出てきた言葉が製造業の海外移転は避けられないのではないかという意見であった。したがって当然国内が空洞化すれば雇用が減り、国内で働ける機会が失われるが、既に海外移転してしまったものや、移転しようとしているものに対する阻止は出来ないと認識していた。この様な状況下で技術者は開発は国内を拠点として注力すれば、雇用が確保されると考えている。

研修内のディスカッションでは以降の内容が国内製造業活性化の為に提案された。
① 海外ニーズに合わせた製品開発をする。過剰品質であると価格が合わず販売の機会を失う。販売地域に合わせてコンセプト明確にする。
② 海外への製品については現地スタッフを活用し、要望を的確に把握する。
③ 日本に学びたいと思われるような技術の開発。日本語を学びたいと思われるような魅力ある国にして行かなければいけない。
④ 中小企業1社ではなかなか出来ないような技術を数社が集まり、大学などの知を活用し、海外に有用な技術開発を模索する。(新しい技術だけでなく、ニッチな技術の活用も重要)
⑤ 社内での技術開発への協力体制を十分に発揮し、円滑な開発を実施する。
⑥ 新しい技術開発のために人材教育を実施し、今後に備える。
⑦ 国策で新しい日本を創るための教育を行う。
⑧ 新規開発商品はアイデアだけでなく、製品化までを国内で実施し、生産についてはコストが安い海外で行う。
ここでみずほ総合研究所が2011年に発表したリポートからの日本の空洞化の内容と今回の提案を比較してみたいと思う。
① 海外への製造業のシフトはGDP比で5%程度であるが今後歯止めが掛からなければ、さらに大きくなる可能性はあるが現在のところ生産額では限定的である。
② 製造現場の人材の能力は新興国に比べ優秀であり、付加価値の高い製品であれば十分に海外との競争力がある。新興国での製造は事業コストが安いため、現地で使用するものの生産は日本国内で製造することは困難である。
製造コストは事業税、電気料金、人件費、その他でどれをとっても国内は高い。
③ 海外の現地で使用するものは仕様変更など現地スタッフで行い、スピーディーな対応が必要である。
このリポートからすると海外への製造移管金額ベースは少額であるとされるが、業種によって違いがあり、自動車、機械生産などは30%以上が移行しており、現地で使用される分については現地生産がさらに加速される。しかし、国内への再輸出については多くならないという見解が示されている。
この内容からも分かるように成熟した製品については海外シフトし、新しい技術が必要な医療分野、宇宙航空分野など高品質を維持しなければならない製造は日本で強みが発揮出来る。また、ソフトウエアと互換を持たせたゲーム機器や、映像、音響機器などの高級品については、日本の強みが発揮できるが、すぐに後を追われてしまう可能性があり、思い切った変革が必要であろう。
朝日新聞の7月24日の朝刊金融情報欄に「ゾンビ企業への退出論への疑問」という内容が載っていたが、現状赤字の会社は存続していても、経済の発展に寄与しないということでつぶしてしまえと言う事に対する反論が載っていた。政府主導で残すか残さないかの判断をした場合、正確な判断が出来ずに本当は将来大きな発展の芽があるのにも拘わらず、気が付かない内に、繊維業界は新興国に押され以前からの衣料関連の繊維については大きく落ち込んだが、カーボン繊維分野では大きな展開を見せ、なくてはならない事業に変革している。このような判断は政府ではなく、市場が判断しなくてはいけないものなのだろう。
しかし、1990年代以降、中小企業の経営は大きく落ち込み、さらには、大企業を中心とした半導体分野ではほとんどのメーカーが利益を出せず、開発技術を含め、台湾やシンガポールのメーカーに丸投げし、利益確定が出来ないものは作らないという新製品開発にあるまじき行為を続けている。したがって、開発を依頼された海外のメーカーは年々力を付け、日本勢が追い付けない状態になったことで価格を吊り上げ売上のみならず、利益を拡大している。
近年、日本の企業のプロセスの開発担当者が部材の開発品をメーカーから供給を受ける際に「この製品は実績があるか、なければ評価しない」と、言われることがよくあると言う。
結局、開発商品を日本で立ち上げるのが非常に難しいため、韓国、台湾、中国で先んじて評価してもらうと言うのである。このような状態では世界に先んじた製品は生まれないのではないだろうか。
今後日本の製造業の中心となる素材以外の自動車、テレビ、スーパーコンピューター、については市場と政府が連動し、より良い未来の日本を創造すべきなのだろう。
今回の一泊研修では新規事業向けの教育が必要と言う事の要望が出されていた。
勉強は強制されてはかえって意欲を喪失するために、私は上からの押しつけについては反対だが、小学校、中学校での教育でしっかり基本を教えることは重要である。
最近は、小中学校はもとより大学の教育現場に至るまでパワハラを意識し過ぎ、厳しく育てる仕組みが崩壊しているように思える。
自分の過ちや考え方を正してくれ、間違った方向に行かないように指導してくれる先生の存在は大きい。愛情をベースにした厳しい教育ではパワハラなどの問題が起きるようなことはないのだろう。
日本の国内が空洞化することへの対策として、国内で使用する製品については引き続き、国内に製造を残すことが出来るかもしれないが、海外で既に生産されているものについて国内に引き戻すようなことは不可能であるし、それができたとしても過当な競争がさらに激しくなるだけで、問題の解決にはならないであろう。
これまで、世の中に存在しなかったが、あったらいいなと思われるものを国を挙げて研究し、他国では今の所は作る意欲もないものを創造することで、これからの日本の産業の活性化が可能なのだろう。
そのためにも企業は大学の知の活用や、異業種他社とのお互いの得意分野を出し合い、一つのものを作り上げるような取り組みも必要だと思う。
その際にも自分の領域だけで利益を上げることを考えるのではなく、周辺の協力者が同様に利益が出せる様に努力することで、お互いの企業が強くなり、さらなる新規事業への活力が生まれ、良い循環となるはずである。
 我々の研究所ではこれまでに何度も述べているように、環境に優しいめっき技術が主要テーマであり、特にプラスチックやエレクトロニクス実装の回路形成への新規プロセス開発に注力している。
今回の研修でほとんどの技術メンバーが国内の産業空洞化について危機を感じながらも技術開発には自信を持っている今この時が変革の時期であろう。