関東学院大学 材料・表面工学研究所

所長 本間 英夫

歳をとると一年間が非常に短く感じます。本年もあっと言う間に過ぎ去ろうとしています。 12月号は山下先生に雑感を書いていただきます。従いまして、多少早いですが本年の締めくくりとして、これまでの研究や教育を振り返るべく、卒業生と研究室に相談に来られた技術者に、私の教育法や研究がどのように生かされてきたかコメントいただきました。 まずは、産業界の技術のトップからのメールを紹介します。

ある企業の技術トップからのメール

本日は電話させて頂きたかったのですが、躊躇していたところに電話頂いたので大変うれしかったです。お忙しい週なので、只々先生の健康が気になっておりました。お元気そうで、声がリラックスされていたので安堵しました。
 思い起こせば27、8年前にシリコン上のめっき技術の件で、電話で先生に技術を教えてほしいと厚かましくお願いしたのが深くお付き合いさせて頂く機会となり、その後多くの技術を先生から授けて頂き、私の新しいめっき技術の開発に欠かせないものとなりました。
シリコン上めっき、アルミ上めっき、無電解ニッケルの抑制効果(かじりの悩み解決)、ボロンニッケルリン自動めっきの安定化、低濃度めっき、めくらピン内部へのめっき技術(温冷法)、粒子めっき(パテントにまで踏み込んで調整頂きました)、ガラス上めっき、銀ろう上の無電解ニッケル、硫酸銅の基礎技術、ウエハレベル補助金、まだまだありますが、どれも苦しんで、苦しんで困っているときに助けて頂きました。
また、多くの人材を私に託してくださったことも、大きな技術力アップになりました。盤石な技術集団を結集出来きたことで、私の部署では、年間利益18%を達成したこともありました。ウエハの開発では多大なお力添えを頂きました。初めてJAMF(現在のハイテクノの前身)で出会った以来35年、あの頃と全く変わらないエネルギシュな先生の今後のさらなる後進の指導を願っております。


「ダメなやつでも育てて見せる」その一

次は「ダメなやつでも育てて見せる」の代表的人物のコメントを紹介します。私が最近講演で枕によくこのことを述べていますので、重複しているかもしれませんがお許しください。
本間先生に出会たこと、本間研究室に配属されたこと、関東学院大学に入学したことは本当に良かったですし、私の人生にとって非常に大切なことでした。本間先生には、いくら感謝しても足りません。本当にありがとうございました。これから社会に出ていくにあたって「ダメなやつでも育てて見せる」という先生の教育理念の賜物であるという自覚をもって先生に恥をかかさないように頑張っていきたいと思います。
彼は学部生時代、先生方に挑戦的な発言をしばしばしたようで評価が悪かったようだが、私の研究室を志願してきた。発想が豊かなので先生方には生意気に映ったのであろう。私は、本人の将来性を考え、また、本人自身も学部で卒業しても社会に通用しないと思っていたので、大学院修士課程に進学するよう提案し、本人もやる気になった。
だが入学試験は難関である。英語力は低いし、専門の基礎学力もない。彼は進学を決めてから真剣に受験の勉強をしていたようだ。
私自身は、この種の受験勉強にはあまり賛成ではない。学生が進学を希望すれば、担当教授が受け入れ、育てればいいと思っているのだが、なかなかその考えは先生方には受け入れてもらえない。
私自身は、大学院に入るのに受験勉強など無駄であると思っている。エデュケーション「教育」はエデュース「引き出す」が語源である。勉学意欲さえあれば少し背中を押してやれば、必ず伸びるのである。
とにかく彼は受験勉強をし、見事合格点に達して修士課程に入ることになる。その後、研究に励んで多くの成果を出したとき、先生方は「えーあいつが!」と驚いたものである。さらに、企業からのサポートの下、博士課程に進学し、学位習得後、UCI(カリフォルニア州立大学アーバイン校)で研究開発に勤しんでいる。

「ダメなやつでも育てて見せる」その二

次は大学院入学当初実験がうまくいかず、うつ状態になったのであろう一週間以上研究所には来ないし、家出し両親はもとより私も大いに心配した学生の話。


本間先生との出会いは、関東学院でのオープンキャンパスでした。私は、当時工業高校の3年生で、高校での専攻学科は電気電子科でした。なので、オープンキャンパスでは、電気電子科を見る予定でいました。ところが、ここで、出会ったのが本間先生でした。
当時から少し、化学に興味があったので、化学科のブースで展示を眺めていると、勢いよく声を掛けてきたのが本間先生でした。
「化学に興味はあるが、工業高校出身で、しかも電気科専攻、今さら化学は難しいのでは」と言うと、本間先生生は「そんなことはない、今からでもやればいい」そんな風に言われました。
そして、その時の雰囲気は、今までに出会ったどんな先生とも違い、フランクで明るく、大学教授は威厳があり、話をするのも恐れ多いものという当時の考えを一変させられました。これが、本間先生の教育に触れた最初です。
そんな事から化学科に入学して、3年間、いろいろな先生の授業を受けて、やっぱり本間先生は、他の先生と何か違います。本間先生と接した事のある方は、少なからず感じているのでないかと思います。
前置きが長くなりましたが、本間先生の教育は、「まずやってみろ、理論は後付」、「バカやろう!と小突くこと」、「優しく厳しい」この3つだと思います。

「まずやってみろ、理論は後付」
これは、先生の実験に対するスタンスです。考えるよりもまずは実験し、その事象をよく観察するということです。
反応を見ていると本当に色々なことが起こります。同じ実験でも良く観察していれば、いつもと違うことが起こった時にすぐに気づけるようになりますし、「理論は後付」という考え方は、事象に合わせて柔軟な発想をさせます。 
「バカやろう!と小突くこと」
この言葉だけ聞くと、悪いことに聞こえますが、決してそうではないのです。親子以上に歳が離れていても、本当に距離を近いものに感じさせてくれます。         大学生にまでなると、人から小突かれるなんてことは滅多にないですし、何だか小気味よいのです。決して悪意なくコミュニケーションとして、小突く事が出来るのは、本間先生が、個々の学生の性質をしっかり把握しているからこそできることです。
「優しく厳しい」
私は、本間先生は優しすぎると感じています。私は、研究室に入ってから、とても実験が嫌になった時期がありました。
実験が嫌で、また学会が近く、気持ちに余裕がなくなって、つい逃げ出してしまいました。一週間くらい自宅を留守にしていると、大騒動になっていて、気が進まないものの、本間先生と話をすることになりました。(注、これまで本人は、連絡せず外泊することがなかったので、母親が心配になり大学の学生生活課に問い合わせをされたのです)
怒られるのだろうとドキドキしていました。けれども、そのとき、本間先生から何一つ厳しいことを言われませんでした。そして、このこと以外でも、本間先生から厳しく怒られたという記憶は今までありません。私にとっては、それが少しプレッシャーになるくらいに本間先生は優しいんです。「優しく厳しい」は、優しさが厳しさになり得るということです。本間先生はそれを知っているのだと思います。これが、私の思う先生の教育です。
彼もマスターを修了しさらに企業からの支援の下ドクターコースに進学していくつかのイノベーティブなテーマーに取り組んでいる。以上、教育研究に対する私の基本的な姿勢に対する率直なコメントを紹介させていただきました。

現在研究所には卒研生5名、マスターコース2名、ドクターコース16名、研修生15名、スタッフ6名の陣容で材料と表面工学の研究に勤しんでいる。