過去の雑感シリーズ

1999年

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どうなる日本経済
関東学院大学 
本間 英夫
 
 本誌の原稿を書いて、それが皆様の手元に届くまでには約一ヶ月以上のタイムラグがあります。せっかちな性格上いつも原稿締切の三週間くらい前に書き終えていますので、内容が陳腐化してしまいます。極力そのような内容をさけるようにしたいのですが、目まぐるしく、スパイラルのようにどんどん深みにはまりこんでゆく経済状勢についてのコメントを、避けるわけにはいきません。
 今回は年末で忙しく、このシリーズを書き出したのは十二月二十三日です。先月(十一月の上旬)十二月号を書き終えて、その後に日本国土開発の自己破産、日債銀の一時国有化のニュースが流れました。
 日本経済の先行きに対する不安なニュースばかり出てきます。年末になって、どちらを向いても真っ暗だと言われていた日本経済に、かすかな明るさを示す材料が見えてきたとのコメントが出だしました。一時の泥沼の中にどんどん落ち込んでいく様な、恐怖感に満ちた市場の動きは解消されたと言っているものの、依然として信用収縮、雇用調整に代表される構造的なデフレ圧力が強く、景気の底打ち感はまだのようです。
 二十四日の朝、年に数回担当していますハイテクノ上級講座に出かけました。この日は、冬空の快晴、しかも強い風、この様な日は富士山が電車から見えるのです。いつも横浜駅に着くちょっと前のところのガスタンク付近で窓越しに眺めることにしています。
 積雪量や背景の雲の様子、太陽光線の傾斜角などによって決して同じ姿を表さない、いつも新鮮で自然の雄大さを凝視しているとしばし心が和んできます。今まで気づかなかったのですが平和島に着く手前、かなりの時間、富士山が見えることを発見しました。
 電車でハイテクノに行くときは、いつも平和島か大森からタクシーに乗ります。運転手さんが、こんな日はどこどこの橋の付近や何々通りで富士山が見えるんですよと、上機嫌の様子でした。話好きそうな運転手さんでしたので、最近景気はどうですかとたずねました。例年ですと年の瀬は稼ぎ時で忙しいのですが、十二月で忙しいと実感したのは三日間だけ。勿論チェッカーや三社のクーポン券で乗る人は滅多にいなくなったそうです。
 そういえば、京浜島までの道路は全く混雑していませんでしたし、倉庫群も活気がありませんでした。講義を終えてから東京に用事がありましたので、又タクシーを呼んでもらって大森まで乗りましたが、京浜島から流通センター付近に至るすべての道路は、やはり今ひとつ活気がなく、経済情勢がこんな所からも判断できるような感じでした。
 それから東京(新橋)で用事を済ませたのが夜の八時頃でした。私の知る限りではこの時間帯、しかも年の瀬の新橋駅付近の繁華街といったら飲み屋、小料理屋の前には人があふれ、またちょっとエッチな店の前では呼び込みで威勢が良かったものです。しかし窓越しに見える店の中はどこも空席が目立ち、店によっては全くお客のいないところもありました。かろうじて安い飲み屋だけは立錐の余地もないほど込み合っている様子でした。
 新橋の近くで勤めている知り合い曰く、大繁盛していたバブルの頃と比較すると、稼働率は半分位、いや、もっと落ち込んでいると云っていました。帰りの電車もいつもと様子が違い、静かでがらんとした雰囲気で活気が感じられませんでした。東京に出かけても、必ず学校に帰るようにしていますので、あまり遅くまで都心部にいませんから一回限りの現象で判断してはいけないと思いますが、それにしても景気の停滞に伴う現象であることは間違いないようです。

効果的な対策は
 政府はこの間に未曾有の公的資金をつぎ込みました。従来型の掘っては埋める道路工事が、自宅から大学のほんの七~八キロの道のりで四個所も始まりました。相変わらず効率の悪い工事風景が毎日のように目に留まります。この種の公共工事は、景気の刺激効果が低いと云われています。
 どうせやるなら、波及効果の大きい事業にシフトしていかねばならないでしょう。素人ですから、なにが効果が大きいのかは分かりませんが、例えば次世代を見据えた豊かさと、ゆとりが実感できるような住宅関連事業、インフラ、特にファイバー通信網やインテリジェントな道路整備、景観と効率アップにつながる電柱の埋設等、専門家は新しい発想で将来に不安がないような社会形成を説得力を持ってやっていかねばならないでしょう。
 この種の話は、我々の生活に直接関係がないので無関心になりがちです。
 翻って表面処理業界はどうなのでしょうか。家電製品、乗用車、住宅関連、すべての産業に関連していますので総じて生産量の大幅低下、値下げ圧力、資金繰りに苦労され、給料カット、更には雇用調整を余儀なくされている企業も多いと聞いています。即効性のある住宅建設に関わる規制緩和、住宅取得減税、土地価格低下に伴う住宅建設費用の思い切った削減等により持ち家の促進、買い換え需要の促進を促してはどうでしょうか。
 家の新築、改築によって、風が吹けば桶屋が儲かる式にすべての産業への波及効果は絶大でしょう。

実現の可能性は?
 最近消費税の還元セールや、さらに上乗せして、七パーセントや十パーセント値下げセールを実施する事によって一部のスーパーの売り上げが激増したとのことです。
 少しでも安いところにと、人が集中しただけで全体としては購買意欲が喚起されたのではなく、経済効果は薄いのではないかと思われます。
 企業のリストラに伴って、本年はさらに雇用低下、所得の削減が起こり、雇用者の所得は四兆円減少すると云われています。最近住宅取得に関してここ二年間で住宅を取得する人に対して、住宅金融公庫の金利減免臨時措置がとられ、持ち家の建設が若干増加してきたそうです。政府が住宅取得に対するこの種の臨時措置から恒久的な措置に切り替えると共に、民間の住宅産業が知恵を出して安く、しかも質を落とさない住宅を供給する体制を構築すれば、持ち家、買い換え、立て替え需要が出てくるはずです。
 ちなみに私の住まいの近くでも、ある家が立て替えると、ばたばたと何軒も立て替えるようになりました。又、壁の塗り替えにしても何軒もやっています。主婦は概して見栄っ張りですから、あそこの家がやったから内もやってよと、一家の主は渋々と提案を受け入れるのではないでしょうか。私の家の周りは昭和四十年代の、そろそろ建て替え時期にきた家がたくさんあります。全国的に見て立て替え需要は莫大な件数だと思います。
 本年度から所得税の最高税率が五十パーセントになり(と云っても、私のような安月給取りには関係がない話ですが)米国並に近づいたとのことです。間接税を上げて、サラリーマンの税の天引きから申告制にかえ、しかも経費を大幅に認めるようにすれば、お金がどんどん循環するようになるはずです。
 ちょっと話は横道にそれますが、米国は申告制ですから税金の申告書を書くソフトがじゃんじゃん売れるそうです。当然パソコンも一家に一台どころではないでしょう。
 土地や住宅関連の税制改革や、安価に供給できる体制が整えば、もっと住み良い住宅の建設に多くの人たちが動くでしょう。私も、もしリフォームが経費として認めてくれるのであれば、すぐにでも壁の塗り替えや屋上への階段の取り替えなどをやります。毎週のようにセールスマンが自宅に来てお宅もどうですかと、しつこいくらいです。リフォームのチラシも多くなってきています。
 消費が冷え込んでいる背景には、購入したい物はほとんど揃って、もう買う物がないとも云われています。しかし、新しい革袋には新しいお酒をの喩えのごとく、最新鋭の家庭電化製品(大画面薄型テレビ、BS、CS受像アンテナ整備、超大型冷蔵庫、最新鋭の炊飯器、高性能エアコン、床暖房、高級音響機器、)、システムキッチン、家具類、パソコン、機能的な浴室、安全性、燃費性、快適性などの実感できる乗用車、ガーデニング、その他多くの物を購入したくなるのではないでしょうか。
 極端な言い方をすれば携帯電話やPHSをほとんど無料で提供し使用量で稼ぐ式の、思い切った手法や対策によって活路が見いだせるのではないでしょうか。

技術者に夢を
 年末の野球選手の契約更改、一人の選手に何億円も払うのを見たり聞いたりするにつけ、選手の頂点に立つものと底辺では、同年齢で百倍も差が出る、こんな事でよいのでしょうか。プロの世界だからと資本の論理の中に何かもっと大切なものを取り残してきているように感じてしまいます。一人くらい契約金の一部を選手全員の待遇改善に使ってくれと云う選手が出てこないものか。ある球団などは一人の大幅増額で、他の選手の更改が難航しています。
 この種の契約更改の駆け引きを見るにつけ、純粋にプロ野球を観戦するのも嫌気がさしてきます。巨人軍が勝てないのはこんな所にも原因があるのではないでしょうか。プロ野球は、高校や大学の野球と異なり選手の情熱はあまり伝わってきません。
 サッカーのJリーグは企業業績の悪化から、手を引くところ、出資金大幅ダウン、フリューゲルスにいたってはマリノスへの合併などで大変深刻な状況に追い込まれいます。そのフリューゲルスが合併が決まってから、昨年暮れの二十八日現在で八連勝、元旦の決勝戦に進出しました。サッカーは精神的な要素が大きく勝敗に影響しますが、チーム一丸となるとこんなにも強くなるものかと、感心すると共にサッカー会全体の窮状を見るにつけ、今まで以上に応援したくなります。
 青少年のサッカー人口は野球人口を遙かに上回っているそうです。サッカーに限りませんが、青少年の健全な育成の上から、夢がぶちこわされるような事のない様な商業主義一辺倒の運営を再考しなければならないでしょう。市民主体のチーム作りが出来ればよいと思います。
 ビジネスの世界でも最近、年俸制度を導入する企業が増えてきました。野球選手の契約更改のようには、どろどろしていないでしょうが自己評価、自己査定、上司の評価査定により自分の給料が決まる、あるいは決めねばならない状況は、我々には何かそぐわない違和感の大きい手法のような気がします。
 米国のような人種の坩堝で、しかも自己を主張しなければ取り残されてしまう世界ではこの方法も良いのでしょうが、横並びの日本社会ではうまくいくのか疑問です。むしろ、評価や査定は難しいと思いますが、技術者に対しての報奨制度を、もう少し充実されては如何でしょうか。
 資源のない日本において最大の資源は、頭脳でありその頭脳を駆使した技術です。従来の生産性の向上を意図した実験計画法や生産方式の追求は、今後もおろそかに出来ませんし更に改善していく必要がありますが、キラッと輝く新しい発明や発見、その延長線上でのビジネスの展開に対しては当事者の査定、評価を最大限にすべきです。
 現在は報奨金の上限も微々たるもののようです。思い切って一年の給料分くらいは出すくらいであれば、やる気が出るでしょう。ただし金の亡者になってはいけません。又、そのような邪心を持っている人は技術者にはなりきれないでしょう。野球の選手の契約更改を見ているとカッカするのは私だけではないと思います。
 

プラス成長の可能性は?
関東学院大学 
本間英夫
 
 政府は「今年は積極予算を組んだのでプラス成長になる」と言っていますがどうなるでしょうか? エコノミストは誰もプラスになるとは見ていません。
 日本経済の発展過程で財源の一部は、赤字国債の発行でまかなわれてきました。昨年暮れの本年度の予算政府案は、相変わらずの不況打開策として公共事業費を中心とする予算になっていました。国税収入は四七兆円で、十二年ぶりに五〇兆円を割り込んだそうです。従って財源をまかなうために赤字国債二一兆円と九兆円強の建築国債が新規国債として発行されました。赤字国債の発行額は昨年度の一七兆を上回り、歳入に対する国債依存度は三七・八パーセントとなり、過去最悪であった七九年度の三九・六パーセントに並ぶ水準だそうです。
 地方財政も悪化しており本年度は四十七都道府県中四十二が税収不足の見通し。神奈川県は財政再建団体転落回避に向けて背水の陣、県有財産の売却に踏み切っており、今年度は二千二百億円の赤字が見込まれているとのことです。国、地方あわせた債務は六百兆にも達するとのこと。景気がよくなれば税収も上がり、赤字の埋め合わせが出来ると云っていますが、こんなにも累積した赤字を埋め合わせることなど出来ないはずです。いずれ返さなければならない借金、大きなつけを後世に残すことになります。いくらお金をつぎ込んでも経済効果はさっぱり、十数年前は大型公共投資をやれば、その波及効果は二倍以上であったものが、最近では一・二倍くらいにしかならないと聞いたのは数年前でした。現在の状況では更に効果は薄れることになるでしょう。
 それでも政府は従来型の公共投資に重点を置いた予算編成をしました。新しい発想で思い切って実行しなければ、この事態からの脱却は免れないと、政府の諮問機関である経済戦略会議では一六〇項目以上の提案に関する中間報告書を昨年末にまとめています。おそらく小さな政府に切り替え公務員の人数も削減することを初めとして、中長期的な展望にたって思い切った提案がなされているはずです。
 要は、政府がいかにこれらの提案を実行するかであり、いつも選挙民を意識したやり方では何の解決にもなりません。政治、経済の仕組み自体を変えねばならないことは、バブルの潰えた十年くらい前から分かっていたことです。経済企画庁が九八年経済のいわゆるミニ白書でバブル処理の遅れの反省、デフレスパイラルと呼べる状態に入っていること、現在の不況の原因は、官民ともに中長期的課題を先送りし、短期的な対応を繰り返してきたツケの累積であると、初めて認めました。現在の様な状況になることは、エコノミストの多くが予測していたことです。対症療法的な対応しかやってこなかったとを政府が認めたのですが、またもこれを契機にどこかの政党のように批判ばかりをするのではなく、みんなが痛みを分かちあい、この難局を打開するような指導力を発揮してもらいたいものです。政治討論会を見ていても次元が低く、もっと先を予測した説得力のある論議をしてもらいたいものです。自自連立後、積極的アクションをとって政府の本年度〇・五%のプラス成長は如何に?

米国に並んだ失業率

 昨年暮れ、いくつかの企業の中間決算報告書を眺めてみました。いつもは概況をちらっと見て(いずれの会社の概況もほとんど同じで一つ読めば事足りますが、後はどの部門がどれくらい収益をあげているのかを見て)ゴミ箱入りになります。軒並み無配転落か減配企業。また従業員の増減などには、全く興味はなかったのですが、従業員の数がすべての企業でマイナスでした。従業員の増減まで記しているのは、一部の自信のある元気な企業だけだとは思いますが。
 企業の倒産やリストラで失業率が昨年十一月で四・四%、米国と同率になりました。おそらく年末の統計結果はこの原稿を書き終えた後に出ると思いますが、四・五%を越えているでしょう。日本の雇用制度は終身制で、今までは企業に対する帰属意識が高く、一体感を持って日本流にやってこれましたが、これだけマイナス成長が続き、しかも収益をあげねば企業として存立できないので、過剰雇用を切っていかねばならなくなってきました。従って企業のリストラが更に進み、エコノミストのシュミレーションによれば本年度末で失業率が五・五%に、中には六%を越えるとの予測もあります。
 米国の場合は、失業しても短期間に再就職できるシステムになっていますし、元々終身雇用ではないので、能力があれば皆どんどん一つの企業にはとどまらず、あちこち動きます。若い人は新しいビジネスを起こそうとベンチャー企業も盛んです。ですから失業率が米国と並んだと云っても意味が違います。日本の場合はきわめて深刻な事態です。
 最近、ニュービジネスを起こす人が増えてきているようですし、中小企業庁が助成を積極的にやるようになってきました。小生の大学の近くにも、横浜市が建設したテクノセンターがあり、その中にエレクトロニクスの材料系をやっている人がいます。大企業の関係事業部から、引き合いが殺到しているとの事でした。
 しかしながら、日本はまだこの種の経験が浅く、受け入れの素地も整っていません。成功例は少ないようです。事業を大きくしようとして人を採用しようとしても、新しい事業には旧来の感覚ではついていけません。従って再雇用のための教育がこれからはもっと必要になるでしょう。
 そういえば、最近職業訓練所の入所倍率が二倍から三倍に急上昇しているとのことです。専門性が要求される領域では試験として数学や国語が課せられるようです。失業しても円滑に再雇用されるには職業訓練教育が必要です。公的な訓練学校がこの様な状況ですし、これからの産業にマッチした新しい教育訓練の場が必要になってきています。広い意味での教育産業の育成、活性化が急務でしょう。
 ニュービジネスのチャンスは多くなってきましたが雇用促進の大きなインパクトは、まだまだ先になるでしょう。従って、国家的なプロジェクト、例えば米国に大きく後れをとっている、インターネット構想、不安のない快適な住環境整備、福祉関連、バイオ、高度道路交通システム(ITS)、その他の新規分野の開拓など、従来型の公共投資から切り変えていく必要があります。すでに公共投資に多額のお金がつぎ込まれ、その分野に関する効果は出てきているはずです。それと同時にこれからはどうするのか中期や長期のロードマップから自ずから重点分野が決まってくるのではないでしょうか。

携帯電話のインテリジェントな活用を

 携帯電話の使用台数がPHSと併せて四千四百万台になったそうです。国民の三十パーセント、小中学生、それと家庭の主婦やお年寄りはあまり使いませんので、若者から中高年のビジネスマンまでで見積もると、おそらく7割以上の人は使っているのではないでしょうか。町に出かけて数えると、一瞬だけで十人に一人は電話をしながら歩いています。すでに重量が七十グラムを切り、ポケットに入れてもそれほど違和感がないのでしょう。ところかまわずどこでも会話している感じがします。
 私の持っているのは初期のもので、二百グラム以上の大きくて重い、しかもいちばん安価なPHSです。車の移動中にかけるくらいで、あまり使用しません。基本料金を除く実際の使用料金は、平均すると三百円くらいですか。発信専用で、ほんの一分程度ででほとんどの用件はすみます。ですから月の支払いは基本料金込みで四千円くらいです。
私の研究室には学生が十七名いますが、その中の十五名が携帯電話を持っています。彼らはそれほど頻繁には使用していないようで、月の使用料金は七千から八千円だと言っています。下級年次生の講義を週に三コマ担当していますが、最近は留守電機能が充実し、講義中にピーピーならす学生もいなくなりました。また現在預かっているサッカーの部員は四十名くらいですが、彼らはすべて携帯電話を持っています。試合や練習場所、時間の連絡、試合当日に緊急連絡で時間の変更や中止の連絡が入ったりしますので、必携のアイテムになっています。しかも彼らはサッカー以外ではあまり充実感を見いだせないのか、頻繁に友達と連絡しあっています。
学会の用事で東京へ出かけることが多いのですが、電車に乗っているとあっちこっちでピーピー鳴っています
高校生や大学生、最近では主婦までが車内で「ワタシー今電車…」と他愛のない会話が目につきます。女子高生や女子大生は月に二万から三万も払っているとのことです。寂しいのか孤独が嫌いなのか、いつも誰かに電話をかけないときがすまないのでしょう。
 全使用者の月間使用量を少なく見積もって一万円としますと四千四百億円、年間では五兆三千億以上になります。プリント回路の産業規模は一時、一兆円の大台に乗ったことがありますが、現在は年間で八千億円くらいでしょう。半導体も一兆円産業と言われていますし、それと比較すると使用量だけでこれだけの売り上げるわけですから、携帯電話の本体をただ同然で提供して使用量で稼げばいいわけです。
 最近はモバイル通信も少しずつ浸透してきましたが、モバイル型のパソコンを携帯電話の新規契約の際に無料で提供するキャンペーンも出てきています。又、地球全体に静止衛星を七十七個打ち上げ、世界のどこからでも衛星を使って通信できるイリジウム計画が現実味を帯びてきました。(イリジウムは元素名でその原子番号が七七、ですから計画では衛星を七十七個打ち上げることになっているはずです)現在のところ六十六個打ち上げられています。まだ電話本体が二十万円程度、使用量も携帯電話の十倍以上ですので特殊な用途にしか使用されていません。いずれは手軽に使えるようになります。まだまだ時間がかかると思いますが、このように情報インフラが整備されてくれば現在のような使い方の他に、これからはもっとインテリジェントな使い方が出てくるでしょう。
 これらの携帯機器には要素技術としてめっきが多用されています。筐体への電磁波シールドを初めとして、配線基板はビルドアップ工法で作成されています。この工法は日本で開発された方法で、現在小型軽量でしかも高機能が要求される携帯機器を初めとしてゲームマシン、ビデオ等に応用されています。

インターネット爆発的普及

インターネットの利用者は世界で一億人突破とのこと。もっと利用者が多いのかと思っていましたが、米国が突出しているのでしょう。日本においてもウィンドウズ95の発売から利用者が急増しています。ある会社のアンケート調査によりますと一ヶ月に一度以上インターネットを利用した大学生は、九十七年の二十パーセント弱から昨年は五十パーセント以上に上昇、又、二十代の社会人では二十パーセントが三十パーセント以上になったとのことです。学校や会社でメールのやりとりやホームページの閲覧、ネット上で複数の人間が意見を交わし合うチャットが増加し、新たなコミニュケーションツールとして定着しつつあります。私のところにきた年賀状にもメールアドレスを付記する卒業生が多くなってきました。
プロバイダーの数も数年前の数十倍、数百倍と多くなり、それに伴い各種サービス、利用料金も安くなってきました。インターネットの利用目的は大学生や社会人男性では「ホームページの閲覧」、女性では「電子メール」としての利用が多いとのことです。いつでもどこでも簡単にを謳い文句にインターネット用のアクセス機器がどんどん市場に出現するでしょう。
米国ではインターネットを利用したオンラインショップの売り上げが昨年一兆三千億円に達したとのこと。かってのカタログ販売からいよいよバーチャルショップが現実のものとなってきました。今後はもっと接続容易なディスプレー付き電話、携帯端末機器、テレビ用接続端末機器が出てくるでしょう。総合家庭用AV機器としてテレビやビデオ、ゲーム、CD、電話といったものが、全て一家に一台のパソコンになる日も遠くはないかもしれません。
 現在、私の研究室ではエレクトロニクス関連のマイクロファーブリケーションについて研究をしていますが、この領域は日本が得意とする分野であり、マイクロセンサーや移動体通信、光通信部品など大きな可能性を秘めています。
それにしても豊かさとは何だろうか、明るく魅力のある快適な社会とはどうすればよいのか、真の豊かさは?物から質へ、景気の停滞に伴う閉塞感からの脱却、犯罪の凶悪化、陰湿化、低年齢化、結局は知育、体育、徳育の教育の見直しが急務なのでしょう。
 

新人社員教育の時期
関東学院大学
本間 英夫 
 
 三月の下旬から、ほとんどの会社で新入社員の教育が始まります。いや実際は一月くらいから始まっているようです。卒業を間近に控えて、卒業研究や修士論文作成にいちばん忙しく集中しなければいけない時期に、ドーンと自宅に分厚い郵便が、内定企業から送付されてきます。 
 中身は、入社前に一般的な常識を身につけるための、色々な設問をケーススタディ形式で回答させるテキストとのこと。このような就職前の予備研修的なやり方は、いつ頃から始まったのか定かでありません。小生もあまり気にしていませんでしたが、学生にとってはかなりのロードになるようです。
 内容について聞いてみますと、電話の受け答え、挨拶の仕方、ごく常識的な問題をクイズ形式で答えるようになっているようです。学生も見くびられたものです。仕方のないことかもしれません。学生時代は、ほとんど同学年の限られた友達とのつきあいであるため、常識がないことは確かです。しかし、一様に常識がないと判断し、入社前の全学生に、この種のテキストを与えるのはいかがなものでしょうか。確かに三年生が卒業研究に入ってくるときは、私も最近の学生の非常識さには驚きます。しかし一度注意したり忠告すると彼らは何も抵抗せず受け入れます。彼らは家庭においても、高校までの教育においても、あまりこの種の常識を学習する機会がなかっただけです。私の経験では、一年間研究室にいれば見違えるように言葉遣い、人との応対、電話のかけ方、挨拶文の書き方、その他の常識が身に付く事は勿論のこと、人間的にも大きく成長します。しかしながら、内定企業には楯突くことも出来ず、無駄な時間を強いられているように思えます。
 よーく考えて下さい。一般には彼らがリクルート活動を三月から開始し、早くて六月、最近は、超買い手市場?ですので八月から九月にならないと内定が出せません。その間、学生はあちこちの企業を回ったり、決まりそうな企業に何回も足を運ばされ、卒業研究には集中できないのです。内定をもらってやっと卒業研究に入り、そろそろ研究の内容が分かってきた頃に、今度はクイズ形式の常識問題集です。従って、彼らが卒業研究に集中できるのは極めて短期間になってしまいます。
 いちばん成長期にある技術者の卵を腐らせてしまうことになります。腐った卵を買っていいんですか?新入社員教育も採用のやり方も厳しく見直す必要があるのではないでしょうか?以下に本年修士課程を修了する学生の意見を紹介しますので、総務(人事)の方は参考にしてください。

「社会人になるためのマナー、ルール等を学生のうちに学ぶことはとても大切な事だと思います。確かに私も含めてほとんどの学生は、卒研に入るまで言葉遣いや応対がよいとは言えません。しかし、卒業研究やマスターの学生として研究室で学んでいる間に常識はついてきました。また研究にウェイトを置かなければならない時期に、新入社員の教育を行う必要性があるのか疑問に思います。
また、文系か理系か、学部生か大学院生かの区別もないため、バイトや旅行に行く暇もない学生にとっては非常につらいものです。採用する学生の質を見極めて、通信教育を行うか、せめて三月の上旬くらいまでは卒業論文、研究に集中できる様に教育法法を考えていただきたいと思います。」
ちなみにこの学生が会社から送られてきた常識問題(三ヶ月コース・七万から八万円だそうです)を集中して三時間、解答し、それを教育を委託された会社に送ったとのこと。提出一週間後に会社から連絡が入り、一方は九六点もう片方は百点満点でコメントには大変よく出来ていますとの事::。画一的にこんな問題をやらせることに意味があるのでしょうか?

何をしてきたかで採用

 今までほとんどの企業で、学生が大学時代にあるいは大学院時代に、何をしてきたか、どんな勉強をしてきたか、ほとんど気にしないで、むしろ偏差値の高い大学からその序列だけを信じて採用してきました。採用する側にとっては、それが最もリスクのない方法であったことは確かなようです。学生本人も、親も、先生も、企業も皆認めてきました。しかし、最近技術系の一部の企業で変化の兆しが見られるようになってきました。何をしてきたかに力点を置き、大学でどんな勉強をやり、どの先生の下で指導を受けてきたか、採用側も真剣に考えるようになってきました。企業がこのあたりのことを真剣に考えるようになってきますと、学生は変わるでしょう。先生も変わるでしょう。
 最近、物作りの好きな学生が減ったと云われていますが、そんなことはないはずで、ただその機会が幼児期から与えられていないだけです。物作りのプロセスはカットされ、すべてインスタントでレディメードです。小中高での理科実験などもあまり力が入れられていないようです。このように学生が成長過程において物作りにふれる機会に恵まれていないだけで、もしその機会が多くなれば、もっと理科系を志望する学生は増加するでしょう。
 現在の受験制度では、物作りの好きでない学生が、入学してくるところに問題があります。彼らはなぜ工学部に入り、なぜその学科を選んだのか、決してその学問が好きで選んだ訳ではありません。予備校などで作成された精度の高い自分の合格可能大学、学部、学科から選択しているのが圧倒的に多いのです。試験問題を今のような形ではなく、能力を違った角度から問うようになれば、又、面接や実技、高等学校でのクラブ活動などの実績を精度よく評価したり、試験のやり方を変えれば、高等学校の教育は現在の偏差値教育から変わるはずです。従って、中学、小学校の教育も変わっていくことになります。 現在のように同じ勉強をすることが、有効であるとの認識の下では、成績の序列だけで高等学校の序列、大学の序列が決まってしまいます。この構図が崩れるような方法が導入されれば、もっと個性的な大学が出てくるでしょう。

 最近の教育事情

 最近中学校で授業が出来ないとか、高等学校でも就学困難校と言われている学校が問題になっています。高校の先生がテレビのインタビューに応じて話されていたことには、若干の驚きを感じました。授業をするのが怖いとか、生徒が先生の講義など完全に無視し、がやがやうるさいのは当たり前で、授業中に席を立ったり、エスケープし、全く授業にならないそうです。果たしてこの現実を改善できるのでしょうか。文部省の最近の調査によりますと全国で学級崩壊は十二クラス中一クラスにのぼるそうです。
 昨年卒業した女子学生の一人が工業高校の教師になりました。男子の生徒より女子生徒の方が始末が悪いそうです。気にくわないと、集団で登校拒否をしてしまうそうです。
 最近大学と同じように科目の選択性が導入されたこともあって、一部の選択科目に至っては、惨憺たるもののようです。大学並に選択性を導入して、生徒の自主性やゆとり、多様な人材作りを意図したことだと思いますが、うまく事が運ぶわけがありません。
 教育委員会や、学識者が英知を尽くしての結論であろうと思いますが、超エリートと言われる人たちが考えて、いくら理想論を並べても、それを生徒が咀嚼出来なければ、何にもなりません。教育現場を知っている人にとっては、困難を伴うことは、はじめからわかっていたのではないでしょうか。
 団塊の世代の頃から導入された、偏差値教育を受けてきた人が、現在教員になっており、しかもその教育制度の中で、競争を勝ち抜いてきた、いわゆるエリートの分類に入る人たちです。挫折を感じている学生の気持ちなど理解できないのでしょう。現状はどうしようもないところに、立ち入ってしまっているような感じがします。先生の多くは、教育に対する情熱を無くしているとのことです。自分が立て直してやる!との気概を持った先生はいないものなのでしょうか。核家族化が進んだ現代で、家庭教育を受ける機会が減少している学生たちに、いきなり個人の自立などを要求することは困難であるかもしれませんが、真の人間教育をしてもらいたいものです。
 前述のテレビのインタビューに応じた先生方を見ていますと、どことなく自信がなく頼りなく、ひ弱な感じがしました。大学卒業後、直ぐに教員になるのではなく、一般社会で経験を積んで、生徒から見て信頼される自信がついてから教員になるべきです。特に、最近多発している中学生のナイフを用いた殺傷事件や理解に苦しむ猟奇事件の多発、いじめ問題などは世紀末的様相を呈してきています。いずれの事件も社会の中で子供達が取り残されたり、無視されたり、親や教師の愛情の欠落が主要な原因になっていると思います。もっと生徒の目線に立ち、ものを考える努力をしなければなりません。子供は朝から晩まで、監視下、管理下におかれ、がんじがらめになっており、目的もわからないまま単に、勉強、勉強とつまらない日々を無為に送っているように見えます。彼らからは真の笑いが消え失せ、昔のように、近所のガキ大将を中心とした遊びなどいっさい無く、ゲームマシンに向かって両手を異常な早さで動かし、しかもそれは大人が作製したプログラムで、遊ばされているだけです。また、バーチャルリアリティに慣れっこになり、ボタン操作でぶん殴ったり銃で殺したりするゲームが多く、実際の痛みやそのような行為を行うことによってどんな影響があるのか全く自覚できていません。
 外で子供の楽しく遊んでいる姿を見ることは、滅多になくなりました。近所の公園は、公共投資で立派なものが出来ています。色々な製品で言えば、過剰品質も甚だしい立派な器です。しかし日曜日などに散歩しても、余りこどもの姿は見られず、せいぜい犬をつれてポリ袋とシャベルを持った中年過ぎの人が、ちらほら見られるだけです。子供達は親につれられて、混雑おびただしい行楽地にかり出されて真の喜びや、遊びは全く経験できないのではないでしょうか。又、近くの小学校や中学校を日曜日に覗いてみても、運動クラブを強化しているところでは、その部に限って、遊びでなくて、練習や試合をやっています。そこには真の喜びがあるのかなと疑問に思えてきます。
 最近の小中学校では、課外活動が自由にやれる雰囲気にはなっていないようです。先生が授業が終わったらなるべく早く帰宅させるようにしていて、クラブ活動も熱が入らないようです。もっと自由に活動させる環境を作ってやらねばならないでしょう。何も入れ物を整備しろと言っているのではなく、教職員がもっと真剣に将来を担う子供達のために尽くしているという、奉仕の精神が肝要かと思います。学校が終わると即座に塾に直行させ、毎日が無味乾燥で訳が解らずに、ただ成績を上げるためのノウハウを伝授し、記憶力の善し悪しを問うだけでは、発想豊かな人材が育つ訳がありません。ですから、中学生ともなると、つまらなく目的が見いだせなく、生徒はがやがやするようになるのでしょう。
 我々の仲間でも、学生がうるさくて授業にならないとぼやくのもいますが、ぶつぶつ言う前に自分の講義が学生にとって魅力があるのか、学生を引きつける魅力ある講義をすれば学生も真剣についてきます。小中学生にはもっとゆとりのある授業をし、しかも、もう偏差値教育等やめにしたらどうでしょうか。そう言えば栃木県のある高等学校で定期試験を廃止し日常点で成績を評価するとした、勇気のある行動も見られるようになってきました。この試みは、国全体で色々な領域で現在進められている、いわゆる規制緩和の一環なのです。
 今までは、文部省の管理下で指導要領に沿って統一的な授業をすることが決められていましたが、これが緩くなってきました。教科書の検定もかなり緩くなってきたようで、各学校毎に選択の余地が広がったようです。ただし、厳然と残っている偏差値教育を、ドラスチィックに変えていかないと、元の木阿弥になってしまうおそれがあります。既に少子化の影響が私学の学校経営に影響を及ぼしてきているそうです。この際、思い切って特徴のある教育を全面に出して行かねばならないでしょう。本年の我々の大学の一般入試の受験者は昨年と比較しますと三割減です。地元志向、国立大学志向、もう五、六年すると全員入学、更には、かなりの大学が淘汰されると言われています。

 手帳のカレンダー変更を

 パーカライジングの里見さんに学会の部会でお会いした際、先生も毎月原稿を書くのが大変でしょうから最新情報を提供しますとの事でした。
 超多忙の方々にお知らせ
 手帳の最後のページに来年二〇〇〇年のカレンダーがあると思いますが、一月一五日の休日を十日(月曜日)に十月十日を九日に変更してください。変更になっていない手帳が多いようですので念の為。
 

ここにも根深い景気低迷の影が
関東学院大学
本間 英夫
 
 三月中旬、横浜のホテルで日頃お世話になっている講師の方々に対する、年度末の慰労会がありました。五時から開催されることはすでに通知をもらって知っていたのですが、その日はサッカーの練習試合と重なってしまいました。以前に書きましたように、私はサッカーのことは何も知りませんが、部長をしています。練習試合を他校で行う場合は、立場上挨拶をする必要があり、学生だけに任せるわけには行きません。登戸周辺の設備が完備された大学(関東二部リーグ上位校)で一時頃から試合が始まり、三時過ぎに終了しました。
 講師の先生を招いた慰労会に五時までに入らねばならなかったのですが、車で出かけていた関係で、時間に間に合わないことははっきりしていました。 それでも極力早くつきたいので、我々の大学の駅近くにある大型スーパーの駐車場に車を置き、電車で横浜に向かうことにしました。土曜日の夕方、今までの経験から店の中はごった返していると思っていましたが、客はまばら駐車場もがらがらでした。
 実は、半年くらい前に隣の駅近くに大型スーパーが開店した影響を受け、客を取られてしまったのでしょう。このスーパーは、例の有利子負債が何十兆にも膨れ上がった会社で、最近大鉈を振るリストラ計画を発表しています。すでに私が駐車に利用した店舗も店じまいの対象になっているそうです。お客の心理としてそのような店はもう用無しなのでしょう。
 七時に横浜のホテルで慰労会を済ませ、金沢八景駅についたのが七時半頃でした。三月は学会シーズンです。未だ何人かの学生が研究室でデーターの整理や発表のためのOHP作りをしているだろうと思い、果物や寿司を差し入れるために地下の売場に向かいました。
 この時間帯にスーパーの食料品売場に出掛けることは滅多にありません。その時間帯になると生鮮食料品が三〇%から五割引きになるのです。なんとそれを狙って、表現が悪いようですがあちらこちらに蟻が集るように群が出来ていました。主婦の生活の知恵なのでしょう。以外に若い主婦の方が多かったように記憶しています。景気低迷の中で生活費をこのような形でやりくりしている人が意外と多いのには少し驚きました。

表面技術協会の講演大会

第九十九回の学術講演大会が、三月十七日から十九日まで本学のキャンパスで開催されました。十八年前にも本学で開催されていますが、そのときは私も山下先生も駆け出しで、お手伝いをすることで精一杯でした。今回は我々が責任を持って遂行しなければならず、色々大所高所から判断しなければならないことが多かったように思います。関連学会のエレクトロニクス学会と同一日に開催されたので、当初は発表件数参加者の減少を心配しましたが、それほど大きな影響はなかったようです。
 参加者はのべで二〇〇〇名以上、一日の参加者を会員数で割って見ますと、二〇%でかなり多くの方々が関心を持っておいでになったのではないかと、主催校としてほっとしています。表面技術協会は十年くらい前に金属をとって間口を開いた格好になっています。中身はめっきに代表されるウエット、真空蒸着やスパッタに代表されるドライ、それとアルマイト関連の3つに分けることが出来ます。めっき関連の発表は本学会の主流であり、会場もほぼ満員でした。内容はエレクトロニクス関連技術に集中していました。
 今回、私の研究室の発表で本間研究室らしからぬ発表が三件、また、ポスター発表でも答えに窮するものが何人もいたと、お叱りを受けました。言い訳になりますが、確かに今までの発表と比較すると準備不足、発表者の理解不足は否めなかったと反省しています。研究室の人数は小生を含めて二〇名、本年から更に増えて二二名になります。そろそろ今までのマネージメントでは通用しなくなってきています。
 そのような反省の中で一つ良いことがありました。それは、学会終了後の反省会で事務局、他大学の先生方から学会の手伝いをしてくれた学生がきびきび積極的で、よく気がつき、仕事も的確では早いと云うお褒めの言葉でした。小生にとってはこのことが、何よりも大きな収穫だったと思っています。卒業式の日、学生を連れて中華街に出かけましたが、宴会の始まる前に彼らにそのことを伝え、楽しいパーティになりました。

今春も新卒者にとっては厳しい就職環境

 今三月期の上場企業の業績集計結果によると、アジア向け輸出の減速、消費の冷え込み、デフレ圧力等により経常利益が大きく落ち込み、全産業の最終損益は二年連続の赤字。今期の特徴は不採算部門や子会社整理、人員削減等に見られるように大幅なリストラです。このような厳しい状況ですが、私の研究室から巣立っていった後輩たちの中で、人員削減の対象になったのは今のところほとんどいないようです。十年くらい前までは、会社に入ってしばらくすると不平不満を言ってくる学生が十人に一人くらいいたのですが、今や一企業の問題でなく、産業界全体の問題ですので我慢の時期であること、不満を言っているような状況ではないことを誰もが認識しておりいます。逆に、この種の話題を出さないことが暗黙の了解事項になっています。
 このような状況下、すでに三月の初め頃から来春の新卒大学生を対象としたリクルート活動がスタートしているようです。私の所属する工業化学科で、すでに三月二〇日の時点で六〇社くらい応募があります。マイナス成長が避けられない経済情勢の下では、量より質が一段と加速するとともに、本年は更に採用が早期化、長期化、多様化が進むようです。 人事担当の方が果たしてこの雑誌をご覧になっているか分かりませんが、学生が四年生になってすぐに自己発見出来ると思いますか?特に工学を専攻している学生の能力や適正を、ある程度判断できるのは少なくとも研究生活に入って半年は必要でしょう。そのような大事な期間をリクルート活動に奔走しなければならない現状は、学生にとっても採用側の企業にとっても無益と云うよりむしろ有害であるとさえ断言できます。就職協定の廃止は更に青田買いを煽っている結果になりました。  
 前にも同じ様なことを提案しましたが、採用側が九月か十月以降に採用に乗り出すようになれば、学生はじっくり真剣に自分の専攻した領域の研究や知識の蓄積、人間としての深みが出てくるのにと残念に思います。現状の採用方法では、特に学部生の場合は何社も掛け持ちし、しかも採用側の常識試験、幾度にもわたる面接試験で数ヶ月を浪費し、内定と同時に大学受験の時の感覚でホット安堵し、卒研には力が入らず形だけを整える結果になります。 
 二月頃から各企業で入社前に常識問題集の回答の義務付け、又、企業によっては更に追い打ちをかけるように入社前の研修と称し、全新入社員に招集をかけ画一的な精神修業が行われています。この種の精神教育はルーズな学生時代を送ってきた学生には意味はあるでしょうが、画一的に行うのは如何なものでしょうか?おそらく三月から四月の第一週までは学会が目白押しです。特に大学院の学生にとっては学生時代最後の檜舞台である学会での発表と、その研修がぶつかります。学生は立場上会社の方針に従わねばならないので嫌々ながらその研修に参加しました。
 案の定発表に対する準備不足、研修で強制的に大声を張り上げさせられ、学会では満足に声が出ず、さぞかし悔しい思いをしたことでしょう。企業に入る前にその企業に対する信頼が薄れてしまいます。若いエネルギー、能力を多いに磨くときに、なんと無駄なことをと悔やまれます。
 企業に入る前の一連の研修は、必要なこととは思いますが、きつい言い方になりますけれども、大量採用時にはいい方法であったのでしょう。しかし採用を絞り、優秀な技術者の卵を採用されるようになってきているにもかかわらず、見直しがなされていないのではないでしょうか?分野ごとにもう少しきめ細やかな研修プログラムを作られるよう要望いたします。
 大卒業種別の調査によりますと採用の抑制、特に製造業は十四・七%の大幅削減、学生の危機感をあおるキーワードが、毎日のように新聞や雑誌で目に留まります。
 学生の自宅には、例によって各企業からの就職説明会のはがきや手紙がどっさり送付され、ほとんどがジャンクメールになっているようです。彼らにとっては就職を早く決めねばならないと、焦燥感だけが植え付けられているようにさえ思えます。
 新卒者の採用は、その企業の将来を大きく左右しますので財務、人事、製造プロセスの見直し等と同様、もっと厳密に採用方法を検討する必要があります。実際いくつかの大手企業では、ピンポイント的な採用方式をとるようになってきました。
 バブル絶頂期は卒業さえ出来ればどんな学生でもいいですよと、学生も教える立場の教員も甘えがあったことは確かです。このピンポイント採用方式は、我々にとっては大歓迎でやりがいがあります。結果がすぐに出るわけではありません。長期にわたる研究室の伝統が、研究室の研究能力が、個々の学生の能力が決め手になります。
 昨年の本誌四月号に研究室に入るにあたっての心構えを紹介しましたが、何人かの経営者から参考になった、新卒者の訓辞に使わせてもらいましたとのことでした。企業においてはその企業のカラー、各部門間のカラー、大学においては大学間のカラー(画一的であまり特徴が見られなくなっていますが)、更には教授を中心としたゼミや研究室のカラーがあります。
 昨年春、工学博士の学位を取得した藤波君が、本学工業化学科の同窓会誌に研究室に学んでと題して寄稿してくれました。小生の研究室のカラーを伺い知る上で、又学生サイドの見方を知る上で参考になると思います。皆様にもその文を紹介します。

本間研究室で学んだこと
藤波知之
 昨年三月、工業化学専攻としては第一号で博士の学位を取らせていただきました。改めて直接ご指導いただきました本間先生には感謝を申し上げると共に、工業化学科の歴史を築いた諸先輩、ならびに共に頑張った同輩の方々にもお礼を申し上げたいと思います。
 私は、荏原ユージライト株式会社という表面処理薬品、いわゆるめっき薬品の製造会社に在籍しながら、平成元年四月から平成三年三月まで、また平成七年四月から平成十年三月までの合計五年間、本学大学院に派遣されておりました。"プラスチック上の無電解めっき法"を世界に先駆けて開発した本間研究室で、無電解めっきの基礎研究を行うよう命ぜられたためです。大学院へ社員を派遣することは、会社としても初めての試みで、どれだけ成果が得られるか未知数だったため、派遣することに対して賛否両論だったことと思います。しかしながら五年間の研究成果は、会社に大きな利益をもたらす結果となり、会社も成功だったと評価しております。自分にとっても、学位を得たことと共に、本間先生の真の教育に接して様々なことを学び、今後の貴重な財産となりました。
 本学全体がそうなのかもしれませんが、本間先生の教育方針は、知識を詰め込むのではなく、経験を通して身に付けさせることが特徴です。本間先生は、日頃から「本学の学生は、経験で身につけた知恵とやる気で勝負しないと頭では東大生には太刀打ちできない。特に化学の領域では、シミュレーションより実際やった方が勝つんだ。」とおっしゃられていました。それゆえ本間研究室では、毎年三月のうちに新旧四年生の引き継ぎを完了してしまい、四月の早いうちに実験漬けの毎日をスタートさせます。卒業生でも来学すると参加させられるのですが、"輪講会"と称して最新の英語文献を用いた技術動向の勉強もこの頃から毎朝行われます。
 基本的には、本間先生が大学院生を指導し、大学院生が四年生を指導いたします。そして、実験の進捗状況は、企業の第一線の方々を本学に招いた中間発表会の中でチェックされます。中間発表会は、年数回実施されますが、このときばかりは発表する四年生と共に中間発表会を運営する大学院生も緊張いたします。四年生への指導が問われるからです。大学院生は、もはや企業で言うと中間管理職といったところで、結構大変な任務を背負っています。大学院生は、こういったところからも自主性が芽生えてくるんだと思います。多少の人間関係のトラブルなどはありますが、こういったときも最終的には本間先生がケアには入りますが、通常は大学院生で解決しなければなりません。
 本間研究室の研究目的は、表面技術協会と回路実装学会などを中心とした学会活動により、幅広く社会に貢献することです。講演発表や論文投稿は、ある程度ノルマ化され、年に数回開催される講演大会へは、それこそ毎回参加となります。そのため、年々発表技術、資料作成のレベルが向上しているように感じます。最近の講演発表では、口頭原稿を持つ学生はほとんどいなくなりました。自分が理解していないことには、人には伝えられないと学生自身が判断しているからです。講演大会は社会人が中心、そんな中でも学生が堂々と渡り合って来ます。機会があれば、海外での講演発表も行うよう指示されます。実験に必要な器具や分析機器で不自由することが全くないので、実験で障害になるものは何もないのです。学生は、目的に向かって尽き進むだけです。講演大会が近づけば、学生自身も徹夜であろうが、早朝であろうが、情熱を燃やして研究活動に没頭しています。本間研究室がこういう環境になったのも、本間先生が長年の試行錯誤を繰り返して培ったものだと思います。
 最後に、本間先生の好きな言葉に、大学の校訓である「人になれ、奉仕せよ」という言葉があります。本間先生自らが今実践しているように感じます。多くの人と知り合い、多くの人から学び、そして社会に貢献していくことこそが、本間研究室で学んだ一番大切なことだったのではないかと信じております。
 

産学協同プロジェクトの推進
関東学院大学
本間 英夫
 
 産学官の交流や、共同プロジェクトの推進に関する報道が、最近目につくようになってきました。実際、文部省、通産省が中心となり、大型のプロジェクト作りがなされ、技術の活性が心掛けられています。またTLOと言う活字も目に止まるようになってきました。これは技術移転事業 Technology Licensing Organization のことで、大学等の技術の研究成果を、民間企業に移転することを目的とした事業です。
 現在、東京大学、東北大学、私立では早稲田大学、立命館大学で、この事業が発足しました。これは、大学における企業との共同研究、委託研究、奨学寄付金等による産学連携、更には、ベンチャービジネスラボラトリーやリエゾンオフィスを設置して、更に積極的に共同研究を推進しようとするものです。
 文部省と通産省が共同で、大学等の技術に関する研究成果を、民間事業者へ移転するための法制化を初めとして、環境整備がなされています。大学の研究成果が、民間企業に移転され、ロイヤリティー等の報酬が研究者個人や研究室の新たな研究資金として還元できれば、研究者のインセンティブが高まり、また大学関係者の産業界への貢献志向、研究成果の事業化、ベンチャー企業の創出が期待されます。
 米国では、すでに大学における先端的な発明や、発見がハイテクベンチャー等の民間企業に移転、事業化され、新しい成長産業が創出される仕掛けが構築されています。日本では、企業からの研究テーマに対して委託を受ける方法が一般的です。また、一部の大学を除いて、ほとんどの大学では、特許を初めとする知的の所有や権利化のシステムが整備されていません。従って、共同研究の結果として、特許を取るにあたって、企業が出願人となるケースが多く、大学には全く権利が残らないのが一般的でした。これでは全く大学側にメリットがなく、それ故、TLOの整備が急がれたわけです。
 今からニ五年から三〇年前、多くの大学で産学協同粉砕とのスローガンの下、あの激しい学園紛争を経験しています。それ以降、日本の大学では企業と距離を置くようになりました。従って、多くの大学では真の意味での人材教育、新しい技術が育たない体質になってしまいました。
 果たして、あの忌まわしい洗礼を受けた大学の先生方が中心となって、産学の連携がうまく機能するのでしょうか。産学協同に関してアレルギーを示していた先生が、法的にまた環境が整備されたからと云って、この事業が即座に機能するはずがありません。

産学協同のモデルケース

 多くの方々がご存じのように、我々の大学では、今から四〇年以上前から大学の中に、木工とめっきのニつの事業を行っていました。その事業部で働く若者の多くは、昼間キャンパス内の工場で働き、夜は本学の高等学校または大学で勉学にいそしんでいました。木工工場の製品は、学院の机、椅子などは勿論、家具類は横浜の高島屋の注文を受けていました。めっき工場は、特にバンパーを始めとした車載用のめっき加工が行われていました。
 斉藤先生は現役では、本学の産学協同の歴史を知る、また歴史と共に歩んできた唯一の生き証人です?
 中村先生が、回顧録や「めっき馬鹿人生」の中でお書きになっていましたが、本学のめっき工場が技術的な難問にぶつかった際、当時、横浜の指導所におられた先生を大学事業部の技術担当者が訪ね、幾度となくアドバイスを受けたとのことでした。
 それが切っ掛けとなり、先生が本学の機械科の助教授及び事業部の部長として奉職されたのが昭和三一年です。それから事業部の技術力は急速に向上し数年後には学会から技術賞を学院の創始者である坂田 祐先生が代表して受賞しています。さらに数年後には、プラスチックス上のメッキを世界に先駆けて工業化されたことはあまりにも有名です。その技術のキーになっている無電解銅めっきを電気化学的に反応を明らかにされたのが斉藤先生で混成電位論を提唱されたことで今度は学会賞を受賞されています。このあたりから、小生も専攻科生、大学院生として研究または工業化のお手伝いをすることになりました。事業部の規模は大きくなりそれに伴って、利益もでるようになり一部は工学部の研究費として還元されていました。当時の実験の進め方、新しい技術の現場への適用はすさまじいもので、多くの失敗を繰り返しながら果敢に挑戦し、最終的にはすべてが成功にいたりました。。従って私はすでに大学院時代から現場に直結した技術開発に着手していたことになります。ニ三、四歳からのこの経験は、その後研究室での技術開発に、多いに役立っています。
 このように、本学では、すでに四十年前に産学協同のモデル事業が進められていたわけです。しかも、世界に先駆けて工業化に成功したプラメッキの研究成果は、すべて公表し特許は取らなかったのです。なぜ特許を取らなかったかは、大学の校訓「人になれ奉仕せよ」を実践したもので、中村先生の回顧録に詳しく書かれています。私は米国の学会で、これまで何度か招待講演を依頼されましたが、その度に下手な英語で本学の産学協同の歴史を必ず枕に話してきました。その際、おまえの大学はスタンフォードのミニチュア版だねと云われたものです。
 このように私は過去の経験、成功体験から産学協同の推進にあたってどのような哲学、思想性を持ち産業界と連携していけばよいか、私なりの手法を習得しました。
 果たして他大学で、今盛んに叫ばれている産学協同がうまく機能するだろうか危惧されます。箱ものや法整備などは整備されましたが、多くの失敗、成功の経験をし、また中村先生のような強力なリーダーシップを取る人が出てこないかぎり、また奉仕の精神で事に当たらねば、うまく運用出来ないと思います。
 
日本でのコンソーシアムは成功するか?

 最近、エレクトロニクス関連のコンソーシアムが出来ましたが、参加している企業の思惑が交錯し、すでに一年経過していますが、円滑に運営されていません。話が具体化すればするほど、リターンは何かと企業が要求するようになってきています。
 おそらく、この種のコンソーシアムが設立された背景は、米国や欧州ですでにいくつものコンソーシアムが設立され、実際に多くの成果を上げているからです。日本でも遅ればせながら、始めねばならないとの焦燥感から始まったものです。経営者はあまり直接的なリターンを期待していませんが、担当者レベルになると、どうもそうはいかないようです。
 この一年間は設立の主旨、規約等の整備、権利関係に関する会員相互の理解を深めることに注力していたようで、具体的な研究成果は出ていません。 先日、その委員会に出席を要請されました。実装関連のコンソーシアムで五年から十年先のロードマップが出来上がり、ショートスパンでの要素技術の必要性を感じて呼ばれたものと思います。
 朝の十時に委員会が始まり、終了したのが夕方の五時でした。上述のように、すでに計画から一年経過しているにもかかわらず、殆ど具体的な成果は出ていません。小生が共同で研究を行うにあたって、あまり直接的な利益や権利だけを主張せず、お互いに探りを入れるような、後ろ手にしているようなスタンスではなく、研究に積極的に各社が参画し、成果をお互いに分かち合うようにすべきであると訴えました。
 米国の産学官のプロジェクトの中で、半導体産業がよく引き合いに出されます。米国の半導体産業はすそ野が広く深く、ものすごいパワーがあり総合力、高い技術力があります。米国の半導体工業界では昨年暮れに、産学官の研究プロジェクト「フォーカスセンターリサーチプログラム」を旗揚げしています。インテル社の社長が仕掛け人の一人で、十年間に六億ドルを提供するとのこと。インテル社の他IBM、ルーセントテクノロジー等が参画しています。
 今、米国のハイテク企業は、材料研究や微細加工の研究に力を注ぎ、日本は大きく水をあけられています。八〇年代の後半からすでに工業界から年間五〇〇人規模の大学院生に対する奨学金の提供があり、年々関係業界の若手技術者が育っています。
 日本では、七〇年代に通産省の音頭で超LSI研究組合を作り、巨額を投じてDRAMで成功しました。これが不公正なやり方だと日米の半導体摩擦に発展し、その反動からその後は官民のプロジェクトは全く影を潜めました。
 米国はこのやり方をやり玉に挙げておきながら、その後、日本に多くの商務省の役人や財界人を送り込み、綿密にヒアリングをし、今度はその方法を更に発展させました。
 現在は大規模なコンソーシアムがいくつもできています。これを見て日本でも産学官の連携を強めようと、やっと通産省がバックアップした超先端電子技術機構が立ち上がりました。半導体の業界が注目する電子ビーム描画技術が中心テーマーになっています。この種の国家プロジェクトがうまく機能するかどうかは、指導者の強いリーダーシップにかかっています。さらには、前述のコンソーシアムの欠点を指摘しましたが、企業の技術者がもっと大きな視点に立ってプロジェクトを動かさない限り、成果はあまり期待できないでしょう。
 日本の産業界は業績悪化から、今までのように基礎研究分野への投資を減額せざるを得ない状況にあります。しかしながら、今後も地道に研究活動や産学官の協力関係を構築していかないと、どんどん先進国から取り残され、並の国になってしまうでしょう。

リストラの荒波の中で

 戦後最悪の苦境に直面していると云われる日本の産業界、多くの企業が希望退職、早期退職、大幅人員削減を余儀なくされています。したがって、個々人が生き抜く魅力ある技術力を構築しておく必要があります。また、履歴書に書けるようなキャリアを持っていなければ通用しなくなってきました。日本の代表するNECが一万五千人、ソニーが一万七千人、日立四千人、、、、、、等、新聞には毎日のように大規模な人員削減が発表されています。皮肉なことに、このようなリストラを大胆に敢行している企業の株価は、最近上がりだしています。一方、躊躇している企業に対しては無反応か、じり安の状態です。外資系の企業のリストラは、すでに二年くらい前から始まっていました。早期退職者には割増金をと、入社数年の二十五歳以上の一般職、三十歳以上の総合職全員に手紙が出されたと聞いていました。今年に入ってからは、当たり前のように頻繁にこの種の記事が出るようになってきました。安全失業率は当分の間上昇を続けるでしょう。最早、サラリーマンは一つの会社に終身雇用される確率が減り、従来の雇用慣行が大きく変わること、組合活動の限界を認めざるを得なくなってきています。日本のこれまでの終身雇用制から人材の流動化の流れをくい止めることは最早不可能なのでしょう。この荒波を乗り切るには、技術者は、したがって売り物に出来る誰もが買ってくれる高い技術能力を付加するしかありません。

資格取得の吟味を!

 最近のように景気が停滞し、人員削減、学生にとっては超氷河期と云われる就職状況下においては、少しでも自己の品質を上げるため?各種の資格取得が流行ります。私の後輩の中にも学生時代から片っ端から資格を取った資格マニアがいました。彼は十数種の資格を持っています。役に立つているのは、その中の一つか二つだけです。
 現在は、社員の通信教育費や講習費を会社が一部または全部を負担し、資格取得を奨励している会社が多くなってきているようです。また、資格取得後は特別手当や奨励金がでるようです。一般論としてはきわめて結構なことであると思いますが、資格取得に全精力を使い果たし、まるで受験生のような感覚で臨んでいる人もいるようです。資格が果たして真にその個人にとっても、企業にとっても、意味があるのか一度冷静に吟味する必要があるのではないでしょうか。不景気になってくると、とりあえず何でも資格を持っていれば自分のキャリアにとって、有利であるとの判断からブームになっています。このような風潮の中で人の心理を巧みに利用した、まがい物の資格講座がなかにはあるようですので注意して下さい。先日卒業生から電話がありました、電気技術者の資格講座のダイレクトメールが本人宛にあり、一週間以内に講座の登録をすると特典があり本校の卒業生で、すでに五人登録をしていると。人を疑わない、素直で正直な人ほど、まんまと罠にはまるのです。彼は私にこの種の資格講座を知っているか、電話をかけてきたので事なきを得ました。「講座をどう思いますか?」本人はだいぶ暗示にかかっているようであり、すぐにでも登録料を払いたいらしい。「気をつけろ!」 「今そのような悪徳商法が流行っているぞ」 暗示にかかっているようなので、強圧的に云っても埒があかないと思い、「俺の云うことが信用できなければ、ひとまず講座の主催者ではなく、その資格を認定すると記してある財団や法人の電話を探して、確認するようにと忠告をしておきました。一時間後に本人からメールが入り「先生ありがとうございました。先生の云うとおり、そのような資格は財団にないとのことでした」と、、、、  皆様も利口になりましょう。
 

急増する犯罪
関東学院大学
本間英夫

 
 最近、毎日のように凶悪な事件が報道されています。景気と犯罪の相関性は極めて高く、このまま雇用が停滞、あるいは更に減少する事により、米国並になることが危惧されます。世界一安全な国に陰りがさしてきました。九五年から九八年まで、犯罪は増加傾向にあり、特に青少年の犯罪が毎年約一〇パーセント増加しています。本年は景気の停滞に伴う新規雇用の絞り込み、完全失業率の大幅アップにより、更に犯罪が増加することは確実です。
 身の回りで犯罪に関わるような事件には、滅多に遭遇するものではありませんが、この数ヶ月でいくつかの事件が起こりました。5月の初め緊急の回覧板が回ってきました。自宅は静かな住宅街ですが、その近くで白昼に引ったくりがあったとのこと。過去にこの種の緊急回覧板など、回ってきたことはありません。また、両隣の家に空き巣が入り、現金その他を取られたとのこと。私の家が狙われないのは、あまりにも簡素で収穫が少ない思われたのか、玄関が側面の奥まったところにあり入りにくいからなのか、被害には遭っていません。
 また、研究室の学生が実験に没頭し、深夜の十一時過ぎ徒歩で帰宅の際、大学周辺のコンビニエンスストアーから少し離れた所で、前後から挟み撃ちにあって恐喝されそうになりました。こんな事件に学校の近くで遭うなどは初めてです。おそらく、私の予測では、本人は深く物事を考えるタイプなので、頭を少し前傾させ、とぼとぼ歩いて、決して頑強そうには見えなかったのでしょう。本人にもすきがあったわけです。後日何人かの学生とその話題になり、あのあたりは若者がたむろしており、気をつけなければならないとのこと。逆にその学生が皆から避難される始末でした。 
 更には、これこそ話題にしたくないのですが、最近大学のキャンパス内で、置き引き事件が起きています。学生の中にそんなことをするのはいないと信じたいのですが、他大学の先生に聞いてみたところ、同じ様なことが起こるようになったとのことでした。これこそ誠に残念なことです。
 幸いなこと?にサッカーの部室では、未だに一件もこの種の事件は起きていません。練習には四〇人くらい集まり、部室には私物が散乱しています。練習中、部室の鍵は開けっ放しで、格好の場を提供している?様なものです。あまりにも雑然としているからか、または見つかったら後が大変だと、敬遠するのでしょうか。いや、だいたいこの種の犯罪は部外者によるものではなく、内部の事情に詳しいものの犯行です。したがって、ある研究室で起こった置き引きも、ひょっとしてその研究室の中、または近くの誰かの仕業なのかも知れません。
 以前、小生の研究室でかなり高価なものがなくなりました。当時、中村先生にその件について話したところ、即座に内部のものである公算が高いので、あまり事を荒立てるな、と忠告されたものでした。小生はあまり内部の人間を疑いたくないのですが、色々訳ありのこともあるようです。そのようなことがあった後も、講義や実験室に出かける際いちいち部屋の鍵をかけることはしません。この件に関しては、ある先生からすきを与えているようなものと非難されたことがありますが、研究室の中にはそんなに現金はおいてないし学生を信じています。もしなくなれば何か事情があってのことと、事を荒立てないようにこれからもするつもりです。
 いずれにしても、モラルや価値観を醸成する場としての教育の欠落、その日暮らしの若者の増加、高等学校を卒業しても進学も就職もしない層が、九二年の四・七パーセントから九八年には七・九パーセントに達したとのことです。都心部ではこの傾向が更に強く、高卒無業者は二〇パーセントを超えていると云われています。日本の競争至上主義の歪みが、犯罪増加の大きな要因になっているのです。若者だけでなく中高年者による窃盗犯罪が多発しています。皆様の中にも、最近被害に遭った方が何人もおられるのではないでしょうか。

指導的立場の倫理観を問う
 
 最も嫌悪されるべきである高級官僚の収賄、民間企業の贈収賄、計画的な借金の踏み倒し、特に最近実施された無担保資金援助の踏み倒し、公的資金援助の流用などが、あまりにも多いのに驚いてしまいます。この種の犯罪は罪の意識がほとんど希薄で、中には開き直っている紳士の仮面をかぶった輩が多いのには、あきれかえってしまいます。社会的に地位の高い人が、なぜこんなに多くの犯罪をほとんど無自覚的に行われているのでしょうか。
 引ったくりや置き引き等の窃盗犯と比較して?社会的な断固たる制裁をしなければならないのに、日本の社会ではほとんど制裁が無く、地下に潜ってしまっています。マスコミは収賄事件やセックススキャンダルに対してモラルハザードとわざわざ英語を使い(斯く云う私もついつい使ってしまいますが)、英語で表現すると何かあまり悪いことではないような錯覚に陥ります。マスコミの頭のいい連中が、もっと的確な日本語を使って欲しいものです。
 精神文化より物質文化を求めてきた資本主義社会において、世界全体がお金に基づく危機的な倫理観、道徳観の堕落につながりました。特に日本では社会全体が堕落し、信頼収縮の状態に陥っています。 
 我々の大学は、キリスト教主義に基づいています。人間は本来罪人であると、だから自己を戒めなさいと説いています。現在日本の社会においては道徳教育がほとんどなされていません。あまりこの点を強調して清く正しく生きていこう、また、人と人との関わりはこうあるべきだと説いても、学生によっては白けた顔をしてしまいます。したがって、この種の会話は研究室の中だけにしています。研究室の中では研究に関する論議よりもこちらの論議の方が最近では多くなってきました。 
 また、私は卒業生が結婚する際に、よく貧しくとも心豊かにと言ってきました。しかし、生活も豊かになり、その言葉が通用しなくなり、最近では心豊かに生きましょうと、枕のフレーズを省略して祝辞にかえていました。しかし、今、正にその言葉が生きてきます。物質中心から精神的な充実感をもてる社会に、変えていかなければならないでしょう。

道徳教育の実践を

 昨年暮れ、日本経済新聞に興味ある解説が載っていました。いずれ参考にしようと、その切り抜きが私の鞄の中にずーっと入ったままでした。この文を書いているときにそれを思い出しました。その概要をここに少し示します。 
 それは、東洋大学教授の中里教授らによる「思いやり意識」に関する、一〇年がかりでまとめられた国際比較調査のものです。その調査によると、日本の若者の他人に対する思いやり意識は、調査対象とした米国、中国、韓国、ポーランドなど七カ国中、最低水準だったとそうです。調査は、各国合わせて6千人余りの中高生を対象に 一、目の前で人が倒れたときに助けるか。二、乗り物で席を老人に譲るか。三、困っている人に食べ物を分けるか。四、寄付やボランティア活動をするか等の、社会援助に対する意識を調べたものです。日本の若者は総合得点で七カ国中最低。売春や薬物使用等の非行への許容度も高く、他人の事に対して我関せずなのです。日本の若者のモラル喪失は、バブル経済とその崩壊に伴う、日本の社会空間の変質と深く関わっている事を浮き彫りにしていると考察しています。
 読者の多くは、韓国へ出張や観光で出かけられて気づかれたと思いますが、地下鉄で老人が乗ってくると即座に若者は席を譲ります。日本では席を譲るどころか、車内で大きな声をはりあげて会話をしているか、または携帯電話に夢中になっている始末です。公共の場で何をすべきか、ルールは何か全く分かっていません。だからといって、今の若者を責めるのはあまりにも短絡的です。社会が、家庭が、学校教育がそのような若者を作り上げてきたわけですから、多いに反省し、道徳教育に力を入れるべきです。
 この点では、東京都の知事になった石原さんが、盛んに道徳教育の必要性を訴えていましたが、早期に実施してもらいたいものです。文部省も動くでしょう。波及効果は絶大でしょう。日教組が、いつも過去の歴史的背景から、被害妄想的に軍国主義につながるとして、諸手をあげて賛成していないようですが、そのような中途半端な教育こそが、現在のモラル低下の原因になっているのではないでしょうか。
 個人の競争原理が優先するような社会を作り上げてきた体制から、社会との共生、公共精神を醸成する努力が、今後、更に続けられねばならないでしょう。 

株価が示す今後の景気動向

 五月上旬にやっと平均株価が終値で一万七千円を回復しました。と言っても、バブル絶頂期の未だ半値です。一〇年以上にわたる株価の低迷は、一般の投資家の失望感から、徐々に市場から遠のいていったように思われます。確か過去一〇年ほど前まで、一般投資家は全体の二〇パーセントを超えていたと思いますが、現在はどうなのでしょうか。圧倒的に、国内および海外の機関投資家により売買されているようです。
 一般の投資家の市場参入を容易にするために、昨年の一二月頃から、銀行でも投資信託の委託業務が始まりましたが、あまり効果がないようです。銀行によって、投信販売に対する取り組み姿勢に差があります。預金と異なり投信は元本保証でなく、価格変動も大きいので商品の紹介には、どうも慎重になってしまうようです。銀行はノウハウを持ちませんし、委託業務ですから力も入りません。冷やかしのために、いくつか窓口で聞いてみましたが、あれでは誰も魅力を感じないでしょう。とどのつまり、潤沢な資金とノウハウを持った外国投資顧問会社や、証券会社に座を譲った格好です。実際、今年三月現在で、金融機関の窓口で販売された投信は、全体のおよそ一・四%にすぎず、証券会社には全くおよびません。
 また、一般投資家を育てようと、証券業界で単位株数を下げて購入しやすくする措置も取られていますが、所詮そんなことをしても、あまり意味がないように思えます。金利がこんなにも低下しているにも関わらず、経営者以外の一般の人々は銀行に預けるしか方法がないと保守的になっています。では一体、銀行や生命保険会社に預けた金はどこに行くのでしょうか。これらのお金は、ほとんどが機関投資家による資金として市場に回っています。
 思い起こして下さい。バブルの寵児と揶揄されたか忘れましたが、リクルート事件に端を発して、一時は三万四千~五千円していた平均株価が(私の記憶では当時五〇〇円以下の銘柄はなかった)、ずるずる落ち始めました。バブル崩壊後、少しバブったほうが株価も上がり、景気のためにはよいのではないかと、一部の経営者が思っていました。しかし、市場はそんなに甘いものではありませんでした。その後バブルの後遺症ともいえる拡大路線のツケ(土地や不動産の買いあさり、大幅な設備投資など)、それに伴う金融破綻で株価が売りたたかれ、含み資産の低下、更には大量の不良債権化により、全く株価はここ十年間、ほとんど反転しませんでした。やっと、この危機的状況の中で日本そのものが破綻する直前になって、政府がいろいろな対策を講じました。
 市場にはこれ以上悪くはならないだろうと、外国からの年金を中心とした機関投資家の買いが入り、現在のように若干株価が上向きだしました。ひょっとして、もうこのような絶好の買い場は無いかも知れません。未だ投資の経験のない人も、以前に失敗した人も、思いきって投資してみませんか。戦後五〇年以上続いてきた恒常的な右上がり成長は期待できないとしても、銘柄を厳選すればその企業、またはその産業の進展とともに、株価は上昇するでしょう。この十月から株式委託手数料が完全自由化され、証券会社によっては大幅に手数料を下げる計画がすでに公表されています。中堅の松井証券が、おそらく最大の手数料引き下げを断行すると云われており、最大の値引率が74%になるそうです。この会社は支店や営業マンを持たないで、すべてインターネットや電話による通信取引に特化しているそうです。顧客の口座数は三万件ですが、これからはインターネット取引が増加し、値下げをしても利益が出ると踏んでいます。米国のデルコンピューターと提携し、投資家向けにパソコン販売も手がけています。
 米国ではすでに個人投資家がパソコンでインターネットを介して売買している比率が、二〇%を越えているとのことです。日本でも各証券会社が、ホームトレードと称してパソコン取引のキャンペーンを展開してきましたが、現在のところあまり普及していません。投資家の層で、パソコンを駆使できる人がまだ少ないからでしょう。私の経験では、証券会社によってはパソコンを利用しない電話回線のホームトレードですら、いつも受け付け番号が一番で、全く利用されていない会社もあるのです。最大手でも、バブル絶頂期は受付番号が数百番であることが多かったのが、最近までは数十番です。日本では、まだまだ個人投資家の中で十分に利用できる人は少ないのでしょう。しかしながら、松井証券のように完全に特化してしまえば、十分にビジネスとしてやっていけるのでしょう。そういえば、松井証券は日経などの広告欄に、盛んに宣伝していたと思います。インターネットですから登録も簡単に出来ますし、全国どこからでもアクセスできますので、今後は株価情報、財務情報等の投資情報もインターネット経由で提供するとのことで、大きく躍進するのかも知れません。
 我々は、資本主義の社会に生きています。投資はギヤンブルではありません。この十年間でおそれをなした方が多いのかも知れませんが、その間でも成長企業はありました。本誌は表面処理に携わる方々の月刊誌ですから、果たしてこの種の話題を提供することは慎まねばならないのかも知れませんが如何でしょうか。 
 
 ちょっと紙面に余裕がありますので、三菱総研相談役の牧野昇さんの投資に対する記事が、日経のコラムに出ていましたので引用いたします。 
「確かに、投資のための勉強は大切です。でも、投資行為で最終的にものを云うのは、その人が持ち合わせた「勘」だと考えます。これは先天的のものですが、磨くことで培われます。四〇代のサラリーマンの人に云いたいのは「勘」を鍛えるために、敢えて無駄遣いをしなさいと言うことです。趣味でも読書でもいい。酒場で飲むことでもいいんです。常に遊び心を忘れずにいることが、意外と投資に役立ちます。私も七十歳を過ぎました。半年ほど前、はじめて投資をしましたが、その後株式相場が上昇基調となり、利益があがっています。相場が上昇し、多くの人の買いが入るようになってからでは、成功の可能性は大きくありません。景気低迷のなか、いつが買い時かを判断するのは最も難しいのですが、私にとってその判断を下す最大の根拠は、普段の生活で培った「勘」なのです。」 
 最近、東大や東工大でも、米国のスタンフォードやその他で研究された、高度な数学を駆使する金融工学の講座が開講されたとのことです。牧野さんの云っている「勘」が勝るか、数学が勝るか。株は「勘」、デリバティブのような複雑な金融商品は、金融工学が勝るのでしょう。
 

新時代の曙光
関東学院大学
本間英夫
 
 経済に関しては、ここ数年間、暗いニュースの連続でした。地価の大幅下落、失業率の増加、金融機関の破綻、消費マインドの冷え込み等々。しかし、いつかマイナスはプラスに転じます。昨年から今年にかけての経済企画庁が出した景気判断キーワードを、ピックアップしてみましょう。

 月例報告で示された景気判断の変化
九八年一月 このところ足踏み状態
 二月 このところ停滞
 三月 引き続き停滞
  四月 停滞し一層厳しさを増している
  七月 停滞が長引き引き続き厳しい状況
  八月 低迷状態が長引き、はなはだ厳しい
      状況
 九月 低迷状態が長引き、きわめて厳しい
      状況
十二月 一層の悪化を示す動きと幾分かの改
     善を示す動きが入り交じり、変化の
     胎動も感じられる
九九年三月 このところ下げ止まりつつある
四月 下げ止まりつつある
六月 下げ止まり、おおむね横ばいで推移

 景気の大きなうねりの中で、本年の四月頃に底を打ったとの解釈が、これらのキーワードから読みとれるのではないでしょうか。現在は将来に向けて、より強い体質を構築する試練の時期です。
 失業率の増大は、社会の構造の変革期においてどうしても避けることが出来ません。現在(六月中旬)大学生の新卒者の有効求人倍率が〇九九、本年はかなりの学卒者が、職にあり就けないのではと心配です。今年はいち早く学生の就職について手当をしました。本当は彼らの能力や、適正がどこにあるか判断するには、もう少し時間が必要なのですが、中間報告会を例年より早く行い、彼らの能力を確かめ、企業を選択することにしました。
 本然は、小生からお願いできる会社は例年から比べると少ない、というよりもお願いしづらい状況と判断しました。案の定、学生主導で受験したところは、ことごとく不合格の通知をもらいました。彼らのほとんどは、三年間遊ぶことに精を出し、英語を初めとして基礎的な能力は低下しています。おそらく、面接で自分をアピールする事もできていないでしょう。しかし、彼らに目的意識を持たせると、見違えるように能力が付いてきます。大学四年になるまでは、モチベーションが見いだせなかっただけなのです。最後の大学生活で自己研鑽に努めるようにし向けています。
 私は決して研究に対して、彼らを道具に使うようなことはしたくはありません。成果をあげればよいとするやり方は、結果的には逆に成果が出ないものです。朝は相変わらず九時過ぎから約一時間、英語の基礎勉強をやらせています。これが配属前の三年生はたまらなく嫌で、研究室の評判は決してよくないようです。今年は特にその傾向が強かったようです。それでも私は学生に迎合しません。
 一つの信念のようなもので、英語くらいは若干話せて論文が読めるようになって欲しいのです。大学院の学生の中で、英会話の学校に通うものもでてきました。どのやり方が良いか、自分で経験してみる必要があり、それぞれの学生間で切磋琢磨する雰囲気が出来てくることは、多いに結構な事です。学生時代に自分の将来を深く見つめ、何に向いているか、何をやっておかねばならないかを考えさせるためにも、就職試験の為だけに時間を費やすようなシステムは、改善の余地が大いにあると思いますがいかがでしょうか。
 最近は、ピンポイント採用をする会社が少しずつ増えてきていますので、学生は十分に研究活動に専念できます。特に大学院の学生は学部時代の一年間(卒業研究)とマスターコース二年間で私自身驚くほど成長します。
 さて話を戻しますが、護送船団方式の行政はたちゆかなくなり、金融システム安定化の枠組みも整備が着々と進んでいます。従来型の既得権益ごね得型から、制度の改正、規制の見直しをもっと徹底してやってもらいたいものです。
 今回の不況が終われば大きなプラス転換は確実です。現在の不況はそのための誘導期です。新しい時代の曙光を見いだすべく、悲観的なマイナスの諸現象をプラスに転換して行かねばならないのです。

科学技術の醸成

 最近、次世代の産業を育成するためには、基礎研究機関を充実させ、研究レベルを高めねばならないという論調の記事が多くなってきています。また、基礎研究の成果を応用に結びつける期間も、年々短縮される傾向にあります。
 前回も述べましたが、日本を代表する企業においてすら、基礎をスキップして迅速に応用や生産をする、いわゆる垂直型の立ち上げが強く要求されるようになってきています。したがって、基礎研究の進展が期待できるのは、益々大学と国公立の研究機関ということになります。国が掲げている重要分野は生命科学、情報通信、環境科学、超精密技術等です。国レベルで、世界に通用する大規模な研究機構を構築してもらいたいものです。
 私はこの原稿を書くのに月に一度、草津の近くの山小屋にこもって、ない知恵を絞っています。たまたま、草津温泉を世に大きく広めたベルツ博士の日本在留二五周年記念祝賀会の演説文を切り取ったものがあるので、紹介いたします。
「日本人は、西洋科学の起源と本質に関して誤った理解をしている。西洋科学は、傑出する学者が幾千年の努力の結果得たものである。西洋諸国はその種子を日本にまき、樹木が生長するように教師を送ってきたのに、日本人はその精神を学ぼうとせず、科学の果実のみをかりとろうとしている。」
 これは明治三四年およそ百年も前の忠告です。現在でも通用する忠告です。製造から創造へ、日本の科学技術をじっくりと育て上げる環境が今、正に必要なのです。

日本の電子部品産業

 カラーテレビ、VTR、ステレオなど既存のいわゆるAV機器は商品としては成熟し、最早、頭打ちです。次の商品としてのデジタル機器へ転換した企業は、更に高度な成長を続けています。
 現在は携帯電話、デジタルカメラ、カーナビゲーション、MD、DVD等が急激に売り上げを伸ばしています。これらの機器を担う電子部品の製造メーカーの中でも、成熟部品だけを追っかけてきた企業は、完全に後塵を拝す結果となっています。
 日本の電子部品の世界シェアは五〇%と言われています。デジタル化に伴い、更にシェアが増大しているようです。デジタル化で更に小型、高速、高密度、低消費電力、低ノイズが求められてきています。日本の電子部品産業が、世界のエレクトロニクス機器を支えることが出来るのは、材料開発力および加工技術力が勝っているからです。技術に対する要求が厳しくなればなるほど日本の部品メーカは、強みを発揮しています。
 日本の電子部品メーカの中堅および中小企業が、セットメーカーからの厳しい要求に対して応えてきています。最近では、セットメーカーと部品メーカーが開発初期から、必要な情報を共有して事に当たっています。したがって、開発能力、生産能力、コスト対応能力が強く求められており、クリアーできた企業だけが益々活躍の場を広げるようになってきています。電子部品にめっきが多く使用されている今、正に優勝劣敗、思い切って積極策に出る時でしょう。

深刻に受け止める? 二〇〇〇年問題

 昨年あたりから二〇〇〇年問題の報道が活発化してきました。英語では二〇〇〇年(the year of 2000)でY2K(Kはキロで一〇〇〇を意味する)ワイツーケー問題とも言ってます。従来、コンピューターでは年号を表すのに下二桁しか使ってきませんでした。したがって九九から〇〇になってしまい二〇〇〇年と一九〇〇年を間違えて、誤動作する可能性が高いのです。
 この二〇〇〇年問題、すでに米国では誤動作による不安から、コンピューターのプログラマーが、身を守るために砂漠地帯に移動式住宅を造り、毎週その準備に出かけているといいます。これは極端な例ですが、二〇〇〇年問題での生き残りを身近な問題として考える人が増えてきています。
 大型の小売店には、避難用具や非常食を集めた生き残りコーナーを準備しています。これは、昨年あたりからメディアが最悪の事態を報じてきたからでしょう。
 電気、ガス、水道のストップ、交通機関の混乱、通信機能のダウン、預金データの消失等々。預金データの消失の不安から、年末十一月頃から十二月にかけて、一斉に多額の預金が引き出されたらどうなるでしょうか。飲料水や缶詰等の非常食を買うために、スーパーに人が殺到したらどうなるでしょうか。年末、ガソリン確保にと、皆がスタンドに駆け込んだらどうなるのでしょうか。
 社会心理としての人間の行動パターンについては、すでに日本でも七三年、あのオイルショックが産み落としたトイレットペーパー事件で実証されています。家庭の主婦がトイレットペーパーを確保するために、スーパーの店頭に朝早くから並んで、一人ワンパックを手に入れたものです。
 昼間は、店頭からすべてのトイレットペーパーが消えてしまいました。米国では、政府が年末にかけて想定される最悪のシナリオを描いています。
 一、物不足 生活に欠かせない物資は需要が集
   中し店頭から消える。
 二、通信機能のマヒ 物資の需要が追いつかな
   いので物流ネットワークが滞る。したがっ
   て情報確認のアクセスが殺到し通信機能が
   マヒする。
 三、物価高騰、生活物資の需要増から急激なイ
   ンフレがおこる。
 四、暴動 買いだめ商品を求めて店頭に殺到、
   混乱から暴動が生じる等々…
 日本でも三菱総研が、二〇〇〇年問題で不安なことは何か調査をしました。その結果、銀行振込の不安が五〇%、交通機関に対する不安が四〇%、クレジットカードの有効期限や病院の機器の誤動作に対する不安が四〇%弱と、日本でも情報の開示とともに不安が高まってきています。

二〇〇〇年問題に対する企業の対応

 本誌を読んでおられる方々の中には、経営にタッチされている方が多いので、私がここに書いたことなど、とっくの昔に対処済みだよと、お叱りを受けるのかもしれません。 
 六月中旬に郵送されてきた各企業の決算報告書には、一、二社を除いて全て二〇〇〇年問題の対策を進めている旨、付記されていました。
 聞くところによると、特に米国企業に部品、材料を供給している企業では、二〇〇〇年初めに何が起こるか予測できないので、最悪の事態を想定して在庫の増加、エネルギーの確保、すなわちガソリンの備蓄や停電時の対策として、極端な場合、自家発電装置を持っているか、そのほか綿密な計画が分野毎に、ありとあらゆる事を想定し、着々と実行に移されているとのことです。このようなわけで企業によっては、八月以降から二〇〇〇年問題の特需が起こるとも云われています。

身の回りでの二〇〇〇年問題

 十二月三十一日の夜、時計が十二時を告げる。まるでシンデレラ劇のように! 九九から〇〇に変わるその瞬間、各種の電子機器は誤動作する。怖くなってきます。まず一番簡単なことから、文字化けです。研究室にあるコンピューターで制御している機器の中でいくつかは確実に文字化けします。プログラムでその対策は出来ていません。実害がありませんからそのままお使い下さいと、これなどは他愛のないことですが、生活の根幹を担っている電気、ガス、水道がストップしたら、正月早々から暖房はなく、風呂にも入れず、冷蔵庫、特に冷凍室からは解凍され水分がしたたり落ちる。電話はどこにも通じない。交通機関はすべてマヒ。車で出かけようとすると、信号はすべてストップ、危険で走れない。ジェット機はすべてコンピューターでコントロールされているため、あわや墜落事故。
 最近の医療機器は、これまた、すべてME
(Medical Electronics)、手術中に誤動作しないとはいえません。しばらくは健康に留意して、家の中で自給生活を送らねばならないでしょう。
 ある程度落ち着いたからと、銀行で預金を確認、なんと預金が全部消えている。愕然! 誤動作よりも、この種の不安に対する諸々の行動の方が、
一九九九年問題として年末までに大きくなることが危惧されます。対策は着々と進められ、現実は何も問題が起こらないことを願っています。
 また、単にこれらの問題を煽って、したたかに利益を上げようとしている集団の思惑に、踊らされているのではないかと云う人もいます。実際二〇〇〇年対策ビジネスが盛況だとのニュースも流れています。
 個々のパソコンの中に潜む問題を把握して、解決策をアドバイスするパソコン用のソフトが六月の中旬に発売されました。このソフトは米軍や世界銀行で、すでに使用されており、日本語に対応したソフトがイギリスのソフトメーカから発売されました。このソフトはハード構成や、ソフト環境が一台毎に異なるパソコンを対象にしたもので、データーファイルに存在するY2K問題を診断、対策を助言するものです。
 最もこのソフトは問題を発見するだけで、その問題が判明した後、年内に長大な業務用のデーターをいかに修正するかは、依然として問題とのことで、各社が真剣に二〇〇〇年問題に対処しなければならないわけです。

もっと問題か!もう一つの二〇〇〇年問題
太陽活動の活発化に伴う磁気あらし

 太陽表面の活動が活発化しており、来年一月から四月にかけてピークを迎えるとのこと。したがって、世界各地で電波障害など様々な影響が出るおそれが指摘されています。これはデマではありません。れっきとした米天文学会での、米海洋大気局の研究チームによる報告です。
 太陽活動は、約十一年周期で盛衰を繰り返します。来年はその極大期にあたるのです。太陽活動は、磁場の変化に関連した現象で、ピーク時には黒点の数が増大します。活動が激しくなると大量の電子線やエックス線が放射され、地球は磁気あらしにさらされることになります。
 特に懸念されるのは、飛行機や船舶が自らの位置を確認する、全地球測位システム(GPS)の混乱でしょう。また携帯電話の不通、北極に近い高緯度地域における大規模な停電等々も挙げられます。
 実際、前回の磁気あらし(一九八九年)では、カナダのケベック地方や米北東部の送電線網に異常電流が流れ、広域で停電しました。
 今回は当時とエレクトロニクス化が比べものになりません。電磁波による障害については、私がここで解説する必要はないでしょう。読者のほとんどが、めっきと電磁波の関わりを知っておられるので、これだけの情報から直ちに、こちらの方が、むしろ二〇〇〇年問題として深刻なことが解っていただけると思います。
 そういえば最近、私のカーナビのGPSが時々誤動作します。来年、この期間は飛行機に乗るのをやめた方がいいのかな?しかしあまり煽ってもいけません。それこそコンピューターの
二〇〇〇年問題と同様、飛行機での旅行を控えたり、そのほか予測される影響を列挙すれば、景気への影響は甚大となるでしょう。
 しかし本当に今回は、 エレクトロニクス化が進んでいるので、ちょっとしたノイズで大事故が起きるかも知れません。これからは宇宙天気予報に毎日アクセスしなければならないのでしょうか。
 

携帯電話四千万台突破
関東学院大学
本間 英夫
 
 携帯電話の契約台数は四千万台を突破し、若者の必携アイテムになりました。機能も益々充実し、とどまるところを知らない勢いです。若者は単に便利なものを使っているだけですから、彼らの望むであろう機能をどんどん付加していけば、それ以前の製品は陳腐化し新製品がジャンジャン売れることになります。
 商品としてのハードの寿命はきわめて短期で、この分野の関連産業は超多忙の状況です。学生の中にもこれで三台目で、また新しいのに変えようかなと言っているものもいます。昔レコード、今CDのヒットと言えばせいぜい二~三百万枚でしょう。これと比較しても超大型商品なわけです。パチンコ産業が数兆円の産業と言われておりますが、これと比較してもハード面でも特にソフト面でも桁が違ってくるでしょう。
 しかし、古くなったハードとしての携帯電話は、どのように処置されているのでしょうか。現在は未だ、使い捨てカメラの初期段階のような状況で、そのままゴミとして捨てられているのではないでしょうか。携帯電話としての機能が限界まできたところで、リサイクルの考えを入れるようになるでしょう。しかし、現在は各社が競って機能のアップに専念しています。
 中身の半導体を初めとした、各種の電子部品は益々小さく、配線ラインの幅はどんどん小さくなり間隔は益々狭くなってきています。技術と要求のテンポに乖離が出てきており、したがって、商品化にあたっての歩留まりは低下し、関連の技術者は毎日悪戦苦闘なのではないかと推察いたします。
 配線板に関して各領域でのロードマップ作りの委員として、昨年から参画してきましたが、先日ドラフトができあがり、本年の後半にはリリースされるでしょう。ロードマップ作りにおいては、あくまで将来予測ですから、技術がそれについていかない限りは絵に描いた餅になります。この分野の技術開発テンポがその要求に応えていけるのか、多少心配なところもあります。
 確かに作動を司るCPUの処理速度、およびそのハードの製造プロセスは確立されていますが、周辺の技術が果たして追従できるか心配です。最近、めっき技術がこれらを製造する上での要素技術として注目を集めていますが、技術者の養成が出来ていないのが現状です。「頭ではこうすればこうなるぞとマップはすでに描かれているのですが。」
 技術にはマッチングが不可欠で、メインの技術ができあがっていても、その周辺の技術がそこまでの水準になければ対処できません。めっきを中心とした技術水準を向上させる体制を、固めて行かねばならないところにきています。今までは材料を薬品メーカーから仕入れ、装置を装置メーカに発注して、ほとんどが業者任せで何とか製品を作ることが出来ましたが、これからはお互いの技術力やノウハウを持ち寄って、強固な協力体制の下に進めていかないと益々困難な壁にぶちあたるでしょう。
 それと忘れてはならないのはクリーン技術です。リサイクルを始め、環境に優しい物作りを設計の段階から製造最終製品までの、プロセスすべてについて考慮しておかねばならないでしょう。

プリペイド携帯電話は成功するか?

 最近携帯電話に関して新しいビジネスが出てきました。プリペイド(前払い)携帯電話です。プリペイドカードをヒントにした新しい手法です。関西では昨年の十月にすでにプリケーという名前で発売されているとのことです。関東ではテレコムサービスが「プリペイドもしもしフォン」という名前で販売しているとの事ですが、学生に聞いても誰も未だその商品を知りませんでした。
 五月の初めに、ツーカーセルラー東京が参入し、認知度が大幅に上がる可能性があります。(ひょっとしてこの原稿が皆様の手元にはいるのが8月下旬になりますから、もうこの話題は陳腐なものになっているかも知れませんが。)参入業者の市場開拓戦略が大きくこの商品をのばせるかにかかっているのではないでしょうか。
 システムや料金は業者によって若干の違いはあるようですが、プリペイドの専用カードをコンビニエンスストアか代理店で購入します。そこに印刷されているカード番号を専用の携帯電話からセンターに登録した後は、プリペードカードに支払った金額の通話が出来る仕組みになっています。
 この商品の利点は、契約時に面倒な手続きがいらいないようです。まず専用の携帯電話を購入しなければなりませんが、加入手数料は無料、身分証明書も銀行用の印鑑もいりませんし、名前を尋ねられることもなく、解約の手続きも一切不要です。短期の使用者や短期滞在の外国人にも便利でしょう。
 ここで問題になる専用の携帯電話の値段が、充電器や付属品付きで、なんと一台480円、また、解約して使用していない電話があれば、無料でプリペイド式に変更してくれるとのこと。携帯電話も使い捨てカメラ並に、手軽に買える時代に入るのかも知れません。
 そういえばこれに類似したプリペイド方式で、国際電話がどこからでも、どの電話からでもかけられる方式が、もうすでに何年も前から米国で採用されています。それこそコンビニエンスストアのようなところ(私は大学のキャンパスで購入しましたが)でカードを買い、そのカードにはマスクされた番号が記載されており、その番号を業者の連絡先にプッシュホーンで連絡すれば、即座に国際電話が出来るものです。これはATTがやっているのではなくインターネットを介した業者が、デジタル回線でつなぐ方式のもので、一般の電話を利用するよりも五倍くらい通話できたと記憶しています。米国に出かけられたら是非試してみて下さい。

オペレーティングシステムとは

 コンピューターを作動させる心臓部分の制御を行う基本ソフトのことを、オペレーティングシステム(OS)と呼ばれています。ユーザーである我々が、コンピューターの利用を出来るだけ容易にするために作成されたソフトで、かの有名なビルゲイツが開発したWindowsやMac―os、Dosなどがあります。
 コンピューターの心臓部を握るということは、コンピューター産業の鍵を握ることになります。この基本ソフトのOSの上で特定の目的のために動くのが、アプリケーションソフトと呼ばれ、一太郎やワード、エクセル等多くのソフトが市販されています。我々のような実際のコンピューターの使用者は、アプリケーションソフトを利用しており、OSを利用しているわけではありません。いわばOSは黒子のようなものです。
 OSはコンピューターの機種や部品に関係無しに汎用性を持たせており、作動心臓部を握っていますので、いくら望むアプリケーションソフトを持ってきても、この基本ソフトを使用しない限りは、全く作動させることが出来ません。したがって、ビルゲイツを代表とするマイクロソフト社がOSの分野で圧倒的なシェアーを持っており、アプリケーションソフトの分野においても多くのソフトを提供しています。当然の事ながら、莫大な利益をあげることが出来るわけです。
 しかし、昨年UNIXという言葉がよく出るようになりました。このソフトは、玄人向けのものでコンピューターに詳しい連中はかなり以前から使っていました。これもOSの一種で、AT&Tのベル研究所で開発されたものです。
 そもそもベル研究所が企業と共同で、ひとつの大型コンピューターを、複数の人間で使うためのOSを開発していたのですが、失敗に終わりました。ベル研究所の二人の研究者が、その反省を活かし、新たに開発に着手したのが始まりだったそうです。しかし、UNIXは使用するコンピューターのスペックが高くなければならず、またネットワーク使用を前提としていますので、その方面以外での他のOSの開発が進められてきました。やがて、パソコンの高機能化、高速度化、大容量化が進み、PC―UNIXと呼ばれるパソコン上でも作動するUNIXが世に出て大変なブームになりました。
 その中心になっているのが、LINUXと呼ばれるソフトです。九一年にフィンランドヘルシンキ大学の学生によって、その基本となる核がインターネット上で公開され、全世界に広がりました。マイクロソフトが独占してきた市場の中に、「OSは公共財であり,広くオープンにすべきである」との観点から、インターネットを介して世界中に、このテキストベースのプログラムコードが配信されました。各国で活動が開始され、ユーザーが実行ファイル形式に変換し、全世界で七百万人以上が使用、改善をしているとのことです。企業が数百人で創るのと、その数万倍の一般ユーザーが創るのとでは商業的な外見においては見劣りしても、機能面は痒いところに手が届くといったところでしょうか。
 UNIXをベースにしているので、ネットワークのサーバー分野では威力を発揮しています。したがって、昨年の後半頃からLINUX対応の製品が発表されだしました。米国では、IBMを初めとしてインテル、ネットスケープ、コンパックなどが対応しています。日本でも日本IBM、日本ヒューレッドパッカードなどが対応し、どんどん広がりをみせています。

ナビゲータは便利ですよ

昨年十一月景気が最悪の時、一人でも景気浮揚とばかりに、ナビゲーターが純正品で付いている車を購入しました。ナビゲーターは、ドライバーがそれに集中してしまい、事故率が高くなるとのデーターが出ていますが、おそらく未だ使用法になれていない運転者の、事故率が高いだけなのではないでしょうか。 
 慣れてしまえばプラスマイナス数メートルの誤差範囲内で、目的地に的確に到着しますので、逆に事故率は低下すると思います。ただし、最近の機器はいずれもマスターするまでには、どうしても時間を要します。ナビゲーターを初めとして、コンピューターにしても、ちょっとしたハイテク機器はすべてに、機能を必要以上に付加していますので、取扱説明書が分厚く初めから読む気になれません。
 ナビゲーターもコンピューターのヘルプ機能のように設定が簡単になれば、機械に弱い年輩者も使うようになるでしょう。
 昨年までは地図を頼りに、初めての場所へ出かけるときは緊張の連続でした。また途中で駐車して地図で確認したり、近くの人に場所を尋ねる必要がありましたが、全くその必要はありません。全国の道路網、農道や林道まですべて網羅されています。ディスプレーに示される道路地図を見なくても、音声案内を頼りにその通りに車を進めればよいのです。
 先日、サッカーの試合で筑波大学へ行きました。試合が一時から始まりますので、車で行くとしても、当日では朝早く起きて部員全員を集めて行動しなければならないので、試合の前日に筑波大学の近くの、最も安いホテルに泊まることにしました。ホテル探しは、インターネットを通じて行い、その中で一番安く、また大学に近いホテルを選びました。インターネットの情報には、電話番号と住所が出ていましたので、それを頼りにナビゲーターを設定しました。勿論、部員は誰もそのホテルを知りませんので、私が横浜から先頭にたち、四、五台の車をガイドすることにしました。目的地に着いたのが夜遅くでしたが、どうも音声案内通りにぴったり止まったのに、ホテルの場所がよく分かりません。そこで、その路上のコーナーに車を止め、そこから携帯電話で確認しましたところ、ホテルの案内の人は、説明に困っていました。なんと、こんもりとした木々に隠れてそのホテルが見えなかっただけで、ホテルの目の前に着いていたのです。
 これから更に、ナビゲーションのソフトのバージョンはあがるでしょうが、現在のものでも十分に的確に案内してくれます。運転に専念出来ますのでより安全にドライブできると思います。実体経済の浮揚のためにみなさんご自分の車につけましょう。
 

技術のマッチング
関東学院大学
本間 英夫
 
 これからの製造業は効率追求から、創造追求型の時代に入りつつあります。これまで日本が積み上げてきた技術はもちろんのこと、資源のない日本はもっと創造的(クリエイティブ)にならなければいけません。テレビ番組や新聞、雑誌を通してエコノミストの話は経済問題を知る上においては勉強になりますが、本誌の読者は、むしろ直接製造業にタッチされている方が多いので、虚学ではなく実学を通して培われている工学家の話も多いに聞いたり、読んだりすべきではないでしょうか?
 事実に即した現実的なアプローチはワクワクします。ただし、この種の話を聞く機会が少ないのが現状です。また、エコノミストによる、話題性のある書物は氾濫していますが、現役の工学専門家は、表現が豊かでなく、直接的で稚拙なためか、あまり登場してきません。
 さて、本題に入りますが、高度化した製造業において技術、道具、人材等すべての要素のマッチングがとれなくなってきているように感じます。
 一例を挙げれば、パソコンなどのCPUは高速になってきましたが、その速度に対して、周辺のデバイスのマッチングがとれなくなってきています。皆様の会社でもマッチングがとれていない技術や、業務が意外と多いのではないでしょうか。アイデアから新技術の創生にいたるまでは、数多くの要素技術を、いかにマッチングさせていくかが重要です。
 先日、ある大手の半導体関連企業の社長と話す機会がありました。最近、日本に残っている技術は難しいものばかりで、限界にきている。従来のような積極的な設備投資は出来なくなってきた。設備資金の回収が終わっていないのに、次の技術に着手しなければならない。リスクが大きすぎる等々です。
 バブルの後遺症である不良債権処理を初めとした、金融機関や企業の大幅なリストラが進められておりますが、本格的な景気回復には新規の設備投資が必要です。しかし、資金の投入と回収のマッチングが取りにくくなってきており、経営者は思いきった投資意欲が出てこないのです。
 また、ある大手メーカーの技術者が曰く、潤沢な研究開発費を使えたのは過去の話。基礎研究の出来る環境はどんどん制限され、垂直立ち上げを余儀なくされてきていると。これは、金融破綻の後遺症によるもので、経営者と技術者の間のミスマッチに他なりません。汎用技術は、猛スピードで海外にシフトしています。しかも最近では、かなり高度な技術もシフトしだしました。
 世界技術年鑑によると、日本の科学技術力はアメリカについで2位、非常に高い技術力を持っていると云われています。確かに、世界一の技術力を誇示できる領域がありますが、至る所でミスマッチが生ずるようになれば、ずるずる引きずり落とされるでしょう。
 政府は、昨年あたりから新産業の創生、技術力の更なる高度化を期待して、大型プロジェクトに対して産業界、大学に多額の助成金を供給するようになりました。それがキチンと機能し、成果を収めることが出来ることを期待します。
 前報でも若干皮肉めいたことを書きましたが、環境だけを整備しても、そのプロジェクトを推進する方々の情熱的、献身的な努力が無ければ、事はうまく運びません。ここに実は人のミスマッチ、人材不足が内包しています。


学生の教育を 

 私には、とても億単位のプロジェクトを組む力量はありませんので、弱者のひがみになるかも知れませんが、少ない資金の中でキラリと輝くものを探したり、道具がないからこそ、ない知恵を絞って、あっと驚くような新しい発見につながる研究をしなければならないと、日夜努力しています。
 高級な道具がないからこそ、知恵が出てきます。学生にはあれがないから出来ない、これを買ってくれと云う前に、自分で道具を工夫するように指導しています。しかし、最近の学生は、生まれてこの方、全く苦労を経験していないので、自分で考える癖が備わっていません。三年間遊びほうけてきた学生たちを、一年間で鍛え直すのは、かなりのロードですが、皆、素直によくついてきます。卒業する間際には、かなり自信を持って紹介できる人材になっていると思います。これこそミスマッチはないと確信します。
 現在は大学卒が五五万人。博士前期課程(修士課程)修了者五万人、博士後期課程(博士課程)修了者一万人。このように学部を卒業した学士は大衆化し、技術者としての採用が修士修了者にシフトしているのが現状です。大学の先生方が、大学が大衆化したからと学部の学生に対して、技術や研究の訓練を怠る傾向は、ミスマッチを更に増大することになります。厳に慎まねばなりません。

日本の技術力

技術年鑑によりますと、日本は技術力が二位である事は前述しました。日本とアメリカを比較しますと、エレクトロニクス、材料プロセスなどではあまり差はありません。どちらかといえば、日本は資源がないので、資源、エネルギーの効率追求に関して、かなりの力を持っています。
 都市産業、土木系、公共事業などの土木産業に対して日本の力は高く、これら機械の輸出が伸びています。また、交通では新幹線の技術力は抜群のようです。これに対して、弱い所は情報関係とか生命化学です。もっとも、バイオ関係では日本酒醸造の力があるので、この点で日本は伸びていくでしょう。しかし、投資効率や雇用人数などを考えますと、今後はエレクトロニクスや福祉関連が重要になってきます。
 ここで少し、エレクトロニクス関連の技術にふれてみたいと思います。
 半導体産製造ラインを一つ作るのに、一千億円以上かかるとのこと。クリーンルームは付帯設備を入れますと、上下階全部で三フロア分必要となります。また、物作りをするための、いろいろ設備を導入しなければなりません。この二年くらいの間、連日のように半導体の銅配線にめっきが使用されると話題になっています。
 本誌にも何度か紹介されているダマシンプロセスがその代表格です。全ての製造プロセスは装置産業であり、莫大な先行投資にもかかわらず、出来上がったチップの価格はどんどん下がります。最初は二万円のチップが二年位で200円程度になってしまいます。結局、設備投資の回収が出来ません。したがって、垂直立ち上げが余儀なくされるのも理解できますが、これでは技術者も、たまったものではありません。
 各社ともこの領域は最高級の機密事項になっており、同じ問題を同時期に抱え、同じように、対策に苦しんでいるのが現状のようです。共同作業、協調は出来ないものでしょうか。そのためのコンソシアム作りが叫ばれていますが、日本で機能するにはもう少し時間がかかるのでしょう。
 読者の中には半導体の外装めっき、リードフレーム、プリント基板のめっきに関係のある方が多いと思いますが、これらの領域は変革期にあります。半導体の高速化、ファイン化に伴い、周辺の技術も難しくなってきました。新しいファインになった部品のめっき加工では、歩留まりが上がらず苦労の連続ではないでしょうか。
 最新鋭の装置を導入して、それに見合った薬品を買ってきて生産をやる時代から、もう一工夫しなければならなくなってきました。それが本来の技術の重要性です。今まで皆様の工場で技術をどれくらい重要視されていたのでしょうか。技術者の養成に力を入れてこられたのでしょうか。きちっと核になる技術を判断できる、また、その技術を更に発展させることの出来る人の養成が、これからは益々大切になってきます。
 すでに、企業間の格差が少しづつ現れてきています。これからは更に顕著に現れてくると思われます。
 いずれにしてもこの種の最先端の技術に、めっきが採用されてくることは、その業務に携わる皆様にとっても、今後事業を更に発展される上において心強いと思います。
 これだけ難しい技術が増えてきますと、専門にこれらの技術を請け負う技術集団組織を大学の中に構築しようかとの考えが浮かんできます。十八歳人口の低下、もう数年すると事実上の無競争で誰でも大学に入れるようになります。そうなると魅力のない大学は淘汰されることになります。まず、授業料収入だけでは運営できなくなってきますので、研究費の増額、教員の補強、後進の育成などとても期待できません。真剣にこれからの大学運営を考えねばならないでしょう。
 半分冗談で、半分はその気になればですが、最近私の研究室を出た後輩連中が集まると、研究開発集団を作ってビジネスをやりましょうよ、と話題になります。めっき関連の薬品から装置、新技術開発、すべて請け負う集団は卒業生を集めれば本当に出来てしまいます。学園紛争前まで、本学で行われてきた事業部、新しい考えの下での事業部、あるいは研究所作りは、おおいに可能性大であると確信します。

困難を伴うがチャレンジを

 技術者は、これからはどんどんファインな技術に挑まねばならないのですが、難しいから止める、できないから止めることが多いようです。そこに大きなビジネスチャンスがあってもです。常にチャレンジしていく気持ちでいなければいけません。またチャレンジしていく気持ちになるように、経営者は思い切って勇断し、リスク覚悟で行動するように、技術者を鼓舞していくべきでしょう。
 最近の若い技術者はやる気がないと云われています。何故かと言えば、やらされているからであり、自分からワクワクしてやっていないからです。それともう一つ、評価の欠陥ではないかと思われます。「どうせやっても」評価されない、と考えているのではないでしょうか。
 何度も繰り返しますが、学会にフリーに参加できるようにするとか、出来れば自分の研究した内容を発表するとか、核になる技術は特許取るとか、報奨金をもっと上げる等々を行うべきです。
 最近、年棒制の導入をすでに実施している企業が多くなってきていますが、米国の制度をそのまま導入するのではなく、日本のこれまでの風土や、伝統国民性に適合したやり方を、模索して行かねばならないでしょう。
 組織を運営していくには、みんなの総合力が必要です。バランス良く、皆がある程度認め、協調していける制度の構築が是非必要です。
 一つの技術がヒットすれば、それで従業員全体が潤います。技術というのはワクワクして行う所に大きな発見や発明があります。時間を忘れてやれる環境を作って欲しいものです。現実にはそのような環境を企業の中では作れないのかも知れません。大学などの研究機関が一番適しているのかも知れません。大学では時間や期間やテーマに制約がありませんので(資金には制約がありますが)試行錯誤していくなかで、キラリと光るものを見つけだす事が度々あります。昨年は四、五テーマで、今、正に必要とされている新しいプロセスや、めっき液組成の開発が出来ました。すでに、この技術が実際に使われだしています。若い技術者が成功体験を持てば、これからはヒットがどんどんでてきて、日本を発信地として世界に広がることを期待しています。
 私どもの研究していることは、ほんの小さな領域ですが、最近では米国、イギリスを初めとしてスタディミッションや技術のトップが研究室に来るようになりました。これはおそらく、論文のいくつかを外国の論文誌に投稿しているからでしょう。

若者の意識を変えよう

 若者のモラル低下は、早稲田大学の吉村先生の仙台での件でも明らかです。しかし、そのだらしがない若者を皆様が採用し、育てなければいけないのです。誰がだらしなくしたかと言えば、我々、教育者であります。それから、年代的に言えば五十代前後の団塊世代の親たちです。
 最近の学生は授業を聞かない。テストを行っても、白紙で出す。昔は白紙で出す者はいませんでした。皆努力しました。成績が悪いので下駄を履かせようと出席状況を見ますとこれまた出席は0。これでは成績のつけようがありません。世の中、何かが狂ってきているようです。せっかく日本の技術力は高いと云われているのに、これでは先が不安です。
 頭でっかちになった、頭脳明晰な人の集団だけでは、もの作りは決して出来ません。いろいろなタイプの人材が必要なのです。愚鈍かも知れませんが、着実に物事をこなしていく人がいなければ、技術というものはうまくいきません。その上にキチッと指導ができる、閃きのある人がいなければいけません。
 最近、製造現場に技術が伝承されていないので、不良が多発していると聞いています。これは、技術者と特に若い現場作業者のレベルが、あまりに違うようになってきたからです。効率追求に走り、どんどん人減らしを行った結果、不良が多発し、利益がでない体質になってしまいました。私は企業訪問したときにまず、トイレを見ます。トイレの汚い企業は技術が立ち後れています。アメリカの表面処理の企業を見学した人は、あの汚さを見て分かると思いますが、日本の企業の中でも生産だけを重視した、トイレの汚れた会社は将来がないでしょう。技術をしっかり伝承できる体質に変えられるよう要望します。ポイントになる所はキチッと押さえなければなりません。
 今の若者、特に偏差値の高い大学の生徒は、何でも理論から入り、行動しません。理論から出た結果を元にして、開発された技術は一〇〇あるうち、一つ、二つしかありません。残りの九八位は模倣と偶然からです。学生には「まず、行動しなさい。そして、次に起こる事象を注意深く観察しなさい。」とよく言っています。現場でも、研究でも同じ事がいえます。
 大学や大学院の指導方法にもよりますが、大抵の教授は現在、実績主義に走っています。論文による自己評価や、自己点検などの研究実績中心です。学生をコマ使いにして、本当に愛情のある指導をしているのでしょうか?指導者がしっかりしないから、頭でっかちで人間的に歪な人達が育つのではないかと思われます。若者の意識を変える前に、我々の意識を変えねばなりません。
 

遺伝子組み替え食品
関東学院大学
本間英夫
 
 遺伝子組み替えの研究は、バイオテクノロジーの一分野として、着々と研究が進められています。例えば、病害虫に強い、成長が早い、収穫量が多い、収穫後腐りにくい(長持ちする)、うまみの増加、新規な野菜や果物の開発等々、製造業者側から見れば、これらの開発は大歓迎、ごく当然の事です。しかしながら、一般の消費者側から見ると、果たして、この種の遺伝子組み替え食品の安全性はどうか、不安な報道もされています。
 蝶の幼虫に、遺伝子組み替え作物の葉っぱを食べさせたところ、半数しか成虫にまで育たなかったとの報告がなされ、問題は大きくなってきました。特に、遺伝子組み替え食品の表示義務についての論議が、活発化しています。すでに、ヨーロッパや米国では、遺伝子組み替え食品の表示がされていますが、日本でも二〇〇一年から表示が義務化されます。
 有機農薬を主体にした自然食品を買うか、今までの食品を買うか、遺伝子組み替え食品を買うかは、消費者の自己責任で購入することになると云います。不安だけを煽っておいて、自己責任とは一体どうなっているのでしょうか。食品売場を覗いてみると、現在は未だ、遺伝子組み替えの表示はされていませんので、野菜を中心とした食品には有機野菜、農薬散布頻度を低下させた野菜、一般野菜のように表示されていました。有機農業野菜は、当然の事ながら一般の品物と比較して一・五倍から二倍の価格が設定されていました。
 したがって、遺伝子組み替えの表示がされるようになると、どのような現象が起こるでしょうか。
 先日、BBCのニュースを見ていたら、反対運動を推進するグループが早朝、遺伝子組み替えで育てられているトウモロコシ畑に入り、トラクターですべての苗をなぎ倒しているシーンを映し出していました。このこと事態は、幾分突出した出来事ですが、ヨーロッパを中心とした先進諸国では、衣食住の環境を初めとして、現在では地球規模で環境の保護対策運動が盛んです。
 食品の問題、特に遺伝子組み替えに限って云えば、一次産業から二次、三次産業と産業構造の変化に伴う農作業従事者の激減、当然の事ながら収穫量の増加を意図した、手の掛からない食物栽培方式の研究が盛んになります。
 上述の蝶の話、幼虫が遺伝子組み替えの葉っぱを食べて半数が死亡、因果関係を調べないうちに、ただ現象だけを捉えて、一般市民に対して恐怖心を煽るのも如何なものでしょうか。素人だから分かりませんが、組み替えにより野菜の葉っぱに毒素が過剰に生成され、それが原因で幼虫が死んだと云われています。植物は発芽から成長期に大量のアルカロイドやシアン配糖体を作り、害虫から身を防御する仕掛けが何億年もかけて出来上がってきています。
 報道されている毒素とは何なのか、それがアルカロイドやシアン配糖体であれば、自然の摂理であり問題は少ないです。現在の報道は万人に理解させようとするために、現象だけを取り上げ、解説が少ないので、かえって不安を煽るだけになることが多いようです。新聞を初めとした日々のニュースメディアは、もう少しインテリジェント化する必要があります。
 話は少し横道にそれますが、シアン配糖体に関して二五年くらい前に、たばこや植物内のシアンの分析をやっていたことを思い出します。当時、中村先生を中心として、めっき団地建設の最終段階のところであったと記憶しています。先生の意図は、めっき工場から排出されるシアンが、果たして問題なのかを問いかけるものでありました。まず、我々は片っ端からたばこを燃焼させ(たばこを吸っている状態をシミュレート)、それを水酸化ナトリウム溶液に送り込み、シアンの量を分析してみました。なんと一本のたばこあたり、確か数百PPMのシアンが検出されて驚いたものです。河川への規制排出量が一PPMの値に対して、べらぼうに高い値でありました。また、たばこの種類によって検出量が異なっていました。
 次に、実際喫煙している人、そうでない人の唾液を採取しその中のシアン量を調べました。一〇〇PPMに近い値が喫煙者の唾から検出されました。これまた驚きましたが、たばこを吸わない人でも、唾液から数十PPMのシアンが検出されました。たばこ、特に紙巻きたばこの紙には、硝酸塩が含浸されており、燃焼時にシアンが生成するものと思われます。唾液中のシアンは、シアン配糖体であり、殺菌作用を司っているのでしょう。我々が子供の頃、裸足でどろんこになって遊んだあと、家に帰ると手足の擦り傷に、母親が唾を付けてくれたものです。
 たばこのシアンの分析をやっていたのは春先でしたので、次に青梅のシアン(大正時代までは青梅からシアンが製造されていました)について調べようと、梅酒を製造する過程でシアンの経時変化を追ってみました。焼酎の中に溶出したシアンは、十日間くらいで全部消失したと記憶しています。また、大学のキャンパス内の雑草を始め、いろいろな発芽期から成長期にある葉っぱの中のシアンを分析してみました。発芽期には、特にシアンの含有量が多いことが分かりました。おそらく、この種のシアンの検出については、微量分析が現在のように進んでいなかったので、当時としては貴重なデーターであったろうと、今になって思います。
 植物は前述したように成長期に、シアン配糖体を作り、外敵から自分を守るのです。遺伝子組み替えの葉っぱを食んだ、蝶の幼虫の半数が死んでしまったのは、遺伝子を組み替えによって成長が促されシアン配糖体が、普通の葉っぱより多く生成されたのか、害虫を防御するための毒素(アルカロイドなのか?)が多量に形成されたのかなど、食品科学に携わる研究者が、この種の研究に着手するとか、あるいはすでに検討されているならば、一般の消費者に公開すべきです。
 二〇〇一年から、遺伝子組み替えの表示を義務化することで、後は消費者の判断にゆだねるなどもってのほかであり、自己責任にも限界があります。
 私自身は、遺伝子組み替えの野菜や食品の細胞レベルの成長過程や、生成物が昆虫に影響があっても人体に影響がなければ、おおいにこちらの商品を購入します。むやみやたらに幼虫が死んだから、人間にも害があるかも知れないと煽るのにも、学問的に根拠を示してからにして欲しいです。

ダイオキシンおよび環境ホルモン問題

 埼玉県の農家が大打撃を受けたダイオキシンもしかり、葉っぱもんとか、学者としては、あまりにも定義に対して曖昧な表現をし、しかも、その報道により消費者の過剰反応、分からないから、判断できないからこそ、過剰反応にならざるを得ないのです。ダイオキシンや環境問題について、興味本位で報道するのではなく、解説を交え我々が、今後どのように対処しなければならないか、真剣に考える必要があります。
 我々は、日々の状況に関して自分自身の考えを構築するには、これらの報道機関だけに依存していてはいけません。現在の報道機関はどうもモノトーンで、どれもほとんど同じ記事、同じ報道であります。これからは自己責任の時代だと云うのなら、小学校から大学まで教育機関は時の話題、例えば、現代社会学と銘打って、環境問題や時事問題を多いに取り入れたカリキュラムを再構築し、自分で考える能力を育てるような対策が必要です。最早、受験対策用の詰め込み主義的な勉強方法を取っているようであれば、日本は本当にただの国に堕してしまうでしょう。
 また、報道機関は他社との競争からどうしても吟味を怠り、速報性から的確な報道が出来ない場合があるように思います。テレビや新聞などの報道は、流れを知る上において大変貴重ですが、問題が大きくなればなるほど、もう少し流れを幅の広いスパンで観察している雑誌や専門誌にゆだねざるを得ないのでしょうか。
 新聞には時々、解説調の記事が出ていますが、広告欄を削り、もう少し強化しても良いのでは、と思います。一面全部を使って何を訴えたいのか、その意図がよく分からない宣伝広告が、最近特に目立ちます。広告の中には、見ていて楽しくなるもの、買いたくなるもの、心理をうまくつかむもの、なかなかやるなこの広告は、と感心する広告はあまり見られません。広告業を専門としている大学の学部、専門業者の中にもう少し革新的な、楽しめる広告は如何にすべきか、を実践する努力が足りないように思います。
 唯一、産業経済に関して、ある程度満足のいく解説がなされている新聞があり、子供の頃から、ずっとその新聞を一貫して読まされてきました。
 さて、ダイオキシンの問題に話を戻しますが、分析の精度が上がりピコグラムのオーダーまで、分析が出来るようになってきました。ダイオキシンの毒性は、これまで人間が作り出した化合物の中で最も毒性が高く、猛毒と言われた物質よりも毒性が数桁も高いのです。極微量で人体に影響を与えてしまいます。
 ダイオキシン類は一般ゴミと産業廃棄物の焼却により最も多く発生します。一般家庭ゴミを焼却したときに発生するメカニズムは、ゴミの中のリグニンやセルロース、ポリエチレンなどが焼却場で燃焼中に、様々な過程を経て、ベンゼン環をもつ有機化合物が生成します。また、ポリスチレンなどのプラスチックスも、不完全燃焼でベンゼン環を持った化合物を生成します。これらの有機化合物が、ゴミや塩素と反応するとクロロフェノールやクロロベンゼンが生成し、最終的にはポリ塩化ベンゾパラダイオキシン(PCDD)やポリ塩化ベンゾフラン(PCDF)のダイオキシン類が生成します。
 リグニンはフェノール化合物であるので不完全燃焼により、そのままでダイオキシンになると言われています。こうなると、喫煙している人は真剣にたばこを止めることを考えた方がいいでしょう。たばこの葉は、リグニンもセルロースも含んでいます。このようにダイオキシンは化学構造的に見ると分解しにくい構造ですが、高温酸化すればすべて無毒化されることは分かっているのに、初めは全国の焼却場の煙突から出るダイオキシン量を分析し、規制値をオーバーする施設は取り壊すと、べらぼうな判断をしていたと記憶しています。アフターバーニングで完全燃焼をすれば、全く問題がないのに、なぜそのようなばかな対策をするのか納得ができませんでした。
 その当時から、焼却炉の構造を少し変え、高周波炉のようにプラズマ状態にして処理すれば問題が解決するのにと思っていました。所轄の環境および衛生局が、市民を納得させるために、新しい設備と取り替えたのが多いようです。公共投資の大幅補正予算の執行は、このようなところにも回ったのではないでしょうか。スクラップアンドビルド型の対応が、今でも官庁主導で生き続けているようです。これらのツケは最終的には住民に回ってくるのに。我々自身、自己責任の延長線上で賢くならねばならないようです。
 また、環境ホルモンの問題も同様に、市民に大きな不安を与えました。学校給食の食器類に使っている、ポリカーボネート樹脂等に含まれているビスフェノールAが大きくクローズアップされました。そのきっかけは、日本近海の貝類の雌から雄への性転換、精子の減少等です。いくつかの小学校では、プラスチックスの食器がすべて回収されました。その後、環境ホルモン問題は、更に深刻さを増しています。環境ホルモンは疑似ホルモンとも呼ばれ、生体の反応を司るホルモンと骨格構造が類似しており、したがって、食物の中に溶出し、これが体液と共に体内を循環し、特定の組織の機能に対してほんの微量でも、変化を与えてしまいます。
 生体反応や生物のホルモンに基づく反応は、発酵、醸造、バイオテクノロジーとして広く利用されています。これは人間が人工的に特定の疑似ホルモンを作り応用しているのです。逆に、我々が作り出したいろいろな化学物質が、極微量溶出して、これが我々の生態系を害するようになってしまったのは、まことに皮肉です。
 

製造業の体質は変化するか
関東学院大学  
本間 英夫

 
 日本の産業において成長の原動力は、国際競争力の高い高級な製品を、低価格で提供することで生き延びてきました。果たして、日本の経済を永続させる上において、戦略的に是認されることでしょうか。
 小渕総理が国会で二〇世紀を総括し、また、来る二一世紀に向けてアジアを代表する責任ある国家として、永続的な成長の重要性を訴えていました。果たしてグローバル化した国際経済において、従来通りのこの考えでよいでしょうか。
 日本は、九〇年代に入ってからは輸出入ともほぼ横這い状態で、過大な生産能力を残し、依然として大幅な国際収支黒字です。これはあくまでも数字上のことであり、果たして国民全体が豊かになったでしょうか。決して、そうではなく、逆にリストラを初めとする雇用不安、一般のサラリーマンを初めとして、公務員に至るまで給与の減額、ボーナスカットが取りざたされるようになってきました。
 国際収支の黒字という数字は何を意味するのでしょうか。現在の状況では、当面消費拡大や雇用拡大は、しばらく望めないでしょう。したがって、現状を維持するため、皮肉にも高級で採算性の低い製品をジャンジャン作り、海外の市場を求めて投げ売りまがいのことを、今後続けることが良いでしょうか。
 現在はアメリカの景気が、その受け皿となってくれていますが、もし、アメリカ経済の舵取りが間違って、バブルの崩壊と言った現象が起これば、日本経済はひとたまりもないでしょう。
 CNNだったかABCだったか忘れましたが、クリントン大統領の経済報告の中で、経済主要国の国際収支黒字幅とGNPおよび雇用の伸び率の間には、逆相関関係があり黒字の大きい日本は、総需要および雇用創出が低いとしていました。日本は八〇年代の中頃から、安価で高品位の製品を作ることに精を出しました。
 米国は、日本と競合しない情報分野やバイオを初めとするハイテク分野に注力しました。これらが今、正に米国で開花しています。日本はエレクトロニクス製品のハードを安く作ることにきゅうきゅうとし、知恵と知識の集合体、いわば心臓部である情報のソフトを始め、多くのハイテク分野は米国の掌中にあります。
 これからの日本の製造業は、如何にあるべきでしょうか。量から質への転換が云われて久しいですが、政府は既存産業を保護しつつ、新規産業を創生するための規制の緩和、税制の優遇措置を講じながら、活力ある発展を目指しています。
 人ごとのような話になりますが、資本主義経済において、企業は収益をあげる努力を常に怠ってはなりません。日本のROE(株主資本利益率)は惨憺たるもので、質的に高い利益の追求をする責任を経営者は担っています。しかしながら、全体としてこれだけ落ち込んだ状況から、急峻に立ち直ることは不可能です。
 既存の設備の中で生かせるものは生かしながら、新規の高付加価値の製品を作る為の、技術水準の向上が最も重要です。単に設備を導入すれば仕事がとれるような、技術水準の低い領域に関しては、極力、短期で投資が回収できる体制を作らねばなりません。思い切って設備を導入したが、投資を回収する前にその設備が陳腐化したとか、その仕事が東南アジアの諸国に移ってしまったと言う例をよく聞きます。それ故、量的な物作りだけを追求するのではなく、フレキシブルな新規設備を導入し、高度な技術に裏打ちされた物作りが、これからは必要になってきます。
 オンリーワンと言う言葉は余り好きではありませんが、常に高い技術力を持つ為の準備を怠らないよう、技術者がもっと技術者らしく活躍できる場や環境を整備しなければなりません。
 表面処理業界で技術者がどれくらい生かされているか、まだまだお粗末です。折角、大学時代に研究を通してセンスが磨かれて、これから期待できるぞと、業界に送りこむのですが、トラブルシューティングの便利屋になってしまい、徐々に技術力は低下していく卒業生が多いのは残念です。
 「ハイテック、めっきが無ければローテック」魅力ある新規な技術がごろごろしているのに、これらの種をうまく育てるような体制になっていないのは誠に残念です。何ヶ月か前の本誌で少しふれましたが、一企業内で新規の技術の核を作るのが困難ならば、是非、我々と協同で表面処理特有の、魅力ある技術を確立する体制を構築するのは如何でしょうか。「Only one よりもOnly for the technology oriented group」というのはどうでしょうか。
 これからはコンピューターを通じて、世界の最新情報が瞬時のうちに入手できるでしょう。高収益、高付加価値を生む産業構造の構築、更には、ベンチャービジネスを始める環境を整備しなければなりません。
 日本は若い技術者がベンチャービジネスを行える環境が整っていません。いくら政府を始め、有識者が提案しても空回りするだけです。歴史的に技術はすべて西欧諸国の物まねに端を発していること、単一民族で協調意識が高いこと、お上に従順、トップダウン、チャレンジング精神に欠ける、人と違ったことをすることを避ける、等の要素から、ベンチャー精神は今後ともなかなか育たないでしょう。
 最近、やっといくつかの大学でベンチャーに関する講座が開講されました。ベンチャーの成功例やビジネスの展開の仕方を教えているようですが、これも米国の物まねです。むしろ新しい研究開発の捉え方、研究手法を教えるべきでしょう。この点は一部の大学の先生以外はまことに日本人の弱いところです。したがって、ベンチャーが根付くにはかなりの年数がかかるでしょう。長期的な計画を立てながら焦らずに着実に足下から固めていかねばなりません。

大卒の就職率

 これまでは大学を卒業しさえすれば、ほとんどの人は一生涯安泰な生活を送ることが出来ました。ところが、銀行を初めとして、多くの企業が未曾有の不良債権を抱え、人の採用もままならなくなってきました。なんと、今春大卒の六〇パーセントしか就職にありつけなかったとの統計が八月に報道されました。来春卒業する学生の就職率は、もっと落ち込んでいるでしょう。技術職はまだしも、事務職の落ち込みが激しいでしょう。
 企業は人件費の削減のため、事務の外部委託を導入するようになってきています。いわゆるアウトソーシングです。これまでは、システム管理などの専門分野に重きが置かれていましたが人事、経理、厚生などの間接分野に拡大してきています。
 また、総務庁の労働力調査によると、本年の六月職種別雇用者数は、事務職が前年の同月比で三・四パーセント減、また、昨年の秋以降、企業リストラ雇用者数が一貫して減少し、六月の統計によると、前年度より全体で七〇万人が職を失ったことになっています。その中で最も影響が大きかったのは事務職で、前年同月比で四三万人も減少しています。これに続いて、製造や建設作業者(一四万人減)、販売職(一一万人減)、運輸通信関連(一〇万人減)、対照的に保安やサービス職は七万人増とのことです。
企業はまさに、高い利益を上げていた時代から、生き残りをかけたリストラを拡大し、最早、悠長な時代からの決別を余儀なくされています。 企業は即戦力専門知識を求めるようになってきました。それ故、大学で教育と研究に従事するものにとって、今まで以上に学生に能力を付加して、世の中に送り出すように努力しなければなりません。学生自身も、低学年の段階で自分の進路をある程度決めておく必要があるでしょう。
 多くの私学で同じ問題を抱えていますが、一部の大学を除いて、残念ながらほとんどの学生が不本意入学であり、その学生を意識付けするのには、かなりの時間を要します。特に最近の学生は、高校時代には単に受験勉強をしてきたか、または推薦入学者の多くは、受験勉強さえこなさなかったので、基礎的能力が低いのが現状です。
 私の担当している化学科でも、一学年一〇〇名を越えるので、一人一人に対するケアーが行き届かず、しかも無気力な学生が多い。したがって、学生すべての意識を向上させることは、きわめて困難です。大なり小なり、どの大学でもこの傾向があります。
 半年くらい前に、文部省の諮問機関が、大学生の単位認定に対して、厳しくし留年も止む無しとの答申がなされました。このことは新聞やテレビでも大きく報道されましたが、学生には全くその危機感が無いようであり、何とかなると思っているようです。
 担当している必修の科目で同じように、同じレベルの試験を課しても、昨年あたりから不可と認定せざるを得ない学生数が極端に多くなってきました。今までは、一〇人前後であったのが、昨年は三〇名、本年の前期の試験で四〇名、不可をつけねばならなくなってきています。
 講義のやり方には、毎年工夫を人一倍かけているつもりですが、学生は無気力になってきています。今まで、学生の前では大学を辞めたくなったなど言ったことはなかったのですが、学生の無気力さを目の当たりにして、つい本音が出ました。これまでは、学生を引きつけるのには自信があったその講義のやり方が、通用しなくなってきたのです。また、出席状況を調べてみてもオール出席なのに白紙に近い答案を平気で出してきます。いくら何でも下駄を履かせる気にもなりません。極端に質の低下が起こったのか、あるいは最近の学生の傾向なのか、一度、他の大学の先生と話し合わねばならないと思っています。
 このような学生を四年間指導し、世の中に送らねばならないのですが、学生の意識を向上させるには、現在の就職難が続いた方がいいのか、かといってあまりこの傾向が続くと、将来に対する不安を煽る事になってしまいます。しかしながら、雇用だけに限ってみても、今までのように終身雇用では逆ピラミッド構造になってしまい、年俸制の導入、通年採用が一般化しています。今までの産業や雇用形態から新しい形態に変わらざるを得ない状況にあるので、当分は学生にとって手厳しい時代が続くでしょう。
 学生に対して企業は、即戦力、専門知識を要求するようになり、大学の教育も専門学校化していくのか、このことに関しては賛否両論ですが、社会の要求としては、我々もこれを受け入れざるを得ないと思っています。
 大学が単なる資格を習得したり、技術を習得したりするだけでは、専門学校と変わらなくなります。専門学校のような教育と言っても、ベースは大学で共に学び、共に語り、共に遊ぶことで、その大学特有のカラーが学生に脈々と引き継がれ、学生の心の中に残るものです。いろいろな行事、クラブ活動、ゼミナール、卒業研究を通して個々人の人格が形成されていくわけで、そこに大学の意味があると思います。
 我々は、学生の能力や気質を理解した上で、学生が納得して社会に出ていけるようにしているつもりです。それが出来なくなったら、私も大学を辞するときであると思っています。 
 

Y2K問題で混乱は?
関東学院大学
本間 英夫
 
十一月中旬から主婦を対象としたテレビ番組に、連日Y2K問題が話題に上るようになった。この問題に関しては、以前本誌で紹介したが、いよいよ年の瀬、さてどうなるのか。最悪の場合を想定して、銀行も証券会社も保険会社も、データーのバックアップは取っている。しかし、これだけマスコミが煽ると、銀行や証券会社の窓口、キャッシュサービスコーナーは長蛇の列が予測される。更には、年末年始の海外旅行の極端な減少、電気、水道が止まったらと、数日間の飲料水の買いだめ、暖をとるためのストーブ(石油ストーブ)やサーバイバル商品の確保に、かなりの混乱が予測される。
 米国では、数年前から対策が進んでおり、ほとんど決定的な問題は生じないと、政府が宣言している。日本政府の国民に対する対策はどうだろうか。国家的な規模で、深刻にこの問題を捉え、予測される事態とその対策に関して、もう少し国民全体が理解できるように知らせると共に、マスコミの異常なまでの煽動に対しては、冷静に対処するよう呼びかける必要があった。特に、ライフラインに直結する事業に関しては、各自治体は万全の対策と体制で臨まねばならないが、どうだったのだろうか。新聞によると、群馬県の桐生市では、停電になっても自家発電で供給できる体制を整え、また、横須賀市も二ヶ月分の供給が可能であるという。しかしながら、すべての地方自治体で、情報開示が十分であったとはいえない。
 外資系企業および輸出関連企業では、今年の初めから徹底的に対策が進んでいた。企業によっては、停電に備えて、自家発電はどうなっているかの調査もあるとのこと。また、最悪の場合を想定して、数ヶ月分の在庫を確保しているとも云われている。いろんな製品が九月頃からどんどん生産され、ちょっとした特需?だったそうである。実際には、マイナーなトラブルが起こることは確実だが、致命的なことは起こらない事を願う。
 事態は先進諸国だけで対策がなされればよいのではない。石油産油国を始め、旧ロシア、中国、東南アジア、アフリカ、すべての国々の問題である。米国や日本に対して、この秋これらの国々が援助を求めてきていた。しかし、時すでに遅し。時間切れで新年を迎えることになるようである。ここらあたりから、連鎖的に問題が広がる可能性も否定できない。すでに対策費は全世界で、何十兆円にもなるといわれている。生活の基幹になる電力、水道、運輸交通を初めとして、あらゆる領域で、年末年始を不測の事態に備え、監視体制が強化され、ゆっくりと正月気分に浸れない人がたくさん出るだろう。本当に大きな問題が起こらないことを願うしかない。

一人勝ちか情報通信

 この数ヶ月間、株価を見ていると分かるが、建築、紙パルプ、繊維、化学、電線、セメント、鉄鋼、造船、車、商社、電力ガス、運輸などほとんどすべての領域で、十一月に最安値をつける銘柄が続出した。また、大型株で百円以下の銘柄も多い。その中でNTT三社を初めとして、ソニーやその他、情報通信に関わっている企業、店頭ではソフト関連銘柄が、新高値を更新している。あたかも、一時は仕手戦の様相を呈していた。
 最近の投信は、これらの関連銘柄を組み入れたものが圧倒的に多いとのこと。また、十月から始まったインターネット取引、日本では米国のようには普及しないと思っていたが、どうやらそうでもないらしいようである。自分で注文を出して、ものの数十秒で取引が成立するのを目の当たりにすると、その虜になってしまうのではないだろうか。何か末恐ろしい感じがする。数ヶ月前、米国でディトレーダーが殺人事件を起こしたニュースが流れた。一般の人が、いとも簡単に自分の判断?で取引が成立してしまう。あっという間である。特に最近、預金金利が異常に低いことから、投資には余り慣れていない人が、のめり込んだら大変なことになるのではと心配である。魔の手はどこからでも伸びてきて自制心を失い、命取りになってしまうだろう。
 また、証券会社の係員は、相変わらずの手数料稼ぎで回転を早くし、健全な投資家を育てる雰囲気は、未だに整っていないのが現状である。
 その後、そろそろ景気も底打ちだとか、設備投資が若干上向いてきたとのことで、十一月下旬には日経平均が最高値をつけている。株価の動きは、今迄以上に荒っぽくなってくるのが予想される。本報を読んでいる方々は長年、投資経験の豊富な方が多いと思うが、長期的展望にたっての投資が得策である。

携帯機器の売り上げ

景気回復の足取りが鈍い中、一人気を吐いているのが通信分野である。特に、携帯電話はインターネットの普及と共に、すさまじい勢いで普及を続けている。過去三年間を見てみると、約一千万台ずつ増えており、現在の加入者は五千万台に近い。何ヶ月か前に本誌で試算したことがあるが、携帯電話の一ヶ月の平均使用量は一人あたり平均一万円とすると、年間で十二万円、すなわち毎年一兆二千億程度の新規市場が創生されていることになる。
 移動電話全体の市場は、現在約六兆円、九二年には五千億円程度であったことから、この間の不況にも関わらず、急峻に市場が拡大してきている。これからの成長はどうだろうか。もうそろそろ飽和状態になるのではないだろうか……。いや、そうはならないらしい。最近の新聞の広告や、若者が購読する情報誌にも出ているように、音声通信以外の用途が期待されている。現在、iモードと称して、携帯電話からインターネットにアクセスできるサービスが話題になってきた。すでに四百万台以上の、加入契約がされているとのこと。もう数年もすると、更に、動画やその他、インテリジェントな携帯端末が市場に現れてくることは確実である。この領域では、日本よりもスウェーデンやフィンランドが先を走っている。今年の九月の中旬、北欧の企業と大学および研究機関を訪ねたが、特にノキア、エリクソンの世界戦略はすさまじいものであった。
 日本の市場だけに絞っても二〇〇五年には、十兆円を超える市場になっているとの予測も出ている。長期的には、携帯電話の他、無線内蔵パソコン、自動車電話と一人三台、その他、チップ状にして老人の徘徊防止、子供の迷子防止、その他の予測もしないような用途が出現するだろう。
 したがって、この領域のめっきを初めとした表面処理は、絶対に見逃せない。仕事はこれから益々増える。しかしながら、高度の技術が要求されるので、益々技術格差がはっきり出てくる。

技術の伝承

日本の先端技術の命運をかけた、宇宙事業団のH-2型ロケットの打ち上げが失敗に終わった。前回の失敗に加えて、連続の失敗である。日本全体の先端技術に対する世界からの信用の失墜につながり、科学技術庁を初めとして、コア技術を担った企業は面目丸つぶれである。
十一月中旬、その後の原因究明のニュースによると、四回にわたる試験運転時に一度、水素漏れの可能性があったとのこと。危険が予測されたのであれば原因を究明しないまま、ゴーのサインを出したというのだろうか。更にお粗末なことに、打ち上げ失敗が確認された時点で、危険防止の意味から爆破指令を出したにもかかわらず、一段目のロケットは爆破されなかったようである。皮肉にもそれを回収して原因究明が行われたとのこと。
 もう日本の宇宙開発事業の失地回復は到底見込めないのだろうか。なぜ水素漏れの危険がありながら、徹底的に調査究明をしなかったのだろうか。
 ロケット打ち上げで同じ様な間違いはNASAで一九八六年に経験済みである。随分前のことになるが、ファインマン博士がオーリングが原因であったと、指摘した事件である。
 スペースセンターでは、翌朝の打ち上げに向けて秒読みに入っていた。ブースターロケット(固体燃料の塊)の責任を担っている企業の技術トップが、NASAとのテレビ会議で、オーリングの低温でのシール性に問題があると、中止を要請した。
 オーリングは、ブースターロケットのシール機構の部品であり、低温で弾性を失うとシール性が低下してしまう。その結果、高熱ガスが漏洩し、爆発の直接的な原因となる。技術的な証拠は不十分であったそうだが、温度と弾性の間には相関関係があることは、技術者なら誰でも予測がつく。
 それまでの過去の漏れは、十二度(摂氏)で起きていたとのこと。打ち上げ当日はマイナス三.三度、オーリング周辺温度はマイナス一.七度くらいになると推定された。これは過去に打ち上げられた、いずれの場合よりも、極端に低い温度である。問題が起こる可能性は高いが決定的な証拠がない。NASAは飛行を予定通りに成功させたい。また契約をしている企業にとっては、これからも新しい契約を獲得したい。
 当日、経営のトップがその技術者集団のトップに対して「技術者の帽子を脱いで経営者の帽子をかぶりたまえ」と。打ち上げ中止の要請は逆転され、発射後七十三秒で爆発し、六人の宇宙飛行士と一人の高校教師の命を奪う結果となった。今回の爆発事故も原因は異なるとしても、背景には同じ問題があったのではないだろうか。
 これは技術の伝承と、科学技術者および経営者の倫理観の問題である。
 本年度に起きたそのほかの事故に、東海村の事故、タンクローリー爆発、新幹線コンクリート崩落、高速道路での標識事故などあげられる。
 東海村の事故は、技術の伝承を云々する以前の問題で、あきれてものもいえない。いや、あのようなことが、実際には放射性物質でない危険な物質を扱っている領域で、無自覚にぞんざいに取り扱われている例は、枚挙にいとまがないであろう。いわゆる3K、外国人労働者やアルバイトが、それにあたっている例は、皆様の会社でもあるのではないだろうか。
 事が起こる前に改善すべきところは、早いうちに改善して欲しいものである。新聞には余り大きく報道されなかったが、ある大手の企業で、以前から従業員が危険個所の改善を、経営者に要求していた。最近その個所で、大爆発を起こしてしまった。不幸中の幸いと言うか、たまたま、作業をしている人が現場にいなかったので、火災だけで死者や負傷者が出なかった。この事件も他山の石ではないことを、経営者の方々は認識すべきである。大事故が起きてからでは、本当にこれからは命取りになる。
タンクローリーの爆発事故は、化学をかじったことのある人であれば、すぐに原因が分かる。事故後の朝刊には、何らかの原因と新聞記者が控えめであったのだろうか、化学を知らなかったのだろうか。我々はすぐに金属の触媒反応だと分かった。安全工学と云う科目もあるが、事例を聞くだけではなく、実際に色々実験を行う過程で、化学薬品の安全な取り扱いをマスターしなければならない。
 とかく最近の技術者は、頭だけで考えるようで現象を完全には知らず、それが大事故につながる原因にもなっている。新幹線のコンクリート崩落は、高度成長期のツケが現在明るみになってきたようであり、これからは更に、色々困難な問題が現れてくるだろう。
 道路標識の継ぎ目が折れ一般道路に落ちた事件、あれは原因が単に継ぎ目の腐食であると有識者が述べていたようだが、正にあの研究をやっている技術者が日本にはいないのかも知れない。十年以上前に、イギリスのバーミンガム大学出身でその道で博士号を取得した技術者が、私の研究室に三ヶ月くらい滞在していた。彼に、フレッチングコロージョンの話を聞くことが出来た。その話は、ハイテクノの技術講演として、私が通訳をして皆様に聞いて頂いた。当時、関心を持つ方は多くなかったように記憶している。私自身は通訳をした関係上、内容は分かっていた。
 それが、例の高速道路での標識の事故に関係がある。フレッチングコロージョンとは、連続的な微震動の発生する場所で、連続的なストレスがかかり腐食が加速される。いわゆる応力腐食に関係している。何れ機会を改めてこれらの問題、特に技術の伝承について述べたいと思う。