過去の雑感シリーズ

2009年

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偽から偽へ
関東学院大学 
本間 英夫
 
一昨年の暮れ、一年間を振り返って、世相を一文字で表す漢字として “偽”が選ばれていた。2年前から食に関してだけ取り上げても、あまりにも多くの事件が次から次へと起こった。

記憶をたどると、数年前の雪印牛乳事件は企業の存亡にかかわる大きな問題であったが、苦難の数年間を経てこの企業は再生している。過去にこのような大きな事件がありながら、企業の学習機能や危機管理意識に乏しいのか、2年前はミートホープ牛肉偽装、白い恋人の賞味期限の改ざん、赤福の不正表示、偽比内鳥、お菓子の偽装表示に端を発し、ついには廃業に追い込まれた吉兆、さらには昨年、牛肉、ウナギ、海藻、レンコン、タケノコ、米などの産地偽装などが明るみに出た。

このように消費者の信頼をあざむく食品偽装が後を絶たない背景には「儲かりさえすれば」「偽装しなければ競争に生き残れない」と根底には人間の欲望が渦巻いている。また、食の安全に関しては昨年のオリンピックの前後には冷凍餃子、冷凍インゲンへの農薬の混入や猛毒のカビを発生する事故米の食品への流用など、食品業界のモラルハザードの実態が浮かび上がってきた。このように一昨年からこの2年間は偽に始まり偽に終わり、食の安全や信頼が大きく崩れた。

しかしながら、この種の問題は急に降ってわいたわけではない。コスト競争、儲けるためには手段を選ばないとのモラル低下が根底に流れている。食品の種類や保存環境にもよるが、腐敗しやすいものに関しては安全を見越して厳格に表示すべきである。しかしながら食品の種類によっては賞味期限があまりにも安全を意識しすぎて過剰に短期間になっている場合もあるように思える。物によっては、これまでの賞味期間を見直したり、簡単なセンサーで感知したり、食品の賞味期限を延長できる手法を開発すれば一挙に解決につながる。

そういえば最近アービという会社の冷凍装置が流通・食品業界から注目を浴びている。磁場で水分子を振動させ、氷点下10度前後でも凍らない過冷却状態をつくり、次いで20度以下で細胞全体を一気に冷凍する方法である。この方法では細胞膜が破壊されず、冷凍が可能になるという。日本と欧米で特許を取得し5年ほど前から販売を開始している。豊作で取れすぎてもこれまでのように価格調整で廃棄することなしに、品質を低下させずに保存すれば、端境期に出荷できると言われており、テレビの特集番組で紹介されていた。この装置が食品流通で “革命的”とされるのは、加工品も高品質で冷凍保存できる点にあり、ハンバーグやステーキは焼いた後に冷凍できるし、焼きトウモロコシも可能という。あとは家庭や店舗でレンジ解凍するだけで、おいしく食べられるとのこと。冷凍~解凍が1回で済み、調理の手間が省かれるので大手商社も強い関心を示している。

愛媛県の漁協では、この装置を使って刺し身などの加工品を首都圏に出荷し業績を伸ばしている。また、精肉店やケーキ店や生酒の貯蔵に活用されている。さらには臓器移植や遺伝子工学の研究にも利用されている。この技術が普及すれば食の偽は大きく減少し、長期に保存でき無駄な廃棄もなくなり、安心して新鮮な食を楽しむことができる。また臓器移植をはじめとして医学分野にも大きく貢献することになる。

このように大きな社会問題が発生した時、しかも障壁が高ければ高いほど革新的な技術開発がおこなわれるし、その関連技術が注目される。例としてふさわしくないだろうが、戦争を契機として20世紀の主要な技術開発がなされてきていることは事実である。その意味では昨年の10月に始まった世界全体の大不況による致命的なダメージや困難がそれを克服する大チャンスであり今こそ金融経済をはじめとしてすべての領域での変革に向かって知恵が出さねばならない。

年初めにあたって、過去の反省ばかりでは閉塞的であるし、本雑感シリーズで昨年の10月から全て同じテーマで恐縮だが、100年に一度の経験ということで再度話題にした。情報化社会の中で上記のように同じ偽がこんなにも沢山出てくるのは一体なぜなのだろうか。

偽は絶対にあってはならないと分かっているはずなのに、組織となると、なぜこんなにまで常識から逸脱した行動が明るみに出るまで実行されてきたのだろうか。人間は個人レベルでみると、性善説と性悪説があるが、いずれにしても、人との触れ合いの中で、いろいろ学習し、考え、過去に犯した罪は罪として反省し、道徳的にも正しい道に成長して行くはずである。しかしながら、組織体になると効率追求、実績中心主義に拍車がかかり、仕事においては充実感が持てず、しかも競争社会の中で人間本来の一番大切なものが埋没してしまっているように思える。

今回は食に関しての“偽”にこだわって話を進めたが、産業界いや社会全体が実はかなり蝕まれている。全ては人間の原罪のようなもので共通する “悪”である。そのような悪を解消し豊かな社会を構築していくことは小さな組織体から始めねばならないのだろう。

小生はこれまで教育現場をはじめとして産業界とのお付き合いの中で、いろいろな偽に直面してきた。ある時は激怒し、ある時はやさしく本人の間違いを指摘し、ある時は心を鬼にして当人が認識し悔恨するまで待ったこともあった。小生はいつも“悪い報告は早く、いい報告はゆっくりと”と説いている。



社会的な鬱状態の中で

さて製造業の基幹を担っている表面処理産業界において将来に対する夢を抱きながら充実して事にあたっている企業はどれくらいあるのだろうか。

工程の改善や改良は当然としても、その努力と価値に対して評価はされず、作業にあたっている現場の担当者も技術者も全く充実感が出ない。しかも、今回のように大不況と、急激な円高で多くの企業はこの3月期は赤字に転落。これまで外需依存体質であったので、内需拡大に転換といっても、従来通り成長路線をとるのであれば、少子高齢化では、どうしても外需依存にならざるを得ない。

今回のように急激な円高で、いずれの企業も利益がすべて吹っ飛んでしまい、しかも多くの大企業はアメリカ式の経営に転換してきているので、経営者は株主を意識し従業員は二の次になっている。赤字に転落するようになるとこれまで努力してきた現場担当者、技術者、営業担当者、経営者会社全体が閉そく感と虚無感で会社全体が鬱状態になり心の病から体の病に蝕まれる状態になっている。

心の病の“名医”が小生の友人にいるが、彼は子供のころから小生と同じように快活で協調性が高く、特に中学時代から高校時代はともに行動したものだ。彼によると、現在の閉塞状況のなかでサラリーマンの6人に1人は鬱状態から鬱の病に近い状態であるという。

小生はそこで間髪を入れず“君たちがそのように診断し暗示にかけるようなことを仕向けているのではないのか”と少しきつく迫ったが、彼は確かに多くの医師はちょっとの兆しで、そのように診断するが自分は、坐禅の道場を開き、薬を用いないで精神的なストレスを解消する方法を採用しているという。

ただし漢方薬や東洋医学を採用しているとも言っていた。彼は医師になってからは、表面に出るようなタイプではなかったらしいのでインターネットで人名から索引してみると、白衣をまとい、にこやかな笑顔でスート懐に飛び込んでいけるような柔和な表情でこれなら絶対間違いなしとの印象を持った。さっそく本人に久しぶりに電話で話をしたがその際に時期を見て産業界の方々に対して講演してほしいとお願いしておいた。

最近あまりにも世の中、激変し机を前にして、いざ雑感を書こうと持っても整理ができなく、それこそ“鬱”の状態になってしまう。

研究開発のことは次号で書くことにして下記に最近われわれの研究所に来られた印象記を引用して本月号を閉じたい。

A氏

学生の報告会に臨席させていただき狙いや現象のすばらしさもさることながら、活発な意見交換、プレゼン能力に感心させられました。先生のおっしゃるとおり、「もっと早く行くべき」との感を改めて思い知らされ、反省しきりです。スマートな新技術で暗い世相を跳ね除けてくださるようお願いたします。

B氏

先生の研究そして教育にかける熱意をひしひしと感じると共に実用化へのアイディアそして展開、学ぶところが多くおおいに勉強させていただきました。学生さんは元気が良く、活き活きとしていたのも印象的でした。

C氏(同行された人事の方)

学生さんの活発な意見交換や研究熱心な姿がとても印象強く、個人的にも素人ながら化学の面白さを改めて感じた次第です。また、本間先生の表面技術研究・人材育成への情熱を目の当たりにし、深く感銘を受けました。弊社について少々触れますと、40年以上プリント配線板のメーカーとして、新技術・新製品の研究開発に携わっておりますが人員構成上、20代後半から30代前半が少ない状況です。

そのため、新卒で入社された方にも一般的な企業よりも早く責任ある仕事を任せ、活躍していただいております。貴研究室の学生さんにも是非ご入社いただき、活躍していただければと存じます。あらためて、上司とお伺いしたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。
 

今だからこそ
関東学院大学 
本間英夫
 
昨年後半から急激に押し寄せた未曾有の世界的大不況によって、特に自動車関連および電子部品関連企業では、昨年の9月頃までと比較して生産現場の稼働率が30%から50%に落ち込んでいる。

しかもこれらの関連企業は、何らかの形で輸出中心の製品を扱っているので、落ち込みが急激でしかも円高による為替差損が莫大である。したがって、各企業ではやむを得ず、派遣社員の契約打ち切りを手始めに、正社員の残業規制、時短、さらには金曜日も休みにせざるを得ない状況が年明けから一気に増えてきた。100年に一度といわれるこの大不況、いつまで続くのかは専門家の中でも意見が分かれ、3ヶ月程度で上向いてくるとの極めて楽観的な予測から、最低1年、大半は3年くらいはかかるだろうと予測されている。

今、まさに忍耐の時である。しかし、逆転の発想で、今だからこそ、これまで生産に追われ、改善しようと思っていても時間的なゆとりがなく放置されてきた工程改善で歩留まりを大きくアップさせる大チャンスである。

先日、ある会社に出かけて工程をつぶさに見せていただいたが、物によっては20%以上も不良が出ているという。それこそこれは宝の山で、今だからこそ技術者の出番で大いに歩留まりアップに注力できるチャンスですねとコメントした。

小生はこの種のコメントをするのには、根拠なしに単に頑張れよと激励しているわけではない。アドバイスで大きく歩留まりを向上させるヒントを与えてきているからである。これまでの自分のアドバイスで歩留まりが向上したり、大幅に工程を改善したり、新規の事業になったりした経験を挙げてみよう。特に、大手の企業では企業間の競争が激しく、なんでも秘密契約になっているようで、特に最近はその傾向が著しい。したがって、それが技術の停滞につながっている場合が多い。たとえば、新規の製品を世の中に出そうと、ヨーロッパの技術をライセンス契約したらしく、トップシークレットで大型投資をして設備を導入していた。実際稼働してみると歩留まりが20%くらいで、これではその事業部のトップが責任を取らねばならないところまで追い込まれていた。数年かけても原因がわからず、窮地に追いやられていた。その工程を小生が見ておそらく原因は、こうこうしかじかで、恐らくこのようにすればいいはずだと、アドバイスした。その結果、歩留まりが一挙に90%以上にあがった。

またある会社では、スポンジーなフイルムにロールツウロールめっきをやっていたが同じくその工程では半日は良品が出ないという。それに関しても解決策を提案した。

また無電解めっきはセンサーを用いて補給を行って、なるべく長期に安定して使用しているが、その間に不溶性の微粒子が浴の中に蓄積し、それが原因でいろいろ製品に悪さをする。そこで濾過をすればとまでは、誰でも思いつくのであるが、実はろ材の表面で無電解の反応が起きてしまい製品にめっきしているよりも、ろ材のまわりでの反応のほうが多くなってしまうので、あまり現場では使いたがらなかった。これもちょっとしたアドバイスで大幅にろ材の寿命が延長され、製品の歩留まりも上がり、その企業は大きな利益を上げるようになった。そのほか例をあげればきりがない。その意味では技術の伝承の重要さや、ちょっとした発想を試してみることが大切である。歩留まり向上のキーになるのは意外と基本的で単純で本質的なところに解決の糸口が転がっている。

パレートの法則について、以前触れたことがあるが、歩留まりを上げるための一番大切な因子を因子に入れないで、ああでもないこうでもないと右往左往しているように思えてならない。一番基本にある理屈を理解できておらず、発想が豊かでないことがこの種の問題解決能力が欠落することにつながっている。しかも製造現場では、一番感受性の豊かな若い大事な時期であるにもかかわらず、企業に入ってからはすぐに量産、量産と生産の効率追求に注力させられ、自分たちで苦労をして新しい技術を開発したりプロセスを導入してきた経験がなく、すでに確立された技術の延長線上でしか問題をとらえていないし、キーとなるノウハウや技術的な背景が伝承されてきていないところに大きな問題がある。

一昨年話題になった2007年問題、団塊の世代の大量退職による技術力やその伝承に対する危惧が取りざたされていた。最近の雇用体制ではそれがうまくいっていない。小泉政権の時のバブル後の変革で経営者はアメリカ的な経営を取り入れ、目先の利益追求に走り、従って人件費の削減の一環として派遣社員の大量導入、しかも利益の配分は役員の報酬や株主に対する配当金のアップ、この間一般の従業員の給料は平均では低下している。従って技術者に対する評価は低くやる気をなくしている。しかも、当然このような社会現象が理科離れに拍車をかけ、じわーっとボディブローのように効いてきて日本がこれまで技術立国としてトップ集団であったが、最近はかなり地に落ちたといわれている。



技術力アップの最大のチャンス

我々を始めとして、団塊の世代は何も無く自分たちで技術を確立する黎明期から携わってきた。したがって、例えば何故この薬品を使うのか、何故このような面倒な手順で処理を行うのかなど、失敗と成功を繰り返して創り上げられてきた物事の成り立ちから関わってきた。しかしながら、現在の学生達や企業にいる若い技術者たちは、すでに完成された後から、携わってきているので、物事の成り立ちを知らないことが多く、何故良いのか、何故悪いのかの理屈が欠落していることが多い。

小生は最近、そういった成り立ちを知る熟練技術者、知識と知恵を持った先人達の経験を若い人に伝える技術の伝承の重要性について、特に声を大にしてきた。若い人たちは、そういった先人の経験を積極的に吸収するべきであるし、同時に先人たちも「老兵は、ただ去るのみ」と言わず、また経営者は技術的に経験の豊富なシニアーを積極的に取り込み、若い人に伝承する責務がある。

仕事が減り時間のある今だからこそ、逆にチャンスなので、先人の経験を若い人に伝えること、またこのような停滞期にこそ新技術や大幅な工程改善ができ、企業全体の力を蓄え、力の底上げを図ることになる。

これまでにも、研究開発と技術の伝承の重要性については何度も語ってきた。今だからこそ、それらに力を注ぐことが重要であることも語った。そういった意味では、大いに大学を活用していただきたい。

いま大学は冬の時代から、さらに淘汰の時代を迎えている。国公立の大学でも学生が集まらず、今後統廃合が進んで行くだろう。しかし、大学は常に研究開発と技術の蓄積を連綿と繰り返してきた。その膨大な量の「知」を安易な統廃合で失ってしまうのは残念である。今だからこそ、その蓄積された「知」を企業は活用し力を蓄え、企業と大学が共に生き残っていくことが必要である。抑えつけられたバネが勢いよく跳ねあがるように、今は我慢の時、今だからこそ、力を蓄えるときである。

実を言えば、2007年ころから取りざたされた「技術の伝承」の危機は、難しい問題ではない。まさにこれからの雇用体制の見直し、定年退職を延長する、再雇用する、などの解決策が考えられる。むしろ、最近支配的になってきているアメリカ型の経営を見直し、これまで蓄積されてきた日本型の経営と技術の伝承こそ注目すべきである。

製造の見直し

 まず、製造現場の実態を見てみるとこれまでいくつかの大企業の事業所を訪ねたがその企業の中に外注・請負の企業があるのには驚いた。それが今や世の中の常識なのか。製造現場のあちこちで、異なる作業服を着たグループが作業をし、請負契約を結んだ“外注先”の作業員が、工場内で作業していた。

 これまでも企業によっては長髪や茶髪、作業服はよれよれ、トイレは劣悪、このような企業では当然仕事に対して喜びを感じていないようであり歩留まりは低い。多くのこの種の製造現場でほとんどの作業者が、外注先や契約社員で構成されて工場内に正社員の指導員が数名いるだけで、しかも請負契約だから外注先の作業者には直接に指示するのではなく、指示は外注先の責任者を通さなければならず、当然技術の伝承がスムーズにいかず不良の山を作っていた場合もある。

従来のように、作業者間の競争もなければ、仕事に対する喜びや目標は立てにくい。したがって、「技術の伝承」など極めて困難な状況で、それどころかほとんどの場合忘れ去られてさえいる状態だ。

 経営者が国際的な競争の中でまず人件費を削減するためにこのような、請負制と外注に依存する仕組みが取られてきたが、昨年末から年明けに始まった契約社員の雇用打ち切りなどで、「技術の伝承」が危機的な状況になりどんどん技術が劣化してきている。

 この辺で、生産性の追求のみに走ってきた手法を再検証し、思い切って抜本的に見直す時期である。これに早く気づいてアクションを早く取った企業が、未来を先取りできる。「技術の伝承」を確実に行うには、組織や人に思い切って手を入れたり、経営の仕組みを変えたりする革新的勇断の時だ。このままではグローバライズした経営、技術瞬時に情報が飛び交う社会においては、遠からず一企業だけでなく、国家的に禍根を残すことになるだろう。
 

技術と不況について
関東学院大学
本間 英夫 
 
昨年暮れから同じ話題で恐縮だが、100年に一度の大不況、業種によって異なるが、自動車関連・エレクトロニクス関連の企業は大打撃で、生産の5割減は当たり前で7割から8割減のところも多い。従って、ほとんどの企業ではまず人件費の削減、さらには、出張制限、新人教育の短期間化、採用人数の削減、設備投資の延期や中止、ありとあらゆる領域での経費節減などの対策が取られている。今回は、あまりにも落ち込みが急激で、これから先の生産計画の予測がつかないと、多くの経営者は委縮してしまっている。しかしながらこの状態が永遠に続くわけではない。2月末の報道によると、在庫整理が進み鉄鋼や化学材料は若干上向いてきているようだ。景気いずれは回復する。その時期が予測できないから積極策が取られにくい。従って、この厳しい状況下で企業を存続させていくためには、削減しなければならない部分と投資すべき部分、企業にとってはキーになる技術力の部分と厳密に見極めることが大切である。

企業の生命線である技術や開発にまで人減らしの影響で、定常的に現場作業の応援に駆り出されているようでは技術者のやる気が喪失してしまう。今まさに、これまで好況時におざなりにされてきた不良対策、工程改善や設備の徹底的なメンテナンスをはじめとして、技術力を向上させる絶好のチャンスであり、会社全体の閉塞感を解消するように経営者も技術者も鬱状態から脱出しなければならない。

 最近、得意先からこれまで問題にされていなかったようなシミや色むらキズなどに対してクレームがつき、あたかも言いがかりのようで、正直腹立たしくなると2,3の企業の技術者が不平を漏らしていた。しかしながら考え方を変えれば、この種のクレーム対策こそ、品質向上や工程改善や不良対策で技術力の向上の絶好のチャンスである。今年に入ってから、これまで以上にクレーム対策のヒントをもらおうと相談に来る企業が増えてきた。しかも、これまでのように忙しい時は1人か2人位の技術担当者が来るのが常であったが、この頃は4,5人で来られることが多くなってきた。相談内容を聞くと対策のポイントはほとんどつかんでいないようだ。

すなわち表面処理関連の製造業は前から言っているように、装置産業化して薬品メーカーから薬品を買い、設備メーカーから設備を導入すれば、だれでもどこでも画一的に同じ仕事ができるようになってきているからである。内容を聞いてみるとちょっと工夫すれば解決するようなことで大した問題ではない。

しかしながら、生産だけに追われ、これまでほとんど薬品メーカーや装置メーカーに依存していた企業ではこの種のノウハウをほとんど持っていないようだ。

2007年問題と叫ばれてきた技術の伝承、OJTがうまくいっていないようだ。中にはこんな馬鹿げた話まである。ある企業では、技術の伝承と熟練社員の作業をビデオ撮影し、動画情報として残すなどの対策を講じてきたが、撮影目的が曖昧だったために、熟練技能を伝承するどころか、単なる作業風景としての映像にしか過ぎず、撮影した映像だけが蓄積される状況に陥っていたという。技術はこのような形ではなかなか伝えられるものではない。また、OJTは技術を伝えるいい手段なのだが、それが効率追求や若者の仕事に対する意識の低下さらには素直さ謙虚さの欠落からこれもうまく機能していないようだ。さらに追い打ちをかけるように技術者の早期退職、技術力や技能を持った高齢者の再雇用が閉ざされてきているので、ますます技術や技能は低下している。話は戻るがビデオの活用は多くの新入社員教育や技術者の力を向上させるには効果的な手法であり、ハイテクノでは、すでに100本以上にも及ぶビデオが作製済みである。会員企業の中でも有効に活用している企業とそうでない企業に2分されると思うが、まさに今こそビデオの活用を、声を大にして問いたい。その際、ビデオを作成した我々当事者がさらに解説するような方法が最も効果的である。時間とその環境を企業で構築していただければ出かけて行ってもいいと思っている。是非、経営者の方々には考えてもらいたいものだ。

この難局を乗り切るためには、社員が一丸となって、ことに当たらねばならない。開発型の企業では新規のプロセスや商品開発、今まさに知恵を出す絶好のチャンスであり人間の頭脳は一番エネルギー効率が高く、それほど費用をかけなくても「アッ」と思うような面白い、わくわくするような開発につながるものである。

われわれの研究所と付き合っている経営者の中には、モノ作りの根幹である技術力に注力しなければと気付いてきている。

それには若いエネルギーが最も効率よく、是非景気の後退期にも完全に採用をストップするのではなく意識の高い学生を技術者として採用すべきである。景気が回復してからアクションを取るようでは、技術の重要性を認識し技術力を蓄えてきている企業との間で大きな差が付いてしまう。技術を中心とした製造工場では少なくとも複数の柱が必要であり、三本の矢といわれるように今まさに次の柱を建てるには絶好のチャンスである。



就職難について

今を生き抜くためにどの会社も経費削減に必死で、経費削減の一貫として新人採用の枠も大幅に絞られ、就職氷河期と言われる状況に陥ってしまっている。しかしながら、この時期をあえてチャンスと捉えてもらいたい。それは就職倍率が高いということは、より多くの人材の選別を行えるということである。景気の良い時期には、会社のネームバリューも手伝って有名大手企業が良い人材を総取りしてしまう。しかしながら、大手の企業が新人採用を大幅に絞っているこの時期に、中小企業にもたくさんの人材の応募があり、良い人材を確保出来るチャンスである。良い人材の確保は会社の軸であり、ある会社では会社の景気が振るわない時期に採用をストップし、そのことが原因で技術力が低下し事業展開が進まず、倒産に落ちいってしまったケースもある。

「企業は人なり」アメリカの経営方式を表面的に模倣するのではなく、物作りに関してこれまで培われてきた肝心なところは残し、改善するところは思い切って改善する。これまでの日本に根付いた各企業の技術力は終身雇用制が大きく効果を発揮していたので長期雇用は維持すべきであろう。

また現在就職活動を行っている学生達にも、この様な時期だからこそ自分を磨くことを怠ることのないように意識付けし教育を行っていかなければならない。景気の状態が悪くなろうが、どの様な時期に直面しても豊かな人間性をベースに創造性と技術に関する展開力、問題解決能力を持てるように毎日のように学生を意識付けしている。また、英語の能力に関しては、いずれの領域でも必要なので、毎日朝9時過ぎから1時間研究所で訓練している。学生だけではなく社会人の方たちにも同様に言えることだが、仕事にて対しては常に好奇心を持って物事に取り組む姿勢を忘れてはならない。



元技術大国日本

 今となっては昔の話になってしまうのか。日本の技術能力は世界から見ても目を見張るものがあった。しかしながら、日本の技術力は大きく低下し、アジア各国に追いつかれ追い越されてしまうのではないかと危惧する。

技術力の低下に拍車をかけているのは現在の産業界の閉塞状態は勿論、ボディーブローのように効いてくる「若者の理科離れ」である。 小中高の教育では理科実験は危険性が高い、費用がかかるなどの理由で、多くの学校で行われなくなっている。そのため理科に対する興味を持たない若者が増えている。文系の就職先の方が、生涯賃金が多いと言われている中、さらに理系に進学する学生の減少に拍車がかかっている。

第2次大戦を通して、日本は多くの人間を失い、産業は壊滅状態になった。さらに物がない状態からのスタートで、あるのは人の知恵だけであった。そこから様々な方法を駆使して産業のきっかけを見出し、開発を行い、世界に通用するような技術を世に出してきた。

黎明期の技術や技能に対する飽くなき挑戦があってこそ、今の日本の経済があるということを戦後60年以上経過した今、再認識すべきである。日本のモノ作り技術は今では世界中どこでも用いられるようになっている。そのため今まで日本が行ってきた資源を輸入し付加価値をつけて輸出する生産方法から現地生産に「切り替えられていく。資源の少ない日本が自動車やエレクトロニクスをはじめとしてこれからの産業で生き残っていくためには、20世紀型の追いつけ追い越せで培ってきたモノ作り以外に新領域に関して優れた開発がおこなわれねばならない。



METEC09に参加して

2月18日から20日の3日間METEC09に参加したが、実行委員会から発表された参加者数は4万7千人以上であったことが報告された。この不況で出張などの経費が抑えられ参加者が大幅に減るのではと懸念されたが、昨年と同等の来場者数であった。これは大不況のなか各企業が新たな仕事を見つけるための市場動向調査が行われたのであろう。実際に説明員として研究所が出したブースで説明にあたっていた学生によると、共同で開発を行いたい・試作の検討を行って欲しいなどの要望を数多く承ったとの報告を受けた。
 

大学教育現場の現状
関東学院大学
本間 英夫
 
めっきは機械部品、日用雑貨などに耐食性や装飾性を付与する単純な技術で、未だに表面だけを飾り、中身を偽るような印象で捉えている人が多い。歳をとったせいか、研究発表よりも基調講演とか招待講演が多くなったのでこの種の半世紀くらい前の古い認識や印象を払しょくし、さらにはめっきの重要性を的確に理解してもらうために、分かり易く身近な例として先ず携帯電話を取り上げ、電子部品や半導体電子回路形成をはじめ機能性を付与する広範な領域でめっきが必須技術になっていることを説明するようにしている。

めっきを専門にしている企業の技術者へのハイテクノの教育講座でさえ第一回目の講義でめっきの重要性を説いた後は刺激になった、こんなにも重要な技術であったのか、やる気が出てきたとのコメントがほとんどである。

一般の方々やこれからの担い手である小、中、高の生徒にも機会があるごとに分かりやすく重要性を説くようにしている。神奈川県では理科離れを抑制し、青少年に科学技術の面白さを知ってもらおうと、実験を中心としたコンクールが毎年行われている。

本年も表彰式が3月上旬に行われたが、その際に基調講演を1時間やって欲しいという。講演の題目をちょっと考えて「よーく観察してみよう。アッと思うような発見や発明に出会うよ」とした。当日、小、中学生が主であったが、100名近くの生徒が集まり自分の専門領域を中心に、分かりやすく科学の面白さを説いた。また現在大学では出前講座とか出張講座が高校生向けに行われているが、積極的にかかわっていこうと思っている。この種の企画や機会を通じて、少しでも青少年が工学の面白さを理解し理科離れの抑制に貢献できればと思っている。



ドライからウェットへ

電気化学分野で一番影響力のある、米国の学会誌を久しぶりに開いてみたが、燃料電池の触媒やセパレータなどの成膜技術の報告がかなりの紙面を割いていた。

金属の機能を付与する方法として、一般には先ずドライ(乾式)プロセスが検討され、ウエット(湿式)プロセスへ移行するのが常である。

磁気ディスクの製造プロセスで、IBMがドライからウエットプロセスにいち早く変えたのはあまりにも有名である。その先導役であったフェローのロマンキュー博士とは、すでに20年以上前から共に関連学会のリサーチボードメンバーであった関係上、何度もお会いして話す機会があった。

ロマンキュー博士は、大学時代に冶金学を専攻しておられたので、40年以上にわたって、常にエレクトロニクス分野でメインの成膜技術であったドライプロセスから、めっきに代表されるウエットプロセスへの転換に関して、先駆的な研究を進められてきている。その結果、めっき技術は現在では半導体のダマシンプロセスをはじめ、MEMSやバイオチップなどの製造技術として大きな役割を果たしており、今後ますます要素技術としていろんな領域に応用されていくだろう。

金属そのものの固有の機能を発現させる方法として、スパッタリングなど物理系のドライプロセスと、めっきなどを中心としたウェットプロセスがあるが、コスト面でウェットプロセスの方がはるかに有利である。

我々は、電子部品の高集積化への適用に関して当初から携わってきたが、めっき技術がキーテクノロジーとなっており、まさに「ハイテック、めっきがなければ、ローテック」である。



現状における課題

 戦後培われてきた日本のモノ作りを中心とした技術が成熟し、グローバル化した今日、これらの技術が東南アジア諸国にシフトしていくことは自然の流れであるが、これまでは知的財産保護などの対策がそれほど重要視されてこなかった。

これからはフェアな技術移転を意識する必要があり、日本の強みであるモノ作りの中でも、めっきに関して常に世界をリードするような技術の開発が重要である。実際、中村、斎藤、本間と、我々はこれまでいくつか日本発の技術を作り上げてきた。

プラめっきの工業化、高速無電解銅めっき、無電解めっきの混成電位論、アディティブプロセスの開発、自動制御、バッチ多段水洗や電解、イオン交換などを駆使した、リサイクルシステムの開発、その他かなりの日本発の技術を開発してきている。

最近、日本のモノ作りのスキルが若干低下しているような状況になっており、立て直しのための方策がとられている。先月初めに、「特定ものづくり基板技術」についての方向性について、表面処理部門に関してのヒアリングを受けた。

これまで、委員として参画してきた中小企業庁でまとめられた報告書には、めっき技術をはじめとして、もの作りに関する11部門の課題やニーズに関して、難解な表現になっているが、これからの方向性も含めて網羅されており、これらを迅速かつ着実に実施することで、技術開発が良い方向へ進んでいくであろうと確信している。

「特定ものづくり基板技術」に対して、革新的かつハイリスクな研究開発を促進するために、川上中小企業、川下製造業者、研究機関等がいかに連携し研究開発を推進していくか、これを戦略的基板技術高度化支援事業と名付けて展開しようとしており、この事業に対する評価に関しても先日コメントを求められた。



国の関与の必要性、政策としての妥当性は?

この質問に対して、政策としては、大切であり、その妥当性は十分であるが、国が提供する高度化指針などの文章が分かりにくく、政策自体が十分周知されていない。

難解な文章表現のみによらず、ビジュアルな説明を付すことによってわかりやすくする必要がある。また、助成金の申請書類も、簡略化すべきであるとコメントした。申請の簡略化により、支援事業に対して、多くの中小企業で応募しやすくなるだろう。

また、申請書の審査にあたっては、インターネットなどの企業情報などを活用して企業のポテンシャルなどを知ることなどができるはずである。また、県商工労働部、県工試、学会組織などを通じ、本旋策を含め国の政策を積極的にPRしていくことと、多くの中小企業があらゆる旋策に対して単独で応募するのではなくたとえば公的機関や大学と連携をとり、もっと応募しやすい環境を構築していくことが重要であるとコメントした。

我が国の産業活性化

産業活性化に向けてのコンソーシアム構想などは、総論賛成、各論反対で、具体的なアクション段階になると個々の企業が持っているポテンシャルを出し渋る傾向にある。従って、コンソーシアム構想が謳われても、実際にはこれまであまり成果が出ていない。

産業活性化を目指すのであれば、コンソーシアム型の研究開発方式を開かれたものに変えていくことが、必要である。その第一歩として、個々のメンバーが自らのアセット(技術、人材、設備等の資産)を出し合うことが重要で、産学協同を始めとした大学の知の活用は有効な手段である。さらには、成功のカギを握るのは求心力のある指導者の下で進める必要がある。



ものづくり基盤技術の高度化に向けて

研究開発にあたって、とかく生産性の向上だけを目的とした制度が導入されがちであるが、技術者たちは面白みを見出せずに閉塞感に陥ってしまう。研究開発には、ある程度の余裕と公的機関や大学などとこれまで以上に連携することが重要である。

 我々は、基礎・応用に加え、実用化を目指した企業との産学協同を積極的に推進している。現在は、ナノインプリンティングなど回路形成やMEMSへのめっき技術の適用、プラスチック、ガラスなど金属以外の素材へのめっきなど、あらゆる業界のニーズに応え得るようなめっき技術の開発を行っており、基礎・応用だけでなく、実用化への橋渡しも含めた表面処理技術の一大研究拠点を目指している。



3月に開催された関連学会

3月の中旬に本学でエレクトロニクス実装学会の講演大会が開催された。7年前にも一度当学会の講演大会を行ったが、その時は学会始まって以来の1000名以上の参加者があり、記録はその後も破られていないとのことであった。

しかしながら、今回は大不況の中、しかも一番打撃を受けているエレクトロ二クス関連の学会であり、当初の予測では半減するだろうといわれていた。1月から2月に開催されたほかの学会の様子では、すべて参加者が半減していたという。しかしながら環境が最悪の時であったが、左記の事務局からのメールによると例年の約20%減にとどまりホッとしている。



大変お世話になりました。

御蔭さまで講演大会が無事終えることができました。不況という逆境で委員も含め、600人を超える参加者が得られました。

参加の皆様からも関東学院の施設の素晴らしさ、アルバイト学生の働きぶりには高い評価をいただいております。

大会終了後にすぐに御挨拶に伺うべきところ、後片付けのため失礼し、御礼が遅くなりましたこと深くお詫び申しあげます。
 

これからの製造業
関東学院大学
本間英夫
 
戦後先進工業国へ追いつき追い越せで、日本の製造業は西欧から多くのことを学び、歴史上まれにみる急速な経済発展を遂げ、世界第二位の経済大国となった。しかしながら、今回の世界的な大不況によって、これからの製造業は変化していくことを余儀なくされている。

しかも、日本は少子化に向かっており、労働人口が減ってくる。したがって、当然日本のGDPの順位はどんどん下がるが、日本の国民の知的レベルは高いし、高度な産業技術を持っているので、成熟期を迎えて量よりも質を重視する、豊かな社会を作るように軌道を修正しなければならないだろう。
 過去20年くらいにわたって、2年に一度くらいの割合で西欧や北欧を訪れてきたが、GDPは大きくないし、人口も少ないのに、生活は豊かである。日本のように、うわべだけの膨れ上がったGDPでは真の意味での豊かさは得られない。社会構造においても、格差がますます増大してきている。また、これまでのようにアメリカを中心としたマネーゲームに翻弄され世界全体で五千万人の雇用が失われたといわれている。ウォール街を中心としたマネー資本主義、なぜ誰も阻止できなかったのだろうか。

拝金主義による、すさまじい所得格差。過去に何度も経験してきている金融危機に対する学習効果は全く機能しなかった。日本の輸出産業はこれまでのアメリカ依存から、実需を伴うアジア圏でのビジネス展開が中心になっていかねばならない。

そのためには、知的財産権をきちっと遵守したビジネスができるような、国際的に通じる商習慣にアジアの国々が変わらなければならない。日本には最先端の技術力や、質の高い文化があり、国民には品性があり、心も豊かである。アジアの中でリスペクトされる国づくりが必要である。

これまで、日本において世界トップクラスの生産システムが導入されてきた。とりわけ、リーン生産方式に関して読者は周知していることであるが、1980年代にMITで日本の自動車産業、特にトヨタ生産方式の研究がなされ、贅肉のとれたスリムな生産活動を行うことを目指す生産方式として構築された。

「贅肉のとれた」の意でのLIEN(リーン)を用いてリーン生産方式と命名された。日本において1992 年以降の景気後退に対応すべく生産の効率化に対してトヨタ生産システムとともに、このリーン生産方式が何らかの形で採用されて、国際的にみた生産性は高いとされてきた。しかしながら、現在、各企業で取られている低価格での売上増大、市場シェア拡大という量的増大の追求は、日本の企業にとって豊かさを約束してくれる訳ではない。

21世紀は、量ではなく質的向上つまり収益性の向上によってもたらされねばならない。日本企業の国際比較における収益性の低さは特徴的であり、設備投資中心の生産性向上で、収益性を犠牲にして、自社優位を狙う姿勢は反省されるべきである。日本製造業の生産性水準は、その意味では、先進国に比較して低い。絞りに絞った日本の製造業には、大きな生産性向上の余地はもうほとんど残っていない。ぎりぎりのところまで改善改良がおこなわれてきており、限界だ。さらには、定額商品、付加価値の低い製品での生産性の向上は、その生産活動の厳しさに比較して、収益性は低い。バブル崩壊後の長期不況にみまわれた日本の実態は、今更ながら日本の強さとは何であったのかと問いかけられている。これまでは、拡大経済の下での量的増大であり、質的成長ではなかった。日本の製造業の創出する付加価値は、GDPの約2割で、国内および海外に対して付加価値の高い製品を生産してきている。製造業は裾野が広く、雇用者数についても、約1千万人以上であり、物作り大国としての位置付けはこれからも極めて重要である。国内の製造業の企業数は約46万社であり、そのうち99%以上が中小企業で、日本のモノ作りのコアになっている。また中小企業の従業員数は、約560万人に上り、中小製造業が雇用創出に果たしている役割は大きい。

ところが、世界的な大不況により基幹を担ってきたこれらの企業のほとんどは、生産量が急激に落ち込み4月時点で50%以上のダウン、電気製品及び自動車関連では70%もダウンしている企業もあり、景気回復はいつになるのかと我慢し、凌いでいる状態である。

この原稿を書いている4月後半時点で自動車メーカーの減産が緩和され、三休四勤から通常勤務に変わろうとしている。又、まだら模様であるが、幾つかの分野で在庫の整理が進み、増産体制になりつつあるようだ。とくに中国が五十兆円にも及ぶ内需喚起から液晶テレビ、携帯電話などの電気製品の増産による特需などから、V字回復に近い企業も出てきているようだ。    景気動向を示す先行指標である株式市場の移動平均線も4月半ばころから上昇に転じてきており株価は底を打ったとみられる。数年前から中小企業庁のモノ作り基盤技術関連の臨時委員の役に就いているが、めっき技術は高度な技術水準を実現しており、これらの企業が、多様化する消費者ニーズをとらえた最終製品を製造する企業と緊密に連携して、付加価値の高い製品を企画・設計・製造し、競争力の源泉の1つとなっていると説いている。

また、めっきを中心とした技術は、様々な最終製品や部品の製造工程において広範に活用され、多くの産業の競争力を支えている。製造の担い手である中小企業では、より技術力を高めると同時に、同一技術間で協調することにより、発注企業の要望に迅速かつ柔軟に対応し、また、異なる技術間で連携することにより、1つの技術では実現できない付加価値の高い部品や部材等を提供せねばならない。
 

他社との差別化は短納期
関東学院大学
本間英夫

 
4月中旬表面技術関連の経営者懇話会で、わくわくするような講演を聞いたので、その内容を要約し皆様の参考に供したい。すでに読者の中でテレビや新聞なので知っておられるかもしれないが、小生も久しぶりにすっきりして元気を取り戻しました。

以下はJASDAC上場のエーワン精密取締役相談役、梅原勝彦氏の講演を小生なりにアレンジしました。



他社との差別化は短納期

エーワン精密は小型自動旋盤の工具メーカーとして、特別な技術もない、特許もない、大手の傘下にも入らずに、この38年間、対売上経常利益率、平均40%超を続けている。何で、そんなことができるのだろうか。

一言でいえば、今やるべきことを実直にやり続けただけで、よい品物を安く、早く、お客に提供してきたと語る。社員には、創業時から「サービス業という意識を持つ」、「当社はメーカーでありながら、サービス業である」と、徹底して言い続けてきたとのこと。

その業界で高いシェアを持っているとはいえ、競争の激しい業界なのかでの差別化は、よい品物を安く、早くこの3つをきちっとやってきたことによる。「よい品物」は、もう当たり前、「安く」も常識的な価格であれば当たり前で、他社との差別化は図れない。

他社との差別化は「早く」の短納期にこだわっている。人の配置、設備、工場のレイアウトなど、他社がまねできないというところまでの域に達して「困ったらエーワンに」というような、腕のよい外科医みたいなものだと説く。

短納期というと、他社が30分でやるところを、当社は1時間かけ、お客さんが納得する製品をいち早く供給する。時間をかけているのに短納期、しかも高収益を生み出すというのは矛盾するのでは。

この会社では、注文残がほとんどないから、今日来た注文は今日済ませる。ただ、それだけのことだという。それを可能にするには、設備と人はいつも多少過剰にしておくという。これは、無駄とは違い、ゆとりである。お客さんの無理な注文が突発で入った時に、設備も人もゆとりがなければ、応えられない。

仕事は、ミクロン台の精度が要求されるために、工作機械がなじむまでには、1時間、2時間はかかってしまう。精度の高い、急ぎの仕事が入った時に、取り掛かっている仕事を外して、その新しい仕事をやろうとすると、時間的もロスであり精度が出にくくなってしまう。

ところが、設備を余分に持っていれば、対応できる。1人が数台のマシンを扱っているのを、あと1台はみられる。反対に社員に余裕がなく、仕事を押し付けていると、短納期に対応できない。

大部分の社員は「自分たちの会社である」と、「会社が好きだ」と誇りを持っている。組織もないし、会議もない、話は立ち話で済ませるという。それでいながら、社内は事務員が2人しかいないがうまく機能している。

少なくとも2割くらいは無理がきくような体制になっている。短納期に対応するために、いい在庫は持つが悪い在庫は持たない。

いい製品を作るにはやはり、いい工具を必要なだけ使う。これは一見無駄のようだが、無駄ではない。他社は、不景気になると、ますます、ゆとりをなくしているが、不景気で数字を上げようとしても、たかがしれている。

それならば、これからの生産性を上げる方に資金を使うべきである。創業以来、平均40%の利益で一度も赤字を出したことがない。そういう意味での資金的なゆとりと、精神的なゆとりがある。



利益の再投資と人の育て方

これまで一貫して利益を再投資してきた。人の待遇も投資の1つだから、経営者が必要以上に、儲けを取らない。これはほかの会社では真似ができていない。利益が出ると、みんな、真っ先に税金を嫌がる。ところが、税金を嫌がっている経営者は、100年経ってもいい会社を作れない。税金を払っているということは、利益が出ているということ。

一般には税金を払うよりもと、どうでもいいようなところにお金を使ったり、必要以上に同族がお金を持っていってしまう。しかしながら、経営者がやっていることは、社員は全部見ている。

ものづくりで陥りやすい失敗は、「必要な設備」と「欲しい設備」の区別。技術系の仕事をやっていると、毎年、いい機械を欲しがるが、欲しい設備と必要な設備は違う。

例えば、ユーザーが5ミクロンの精度でいいというのに、1ミクロンの精度が出る設備を入れる必要はない。

社員は立場の上の人の後ろ姿を見て育つ。だから、自分が真っ先に社員のお手本になるような、誰から見られても恥ずかしくないような行いを常にやっている。それを見て社員が育つ。それで育った社員が、さらにその先輩の後ろ姿を、後から入ってきた者が見るということで、この会社はもう40年近い歴史がある。2年や3年で、たまたま数字が出てベンチャーなんて騒いでいる会社と違う。

社員づくりは、最初に誤ってしまうと、もう修正がきかない。だから、1日1日が真剣勝負だという。それから、既に他社で出来上がった社員は採用してこなかった。全部、手づくり。技術系の企業で中途採用をやっていないのは珍しい。一般の企業では経験者を採りたがるが、採用の対象にならないという。

素人を教育する。外から採用したのは、世代交代を意識して自分が相談役に退く時の、社長一人だけだという。社長という肩書きをのせておいてから、社長を育てている。

そういう意味では、松下幸之助や本田宗一郎は人を育てた。あの人たちは、自動車を作ったり、家電を作ったりしたけれども、実際には人づくりをちゃんとしてきた。

スタートはやはり、2人、3人育て、さらに後継者が育っているということ。本田技研だって、創業者の本田宗一郎の遺伝子がずっと続いている。

いい人材を育てるための時間と費用、いい設備と、これらはすべて利益を生むための投資である。

価格設定も100円の価値の物はお客さんに100円でちゃんと買ってもらい、安易に値引きに応じない。

不況というのは好況の次に必ず来るのだから、好況の時にきちんと会社に内部留保金を蓄えておけば、この不況で何も騒ぐ必要がないはずだという。



不況の時こそ積極的な投資

不況の時こそ、他社との差をつけるチャンスであるから、不況の時こそ、工場の新設とか、レイアウトの変更、オーバーホール、リニューアルを行う。不況時だからこそ費用が安くあがる。また、いい人材を採用できる。

そして、他社が「どうやって無駄を省こうか、どうやって人を減らそうか」といっている時に、こちらは次の準備をする。

会社経営というのは、2年、3年のスパンで考えたら駄目。やはり、少なくとも、10年くらいのスパンで考えないと駄目だ。好況の次は不況、不況の次は好況、これは絶対に繰り返してきているわけである。

「製品の価格の中には、不況の時のしのぎ代も入れておく」というのが持論。

ライバル企業と同じ価格で受けても、他社より高い利潤を確保しておいて、そして、その一部を不況のために使う。

それには常に、工場では、去年100円でできたら、今年は95円で作ろうというような努力を、ずっとやってきている。工作機械メーカーがいい機械を開発して、これまで1時間100個しかできなかったが、120個できる設備が出た時は、躊躇なくその設備に切り替える。

また、作業改善をやりながら、常に社内コストは下げてきた。結局は、気が付いてみたら、大手のライバル企業はこれではかなわないと一目置かれる会社になってしまった。

当社は価格破壊者であるが、価格を破壊しながら、利潤はちゃんと確保している。最近の他社では「安く、安く」と利益を度外視しているが、それは間違い。

特に製造業は、そういう落とし穴に陥り、あれだけの為替差益で高い利益を上げたトヨタでも急に、契約社員や、正規の雇用にも手を付けなければいけないとか、不況に入って半年も経たないはずなのに、なぜ、ここでそんなに慌てないといけないのか。

それはやはり、利益を出す仕組みが、おかしいのではないか。

あと、利益を出すことも大事だけれども、出た利益をどのように使うのかということを考えることも経営者にとってはすごく大事な仕事だという。

人件費に関しては、好不況に関係なく毎月、出さねばならないが、同業他社と比べて1.5倍の年収を出せているのは利益が高いからである。

会社は、よほどのことがない限り終身雇用を守っている。

そういう考えで経営をしているのが社員の心に伝わる。新入社員に対し先輩たちは、ほとんど会社の悪口を言わない。また、会社に対して批判的な取引先がない。



ライバルは作っていいが敵を作るな

会社は当然、ライバルは作っていい。ライバルは作らないと駄目。

例えば、トヨタに日産があり、キャノンにリコーがあるから切磋琢磨する。ライバルは作ってもいいけれども、敵は作ってはいけない。

これはどういうことかというと、100円でやっている仕事を80円で受ける。それ自身は、決して悪いことではないが、80円で持ってきておいて利益も出せないで、仕事を放り投げてしまうと、その80円の価格はもう100円に戻れない。80円で持って来てちゃんと利益を出していれば、それは相手の努力が足りないからだ。

もう1つは、下請けでは毎年、2%、3%のコストダウンを要求されて、そのための努力をして、それを達成しても、つまり、合理化した努力の結晶が親会社に取られてしまう。

当社は小さなメーカーであるが、当社自身のブランドで注文、販売網を持っているということが、他社では考えられない利益を出すことができる。

集金をせずに振り込んでもらうということを、もう三十何年前からやり続けている。

そろそろ次の世代へバトンタッチの時期と考えたのは正しい。ただ、5年や6年の年齢差では意味がないから、思い切って、創業の時に手塩にかけ、非常に厳しく育てた役員3人にあえて、先に退いてもらった。

そして、最後にけじめとして、私が退いた。代表取締役会長にもならずに、退いたという私のこれからの生き様を見ると、納得できるのではないかなという。

社長は孤独でこれまでいろいろ苦労が絶えなかった。そのような時は、本に出てくる登場人物から学ぶことが多かったという。若いときは、松下さんや本田さんの本を参考にした。今でもそうだけれども、読む本というのはどちらかというと、心に響く、宗教的な物も多いという。

とにかくプラス思考で「幸せを売る素晴らしい人」のわくわくする講演だった。
 

最悪の就職戦線
関東学院大学
本間英夫
 
これまでに経験したことのない大不況に見舞われ、多くの企業では存続をかけていろんな対策が取られている。特に企業における重要な経営資源は人材であり、優秀な学生の採用が大切である。

各企業にとって、長期展望の上に真に必要な人材を明確化し、採用計画を立てることが重要であるが、多くの企業では、その前に、今まさに足元を固めることに注力せざるを得ない状況にある。

従って本年は採用を完全に控えたり、採用人員を大幅に削減している。その影響が就職希望の学生に直撃している。

採用にあたってはインターネットによるエントリーに始まり、会社説明会、人事面接、技術面接、役員面接と最終選考までのステップは4段階から5段階で、その間学生は拘束される期間がすくなくとも2ヶ月くらいに及ぶ。

それ故、学生はリスク回避から複数といっても2ケタ以上の企業にエントリーすることになり、その間は全く知識の蓄積の時間的余裕はないし、卒研や修士論文に手をつける時間がない。従って企業にとっても大学にとっても本人にとっても、ひいては日本全体の産業界にとっても全く非生産的である。

日本がこれまで世界的に力をつけてきたはずの技術力は、このような採用方式をとり続けていると、ボデーブローのように、じわじわと低下してくるであろう。

早い段階で、この種の一般的な採用方法を見直す必要がある。以前にもコメントしたことがあるが我々の研究室では企業側が特定採用をしてくれているので、今回のような最悪の不景気にもかかわらず、すでにほぼ全員の内定が決まっている。(協定で10月正式採用決定になる)

一般的には、企業にとっては、これまでに正社員として働いたことのない新卒者の行動特性を見極めるのは簡単ではない。

採用試験にあたっては、潜在能力や適性を短時間で判断せざるを得ないが、たった一度の適性検査や面接で学生の資質と適性を見極めることは難しい。

それ故、まだまだ一般的ではないが、徐々にインターンシップや大学との協同研究などを通して、必要としている人材を探す方法が浸透してきている。

我々は、中村先生が教授であった45年以上前から、就職課の窓口はほとんど利用せず、企業からの採用に関しては直接先生に企業から要請があり、先生の判断で決められた。この手法は小生が教員になった後も継続している。従ってミスマッチはかなり防げるはずである。

しかしながら、最近の学生はストレス耐性が低い。若者のストレス耐性の低さは、かなり深刻な問題を内包している。企業では、メンタルヘルス上の問題を抱える人を見極められねばならないので、面接にあたって、かなり意地悪で威圧的な質問を投げかけるような手法が多くなってきているようだ。

特に本年のように超買手市場になるとその傾向は強くなる。このような面接方式がいわゆる圧迫面接といわれている。しかし、ほとんどの学生は受験の際の志望校選びと同様、何社も(中には数十社応募は当たり前で100社も応募した学生もいると聞く)応募し自分が気に入るところを選ぶので、この種の威圧的な面接をする企業は印象を悪くし、内定時には逃げられてしまい、企業イメージ上にもよろしくない。 

採用とその後の教育は人材育成上、車の両輪できわめて大切な項目である。長期展望にたった人材構成と採用プランは、企業の永続性な成長には欠かせない。それには、我々学生を送りだす側も意識を高めねばならない。

さらには、最近の団塊の世代の退職が社会問題になっており、彼らが退職した後は企業や研究機関での人材が育っていない。

その原因としては、企業側ではシニアによる技術の伝承がうまく機能していないこと、また大学側では、多分に研究室の制度が破壊されてきたことの後遺症と、それが増幅されている影響が大きい。

これまで開発を主に行ってきたか企業においても、大学の研究室においても、それぞれこれまで蓄積されてきた技術の取り組みのいい面を残し、研究体制を復活し、次の世代に技術を継承する人材を育成していかねばならない。

技術開発力は発想力の豊かな少人数の開発集団と、さらにはそれを実用化するためのチーム力が必要である。我々も、今まさに21世紀型の研究開発と実用化に向けた研究集団を研究所として構築していかねばならない。

本学の他の研究室の就職状況を聞いてみると4年生のまだ1,2割しか内定が出ていないという。本年は学生にとっては大変な1年になるだろう。



底を打ったか株式市場

東京市場の日経平均は、6月11日に2008年10月8日以来となる1万円を回復、12日にはさらに終値で1万150円を突破、出来高も40億株程度と活況を呈した。

市場関係者によると、景気回復期待を織り込む一方、各国の金融緩和政策や財政支出による過剰流動性がリスク資産に流入し、投資家心理が改善した結果と分析していた。

この先、上値については市場関係者のコメントによると、先高期待先行で、上昇を続けるとの見方が出ているほか、企業決算や経済指標から判断して4―6月期での底入れが明確になってきたとみて、もう一段の上昇を見込む予想が多い。

一方、米金利の上昇圧力や円高、国内での総選挙などの不透明要因もあり、上値は重いのではとの見方も出ており、1万0500円─1万2500円と予想している。予測不可能な変動要因が多い株式市場では株価の予測は難しいが、6月中旬の市場関係者のコメントは、以下のとおりである。



A氏
 景気の底打ち感からの回復期待と、各国の金融緩和策と財政支出による過剰流動性から平均株価は値上がりした。
 この過剰流動性相場が機能しなくなるとすればそれは米国の金利上げだが、年内の利上げはないだろうが、米国の雇用問題は深刻であり従って個人消費が回復するかは微妙であり、景気の実態が期待しているほど回復していないとなれば、失望による株価は下落するだろう。

また財政赤字懸念から米金利が上昇することも注意すべきである。
 従って、市場に失望が広がれば、秋以降8500円程度までの下げはあるだろうが、その後、来年の景気回復期待から年末までに1万1000円程度まで回復すると予想する。



B氏
 1万円の大台は回復したが、今後は手掛かり難から1万円付近で推移するとみている。
 8月に総選挙が実施され、政権交代なら9000円付近に下げ、その後景気が回復し、年末にかけて1万1000円に回復する可能性はある。しかしながら、年明けは息切れするとみている。



C氏
 景気回復期待から理想買いの段階に入り日経平均1万円回復を示した。今期の業績予想を踏まえれば、ここから上昇すると株価収益率(PER)の壁に突き当たるが、先行き収益が回復すれば高PERもクリアでき、業績回復を買い始めたとみることができそうだ。

これまでのネガティブなムードから、ポジティブな見方が広がり、投資家心理が大きく好転してきている。
 底値からかなり戻したとは言え、上昇余力はまだまだ大きいのではないか。ヘッジファンドから個人まで幅広い投資家層の間で、パフォーマンスが改善しており、ジリ高のトレンドを今後も維持し、日経平均は年末までに1万1000円を目指す動きになるとみている。


D氏
 株価回復の背景は、過剰流動性にあるとする向きもいるが、流動性が過剰になっているという統計は特に見当たらない。

原油などの国際商品や株式などリスクアセットに資金がシフトしているのが実情で過剰とは言えないだろう。
 日本の国内総生産(GDP)は約520兆円で、東証の時価総額は約300兆円まで回復し、GDPに対する比率は約60%で、これまでの平均75%をまだ下回っている。
 PERは、企業の利益から割高だとの指摘もあるが、今後企業利益は上方修正されていくだろう。

株価は今期の利益だけでなく将来の利益を織り込み、株価が形成されるので、日経平均は来年3月をめどに1万2500円程度を目指すとみている。

E氏
 余剰の投資マネーが新興国市場や商品市場から先進国の株式市場にも流入し流動性相場を示している。
 短期テクニカル指標が過熱しているため、目先の日経平均は1万0500円程度で頭打ちとなるだろうが、今後の企業決算や経済指標で4―6月期での底入れが明確になってくる。早ければ8月ごろにも1万1500円から1万2000円の高値はあるとみている。
F氏
 中国を中心としたアジア市場がしっかり推移し、需給改善、為替でのドル高基調などが総合的に下支えして1万円を回復したが、景気回復への期待感がかなり先行している。

米国を中心として利上げを含む金融政策の転換につながると景気回復の腰折れとなる可能性もある。
 当面はリーマン・ショック前の2008年3月23日につけた安値1万1691円00銭が上値の目安とみている。夏場にかけて景気回復への期待感が続くかどうかが鍵となりそうだ。



G氏
 投資家の多くは、まだ景気や企業業績の先行きに懐疑的であり、投資タイミングを失っている。出来高は流動性相場と呼ぶには少なすぎる。ベンチマークに追いつけず、パフォーマンスの悪化しているファンド等が買いを入れるのはこれからだろう。

日経平均は早ければ6月末にも1万1000円程度に到達するとみている。買わざるを得ない投資家がウエートを高め、需給相場が一巡すれば、いったん調整に入るだろう。



およそ50年の投資経験から

このように、いろんなコメントが市場関係者からでている。いずれにしても、この半年の間、事あるごとに技術関連以外の話題では、どんなセクターでも今は買い時で、目を瞑って何を買っても値上がりするから、こんなチャンスはないよと言ってきた。谷深ければ山高し、当たり前のことで、自分がその企業を応援する気持ちでタイミングを探し、ほぼ底値で買いを入れ、長期投資すればいい。売買に一喜一憂することもなく自然に財産を増やすことができる。

高校の2年だったか、もう50年も前になるが親から、株式投資をしてみるかといわれ、高校生としては手にできないような金額をいただいて投資を始めた。大学に進学する頃は、まじめに場立ちになろうかと「ナマリ」「マムシ」「テツ」「カヤク」などと符丁を覚えたり、売買のサインも覚えたものだ。
 

何のために働くのか
関東学院大学
本間 英夫
 
米国に端を発した大不況、当初は日本に対する影響は軽微だと政府高官の説明であったが、世界的な大不況と認識されだしたのは、昨年末からで、年が明けてからは多くの中小企業は雇用調整助成金の申請を行ってきている。仕事が半分以下に落ち込み、基本的には金曜日も休み、3休4勤とする企業が多くなってきていた。さらには、4休3勤もやむを得ずとの会社も出てきていた。

こうなってくると働くことに対して各人の意欲が大きく低下し、仕事のない時こそ対応しなければならないような、不良対策、設備や工程の見直しや工夫に対しても集中する気持ちになれず、また社会全体が鬱状態に落ち込んでいるように思える。

そこで今回は京セラの稲盛さんが著されている本やPHPを参考に「何のために働くのか」をまとめてみた。

一般には働くことの意義は生活の糧を得るために必要な報酬を得ることと定義できるだろうが、ただ、私たちが一生懸命に働くのは、そのためだけではないはずである。一生懸命に働くことには、私たちの心を鍛え、人間性を高めてくれる。長い年月の間、一つの仕事をやり通すには多くの困難を伴い、もう辞めたくなるような苦労もある。その苦労を克服しつつ、一生懸命に仕事に励むことで、素晴らしい人格を育み、豊かな生活ができる。さらには、将来を担う若い人達も、仕事で努力し、仕事で苦労することから逃避せず、素直な心で一生懸命に仕事に打ち込むことが肝要である。

しかしながら、現在直面しているような不況の時、多くの企業では、給料カットや遅配、残業の規制、ボーナスの減額などを余儀なくされている。それゆえ、将来が不安になり「いったい何のために働くのか」という自問が湧いてくるかもしれないが、働く事は人間を鍛え、心を磨き、「人生において価値あるもの」をつかみ取るのである。

「よく生きる」ためには、「よく働くこと」がもっとも大切なことである。それは、心を高め、人格を磨いてくれる「修行」であるといっても過言ではない。



「労働の意義は、業績の追究にのみ

あるのではなく、個人の内的完成にある」



ひたむきに、目の前の自分のなすべき仕事に打ち込み、精魂込めて働く。そのことで、自らの内面を耕し、深く厚みのある人格をつくり上げることができる。すなわち、日々の仕事に励むことによって、自己を確立し、人間的な完成に近づいていく。そのような例は、古今東西を問わず枚挙にいとまがない。

「巧成り名を挙げた」成功者は、例外なく、努力を惜しまず、辛苦を重ねながら、自分のなすべき仕事に没頭してきている。働くことはたしかに辛いことも伴うが、それ以上に、喜びや誇り、生きがいを与えてくれる尊厳な行為だと考えられてきた。そのため、かつての日本人は、職業の別を問わず、朝から晩まで惜しみなく働き続けてきた。

しかしながら、近年社会の西洋化に伴い、日本人の労働観も大きく変わってしまった。



生き方、働き方

もちろん、稲盛さん自身も、もともと働くことが好きだった訳ではなかったと言う。子どものころは両親から「若いときの苦労など買ってでもしなさい」と諭されれば、「苦労など、売ってでもしない」と口答えするような、生意気な子供であったという。

大学を卒業し、ある窯業メーカーに入社した。しかし、入社当時は、赤字続きで給料の遅配など当たり前で、いつ潰れてもおかしくない会社だったという。同期入社の者は、入社してすぐに、「こんな会社はイヤだ。もっといい会社があるはずだ」と、そんなことばかり考えるようになり、いつも愚痴をこぼし合っていたという。

不況のさなか、恩師の紹介でやっと入れてもらった会社で本来であれば、感謝の念から、会社の悪口などとても言えないはずである。

しかしながら、若く未熟であったので、紹介してくださった方への恩義を忘れ、また自分たちが、まだ何の成果も上げていないにもかかわらず、不平不満だけは一人前だったという。

入社して一年もたたないうちに、同期入社の者は次々に会社を辞めて行き、最後まで残ったもう一人の同僚と一緒に、自衛隊の幹部候補生学校の試験を受ける。二人とも合格したが、入学するには戸籍抄本が必要ということなので、鹿児島の実家に送付を頼んだところ、待てど暮らせど抄本が送られてこない。

結局、その同僚だけが幹部候補生学校に入学した。実家から戸籍抄本が送られてこなかったのは、「苦労して大学まで進ませ、やっと先生の紹介で京都の会社に入れてもらったというのに、半年も辛抱しないとは情けないやつだ」と兄が怒って、戸籍抄本を送ってこなかったのである。

結果的に、一人だけ会社に取り残されることになる。その時、会社を辞めて転職をしたからと言って、必ずしも新しい職場で成功するとは限らないし、会社を辞めるのが正しいのか、会社に残ることが正しいのか悩んだ末、一つの決断をする。

たった一人、会社に取り残されるまで追い詰められて、目がやっと覚め、「会社を辞めるには、何か大義名分のような確かな理由がなければダメだ。不満だけで辞めたのでは、きっと人生はうまくいかなくなるだろう」ということで、まず「働くこと」に打ち込んでみようと決意したという。

愚痴を口にすることや、不満を抱くことをやめて、ともかく目の前にある自分の仕事に集中し、真正面から本気で取り組んでみることにした。

それからというもの、真剣に働き続ける。その会社では、今で言うところの最先端のファインセラミックスの研究を担当した。

三度の食事もろくに摂らず、昼夜を分かたず実験に打ち込む。その真剣な仕事ぶりは、端から見れば壮絶なものだったようである。

もちろん、最先端の研究だから、ただ単に馬車馬のように働けばいいわけではない。ファインセラミックスに関する、最新の論文が掲載されているアメリカの専門誌を取り寄せ、辞書片手に読み進めていったり、図書館で借りた専門書をひもといたりするなど、仕事が終わった夜や休みの日も勉強を重ねた。

そうするうちに、不思議なことが起こり始める。大学で有機化学を専攻し、就職のため、無機化学をにわか勉強しただけなのに、二十歳代前半で、次第に素晴らしい実験結果が出るようになってきた。

「会社を辞めたい」「自分の人生はどうなっていくのだろう」といった、悩みや迷いがウソのように消えていく。それどころか、「仕事がおもしろくて仕方がない」とまで感じられるようになって、周囲からさらに高い評価されるようになっていた。それまで苦難や挫折続きであった人生に、思いもよらず、好循環が生まれるようになり人生において、最初の大きな「成功」が訪れる。



神様が知恵を授けてくれた成功の瞬間

入社して一年ほどたった、24歳のとき、絶縁抵抗が高く、高周波域での特性に優れていたファインセラミックス材料の研究開発で、まさにチャレンジングなテーマであったという。当時は大した設備もない中、連日連夜、それこそ徹夜続きで開発実験を続けたが、なかなか思うような結果が出ない。自分をギリギリのところまで追い込み、昼夜を問わず実験を続け、どうにか合成を成功させることができる。当時、このセラミックスの合成に成功したのは、稲盛さんのほかには、アメリカのGEだけであった。

この高周波特性に優れた稲盛さんの開発した材料はフォルステライトと呼ばれる材料で、当時は日本の家庭にブラウン管式のテレビが普及し始めた時期で、電子銃の絶縁部品の材料として、うってつけだった。この開発で原料であるフォルステライト粉末をいかに成形するかの問題にぶつかる。さらさらの粉末では、形をつくることできない。

当時は、粘土がバインダーとして使われていたが、それではどうしても不純物が混ざってしまう。来る日も来る日も、この「バインダーの問題」をどうクリアするか、考えあぐねていたある日、思いもかけないことが起きる。

実験室を歩いていたところ、何かにつまずいて転びそうになる。思わず足元を見ると、実験で使うパラフィンワックスが靴にべっとりとついているので「誰だ!こんなところにワックスを置いたのは!」と叫びそうになった。まさにその瞬間、「これだ!」とひらめく。これまでも雑感シリーズで何度も話題にしてきたセレンディピィティだ。

早速、手製の鍋にファインセラミックス原料と、そのパラフィンワックスをいれて、熱を加えながらかき混ぜて原料をつくり、型に入れて成形してみたところ、見事に形をつくることに成功する。さらには、それを高温の炉に入れて焼くと、つなぎのパラフィンワックスはすべて燃え尽き、完成品には、不純物がまったく残らない。悩み抜いた問題が、一気に解決してしまう。今思い返してもても「神の啓示」の瞬間であったという。

もちろん、実際に解決策がひらめいたのは自分自身であるが、それは一生懸命に仕事に打ち込み、苦しみ抜いている姿を見た神様が、憐(あわ)れみ、知恵を授けてくれた、そう表現するしかないと回顧されている。

この「最初の成功体験」によって、苦難の中にあっても、懸命に働くことが、素晴らしい運命をもたらすということを、実感されている。

「あいつは、かわいそうだ」人は、周囲からこう言われるくらい不幸な境遇に、一度は置かれた方がいいのかもしれない。

悩みや苦しみを体験しなければ、人は大きく伸びないし、本当の幸福をつかむことができない。人生において経験してきた、数え切れないくらいの苦労や挫折は、成功の土台となってくれる。今、振り返ると、過去に苦しいと思えたことが、後になっていい結果を招いていることに気づかされる。

そういえば、人生における苦難や挫折、それこそが人生の起点であり、最大の「幸運」であったのかもしれない。この不運、試練こそが、仕事に打ち込むことを教え、そのことを通じ、人生を好転させてくれたという意味では神様が与えてくれた最高の贈り物だった。逆境にあっても、愚直に懸命に働き続けたことが、すべてをつくる基礎となってくれたと語られている。

もし、苦難や挫折をしらず、有名校に入学し、大企業に就職していたら、人生はまったく異なったものになっていたであろう。順境なら「よし」。逆境なら「なおよし」とプラス思考、前向きにとらえ、努力を重ね、懸命に働き続けることが大切である。我々の世代は大なり小なり似たような環境で、お同じような経験をしている。 

同僚の山下先生が昔のことを思い起こし、指導教授が「真剣な気持ちで実験しなければ、良い結果は得られない」とういことを、たびたび学生に言っておられたと、また、十数年前、表協の懇親会で、90歳前後の武井武先生が、「人生には誰にも平等に2~3回のチャンスがあります。手を伸ばせば届く頭の直ぐ上まできていますが、この幸運を手にするには、常に努力をしていなければなりません」と、語られたことを鮮明に記憶しているそうです。読者のみなさん、まさに困難の時、今だからプラス思考で臨みましょう。
 

高エネルギー密度電池の開発と表面技術
関東学院大学
山下 嗣人
 
電池は化学反応によって遊離されたエネルギーを直接電気エネルギーに変換するので、その効率は高く(燃料電池は83%)、クリーンなエネルギー源として期待されている。なかでもリチウムイオン電池は軽量で高いエネルギー密度を有していることから、携帯電話や自動車、電車などに利用されている。リチウムイオン電池を搭載したハイブリットタイプの列車が2007年7月に世界で初めて、長野県のJR小海線で実用化された。時速30kmまでは電池を作動させ、その後ディーゼルエンジンを併用し、ブレーキエネルギーを充電する仕組みで、燃料消費の低減化を図っている。二酸化炭素をはじめ、有害な窒素酸化物や粒子状物質の排出を約60%抑えた環境に優しい画期的なシステムを導入した列車として注目されている。

2008年7月には三菱自動車がリチウムイオン電池を搭載した電気自動車を発売した。その販売計画は2011年に1500台、また、日産自動車は2012年に30万台の量産体制を敷くと発表しており、環境対応車に追い風が吹いている。神奈川県は2014年までに、バスなどの大型車両3000台にリチウムイオン電池を導入する予定としているが、それには「短時間で充電できること」、「長距離を走れること」が必須課題で、貯蔵できる電気容量の90%を5~10分で急速充電できることも求められている。また、瞬発力を高めるために正極材料の改善も必要とされる。

電池の開発は、電池・電気メーカーと利用する自動車メーカーとが共同で行っているが、表面技術者が専門とする分野が多い。リチウムイオン電池の正極基板にはアルミニウム箔が用いられ、活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)粉末が塗布されている。端子にもアルミニウムが使用されている。負極は銅箔基板上に炭素材料が塗布され、端子にはニッケルが使用されている。基板と活物質との密着強度が特に重要である。密着性の向上や表面を多孔質・微粒子などに制御した新負極活物質を開発することは、我々の得意とする分野であり、急速充電、高信頼性が要求される電池開発への参入が大いに期待できる。

酸素-水素燃料電池の利用も期待されている。1969年7月、人類が初めて月面へ着陸したアポロ11号に搭載されて注目された電池である。負極活物質の水素1モルと正極活物質の酸素1/2モルから1モルの水が生成する反応を利用したもので、家庭用や自動車、電車へ応用されている。酸素還元反応を進めるには白金触媒が必要であるが、乗用車1台に50~70万円の白金が使用されるため、コスト高となっている。白金代替触媒の開発や触媒の固定化技術にも改善すべき問題が残されている。

酸素還元反応は、気相の酸素、液相の水素イオン、固相の白金触媒の三相界面で起こるので、触媒をこの部分にのみ選択的に付与する技術を完成させ、安価な触媒が開発できれば、一般市民にも広く普及するであろう。ダイハツ工業は脱水素燃料電池として、燃料に水和ヒドラジン、触媒には安価なコバルトやニッケルを用いた電池を試作している。

文科省は地球温暖化対策を強化するには、既存技術での目標達成は困難と分析し、①色素増感型太陽電池の発電効率を50%以上高める、②現存電池の7倍の容量をもつ高性能蓄電池の開発、③超電導物質の開発、④超耐熱合金材料の開発、などを盛り込んだ「低炭素社会づくり研究開発戦略」を本年8月に発表している。2020年頃までに実用化し、2030年頃の普及を目指して、2009度の概算要求に反映させる方針という。温暖化防止対策として期待される高性能・高容量電池の開発には表面技術が重要な役割を担っている。表面工学研究所や筆者の研究室でも実施しているが、この市場への表面技術者の積極的なアプローチが望まれる。


バイオ燃料の功罪

日本の平均気温は2005年までの100年間に1.06℃上昇した。二酸化炭素の排出量がこのまま増え続けると、2100年頃の平均気温は2~3℃上昇すると予測されている。すでに、熱中症が急増しているという。植物の開花は早まり(桜は4.2日/50年)、紅葉は遅れている(カエデは15.6日/50年)。暖かい土地に棲んでいた虫たちは北へ移動し、ナガサキアゲハは2000年には関東や北陸南部でも見られるようになった。本州のお米は高温障害のため、「コシヒカリ」や「あきたこまち」のブランド品が売れ残り、稲作に適した気候に変化した北海道産米の人気が上昇している。日本周辺の海水温度は100年間で0.7~1.6℃上昇し、冷水を好む魚の漁獲量が減少し、暖水を好むそれは増加している。西日本の高級魚サワラの水揚げが東北の海で急増しているという。

二酸化炭素の排出を抑える工夫や吸収効率が樹木の15倍大きな藻類を育て、燃料に変換するシステムの開発や海の植物プランクトンを増やすために鉄粉を散布しての光合成が活用されている。また、触媒を使用した二酸化炭素の化学的還元やカソード電極材料の選択性を利用して、電気化学的にアルコールなどに迅速還元して、燃料として再使用することも提案されている。

最近、ガソリンに代わる自動車用燃料として、植物からつくる環境に優しい「バイオエタノール」の普及が注目されている。バイオエタノールはサトウキビやトウモロコシなどの二酸化炭素吸収能力の高い原料から、糖分を抽出し、発酵・蒸留・脱水して取り出し、これをガソリンに混ぜて使用する(現状は3%)。燃焼時に排出する二酸化炭素は、もともと大気中にあったものを植物が吸収したものとみなし、大気中の二酸化炭素の総量は増えないことになる。

2010年度からの全国販売を目指して、2008年4月27日、首都圏50ヶ所でエタノールを3%混合した「バイオガソリン」の試験販売が始まった。エタノールがエンジン部品を腐食させ、ゴムを溶かす性質をもっているため、濃度は3%に制限されている。アルコール濃度は将来的には高められるので、今後は材料・材質の変更または高耐食性の表面処理が不可欠となる。JALは大型機B747を使用して、4基のエンジンのうち1基にバイオ燃料20%混ぜての試験飛行を二年前に実施している。

一方、バイオエタノールの生産急増が食品の価格を高騰させる問題を引き起こしている。食糧や飼料向けのトウモロコシやサトウキビが燃料製造に転換されたことで、穀物、牛肉やビールの値上げが、また、大豆畑やオレンジ畑が減少して、食用油・マヨネーズやオレンジジュースの値上がりを招いている。そこで、複雑な製造工程でコスト高とはなるが、食糧生産と競合しないバイオエタノール増産を目指して、農林水産省は稲わらを原料に、環境省は草や廃材を使用した実証試験にそれぞれ着手している。他にも、糖分搾りかす、藻や毒性の実、雑草、放置竹林、ススキなどからの製造も試みられている。また、減反調整にあえいできた農村を活性化する狙いから、「水田を油田に変えよう」という構想も動き出している。

食品廃棄物、家畜の糞尿、建築廃材などのバイオマスを下水処理場に集め、下水汚泥とともに発酵させる。メタンを含むバイオガスを発生させて、発電に利用し、余熱を暖房に使う方法も検討されている。


高速道路休日割引の是非

高速道路料金の「休日1000円」が2009年の春休みに導入され、観光客増を狙った景気対策として話題を呼んだ。経済危機から脱出するためには、大動脈である高速道路の活用効果が高いとして導入されたが、5月の連休をみる限り、高速道路を利用しての観光地が賑わった一方で、大都市近郊の観光地(伊豆・箱根、草津・山梨など)は素通りされてしまったという不満を耳にする。また、鉄道(7%減)・長距離バス・フェリー利用客が大幅に減少し、廃業に追い込まれたフェリー会社があるなど、受益の不公正さや高速道路利用者増と渋滞による二酸化炭素排出量の増加という弊害も指摘されている。

高速道路とその周辺道路の交通量が20%増えたことによる二酸化炭素排出量は66万tアップとも試算され、温暖化対策とは逆行している。高速道路の休日割引制度は、一人当たりの二酸化炭素排出量が車の1/9である列車や1/3のバスなど、公共交通機関への転換を奨励する環境省の思惑とは矛盾している。国土交通省は、これらの問題点を総括しないままに、お盆休みの平日にも実施し(8月6~16日間の一日平均交通量は昨年の14%増、渋滞は60%増と報告されている)、さらには暮れと正月休みへの適用も検討しているが、納得できるデータを示して、慎重に対応してほしいものである。

日本の高速道路が世界一高いという不満は以前からあったが「受益者負担の原則」の考え方を国民が受け入れていたのである。JRの特急券も同様で、目的地に早く行く人が高い料金を支払って利用しているのであり、受益者負担は当然との意見が多い。値下げによる不足金は、高速道路を使用しない人も含めた国民全員が負担する税金を充てるもので、公平とは言い難く、国民全体の経済が向上するのか疑問視される。

世界が低炭素化社会へ踏み出そうとしているなか、産業や社会の構造を大きく変えるための施策として、政府は地球温暖化対策で焦点になっている温室効果ガス削減を2020年までに、05年比で15%減(90年の京都議定書比8%減)との中期目標を発表している。環境相は2050年までに80%減を可能にする私案を公表している。それによると、原発の発電量を1.4倍、太陽光発電容量を120倍、電気自動車を100%化(公共交通機関利用率50%)することで実現可能であるとしている。しかし、投資や開発コストの多くを企業に負担させるのではと、産業界は警戒しているようである。

二酸化炭素排出防止対策(家庭からの排出量が特に急増している)、二酸化炭素吸収源の拡大、自然エネギーの利用、地産地消、便利さを少し我慢しての身近な省エネなど、産業界、国、地方自冶体および個人が協力して、積極的に行動することが望まれる。すでに、脱「車依存」を図る地方都市が増えている。

2008年の国内二酸化炭素濃度は約388ppmであり、1.5~2.0ppm/年の割合で増加している。これに伴う温度上昇は、特に大都市ほど顕著で、2005年までの100年間に、東京:3.0℃、名古屋:2.7℃、京都・福岡:2.6℃上昇し、中小都市の平均:1.1℃より高いことから、ヒートアイランド現象の影響が大きいといわれ、この対策として、①緑を増やす、②風を通す、③廃熱を減らす、ことなど挙げられている。東京都では、地域の再開発に建物配置や街路樹を工夫した「風の道」を取り入れている。

人類が安心して生活できる環境づくりを目指して、国の高い視点からの適切な施策を期待したい。



今月号は久しぶりに山下先生に雑感シリーズを執筆していただきました。御承知の方も多いと存じますが先生は本年表面技術協会の最高の賞である協会賞を受賞されました。また現在は協会の関東支部長として、また神奈川表面技術研究会の会長として活躍されております。

技術やその他の事柄に関して、小生とは異なった視点からお話をいただけますので、今後さらに本雑感シリーズの執筆をお願いし、皆様のお役に立てるようにしていきたいと思っております。(本間)
 

八ツ場ダム建設中止
関東学院大学
本間英夫
 
民主党政権に代わってダム建設の中止が争点になっているさなか、9月末に2泊3日で学生と草津に研修と親睦を兼ねて出かけた。TVで象徴的に紹介されている高架橋のほかに現場を実際見て、自分たちの印象をコメントしてもらうことにした。

すべての学生は工事現場を目の当たりにして、ここまで工事が進んでいるから完成すべきだとの意見が圧倒的に多いと思っていたが、10人すべて中止が当然との意見であった。それは、すでに新聞やTVの報道番組でダムは中止するが道路の整備と住民に対して補償をするとの報道が浸透していたからだろう。地元の方々にしてみると初めは反対者が多かったのであろうが、治山治水の観点から、国の説得に応じ、工事が進んでいた。

しかし計画からすでに50年以上も経過しているという。国が借金漬けで当然、この種の公共工事の無駄遣いに関して見直すべきであるが、政権が変わったからと、すべての事業や政策に関し連続性を無視するやり方は問題である。担当大臣も視察する前から、まず中止ありきでは地元の住民や地方自治体に対して無責任で反発を買うだけである。この種の問題はこれからも山積みで友愛の精神をベースに変革を進めてもらいたいものだ。



怖がり過ぎず、されど侮らず

毎年繰り返し流行するインフルエンザ、鳥インフルのときは表協の会長であったので、当時中国で開催されようとしていた国際会議への参加中止の判断をした以外は、これまでは正直あまり気にしていなかった。

ところが、今回4月下旬メキシコから最初に新型のインフルエンザの流行が報告され、その後、世界中に感染が拡大していった。この新型インフルエンザは多くの人が免疫を持っていないために、一時は大騒動であった。それは、抗原性が全く異なるウイルスが、突然変異によって出現すると、人間はそのウイルスに対して免疫を持っていないので、容易に人から人へ感染し、世界的な大流行(パンデミック)が引き起こされ強毒性の場合、多くの死亡者を出すので世界的な脅威になるのである。

過去に発生したインフルエンザのパンデミックは、1918年のスペインインフルエンザ、1957年のアジアインフルエンザ、1968年の香港インフルエンザ、1977年のソ連インフルエンザなどがあり、たとえばスペインインフルエンザでは世界で約4000万人、日本では約39万人の死者が出ている。

新型インフルエンザのパンデミックは10年から40年の周期で発生するといわれているが、人口増加、都市部の人口集中、交通手段の高度な高速化により、非常に短期間に地球全体に蔓延し、大きな被害をもたらす。

このように現代社会においては、新型インフルエンザの発生から短期間でパンデミックに至る可能性が高く、喫緊な対策がなされねばならない。

9月末頃から10月にかけて、日本でも大流行すると予測されており、その場合は、ワクチンの製造が間に合わない状況で、我が国では、新型インフルエンザ対策を国家の危機管理に関わる重要な課題と位置付け、流行に備えた準備を早急に進められてきている。
 インフルエンザは飛沫感染が主で、くしゃみや咳をしたときに含まれるウイルスを直接吸い込むことにより感染する。また、くしゃみや咳で飛び散ったウイルスが空気中を漂うことになる。このウイルスは数時間漂っており、吸引により感染する。また、増殖のスピードが異常に早く、1個のウイルスが24時間後には100万個になるほどに早い。さらに、電車のつり革やドアの取っ手など、いたるとことに付着したウイルスは、三時間程度は生き続けるという。予防には手洗いとマスクをつけることが有効であり、新型インフルエンザが発生した当初は、すさまじい勢いでマスクが売れ一時は品切れ状態が続いた。
 インフルエンザの流行時期は、気温も低く乾燥している12月から3月頃で、空気中に漂っているウイルスにとっては好ましい環境であり、寿命も長くなる。しかもその季節は、気温が低く空気が乾燥しており、鼻や喉の粘膜が敏感になり、感染しやすくなる。さらには、年末年始は沢山の人が活動するので、これによってインフルエンザウイルスも全国に広がる。

インフルエンザは冬だけではなく、夏に流行することもあり、まさに今回は夏に流行りだした。沖縄でも毎年夏にインフルエンザが流行するようになってきたが、原因は気温・湿度の変化や地球温暖化の影響によるものではないかとも言われている。インフルエンザは風邪とは異なり、高齢者や子どもがかかると重篤な症状を引き起こす場合が多く、最悪の場合死に至る。これを予防するためには、インフルエンザワクチンの接種が効果的で、ワクチンによりインフルエンザの罹患を防止でき、たとえかかったとしても症状が軽減され、合併症や死亡する危険から身を守ることができる。

新型インフルエンザの国内感染者数は、厚生省のHPで7月末まで累積数を発表していたが、すでに指数関数的に増加し実数が把握できなくなっている。それからは定点観測に切り替えられ、9月7日から13日の一週間で都道府県別定点あたりの患者数は1万5000人に達している。現在沖縄が一番多く、次いで千葉、東京と続いている。ということは医者にかかっていない罹患者はすでに何百万人にもなるだろう。

最近は現役をセミリタイアの身なので都心部へ出かけることは少なくなったし、通常は車で移動している。

しかしながら、9月に入り学会の参加や、企業との打ち合わせで、電車で出かけねばならなかった。夏場だというのに一車両に何人もせき込んでいる人がいるし、その人たちはマスクもしてない。当然ウイルスは車内にまき散らされる。これでは免疫力の低い人は感染してしまい、予防といっても限界があり、罹患している人はかなり多いはずである。通常の季節性インフルエンザ同様、感染が広い範囲に拡がる可能性がある。また、現在研究室の学生の数は20名くらいであるが発熱や、のどの痛み、せき込むような症状の時はしばらく休むように指示している。幸い、今のところ、新型インフルエンザウイルスは弱毒性であることが明らかになっているので、必要以上に危機感をあおることはないが、怖がらずされど侮らずのスタンスが重要である。



個人としての対策

現在の情報を元に、弱毒性新型インフルエンザに対し、個人がどう対策すればいいか参考にしてほしい。インターネットでインフルエンザウイルスの「弱毒性」とは、どういう意味だろうか検索してみたところ、直接的な意味で「毒性が低い」ということではなく、ウイルスが感染する部位が呼吸器に限られるという意味であり、これに対し強毒性とは、全身の細胞で増殖しうるということ。したがって、現実に弱毒性の場合は、人体へのインパクトが強毒性より、はるかに弱く致死率が低いので、危険性は低いとは言える。ウイルスの毒性について現在のところ、今回のウイルスの初期の患者の致死率は約0.4%とされている。これは、通常の季節性インフルエンザよりは高い数値であり、感染力も、季節性インフルエンザより高いとされている。新型では免疫を持っている人が基本的にはおらず、そのため感染速度は速く多くの人に拡がりやすい訳である。

日本では、季節性インフルエンザで人口の5~15%が感染し、多い年で、1万人~2万人くらいが亡くなっていると報告されている。新型インフルエンザでは、それ以上の被害が発生する可能性があるが、今回の新型インフルエンザウイルスは、抗インフルエンザウイルス薬のタミフルやリレンザが治療に効果を発揮することがわかっている。

重要なのは、治療より予防で、感染予防、感染拡大防止に心掛ける人が増えれば増えるほど、急速な感染拡大が避けられる。緩慢な感染拡大であれば、医療機関の処理能力以上の患者が殺到する事態は避けられるので、致死率も下がるだろうし、社会的なインパクトも低く抑えることが可能である。

今回の弱毒性新型インフルエンザウイルスに対し、個人の防衛対策としては、まず、手洗いと、うがいの励行である。特に手洗いは、石鹸で15秒以上かけて行い、洗ったあとは清潔なタオルで水を十分拭き取る。手洗いは食事の前や、帰宅後だけでなく可能な限り頻繁に行う。せきやくしゃみのでるときや、人ごみの多いところに出かけるときはマスクをつける。また、せきやくしゃみの際、ハンカチやテイッシュなどで口元を覆う「咳エチケット」は周囲に感染させない重要な予防対策である。

マスク装着の人の数は増えてきており、この9月末に本学の大学院入試が行われた際、ある学科の教員はすべてマスクを着けて、インタビューに臨んだという。また、大学の構内および我々の研究所の入り口にはスプレー式の消毒液が置かれている。マスクは基本的には使い捨てと考え、外出から自宅に戻ったら、廃棄が安全だ。自分は眼鏡を常時かけているので眼鏡が曇ってしまうのでマスクは付けない。したがってマスクをしている人より罹患率は大幅に上昇するのであろうが、逆に弱毒性のうちに、感染しておけばその時点で抗体ができるのではと楽観している。

 インフルエンザウイルス感染の意外な経路が、目などからの感染だという。たとえばドア取っ手などを通じてウイルスの付着した手で無意識に目をこすったり、鼻や口を触ると、粘膜や結膜を通じて感染することがある。これを防ぐには、もちろんマスクが有効。目であれば、ゴーグルやメガネなどの着用で、無意識の行動を防ぎやすくなる。弱毒性である今回のウイルスに関しては、先のように対応することで、ある程度被害を軽減することができるだろう。

もちろん、今後、強毒化したり、タミフルに対する耐性を持ったウイルスに変異する危険性があるので、その時は万全の対策を講じなければならない。数年前の鳥インフルエンザウイルスの危険性について振り返ってみよう。鳥インフルエンザウイルスは、全身感染を引き起こす強毒性のウイルスであり、人間に感染したときの致死率は60%にも達した。数年前から、人間に対する感染性を獲得して「次の新型インフルエンザ」になる可能性を全世界が恐れていたわけだ。

いつ何時、鳥インフルエンザが人間に本格的にとりつくかもしれない。そのとき、今回の弱毒性ウイルス同様、マスクをつけなくても大丈夫だと見くびってしまうと、もっとも危険だ。 もし、鳥インフルエンザが人間に対する感染性を獲得して新型インフルエンザに変異したら、厳重な対策が必要になる。それは国レベルも個人レベルも同じだ。その意味で、今回のウイルスで慣れてしまうのではなく、侮らずにいい予行演習ができていると考えればいい。パンデミック(大流行)が起きたらどうすべきか、新聞やTVなどでは対策に関しては、記事になりにくいのか多くは、事実の報告が主で、対策に関してはあまり語られない。いずれの企業においてもこの種の健康管理をはじめとして事故に関しては万全の危機管理が肝要である。

「事故や災害は忘れたころにやってくる 」予期しないまさかというようなことが起こる場合がある。そのようなことが残念ながら起こったら、隠蔽せず迅速に対応すべきである。いつも言っているが「悪い報告は速く、いい報告はゆっくりと」、事故に関しては、色々な事例に耳を傾け、よくよく注意せねばならない。
 

国際科学オリンピックと学校教育
関東学院大学
山下嗣人

 
本年の国際科学オリンピック(数学・情報・物理・化学・生物)に参加した日本代表選手23人全員が、金12個を含むメダルを獲得した。彼らは、世界で標準的に使用されている教科書を学び直し、さらには、実験の特訓を受けて本番に挑んだと聞く。こうした特訓の成果が好成績につながったのである。実験を通して、「考える力」、「工夫」、「応用力」を養うことの大切さが示されている。

一方、過去の科学五輪で銅メダルを取った高校生が、帰国後60点満点の模擬試験で、10点にも満たなかったという事実がある。日本の科学教育が、「本質的な理解を求めるより知識を蓄えること」に重点を置き、「体系的に学んでいない」ことを如実に示しており、受験体制重視の弊害にほかならない。

私達の小学生時代は、野山を歩いての昆虫採集、草花採取など、自然に接した生活があった。特に、「カエルの解剖」を通して、生命の仕組みや神秘さ、生命の尊さを学ぶことができ、人格形成にも役立ったと思う。同時に、探究心に目覚め、興味を持ったものである。

国立大学法人化直後、旧帝大クラスと思われる有名大学が予備校を訪問し、「研究者タイプの卵はいないか」訪ね歩いたという。「納得するまで動かない」、「いろいろと理屈を並べる」など、教員泣かせの学生が、実は研究者タイプだそうである。しかしながら、そのような研究者タイプは、現行の知識詰め込みが優先されるマークセンス方式の入試制度では、高得点を取ることができないという。

研究者に必要な資質として、東北大学総長の井上明久先生(金属の非晶質化を安定させる「井上経験則」を発表)は、「知的好奇心(チャレンジにつながる)と忍耐力(努力を継続させる意志)」を挙げているが、最近の若者にはどちらも不足している。

 文部科学省は、全国の小学6年生と中学3年生を対象に、本年4月に実施した3回目の全国学力調査の結果を発表した。それによると、過去2回の結果と同じように、基礎的な知識を問う問題には答えられるが、知識の活用や記述力、応用問題には弱いという傾向が示された。約60億円という多額の費用をかけて実施している学力調査結果が、その後の教育に反映されていないことになる。来年以降は全員参加型から抽出調査方式へ変更し、費用は今後の検討費を含めて約1/2に削減するという。税金の無駄使いとの酷評を緩和させる施策に終わることなく、社会で役立つ教育方針・内容に改善してほしい。

校長や教頭を補佐する主幹教諭を減らして、理数系教員を約2000人増員し、「現場を支える人を増やす」という新政権に期待したい。すでに、宿題を増やしたり、規律の維持に力を入れる学校が多くなっているようではあるが、学ぶ意欲の減退は依然として、大きな課題のようである。ドイツやスイスのように、将来の職業を意識した教育制度を低学年次から取り入れ、自覚を持たせることも必要であろう。

道徳教育の一環として、以前では当然であったトイレ掃除を通して、「豊かな心」を育もうという取り組みが教育現場で広がっている。トイレ掃除は、道徳の教科書を読んだだけでは分からないことを体験できる「生きた教材」と、推奨する学校関係者が増えている。事実、「汚さない・大切にする・感謝する」ことに対して、効果が見られている。06年横浜市の教育改革会議が、「公共心や規範意識を育むことが必要」と、清掃活動の推進を答申し、市立小中学では、来年度から生徒によるトイレ清掃を実施する予定という。謙虚な気持ちになり、心が磨かれることを期待したい。

 最近、米国ボストン大教授らが、「寝る脳は育つ」ことを発表している。学習中に活動した脳の領域が睡眠中にも活動しており、その活動が活発なほど学習効果が高いことを、機能的磁気共鳴画像で確認し、識別の正答率も上がっている。学習した脳活動を睡眠中に繰り返し、復習している結果という。



学生食堂が朝定食を提供

関東学院大学金沢八景キャンパス内一部の学食では、4月から朝定食(午前8時)を始めている。朝定食の実施は、2004年に九州の大学生協で始められ、最近では全国の大学に広がっている。学生の約1/3が朝食抜きで、お菓子や野菜ジュースを「朝ごはん」の代わりにしているという。そのような現状を踏まえ、「過保護」や「自立を妨げている」との指摘があるものの、生活の乱れに危機感を覚えた大学側が工夫を凝らし、積極的に学生支援をしているのである。

朝食を食べながら、栄養バランスやエネルギー代謝の講義を学び、単位取得ができる講座に受講生が集まるという大学、赤字は別の事業の収益で補い、原価250円のところを、100円で提供している大学、プリペイド式カードで学生の経済観念を刺激しつつ、朝食の習慣化に成功した大学など、さまざまなアイデアが報告されている。学生が規則正しい生活習慣を身につけて、心身ともに健康、かつ高い目標と意識をもって学習することを願ってのことである。全入時代を迎えた今の大学では、以前には考えられないような教育・学習支援・環境づくりが必要なのである。

朝ごはんを食べないと、脳のエネルギーが不足して「イライラ」する、「集中力」が欠けて、午前中の能率が上がらないという。お米の中には、脳の唯一のエネルギー源である「ブドウ糖」が多く含まれているので、お米を食べることにより、脳のエネルギーを補給できるのである。塩分やコレステロールが含まれていないので、高血圧、高脂血症、心臓病を防ぐことができる。さらに、体内に脂肪を蓄えるインシュリンの分泌が抑えられるので、肥満や糖尿病の予防にもなるという。

朝ごはんに「お米」が見直しされている理由がここにある。米づくりを復活させ、日本人の食生活に適したお米を食べる生活に戻してみたらと思う。地元で作られた新鮮な野菜を食べることも健康に好く、長生きできる秘訣とも言われている。健康には地産地消が良いのであろう。

若者が好む高脂肪の食事を、短期間(9日以内)ラットに与えたところ、運動能力や記憶力が低下したとの実験結果を、英国ケンブリッジ大学の研究者らが発表している。高脂肪食のラットは、脱共役タンパク質3と呼ばれるタンパク質のレベルが上昇して、酸素からのエネルギー生成プロセスを効率良く処理できないという。食事と思考、運動能力との間に密接な関連性のあることが見出されている。西洋式の食事は高脂肪食であり、肥満、糖尿病、心臓疾患を招きやすい。スポーツ選手や指導者には科学的トレーニングだけでなく、食事管理が大切であることを示唆している。



長寿といわれる長野県佐久地方の食生活

長野県は南北に約230kmと長いので、地域により独特の生活文化や食文化がある。3000m級の山々が聳え、「流れ淀まず、ゆく水は、北に犀川・千曲川、南に木曽川・天竜川」と、県歌「信濃の国」に歌われている大河の恵みで潤った「松本・伊那・佐久・善光寺」の、四つの平は肥沃の地である。このような、山紫水明の下で育った新鮮な多種類の自然の恵みを、四季折々にいただくことが健康・長寿の源となったのであろう。

昔の人は、春にはフキノトウ、ナズナ、ゼンマイ、ワラビ、タラの芽、山ウド、タケノコなど、秋にはキノコ、山ブドウ、アケビ、クリ、クルミ、橡の実など、「旬のものは必ず食べるように」と、季節に応じて食したのである。旬の食べ物には、芽吹き、成長する力を多く蓄積しているからと考えたようである。                    

 佐久市(旧南佐久郡臼田町)には農村医学で国際的に名高い「佐久総合病院」がある。昭和30年代の中頃から、医師と看護婦によって編成されたスタッフが、農村地域の全村を出張診療して、予防と健康管理の大切さを説き、食生活の指導を行ってきた。長野が長寿県となった背景の一つには、「農民の健康と生活を守る」をスローガンとした佐久総合病院の地道な活動があり、地域医療の向上に極めて大きな役割を果たしてきたのである。

長寿の秘訣は、風土と地域の産物を上手に活かした食生活と気候にも関係がある。佐久地方は、浅間山と八ヶ岳連邦に囲まれた海抜約1000mの高地にあり、雪は少ないが、冬の寒さは厳しい。晩秋から早春までは、秋に収穫した野菜を漬物や凍結乾燥した青菜(かけ菜という)などの保存食として、長い冬をしのいできた。また、空気が乾燥しているので、野沢菜や保存食を食べながら、お茶を「たくさん飲む」習慣があった。そのことが、東北地方と同じように、塩分の摂取量が多いとされながらも、長寿日本一を維持している理由であろう。

 佐久は米どころであり、「田んぼ」からの恵みによる「たんぱく質の確保」がされてきた。水田では鮒や鯉を、畦では大豆を育てて、「凍み豆腐、味噌、黄な粉」などの加工品に、用水路には「どじょう、はや」などの小魚が、土手には「イナゴや地蜂の巣(蜂の子)」などが、それらである。川魚料理としては、コイ、フナ、イワナ、ヤマメ、ニジマスなど、また、昆虫食としてのイナゴ、蜂の子、蚕のさなぎ、ザザムシなどは佃煮として、古くから食べられてきた。長寿には、たんぱく源としての「昆虫食」が関係しているとの説があり、世界長寿地域の食生活と共通点が多いことを指摘する学者もいる。

五穀(米・麦・豆・粟・黍)を基本とし、伝統食に、さらに緑黄色野菜や肉類を取り入れ、土地に合った産物を活かした食生活をすること、そして、健康を考えた良い生活習慣を幼い頃から身につけることが肝要である。
 

日本の経済のかじ取りは
関東学院大学
本間 英夫
 
本稿を仕上げる12月下旬、政府が「デフレ」による経済への悪影響への危機感を強める一方、日本銀行は景気の現状認識を上方修正するなど、政府と日銀の間のデフレに関しての違いが出ていた。日銀総裁は、物価下落について「かなり長く残る可能性が大きい」と、デフレという直接的な表現を避けたが経済、物価の認識に政府との見解と、差異があると感じていないとコメントしていた。
日銀は現時点では、物価下落と景気悪化が連鎖する「デフレスパイラル」に陥る可能性は低いと見ており、物価安定の下で自律的な回復軌道に向かうとの見方を崩していない。12月末にコマーシャルペーパー(CP)や社債の買い切りなど異例の措置を打ち切ることを決めた日銀にとって、政府が求める追加的な金融緩和策に踏み切ることは、金融政策の誤りを認めることにもつながりかねず抵抗感が強かった。しかし日銀はその後金融緩和策として10兆円規模の新たな資金供給策を追加することを決定し、日本経済がデフレから脱却し、物価安定の下で持続的な成長経路に復帰するため、政府と歩調を合わせて金融面から支援姿勢を強めることを明確にした。この様な状況下で世界各国の株価上昇が目立つ中で、日本株の国内総生産では景気の回復傾向が確認されているが、政策のかじ取りに不安があり、株価が二番底の懸念も高まっている。
 日本株が上昇できない要因の1つに、円高があり、多くの企業では下期為替レートを1ドル=90円前後で米国が長期的な金融緩和政策の継続を表明しており、今後も円高圧力が続く状況で、改善しつつある企業業績に影響を与えている。
 また、最近の株安に拍車を掛けているのが、金融機関や企業の間で相次いでいる大規模増資計画であり、増資は企業の財務体質強化につながるが、一方で一株当たりの価値が低下するため投資家は株式購入に前向きになりにくく株価の低迷につながっている。
 また、「成長戦略が描かれない政策」への不信感も、株価下落要因である。さらには行政刷新会議での「事業仕分け」では予算削減ばかりが強調され、内需拡大への道筋は見えてこなかった。前述のように政府はデフレを公式に宣言したが、本来なら同時に有効な対応策を示すべき

だと、市場関係者は不満を募らせていた。 



成功産業と失敗産業

我々の業界を取り上げてみると、概ね昨年の好調時に比べると70%くらいだとする企業が圧倒的に多い。中にはまだまだ50%を回復していない企業や、逆に部門別では100%を超えたが全体としてみると70から80%に回復したとする企業もある。これまで成功産業と言われてきたエレクトロニクス、レジャー、機械、素材、光学・精密機械、輸送用機器などは政府による大規模な補助金制度はなく、競争への政府からの介入もほとんど無かった。

一方、失敗産業である民間航空機、化学、サービス、消費財、加工食品ではこれまで政府の介入が顕著に見られた。

例えば、民間航空機産業は最たるものでJALのように肥大化してしまうと、民営化し、国がサポートしても、全く利益が出ない企業になっている。JALの場合は、旧国鉄と同じでサービス向上から、不採算部門であることが初めからわかっていても、地方新規路線を開き、それを維持せねばならなかったこと、その他のいろんな因子から採算ベースだけでは解決できない難問が山積している。

また、化学産業では価格規制が行われてきた、証券業界では、免許制度の為に自由な競争は阻害され、ソフトウェア業界には補助金がつぎ込まれてきた。これらの政府介入の産業は失敗の大きな要因に成っている事は、データが示している。

民主党政権になってまだ日は浅いが「コンクリートから人へと」とは、すなわちハードからソフトへの転換だと言える。はたしてものづくり大国日本がそのように一足飛びに転換できるだろうか。日本の産業の担い手である中小企業が、元気が出せるようになるには、結局は新しい産業やシステムの変換時がチャンスで、中小企業のほうがフットワークよく対応できるはずで、今こそ大きなビジネスチャンスととらえる企業はどれくらいの数であろうか。

勝ち組企業は、まずスピードがある。これから何をすべきかをしっかりと捉えている。だから明確な目標達成に向けてスピードある事業展開とマネージメントによって、他社との差がついていく。また技術的に優れていれば提案力が出てくる。よく企業を廻って尋ねるのだが、御社にはどれくらいの頻度で試作の依頼やこんなことはできませんかとの提案が来るか聞くことにしている。

勝ち組企業すなわち技術力のある企業では、顧客からの要求に迅速に答え、顧客との信頼関係が維持できるようになる。さらには、企業間の競争には価格競争と技術競争があるが、現在は価格競争に走り、いかに物を安く作るかのみに企業が注力し、独自の技術開発には大きな遅れを生じている企業が多く見受けられる。いわゆる勝ち組の企業は、迅速かつ顧客満足度の高いサービス、技術力の向上を常に念頭に置いている。したがってコスト面でも強みが発揮できる。今まさに21世紀型ビジネスチャンスであり、これまでの装置産業型産業から技術開発型、提案型産業に転換していくことを意識せねばならない。



21世紀型の産業構造

20世紀、大企業はどの業種においてもトップに立ってきたが、もとをただせば、いずれの企業も初めは小さい集団からスタートして、大企業になってきているのであり、歴史は繰り返す。まさに今が21世紀型の企業に向けてチャンスが到来してきている。中小企業が成功するためには、様々な業種の分野での技術ノウハウを持ち、提案力があり、その業界のリーダーとして確固たる地位を確保できるようになることである。もともと新規な領域は中小企業が参入しテンポよく技術が提案され実質化されていく。成熟産業になると、マーケットは大きくなるが、技術的な革新は少ない。

日本の経済成長を支えてきたのは、技術力での中小企業の役割が大きい。これまでも、これからも中小企業は大手企業と協力して新製品を創成し、大企業ではなかなか着手できないような、創造性の高い新規な機能性を高めた製品を作っていける。今年の4月から5月ころからだったか中小企業の技術高度化の補助金申請が行われたが、当初予測されていた申請件数を大幅に上回ったようである。

助成金をベースにその企業が技術的に強くなることを期待したいが、まず技術者の確保が優先されるべきである。いくら補助金を獲得しても、内部留保があっても、結局は技術を向上させるには人がいないと、埒が明かない。ところが、現在のような景気が大幅に落ち込んでいる中で先行投資をする勇気のある企業は少ない。

したがって国の助成金に期待しがちだが、実はそれよりも自助努力で確固たる技術力をつけるほうがいい。それには大学の知を活用することも大切である。その意味ではよく言われる「如何に死の谷を越えるか」。多くの工学系の大学では基礎から応用とアピールしているが、少し宣伝になるが我々の大学はすでに50年以上前から大学内に工場を持ち、さらに大学内で事業部を立ち上げ、昭和30年後半で十億円以上の売り上げを上げていた。残念ながら学園紛争で分離せざるを得なくなって、現在大学が筆頭株主になって関東化成が設立された。さらに今から8年前にその中に大学の表面工学研究所を立ち上げ、死の谷を越えるべく基礎、応用、実用化ができる体制を構築した。これからは、益々研究所の中立性を維持しながら、表面処理の産業界を中心に貢献していきたい。



日本の半導体産業の歴史的経緯

大きな日本の基幹産業になっていた半導体産業は、世界的に優位性を保とうと、国が多くのプロジェクトやコンソーシアムを立ち上げてきたが、結局は日本からこれらの産業が消えていくような運命にある。これはいったいなぜなのだろうか。

アメリカはソフトウェアを支配し、ハードウェアに関してはまずは日本で1970年代初めから半導体をはじめプリント基板などのハードに主力した格好になる。

製造業はコストの低減や生産性の向上などに注力する必要があり、結局はハードのものづくりは中国、台湾、韓国などのアジア諸国に拠点がシフトし、実装技術の国際分業が進展してきた。日本は、これまで電機産業で優位性を保っていたが、最近ではどんどん海外シフトし、海外依存率も70から80%になってきている。

また、NTTを中心とする通信産業も、技術にこだわるのはいいのだが、あまりにも多機能で我々が日常でも使えきれないくらいの機能を持った携帯電話やデジタル機器が家電量販店に選択が不可能なくらい商品が氾濫している。

このように、日本は優れた技術を持ちながら、過剰品質で多機能すぎて、使いきれていない。さらには海外ではもっとシンプルな機能で安価な製品がどんどん売れており、結局は海外の企業に市場の多くをとられる結果となっている。現在我々の目に見える産業で世界的に優位を保っているのは自動車産業だけになったともいわれている。



今後の自動車産業

最近では車の快適性と安全性、エコカーが重要なテーマとなってきた。現在高級乗用車にはパソコンが5台相当分搭載されてわれていると言われており、随所にセンサーが付いて色々な制御が行われるようになってきた。これからはさらに車の快適性、安全性、環境を意識したバッテリーとガソリンのハイブリッドカーや、電気自動車が続々紹介されるであろう。

また、すべて電気で動くとなると車の部品点数は十分の一くらいになるといわれており、これまでの自動車産業の構造が大きく変化していく。現在の自動車では、運転手が自分の視覚、聴覚、経験に基づいて自動車を動かしているが、これが将来は自動車に搭載されたコンピュータ同士の通信を介して得られる情報が運転情報として使えることになる。

自動車間で各種センサーを取り付け、コンピュータを介して情報が交換できれば、いろんな情報がリアルタイムに分かるようになるし、安全性は大幅に上昇する。若者は車離れで我々の若い時のようにまず車を購入しようとのインセンティブはなくなっている。しかしながらITを駆使して車の中が快適な居住空間になれば若者も移動手段として見直すだろう。特に都市部の若者が如何に車に魅力を感ずるか、車離れの抑制のアイデアは。これだけ社会が不安定になり平均的な若者のインカムが少なくなればそれも困難を伴うであろう。

一方、我々のような老年層はある程度蓄積があるから、追突防止、ブレーキとアクセルの踏み間違い時の安全対応、居眠り運転防止機能、衝突防止機能など、安全性と快適性に優れた自動車が大衆車にも装備されるようになれば、70近くになって危険だからと運転を止める率は低下するし、移動手段として利便性が高い。業界としてはそのあたりも意識して技術開発がなされているであろう。

自動車は日本に7500万台、世界に9.5億台存在すると言われている。電子材料と自動車の融合により、今後は大きな日本発の技術として伸ばしていけるだろうと期待されている。