過去の雑感シリーズ

2008年

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偽装問題
関東学院大学 
本間 英夫
 
新しい年を迎えるにあたり、年賀状を習慣的に書いてきたが、高度な情報化社会の到来と共に一年の締めくくりや年初めの感覚が大きく失われてきた。そこで、年賀状を出す習慣も形骸化してきたので、めったに会うことのない友人や知人にだけはこれまでどおり送ることにして、あとは本年からこの習慣に終止符を打つことにした。

さて年初めから明るくない話題で恐縮だが、昨年暮れ、食品の産地、賞味期限の改ざん、人材派遣会社の杜撰な偽装請負などが相次ぎ、世相を表す漢字に「偽」が選ばれた。

日本漢字能力検定協会が漢字を公募し、応募の9万816票のうち、「偽」が1万6550票でトップ、次に選ばれたのが「食」で「嘘」「疑」と続いたと言う。いずれにしても昨年は偽装、隠蔽、粉飾など、人をだます行為の事例が続出した。

耐震偽装、白い恋人、ミートホープ、比内地鶏、赤福、はたまた馬肉に油を注入しての霜降り肉など「偽」だらけ。

また年金問題、防衛省問題、大学教授のデーター捏造、公的資金の不正流用、公害や事故や危険の隠蔽などが連日暴かれてきたのだが、一向に改まらない。これは人間の性なのだろう。



高度な言語能力も使いようによっては

聖書には「初めに言葉ありき」と、人間には言語能力を始めとして高度な思考能力が備わっている。また、子供は純粋無垢というが、実は人間の本性から自己保身のために隠したり嘘をついたりする。

 もう一年以上前になるが、教育テレビだったか、ケーブルテレビの番組のディスカバリーチャンネルで、視覚、聴覚、判断能力がそなわった赤ん坊にいろいろ意地悪な実験をして、物心がつけば、本能的に嘘をつくことが実証されていた。

大人社会になると、言語を使う能力が高度化する。したがって、事実に基づかなくてもイメージし、それを言語化することができるようになるので、正直でない場合は大きな嘘をつくようになる。

これは、事実でなくてもそれをイメージし、言語化し、事実と信じ込ませる行為から嘘がはじまると言える。偽りや嘘は倫理に反する行為だが、動物行動学から見た場合、人間以外の高等動物は嘘をつく能力をもっているといえるのだろうか。

 本能だけで活動している動物には善悪という定義はないだろう。動物にも生物にも生きる知恵として、我々人間から見ても到底考えの及ばない驚嘆するような騙しの行動が備わっていることは事実である。

巧妙な擬態などはその最たるものである。

しかしながら、人間は色々な能力が高度に発達し、集団生活で高度なコミュニケーションを営んでいる結果、嘘をつく能力も一番発達したといえる。

コミュニケーションは、主に言語を介して相互に意見を交換し、理解しあうプロセスであるはずだが、相互理解の中で「嘘」や「偽」が入ってくることにより、お互いの信頼関係は喪失し、社会生活を狂わせ、極端な場合は生活が奪われてしまうことや破壊行為にまで繋がる場合もある。



倫理観、道徳観の軽視から

戦後、高度成長期のころから、効率追求、物質的な豊かさが求められ、倫理感や道徳感が軽視されてきた。

その結果、今回のように世相を反映した言葉として「偽」が選ばれるところまで、世の中が乱れてきている。これはいつに、個人と社会の倫理性の問題である。

現代社会は民主化および情報化に伴って、ますます高い倫理性と教養を必要とするようになっているだが。嘘やごまかしが横行するようになると社会の秩序は大いに乱れることになる。

 嘘は信頼のあるコミュニケーションを喪失させ、社会生活を狂わせる行為であると、深刻に認識する必要がある。

 この点で、学校や家庭での教育が果たす役割は極めて大きい。

我々の年代層は、子供の頃、明治や大正生まれの親、親戚、教師から道徳的な教育を受けてきた。従って、道徳や倫理観は高いと自負している。

幼いときに偽りを正す訓練をしておけば、その後は倫理観、道徳観の高い生活を送れるのである。

最近「3丁目の夕日」という漫画が映画化され、我々の子供の時代がよみがえってくる。みんな貧しかったが、心は豊かであった。

 この映画に関しては、当時経験した我々の年代層が、郷愁の思いから劇場に足を運んだのかと思っていたが、かなりの学生もそのマンガを読んだり、映画を見たようで、感激したと感想を述べていた。    

このことは、日本人として豊かな心が、今の学生にも受け継がれており、物質的な豊かさよりも人間として心の豊かさを希求していることを物語っている。



リーダーとしての年代層

果たして、50代の年代層の連中はどのような感想を持つのか興味がある。

というのは、彼らの年代層は高校から大学時代、高度成長期に入り、当時の若者は民主化の美名の下に、義務を果たすよりも権利ばかりを主張し、目上の人に対しても、尊敬の念や気遣いや謙虚さが失われ、学園紛争とも連動して、これまでのよき日本の道徳観や倫理観が失われていった年代層である。

 その年代層が、現在の社会におけるリーダー層になってきている。

これらリーダー層の自己保身から、所属している団体すなわち公官庁をはじめとする企業の所属部署で、隠蔽や嘘が横行し、それが明るみに出てきているのではないかと危惧する。

 情報公開の時代にはいり、隠蔽や偽りは内部告発が基点となり、どんどん白日の下に曝されるようになって来た。

嘘や偽りはいくら隠蔽しようと思っていても、いくらうまく嘘をついたと思っていても、いずれは嘘が嘘を上塗りして最後はにっちもさっちも行かない状況に追い込まれてしまう。

しかも愚かなことに同じ事を繰り返す。全く学習機能が働いていない。大人になってからでは修正が効かないのである。

 子供の頃に徹底的に悪さをして、そのときに応じて諌めてもらっていれば、大人になってから現在頻発しているような愚かなことを起こさないはずである。

議員の答弁や参考人としての聴聞で、嘘や偽りの答弁が多いが、これらに対してマスコミが徹底的に執拗に追及するため、彼らは窮地に追い込まれていく。

情報化時代では、ごまかしや嘘、偽りは通用しなくなったのである。非があれば、責任の任にある人は、初期段階で素直にはっきり認めるべきであり、隠蔽や小出しにしていると結局は信頼を徹底的に失うことになる。

企業経営においては経営者および従業員が一体となり危機管理の重要さを再認識し、一体感を持って間違いや不正があった場合は即座に対応すべきである。隠蔽しようとすると結局は大きな問題に発展してしまう。

個人レベルとしては正直に、ざっくばらんに、心豊かに生きましょう。
 

低迷する日本経済
関東学院大学 
本間英夫
 
早期利上げ観測が支配的だった昨年前半とはまるで様相は一変し、昨年年末に、日銀の福井総裁が三年ぶりに景気は減速していると認めたことが市場に衝撃を与えた。
 米国の低所得者向けの、いわゆるサブプライムローン問題で、世界経済の先行きに対して不透明感が強まり、国内では、原油高、バイオエタノール、金属価格の高騰、さらにはすべての原材料価格の上昇により、製品の値上げが続いている。

また、二年前の建築の耐震偽装に端を発する建築基準法の厳正化により、新規住宅の着工数は三割減となった。住宅の着工が滞ると、当然内需の落ち込みが深刻になり、物価上昇と景気後退が同時に進むスタグフレーションさえ懸念される状況である。

さらには、日本の政治のねじれ現象が、世界からの信頼を大きく失墜させている。したがって、年末から年初にかけてのダウ平均株価が凋落の一途をたどり、金融政策の不透明感は増すばかりだ。

この原稿を書いているときに、昨年一年の株価下落率は世界二位とNHKのニュースが流れた。これまで日本買いをしてきた外国人投資家も、日本売りに拍車をかけている。

根本は日本市場の信用収縮が原因といわれている。我々の周りを見ても所得格差が益々増大し、グローバリズムとともに一部の企業を除いて成長性は大きく低下している。
 したがって、企業は成長する海外市場を宝の山とばかりに、海外展開をターゲットにせざるを得ないし、海外市場に出られない中小企業はますます凋落の一途をたどることになる。しかもその中小企業に働く人が七割とあっては、所得格差はさらに大きくなり、消費は冷え込み、ますます日本の魅力が薄れてくる。皮肉な言い方だが、外国人投資家は日本の株だけを売っている訳ではなくて、信用収縮する日本市場を売っている。



弛み無き挑戦を

「スマイルカーブ現象」という表現がある。これはもともと電子機械産業の収益構造を表す言葉である。川上の商品開発や部品製造と川下のメンテナンスやアフターサービスの部分の収益性は高いが、中間の製造業はあまり儲からない傾向をグラフ化すると、マンガで笑顔を描いたときのラインのようになることから、こう呼ばれている。
 この現象は、必ずしもすべての産業にあてはまるわけではないが、それにしても、我々の関係している表面処理を主とする産業界では収益性が低いように思える。

これまで企業は、給料を抑制しながら製造プロセスの効率化を中心に、利益の出る体質への変革が行われてきた。したがって、これまでの横並びから利益の出ている企業は賃金を上げるようにと、経団連の会長が年初に提案していた。しかし、スマイルカーブに見られるように中小の部品供給業者に大きなしわ寄せがなされているのであり、適切な利益分配をしないかぎり、ますます閉塞感が高まるだろう。
 経済発展に伴い、生活水準が向上し、多くの商品、サービスが市場にあふれ出す。したがって、供給過剰の市場では当然価格競争が激しくなり、中国をはじめとしたアジア諸国の安い商品が市場に出回ることによって、一層深刻さが増幅される。これまでのような、作れば売れる時代からの終焉、しかも、事業の存続さえ危ぶまれる時代に突入したといっても過言ではない。
 このような状況下にあっても収益を伸ばしていくには、中村先生がいつも言っておられたように、下請け産業からの脱却が必要である。ではどのようにすればそれが可能なのか。大企業にはない開発力、すなわち、商品開発に我々の大学のような研究機関との連携を強化して、基礎研究やR&Dとプロセスの融合性の重要性をしっかり認識することが大切である。また、得意とする領域への特化、いわゆる選択と集中、さらには思い切って新しい市場を創造、開拓する力が必要である。


技術立国日本の行方

いわゆる新・三種の神器と呼ばれる、薄型大画面テレビ、DVDレコーダー、デジタルカメラや、各種機能が付加された携帯電話の製品化が新たな市場を開拓し、景気の回復に貢献している。これらすべての製造には、めっきが重要な要素技術であり、単なる製造プロセスとの位置づけから、逆スマイルカーブになるように仕向けていく必要がある。
 商品の生産にあたっては、常に効率追求が念頭に置かれるので、成熟化に伴い中国をはじめとするアジア諸国へのシフトや分業が展開される。ここで重要なのは、日本の製造業の強みである製造技術のノウハウが、次々と失われてきたことである。

これまで、リストラにあった技術者が、売国奴といっては大げさかもしれないが、技術ノウハウを個人レベルで海外企業に展開していったことは事実として認識すべきである。これからは、技術や技能を移転する場合は適切な対価を確保して伝承していかねばならない。

製造業では、原材料にエネルギーをインプットすることで加工をし、製品が完成するわけだが、付加価値を向上させるにはサービスの付加がこれまで以上に重要になってきた。

最近発売され多くの若者に人気がある携帯電話で、P905i が人気商品になっているが、我々年配者には折角の付加価値も宝の持ち腐れである。どんどん厚みが増す取扱説明書、あれは何とかならないものか。しかし、若い世代はいとも簡単に使いこなすので、これからもいろいろ付加価値をあげた製品開発や新しい研究開発投資が重要なのであろう。

新しい産業が創出されれば新たな雇用の創出に繋がる。戦後まもなく、工業立国としての進展とともに労働者が第一次産業から第二次産業にシフトしたように、この十年で製造業を中心としたリストラのために、第二次産業から第三次産業にシフトしている。また、社会の成熟化に伴って、さまざまなサービスが産業化している。さらには、一部の高給者を除いて、上流と下級に完全に二極化してきている。

米国では、第三次産業の従事者がすでに労働人口の75%以上に達しているというが、日本でも第三次産業における新サービス開発によって、新たに500万人規模での雇用創出を目指そうという政策が提案されている。

果たして、技術立国日本としてこれでいいのだろうか。経済学者のこの種の提案にはいささか疑問を感ずる。

第三次産業の発達にともない、ほとんどの学生がサービス業でアルバイトをするのが当たり前となった。しかし、本業である学生としての勉学がそっちのけでは、若い世代の意識が低下していく。このままでは、今後様々な新分野を創出していくうえで問題となる。

日本の得意とする研究開発によって新分野の第二次産業を創製するか、第三次産業での新分野を構築せねばならない。第二次産業は上述のように、常に国際的競争にさらされ、結局はプロセスの効率化が追求されるので雇用は大きく減少する。

したがって大変努力が要るが、常にトップランナーとして新技術を新しい産業に結びつけていかねばならない。ナノテクをはじめとして、バイオ、IT、エネルギー変換、医工連携がこれからの分野として考えられている。しかしながらバイオにしてもそうだが、ハイテク分野は果たして雇用創出には大きく寄与するのだろうか。
 

クロム酸を用いないABS上の新めっき技術
関東学院大学
本間 英夫 
 
本年度、課程博士3名、論文博士1名が我々の研究室から誕生した。1月中旬にその公開説明会が開催され、産業界から100名以上の参加者があった。これらの博士論文の中から、プラめっきの新規処理プロセスを紹介する。

ABS樹脂はアクリロニトリル-スチレン共重合体(以下、AS樹脂)とブタジエンゴム(以下、Bゴム)から成る三元系ポリマーである。この樹脂を製造する際は、予めBゴムにAS樹脂をグラフト重合させ、AS樹脂とBゴムの相溶性を向上させている。グラフト率や各モノマーの構成比、Bゴムの粒径・形態・分子量などを選択することができるため、用途に応じた特性が得られることが特徴である。

ABS樹脂にめっきを施す際には、樹脂とめっき皮膜との密着力を得るためにエッチングを行う。この工程では、クロム酸および硫酸混酸溶液を用いる手法があるが、これは半世紀前に本学が世界に先駆けて確立し、現在も世界中で使用されている手法である。このエッチングメカニズムの解明のため、本学大学院一期生として日夜実験に没頭していた。当時の事は40年以上経過した今でもリアルに思い起こせる。

近年、世界規模で有害物質の人体への影響や環境破壊が問題となり、法整備が進んでいる。その中で、欧州ELV(End of Life Vehicle)指令においては、規制物質の一つとして六価クロムが挙げられ、EU域内において六価クロメート処理された部品を使用した製品の販売が禁止された。現在のところ工程内で使用されている六価クロムについての規制は無いが、今後工程内からも六価クロムを排除する動きが高まることが予想される。

そこで我々は、六価クロムに替わる処理として、藤嶋らにより報告された光触媒技術の利用を検討してきた。今から15年くらい前に、藤嶋先生から、めっき液中に含まれる多量の錯化剤の処理に光触媒が使えるか検討してみないかとの話があり、研究の大きなきっかけとなった。すなわち、酸化チタン(以下、TiO2)に紫外線(UV)が照射されると、最終的にスーパーオキシドアニオン(・O2-)およびヒドロキシルラジカル(・OH)を生成する。さらに・O2-は水の存在下でプロトンと反応し、ヒドロペルオキシルラジカル(HO2・)を生成する。これらのラジカル種は、クロム酸などに匹敵する強い酸化力を有している。この酸化力を利用して検討を行った結果、UVおよびTiO2をエッチング代替処理に適用することで、ピール強度で約1.0kN/mの良好な密着強度を得ることに成功した。

本改質処理では、改質処理時間が約20分の時点で最大値を示す。密着強度増加の要因を各種のUVランプを用いて検討し、改質処理メカニズムの解明を行った。これらの一連の研究結果は、一昨年学会誌に投稿し、その論文が評価され、2月の下旬に論文賞を授賞した。



光触媒を用いた微細回路形成

ABSへの新規前処理プロセスを、プリント基板の前処理に応用する試みも行ってきた。

一般的にプリント配線板は、エポキシ樹脂にフィラーを分散させたものが用いられている。銅配線との密着性を得るための手法として、過マンガン酸溶液を用いた手法が用いられており、基板表面にサブミクロンから数ミクロンオーダーの複雑な凹凸を形成することで、アンカー効果による強い密着力を実現している。しかし、近年の配線微細化の動きに伴い、これまでの手法では、大きな粗面によるファインパターン形成への阻害と、高周波領域における表皮効果による伝送遅延といった問題がおきてきた。これらの問題の解決には、粗化を極力避け、可能であれば完全平坦面に回路形成する必要がある。しかし、平坦面上で十分な密着力を得るのは非常に困難である。

そこで、ABSとほぼ同じ手法でエポキシ樹脂表面を改質することにより、きわめて平滑な表面を維持しながら、密着性の高い微細回路の形成を検討した。その結果、最大1.17kN/mの優れた密着強度を得ることに成功した。

改質処理後の樹脂表面および密着性試験後の樹脂面と銅剥離面の表面形態を観察したところ、過マンガン酸を用いたプロセスではアンカー効果が得られるエッチング痕が形成されているのに対し、表面改質プロセスでは、樹脂表面には外観上の変化は認められず、未処理基板と変わらない平滑な表面を維持していた。

また、紫外線照射のみでは、濡れ性は発現するものの、IRスペクトルからは大きな変化が認められなかった。一方、TiO2を添加した分散液で処理を施すと、波長1700cm-1付近にカルボニル(C=O)基に起因するピークが確認された。

さらに、XPSによる表面分析の結果、樹脂表面に処理前後でCOO基によるピークの減少と、C-O基およびC=O基によるピークの増加および出現が確認された。これは、COO基がTiO2の光触媒反応によって分解され、C=O基およびC-O基が表面に形成したと考えられる。

上述のように、改質処理を施した場合は表面形態に大きな変化が認められないにもかかわらず良好な密着性が得られた。そこで、本処理を用いた場合の密着向上のメカニズムを検討するために、改質処理の後アクセレレーティングまで行った試料の断面を観察した。その結果、本改質処理では、樹脂の最表層部分に30~50nm程度の改質処理層が形成されていることを確認した。さらに、アクセレレーティングまで施した後の改質層内部に数nmから10nm程度の微粒子状凝集体が観察された。これらは改質層内部に浸透し、還元されたSnおよびPdが主要成分である。また、無電解銅めっき後の試料断面をTEMおよびEDXにより分析したところ、銅が改質層中に入り込んでいる状態が確認できた。

以上の結果から、TiO2とUV照射による密着性向上のメカニズムは次のように考えられる。すなわち、TiO2とUV照射による光触媒効果によって生成された活性種により基板最表層部分の樹脂間の結合が切れ、これにより改質層の形成と親水性の発現がおこる。ついで、慣用の前処理により、その改質層内部へSnとPdから構成されているコロイドイオンが浸透し、浸透したPdイオンは還元処理により改質層内で数nm程度の微粒子状態に還元され、これらのPd金属が反応サイトとなって無電解銅めっき反応が進行する。従来の過マンガン酸処理では、数mm程度の凹凸が形成され、析出銅皮膜と樹脂基板との間のマクロなアンカー効果によって密着が得られているのに対して、本手法では平滑な樹脂表面を維持したままナノレベルの微視的なアンカー効果によって、従来法と同程度の密着性が得られたと考えられる。



微細パターン(L/S=10mm/10mm)の回路形成

本改質処理、および過マンガン酸法を用いた樹脂基板に対して、セミアディティブ法により、L/S=10mm/10mmの回路形成を行った。過マンガン酸によるエッチングでも回路形成は可能であったが、樹脂基板表面には数mm程度の凹凸が形成されており、リードの直進性が劣る様子が観察された。一方、本改質処理を用いると樹脂平滑面上に回路が形成できるので、さらなる微細配線の形成が可能である。

21世紀は環境への配慮が技術選定の重要な要素になる。環境負荷の大きな材料や薬品を使用しないことはもちろん、エネルギー消費量も小さくして環境に優しい技術が望まれる。

めっき法は今後ますます必要不可欠な技術として最先端の分野で幅広く用いられるであろう。また、今後のめっき技術のさらなる発展のためには、環境にやさしい技術の開発と実用化が期待される。我々は光触媒の効果について当初3年くらい注力してきたが、最近では大気下でのUV処理のみで光触媒と同じ効果が期待できるようになり、さらなる研究を進めている。
 

危険物事故と要因
関東学院大学
山下 嗣人
 
化学系の学校、研究所ならびに事業所では、引火性、爆発性、自然発火性、毒性などを有する物質が使用されています。これらは「危険物」として、その安全を確保すること、危険物災害から公共の安全を守るため、消防法により取り扱いや貯蔵法などが厳しく規制されています。危険物施設の総数は2007年3月末で50万6千を数えていますが、年間1.5%程度減少し続けています。一方、事故の発生件数は増加傾向を示し、2006年度のそれは過去最高の739件に達しました。事故の発生確率は上昇して、0.15%となっています。神奈川県のそれは0.33%で、全国平均の2倍を記録しています。1000施設に対して、1~3件の事故が発生しますと、人的被害が記録されやすい特徴があります。その理由としては、引火爆発や発火により被害が一瞬に拡大する危険性と、消火が困難なことによります。酸化剤と還元剤による混合混触発火の場合、消火方法が異なるので、消火は極めて困難となります。

事故の発生原因をみますと、物的要因(施設・設備・装置の欠陥など)が約30%で、70%は人的要因によるものです。人的要因、すなわち人災は、天災とは異なり発生の原因が人間側にあるので、無くすことができる災害・事故です。そのため、人災を皆無にするための努力が必要となります。人的要因としては、危険物に対する知識不足、取り扱い上の欠陥、ヒューマンエラー、安全軽視、安全管理体制の不備、管理不十分および監視不十分などが挙げられます。人災は、技術(物質の危険性の把握、操作性の向上、誤認防止、配管の色分け、バルブ位置の設定など)・管理(点検と保全、サビ・ゴミ混入による異常反応、無事故の継続、チームワークなど)・教育(安全思想の体得、法令の遵守、責任感の高揚、安全第一の標語など)の三対策の欠陥によって発生しています。

人間の特性から生じるヒューマンエラーは、装置やシステムのデザインと、人間の認識・思考・行動の仕方が一致しない場合に起こりやすいのです。人間は、錯覚、聞き違い、見間違い、勘違い、行動の中断、考えごと、などしますが、デザインと密接に関係しています。人間は素晴らしい五感(視・聴・嗅・味・触覚)をもっていますが、体調不良であれば誤作動して事故を誘発することになります。それらを正常に作動させるためには常に規則正しい生活をすることが大切です。これにより、心身ともに健康で、注意深く行動できるのです。これが安全確保の基本になることを知っておきましょう。



一社にトラブルが多発する理由

2005年~2006年の間、JALで非常脱出装置を作動させない状態・働かない状態での飛行、逆噴射装置が作動しない状態・働かない状態での着陸、管制官の離陸許可なしに滑走開始、滑走路に誤進入、飛行計画未確認で離陸など、同様のトラブルが何回も発生しました。そこで、空の安全を確保するために、国土交通省がトラブル防止策再提出指示という異例の措置をしました。それにもかかわらず、本年2月、着陸機が滑走路にいるのに管制官の許可なしに滑走を開始する異常事態が発生しましたが、緊急停止して難を逃れることができました(ヒヤリハット)。管制官の指示をパイロットが聞き違えたことが原因でした。過去の教訓として導入された、復唱して確認しあう「確認会話」が守られていなかったのです。

トラブルが一社に集中する事実に対して、外国の心理学者は「組織における安全文化の違い」であると分析して、①報告する文化:誤りや失策が正確に報告される。②正義の文化:公正な規則が守られる。③柔軟な文化:予想外の事態に臨機に対応できる。④学習する文化:自他の失敗から学ぶ、の4点を挙げています。

ミスが正確に報告されない限り、正確な対策はできず、同じトラブルが何回も繰り返されることになります。当事者が責められるだけでは真の原因は究明されず、適切な対策を講じることもできません。真の出来事が正確に報告されるような信頼関係を構築することが何よりも大切で、組織の管理体制を根本的に見直しすべきです。

最近、規則・基準が守られず、規範意識の低下が著しくなっています。雑居ビルの35%、商業施設の90%、福祉施設の50%に相当する施設で、消防法違反が横行しています。その他、危機管理、虚偽報告、建築基準、低設置電線、給食費・保育費・医療費未払い、食品・耐火材・古紙配合率の偽装など、数えきれません。社会人として必要な規則・規範を身につけさせようと、安倍前総理が意欲的に提案された「教育再生会議」は未だ実を結んでいません。小学校入学以前の家庭における道徳教育が最も重要であり、学校、地域社会と連携を保ちながら、礼儀、ルールを守る、人を敬う心、自然に親しむ、善悪の判断、コミュニケーションなど、人として、また社会人として最低限の基本を教えるべきです。ゆとり教育、受験体制重視の弊害が、「読解力・考える力・応用力」の低下を招くことにもなり、国際的な学習到達度順位を落としています。

予想外の事態に臨機に対応するためには、イベント・ツリー解析が導入されています。機器や設備に異常または故障といった初期事象が発生した場合に、これが異常事態に発展していく過程をツリー状に作図し、各段階における拡大防止対策が成功するか否かを確率的に評価する帰納的解析法です。これにより、内在する危険性が把握できること、また、異常事態に速やかに対応できるので、被害の拡大を最小限に抑える効果があります。

失敗の要因を精査・分析・解析して最適な対策を講じ、成功に導く努力が必要です。



規範意識の低下、食品偽装の連鎖

2007年の世相を漢字一文字で表すと「偽」でありました。不二家の消費期限切れ原材料の使用と細菌検出に始まり、牛ミンチ、白い恋人の賞味期限改ざん、赤福の消費期限切れ再利用と製造日表示、比内地鶏・名古屋コーチンの産地、船場吉兆の産地・消費期限など、食品の安全に関する偽装が、内部告発によって次々と明らかにされ、信用を失墜しました。「同族経営、会社ぐるみを隠す、ブランドのおごり」、という共通点が見られました。経営トップには先見の明は勿論のこと、「分別能力」が必須です。事象を正しく分析・解析し、適切に判断する能力が問われます。記者会見のやり取りを見る限り、資質不足は明らかであり、後継者としての教育・訓練がなされておりません。もう一つ大切なことは、隠さず、正直に認めて謝罪し、速やかに対応を図り信頼回復に努めるべきです。意見を封じる階級制を改善するとともに、責任者の意識改革が急務です。



危険性の把握

危険性を把握するには、施設における法的規制を熟知し、潜在する危険性を適正に評価することが大切です。そのためには、過去の事故例やヒヤリハット事例を把握分析し、どのようなときに事故が発生しているのか理解しておくことが重要です。事故は類似施設で何回も記録されているからです。また、取り扱う危険物特性の把握やETA(Event Tree Analysis), FTA(Fault Tree Analysis)法により、危険性を理論的に評価して対策を講じることも必要です。

災害を調べると、障害を伴わない類似した災害が多数発見されます。同一人間に類似した災害が330回発生したと仮定した場合、300回は障害を伴わず、29回は軽い障害、1回は重い障害を伴います。この三つが、1対29対300の割合で発生することをつきとめたのは、安全技師のハインリッヒ氏で、これが「ハインリッヒの法則」です。この法則は、障害を伴う災害に対して、数多くの未然に防がれた災害(ヒヤリハット)があることを示しています。無傷であったことは偶然の結果であり、運が良かっただけなのです。災害要因が存在する限り災害の可能性はあります。不幸にして、いくつかの要因が重なる(複合要因)と、重大事故となります。貴重なヒヤリハットを体験した人は、どんな些細なことであっても、感度が高いうちに詳細なヒヤリメモ(いつ・どこで・何をどのようにしたき・何がどうして・どんなことがあった・それはどうして・どうすればよいか)を作成し、関係職場へ周知させて、その後の職場の安全衛生確保に活かすのです。すなわち、災害の芽を事前に摘むことが何よりも大切です。

ヒヤリハットは、医療機関で多いことが報告されています。2004年10月~2005年10月の一年間に、249病院から報告されたヒヤリは18万3千件に上りました(重大事故は610件発生したことになります)。看護師の77%、配属年数1年未満の25%が経験しています。全国には17万5千の医療施設ありますが、同じ比率で発生したと仮定すると、ヒヤリ数は1億2850万件に達し、信じ難い数字になります。鉄道や工事現場で見られる「指差し確認」が、「いつまでも記憶に残っている、思い出す手がかりになる」ことが医学的に証明され、数年前から医療現場で導入されるようになりましたが、生命を預かる医療現場での対策が極めて遅れていることを示しています。



危険な物質と危険な反応

人間が危険な行動をするのは、危険性についての知識がないからです。たとえば、危険な物質として、自然発火性、酸化性、爆発性、禁水性、過酸化物を作りやすい物質などを挙げることができます。危険な反応例としては、酸化、ハロゲン化、水素化、ニトロ化、エステル化、スルホン化、アミノ化、重合、縮合などの発熱反応や混合混触反応が該当します。分解反応は吸熱ですが、高温・高圧で行われるので同様に危険な反応となります。化学反応速度は、温度が10℃上昇すると、2~4倍速くなります。10℃で2倍速くなる系の温度が100℃上昇すると、1024倍の速さになります。液体は、高温下で気体に変化して体積が増大します。ボイルの法則、シャルルの法則から理解できるように、高圧となって爆発が起こることになります。危険性は、化学構造、反応熱の計算など、化学の基礎知識を応用することにより予測することができます。



安全第一の標語

「安全第一」の標語は工場や工事現場で見ることができます。1900年代の初め、アメリカUSスチール社の社長であったゲーリー氏の提案によるものです。当時の労働者は劣悪な環境下で危険な業務に従事し、多くの労働災害が記録されていました。熱心なキリスト教徒であった同氏は心を痛めて、当時の「生産第一、品質第二、安全第三」という経営方針を抜本的に改革し、「安全第一、品質第二、生産第三」としたのです。これにより、労災事故は激減し、品質と生産は向上したのです。これが、安全第一の標語の意味するところです。

目標の第一に「稼ぐ」を掲げ重大な事故を起こした例として、2005年4月25日、死者107名、負傷者555名を記録したJR西日本宝塚線の脱線衝突事故が挙げられます。スピードアップ・コストカットの方針、懲罰的な日勤教育研修、危機管理意識が希薄など、経営、管理および教育の問題点が指摘されました。

安全は一朝一夕にできるものではありません。安全第一の標語を理解し、安全を守ることが大切です。それには、生命を尊重すること、危険性に関する知識をもつこと、実行することが重要です。

今月の雑感シリーズは山下先生に危機管理をベースに書いていただきました。きわめてタイムリーで経営者、技術者には是非お読みいただきたい内容ですのでご回覧ください。 本間
 

本年度の就職活動はすでに終盤か?
関東学院大学
本間英夫
 
本学の学生が暢気なのか大学の就職部が他大学に比較して積極的でないのか定かでないが、産業界の人事担当の方々や経営者によると、3月頃から就職活動が進んでおり第一次選考のピークは過ぎたという。

いつも新学期になると、我々の研究室の学生は別だが、ほとんどの学生は「シュウカツ」と称して就職活動に奔走し、卒業研究は後回しになっている。先生方も、学生の就職に関しては就職課に大きく依存しているので、諦めが半分のようだ。

前から何度も言い続けてきたが、大学院生はともかく、学部学生が自分の能力や適性など判断できないうちに就職活動に入るのは、企業側にとっても学生側にとってもプラスになることは何もない。経営資源として重要なのは人材だと経営者はわかっているはずだ。

以前雑感シリーズで述べたことがあるが、例の2‐8の法則。青田買いで、人事部や経営者のセンスだけで選ぶのもいいが、折角だから2の学生は勿論、8の学生のポテンシャルをあげてから採用試験を行うべきである。

これまで採用方式の大きな変化が認められず、人材育成をしている大学にとっても産業界にとっても大きな損失に繋がっていることを認識すべきである。  

最近、ゆとり教育の反省から、文科省が主要科目の内容の充実及び時間数も増やすことを決定している。また道徳教育にも力を入れるという。なんとそれが40年ぶりという。一度決めたゆとり教育から方向を転換するのは至難なことであり、しかもその間に日本の平均的な学力は大きく低下してしまった。      

就職に関しての方式もそろそろ変えないと日本全体の大きな損失である。就職に関しては国の関与はそれほどあるわけではなく、産業界主導で変革できるのだから、先ずは青田買いをやめることからはじめるのも簡単なはずだ。

現在の採用方式では、偏差値の高い大学の学生、要領のいい面接ズレした学生のみがいい評価を得て就職している。

大学はすでに完全に偏差値で序列化されている。確かに、偏差値の高い大学の学生を採用することで、人材確保のリスクは大きく軽減されるだろう。しかし、果たして偏差値の高い大学の学生が企業側にとってほしい人材なのだろうか。まさしく記憶力中心の詰め込み教育で成績がいいとされてきた学生は、果たして企業における様々な問題に対して忍耐強く解決していく能力、発想の豊かさを兼ね備えているだろうか。大学の成績とこの種のセンスとは別物である。小生は敗者復活戦よろしく、遊びほうけてきた学生を意識付け、大化けさせてきた。

少子高齢化に伴い大学が完全に二極化し、偏差値が高いとされた大学では相変わらず入試における倍率は高い。一方偏差値の低い大学では全く無競争で、ほとんどの入学希望者が入れるようになってきている。

したがって、偏差値の低い大学では危機感が高まってきており、教員の教育力、指導力、研究力などの評価を導入した改革が進んでいる。

大学受験の偏差値はあくまでもインプットのランク付けであるが、すでに序列化されたランクを変えていくのは至難の技であり、各々の教員が意識変革をしていかねばならない。

受験生や高校の進学指導の先生、父兄にとって、その大学が魅力的であるかアピールするには、単なる上面の広告や宣伝では功を奏さない。地道な活動だが、大学本来の姿はアウトプットでの学生の満足度、及び産業界からの評価であり、ボディーブローのように大学の評価も変わっていく。ようやく先生方も自覚し、学生の指導方法も変わりつつある。

表面処理を中心とした企業では、かなりこの主張を理解していただいており、青田買いをやめ、じっくり育てて、お互いの合意の下で採用をしていただいている。



ほしい人材を的確に選定

新入社員の採用にあたっては、その企業にとって必要とする人材を確保する明確な採用戦略を持つべきである。現在の方式では適性やその企業で必要とする基礎的能力を持っているかを完全には判断できないのではないか。したがって、上述のように産学連携などを通して学部全体や研究室との関係を保つような方式をとれば、お互いの信頼関係の下に、より的確な人材を確保できる。

ところで、最近の学生はストレスの耐性が低いといわれているが、実は日本全体がストレス社会になってきているように思える。現在サラリーマンの7人に1人がうつ病になるといわれており、多くの企業の経営者及び人事担当者は頭を抱えている。新入社員が高学歴になればなるほど、入社時の抱負や夢と現実の乖離が大きく「もっとやりがいのある仕事をしたかったのに」と、休職をしたり辞めてしまうという。

多くの学生は、大事にわがままし放題に育ってきている。これまで困難にぶつかったことがないので、社会に出て思い通りにならなくなるとその対処法がわからず鬱状態になる。医者に診断してもらうと精神不安定、神経衰弱、ストレス障害、抑うつ状態などいろんな病名がついてくるようだ。

しかも、医者も少し精神的に不安定であればそれだけで病名をつけてしまい、診断を受けた側も病気だと暗示にかかってしまう。人間は考える能力を持っているから悩み解決するのであるから、ちょっとのことで病気扱いされ、それが元で長期休暇をとったりしてもなんら解決にはならない。

これまでもわがままで気弱で精神的に弱く活力がない若者は存在していたが、ほとんどは自分で解決するか、大げさな問題にはならなかった。弱さは表に出てこなかったのである。ところが最近では何でも大げさに表沙汰にする傾向が強い。

この種の精神的に弱い若者に自信をつけて社会に送り出すように努めるのが、教員の新しい仕事になってきていることを、多くの先生方が認識せねばならない。先生方によく言うのだが「もう少し早く研究室に来て、もう少し遅くまで研究室にいて、もう少し学生と愛をベースにふれあうように」と。



夫婦喧嘩の奨励

3月の終わりごろであったか、インターネットを検索していたら、夫婦の間でお互いに文句を言われても反論せずに我慢しストレスをため込んでしまう夫婦は、口論し解決しようとする夫婦より死亡率が2倍も高いことが分かったという。
 夫婦げんかの勧めとも受け取れるが、研究チームは、この調査は攻撃される側が不当だと思っている場合だけに注目していると説明。また、ただ反撃するのではなく、トラブルを解決しようとする姿勢があることを強調している。
 双方とも我慢してしまう夫婦では17年間で死亡率25%だったのに対し、片方または双方が我慢しない夫婦では12.3%だった。

夫婦間に限らず職場においても、信頼関係があれば我慢せずに大いに口論し、誤解やトラブルを解決しようとのスタンスで皆さん臨みましょう。



健康に留意 メタボの過信

歳を取ってくると健康に関する記事が目に付くようになる。この記事も3月下旬紹介された。それは血中の総コレステロール値があまりに低いと、かえって死亡リスクが高いことが研究で分かったという。
 なんと、「悪玉」とされるコレステロールでも同様の傾向がみられたとのこと。一般に、総コレステロール値が高いのは良くないことだとして、下げるための治療が広く行われてきた。しかしながら、総コレステロール値は栄養状態の指標であり、心筋梗塞や家族性高コレステロール血症以外の人は、無理にコレステロール値を下げる治療をしなくてもいいのではないかとの提言である。この研究結果は日本人延べ約17万人のデータを含む複数の大規模研究を分析しており信頼性が高い。

男女とも最も数が多かった血中総コレステロール値(160-199)を基準に死亡の危険を比較したところ、男性は160未満だと死亡の危険が1・6倍高く、200以上では0・8倍程度と、コレステロール値が高いほど危険が低くなるという。

女性も160未満は1・4倍と死亡の危険が高かったが、160以上は、240を超えても差はなかった。
 この研究を発表した教授は、コレステロールを悪者にする説はもともと米国から来たものであり、米国は心臓疾患や肥満が多く体質が違う。日本人に対しては、これまで不必要な人まで薬物治療の対象になっていたとコメントしていた。
 

危機管理と失敗学
関東学院大学
本間英夫

 
4月号では、危機管理に関して山下先生に書いていただいたが、ちょうど国内で様々な問題が多発していた時期であったため内容が非常にタイムリーであり、読者にとっては大いに参考になったと確信している。

特に我々が関連している表面処理をはじめとして、製造業では危機管理を怠ると会社の存亡に関わる。そういった意味では、具体的な事例を紹介する方が一番インパクトはあるのだが、これはあまりにも生々しい。

実際に事件にまで発展してしまった企業にとっては、その企業のトップが社会的責任から業界全体に対して話されるのは別として、このような小冊子を通して当該者ではないものが具体的に語るのも問題だ。

そこで、本号ではヒヤリハットや企業で起きている問題点等に関して紹介し、読者の参考に供したい。

そういえば、10年位前から「失敗学」の学会が立ち上がっているようだが、いずれ機会を見て表面処理における色々な失敗例に関する話題を論議してみたいものだ。

失敗学とは、ウィキペディアによれば、起こってしまった失敗に対し、責任追及のみに終始せず、(物理的・個人的な)直接原因と(背景的・組織的な)根幹原因を究明する学問と定義されている。

製造業では事故や失敗は避けがたく、小さな失敗や事故から、多数の死傷者を出す大規模なものまである。失敗学は、このような事故や失敗発生の原因を解明し、事故・失敗を未然に防ぐ方策を提供する学問である。

失敗学会は2002年に畑村東大教授が会長となり組織され、現在、個人・法人会員を含めて1200人の会員が活動している。年2回の大会には、大きな事故を起こした企業の当事者による分析や失敗防止策が報告されるとの事である。これまでも、テレビをはじめとして各メディアで何度も紹介されている。



小さな「予兆」を逃さない!

過去に大きなトラブルを経験した企業を中心として、失敗学を学び実践する機運は高まっている。事故に至らなかった小さなトラブルを事故の「予兆」ととらえて、事例をみんなで共有する仕組みを構築することは、同じような失敗をおこさないために重要であり、そのためには失敗を隠蔽しない企業に変えていかねばならない。

悪い出来事はすばやく報告、良い出来事はゆっくりと報告
 これまでの企業の体質としては、どうしても悪い出来事は後回しにされて、いよいよ切羽詰って表ざたになり、にっちもさっちも行かなくなっている例が多い。

最近は、内部告発から道義的に許されない事件が暴露され、こんなにも日常的に行われていたのかと落胆してしまう。また、特に食品に関しては即健康に関わることであり、じわじわと我々の健康を蝕んでいるのかと思うと、一つ一つ口に入るものに警戒感が出てきて、味わうという感覚から疑いの感覚になり、食文化も狂ってきた。
 企業のトップは、「悪いニュースはすばやく報告、良いニュースはゆっくりと報告」の考えを部下に徹底させ、企業体質を変えていかねばならない。それには風通しの良い組織の構築が大切である。

すなわち一方的なトップダウンは極力避け、部下の意見を聞き、発言の機会を与える社風を育てることである。ところが、「もの言えば唇寒し」と、部下が建設的な意見があっても何もいわないような企業が多くなってきているのではないだろうか。

失敗を恐れないこと

 失敗は必ず起こるものであり、それを恐れていては何も建設的なことは生まれてこない。失敗を受け入れない人、失敗を受け入れない組織は、危険である。
 失敗を失敗と認めないままにそのまま継続してきている例が、これまで国レベル、地方自治体レベル、企業レベルで明るみになり、ほとんど再起不能の状態から、改革または撤退を考えるようなことが最近多い。

ヒヤリハットの法則

 1つの重大事故の裏側には、29の軽微な事故(ヒヤリ・ハット)があり、その裏側には300の何らかの異常が存在していたという経験則に関しては以前に紹介してきたし、山下先生の危機管理の中にも述べられていた。
 300の異常の段階で、あるいは29のヒヤリハットの段階で何らかの手を打っていれば、重大事故を避けることができる。
 大事故の裏に必ず何らかの兆候があるように、企業の大失敗に際しても必ず兆候がある。



失敗から学ぶこと

 世の中には、良い結果から学ぶ組織は多く存在しているのだが、悪い結果や失敗からから学ぼうとする姿勢を持つ組織は、決して多くないようだ。
 失敗事例をあえて共有化し、そこから学ぶしくみを作ることは、同じような失敗を組織内で繰り返さないために極めて有効な方法である。

信頼関係をベースにした組織を作ること

重要なことは、人を信用し、意見を聞き、発言できる社風にしていくことである。
 部下が会社の方針に対して、賛成でも反対でも自由に意見を述べ、それを聞く耳を持つこと。もし上の立場の人が聞く耳を持たず、これを排したら、二度と建設的な意見や反対意見は出てこない。
 「もの言えば唇寒し」と部下が思い始めた時、その組織の向上心はなくなり大きな発展は望めなくなる。

最近は個人の能力や実績などの成果主義が中心となり、チームワークが乱れてきている。

その結果、事なかれ主義、非協力、丸投げになり、信頼関係が大きく損なわれてきている。

本来の働きやすい職場とは、会社や上司から与えられるものだけではなく、そこで働くものが自ら作り上げていくことも重要である。みんながそのような考えを持って事にあたれば、企業は大きく発展するであろう。

働き手の閉塞感

最近のニュースによると三人に1人が鬱だという、信用性はともかくとして、真剣に自殺を考えたサラリーマンが20%以上に上るとのニュースにはびっくり。このように現在、鬱の人は結構多いらしい。したがって、ストレスをコントロールする方法を説いたストレスマネージメントセミナーが多くの企業で行われているらしい。

このように、仕事でノイローゼや鬱になるサラリーマンが多いということは、仕事に対する充実感や、夢が無いからであろう。

鬱やノイローゼになりやすいのは、真面目でガンバリ屋で責任感が強い人ほど、過酷で閉塞状態になると、ノイローゼや鬱になるわけだ。

中には、鬱やノイローゼにならないためには、行き詰ったら、無責任に適当に投げ出すことが必要だと、これまた無責任なことを奨励している人もいるがこれは論外として、仕事を嫌々やっていと、充実感や満足感が喪失し、ストレスが蓄積するし、成果も出ない。前向きに、プラス思考が基本である。
 

閉塞感の中での元気な企業
関東学院大学
本間英夫
 
以前、この雑感シリーズの中で触れたことがあるが、読売新聞、日経新聞、日経産業新聞を購読している。しかし、最近はインターネットで新しい経済や社会情勢が入ってくるため、各紙すべてに目を通すことはなくなった。日経産業新聞は、一年くらい前から極力目を通すようにしているが、一般紙である日経新聞と読売新聞は、見出しと興味のある特集などのアイテムだけを読むか、ほとんど目を通さない日が多くなってきている。

言い訳になるが、そのように意図的に仕向けても、テレビやインターネットの情報が入手できるため、ほとんど実生活には影響がない。

先日、ヱビナ電化工業の海老名社長と技術的な話をしていた際に、「先生、4月27日の日経新聞の社説読まれましたか?」と尋ねられた。これに対して、「日曜日の社説は読まなかったよ」と答えたのだが、これには理由がある。

小生は、日曜日はゆっくり起きる。起きたらすぐにTVの報道番組に首っ丈になり、新聞は気が向いた時だけ、しかも特集のようなコラムだけしか読まなくなってきている。

読者のほとんどの方々も、当日の日経新聞の社説は読んでいないだろうし、ヱビナ電化工業が社説に紹介されていたことを知っていた方はほんの一握りだと思う。中小の、しかも特定の一社について社説の記事になることは滅多にない。

そこで、ヱビナ電化工業に関する社説を、下記にそのまま引用してみる。



『日本の中小企業が試練の季節を迎えている。経済産業省の2008年版中小企業白書によると、中小企業の業況判断は過去2年間、悪化の一途をたどっているという。

理由の一つは石油などの原料高だ。原材料の仕入れ価格が上がっても、製品価格への転嫁が難しく、収益が圧迫される。倒産がじわじわ増えているのも、気掛かりな傾向だ。

 全国に430万社ある中小企業は、日本経済を下から支える存在だ。一握りの大企業の業績が好調でも、430万社に元気がなければ、経済は沈滞する。中小企業の活性化はきわめて重要な課題である。

モノづくり系の中小企業にとって、進むべき方向は技術開発力の強化だ。ニッチ(すき間)分野に狙いを定め、そこでトップをめざす。そんな志の高い企業が多数登場すれば、「大企業の下請けで、低賃金」というイメージも変わるだろう。

 社員約100人のヱビナ電化工業(東京・大田)は、めっきの世界では名の知れた存在だ。先端的なめっき技術は、例えば燃料電池の開発にも欠かせず、自動車大手の技術者が頻繁に同社を訪ねるという。

 自ら技術部長を兼ねる海老名信緒社長は「景気悪化は逆にチャンス」と指摘する。大企業が採用を絞る不況期は、質の高い人材が中小企業の門をたたくからだ。

 ヱビナ電化は平凡な町工場だったが、以前の円高で仕事が急減し、技術志向にかじを切った。経営者にビジョンと意思があれば、規模は小さくても活路は開ける。IT(情報技術)化した今の時代は、中小企業でもグローバルに情報発信し、海外企業と取引することも難しくない。』



以上のように、ヱビナ電化工業は、中小の中でも元気がある企業として紹介されている。

我々の表面処理を中心とした企業は、この十数年の間に廃業したり統合したりで、全鍍連の統計によると4000社以上あった会社が1800社程度にまでに減っていると言う。数名程度で運営していた、いわゆるサンチャン企業が統合されるのは当然の流れとしても、かなり大きな企業も廃業するとなると残念な気持ちになる。こうした企業は、下請けとしての対応力、技術の展開力、さらには新しい技術の習得力に欠けていたのであろう。

逆に大きく躍進した企業は、技術をベースに常にチャレンジ精神を持ち、積極的に事業を展開して大きく躍進してきている。その中の代表的な一社がヱビナ電化工業である。

今から30年くらい前になるが、海老名社長は大学院を修了し、父親の経営する表面処理工場を継ぐことになる。彼はこれまでの前掛け、ゴム手袋、長靴の作業現場を見て、これからの工場運営はこれではいけないと、技術力の向上と共に、下請け産業からの脱却に思いを馳せていた。

彼はまず、現在のハイテクノの上級表面処理講座(当時は中村先生が推進されたJAMFの講座)に参加し、表面処理全般の講義を一年間聴講した。更には当時アメリカを中心とする海外研修を毎年行っていたが、その企画にも参加した。この海外研修を通じて、小生との交流が始まることになる。

お互いの出会いは大切で、その後、企業の経営、技術開発のあり方、関連企業との連携など、アメリカでの視察や我々との技術交流を通して自分の思いを膨らませ、将来の構想が構築されていったようだ。

まず彼は、これまでの町工場のイメージを払拭すべく、汎用品のめっきラインを電磁波シールドのめっきラインに変更することを始めた。さらには当時、小生の研究室にあったものと同じ分析装置をすべて購入し、勘と経験に頼っていた現場作業を、分析管理をもとにした安定した品質の物作りへと改革を進めていった。この改革の実現のためには、大学卒の技術を習得できるスタッフが必要と、積極的にリクルート活動もするようになった。

また彼は、学会の分科会の手伝いから始まり、学会の活動には積極的に参加し、表面処理の技術者の立場から編集や企画に携わるようになってきた。

したがって、日経の社説に紹介されたように、今では表面処理の業界をリードする、これからの企業の生き方を象徴する企業に成長してきている。



思い出と思い入れ

先月の中頃、4年に一度開催される表面処理の国際会議が韓国で開催された。学生にはいい経験になるので、研究室の大学院の学生のほとんど全員を参加させた。学生には個人研究費があるが、すべてをこの学会のためには使えないし、また研究所からも負担する体制になっていない。したがって、かなりの額、自腹を切ることになるが、ほぼ強制的に学生を参加させた。

小生はこの国際会議に対して思い入れと思い出がある。また、自身の経験から、若いときに海外の学会で発表することが大きな自信につながることを知っている。ほとんどの学生を参加させたのは、そのためである。

この国際会議は、1976年に第一回がイギリスで開催され、1980年に第二回国際会議が京都で開催されている。

思い出というのは、日本の京都の国際会議場で開催された第二回の国際会議で発表しなければならない状況に追いやられた?ことである。というのも、当時は学位を取得するために、少なくとも国際会議で二回以上発表しなければならなかったからである。

恩師の中村先生は、1968年ごろ学園紛争を契機に小生を残して大学を去ることになった。その際、電気めっきは整流器が必要であるのに対して、無電解めっきはビーカーと洗面器とバーナーと温度計があれば基本的な研究は出来ると、アドバイスを受けた。

それ以来、メインのテーマーとして無電解銅めっきを行い、それ以外に、大学の卒業研究で排水処理の研究を杉田の工業試験所でやっていた経験をもとに、学園紛争後、環境浄化に向けての研究は是非テーマーとしてやっておこうと、この研究も細々と進めていた。

当時は大型コンピューターが大手の企業に導入されたころで、先生は中小企業の表面処理企業の共同利用を考えられた。先ず勉強会から始められ、小生もFACOM230‐25の大型コンピューターの導入に当って、勉強するようにと、毎週、湯島にあるJAMFに通ったものだ。

それから数年後に、状況が大きく変わる。それは、京浜島の工場団地計画が東京都で推進され、中村先生が指導に当られることになったからだ。特に無公害実現のため、中村先生の構想のもと、現ハイテクノ社長である斉藤先生の綿密な節水の考え方が確立され、排水を集中管理する共同処理センターの実現に向けての研究が進められた。

したがって、京浜島の工場団地計画に伴う排水処理やリサイクルの研究が最優先のテーマーとなった。記憶もかなり薄れたが、1972年もしくは1973年頃から基本的な検討が始まり、大学ではイオン交換システム、各種金属の電解回収、総合廃水の沈殿処理などのテーマーで実験が進められた。

そして1977年の8月、上記の国際会議が開催される3年前に工場団地がスタートする。中村先生は大学を去られてから約10年間、大型コンピューターの導入と、その後の団地構想と、激務の日々を送られることになり、徐々に心疾患の病魔が襲う結果になった。

この団地の完成前後だったと思うが、先ず斉藤先生のドクターの取得、及び小生のドクターの取得に尽力していただいた。したがって、第二回の国際会議はドクター取得のための大切な会議であった。

発表の内容は無電解の複合めっきで、しかも当時団地のコンピューター制御に使われていたマイコン制御システムをこのめっきの制御に導入していたので、その結果も発表の中に入れた。その後にアメリカで講演することになるが、そのテーマーは無電解銅めっきの自動制御であった。

大学院のマスターコース修了後、十数年地道に研究していた内容、団地のリサイクル、排水処理の研究の手伝いをし、蓄積された制御システムのノウハウ、中村先生がこれからは無電解の研究をとのアドバイスをいただいたこと等が、ドクターの取得に繋がって行く。

京浜島の団地は、操業を開始してすでに30年を経過しているが、世界でも類を見ないクリーンなめっき団地として操業を続けている。団地内には空中配管された排水パイプを通して、各工場から送られた分別排水を集中処理するものである。
 21世紀に入って、資源および環境問題はますます重要課題となり当時の研究を更に深化させる段階に来ている。



 最後に、今回韓国で行われた表面処理国際会議に参加した、小生の研究室の学生から送られたコメントを載せようと思う。



『今回は、旅行費、滞在費など負担していただきまして、ありがとうございました。

初の海外での国際学会で、緊張や不安も多かったですが、ポスター発表は多くの人が質問に来てくださいました。

その中で、自分のポスターに足りない点の発見等、多くの良い刺激をもらいました。

英語力に関してはとても不安がありましたが、相手の聞こうとしてくれる姿勢もあって、自分が思っていた以上に通じたように思います。これらの経験から、これまでには無かった達成感を感じました。

また、先輩方がポスター賞を受賞され、改めて関東学院大学の研究の注目度を感じました。

これからは、もっと自分達の研究に自信を持って、明日からまた実験を進めていきたいと思います。』
 

社員のモチベーション
関東学院大学
本間 英夫
 
国際的競争力の中で、製造を中心とする多くの企業では、作業の効率化、集約化を図っている。さらには人件費削減の手段として、正社員の人数枠を下げ、終身雇用制度から任期制、契約制、派遣社員へと、採用形態をシフトしてきている。このような傾向は、企業を守るためには致し方ないし、ルーチンワークが中心の領域では問題がないはずだ。

しかしながら、それが製造現場での品質低下の主要原因となっているとすれば、大問題である。しかも、この傾向がこれまで働いてきた従業員のモチベーションを大きく低下させるとなると、ますます企業収益は低下する。最近は、このことに気付いていない経営者が多いのではないかと危惧する。

表面処理の製造現場では化学反応が主体となるため、機械を中心とした工程管理だけではうまくいかないことが多いはずだ。化学反応の基礎的素養が無く、単に指示書に従ってルーチン的に作業を行うようだと、最悪の場合、不良品だけを作っていることすらある。また、上司が単にがみがみ命令していても、不良率の低下には繋がらず、慢性的に不良品を作ることになってしまう。

化学反応をきちっと理解し、技術関連の人は鋭い観察眼を持っていなければならない。したがって、この種の意識と意義を持てるような初期教育が必要である。そういえば、一昔前はどこの企業でも、この種の初期教育はうまく機能していた。ところが最近は、その余裕がなくなってきているように思える。

つい最近、ある企業から、一週間を予定とした基礎的な教育の要請があった。派遣されてきた人は、工程の管理を任されている技術の責任者だという。したがって、基礎的素養はある程度持っているだろうと判断した。しかし、その人と話をしていくと、これまで薬品メーカーの薬品と装置メーカーの装置を購入し、その指示書に従って管理しているだけだったので、化学的な知識はあまりないとのことだった。そのため、表面処理の基礎的な講義をしても、いまひとつインパクトがない。

これまで、大学では学生に対して、表面処理の基礎的な講義を行ってきたし、学会ではセミナー講師として、企業の技術者に対して2時間くらいの講演を数多く行ってきた。このような経験を基に、派遣されてきた技術者には、面白く、わくわくする様に話したつもりだが、どうも張り合いがない。

その数日後、今度は他の企業から、1人の技術者が派遣されてきた。入社8年目という。ほんの数分間だが話を進めていく中で、この人はかなり化学的な素養もあるし経験もあり、「一を言えば十は理解する」と直感的に判断できた。したがって、短期間で様々な新しいことを行っていく中で、こちらが話した事柄をヒントとし、会社で早速検討出来るであろう。このように、従業員が大きく力をつけている企業と、従業員の意識の低い企業との大きな差ができている。



採用計画の見直しを

これまでの高度成長期では、いずれの企業も、従業員の採用は新卒者採用が中心で、中途採用はほとんどなかった。また、どの企業でも、3年くらいかけて社員教育してきたものだ。しかし、バブル崩壊と共に、ほとんどの企業には余裕がなくなってきた。10年以上前から、大企業において、数千人から数万人の大型のリストラが始まった。これにより、働き盛りの50代を中心として、海外の企業に自分の技術力を売り込む者、国内で他の企業へ転職する者が増えた。したがって、いずれの企業においても中途採用の比率は急上昇。これまでのコンスタントな新卒者の計画採用から、通年採用で、しかも中途採用に大きく舵を取っている企業が多い。

技術力に定評がある有名企業でも、経営者が変わってから、これまでの採用計画が大きく変わり、中途採用が7割、新卒が3割と比率を変えたところもある。経営者は、熾烈な競争の中で、人件費の軽減と高い専門性の必要性から、ある程度はこの傾向を容認しなければならないだろう。しかし、比率が逆転してしまうようでは、これまでの従業員と中途採用の従業員との間の協力体制が崩れていくことが多い。

それぞれの企業には、経営者のコンセプトの下に、企業独自の文化、DNAのようなものが脈々と受け継がれてきている。しかし、そこに上司として、また同僚として異文化で育った人が中途で入ってくると、うまく適応できないことが多い。その人が、謙虚で素直で協調性が高ければ問題がないのだが、実際には難しい。それは、中途で入ってきた人と前からその企業で苦楽を共有してきた人との間では摩擦が大きくなる場合が多いからだ。同じ年齢層で、しかも専門的に近い分野では、特に自己顕示欲が強いと、この職場は自分なしでは成り立たないとばかりに仲間を愚弄したり、侮辱したり、厳しく批判したりで、結局は仲間はずれにされてしまう。

各企業においては、成果主義の導入、高い専門性の必要性から、優秀な人材を確保するためには、大企業の技術者の中途採用が手っ取り早い解決策だと思っているが、負の効果のほうも頭に入れておかねばならない。特に経営者や企業の幹部は、注意しなければならない。



派遣社員について

 日本の派遣労働者の現状の厳しさには、4つのキーワードがあるという。1つは、いつクビを切られるか分からない雇用の不安。2つ目は、正社員に比べて各種手当てもつかない最低賃金での差別。3つ目は、正社員からロボットのように扱われる孤立感。4つ目は、定められた休みを取ることが出来ない責任のない立場。
特に孤立感は深刻で、2ヶ月くらい前の秋葉原で起きたあの忌まわしい殺傷事件をはじめとして、いろんな事件が起きている。

いくつもの業者が派遣元になっている職場では、雇用した企業がそれぞれを競わせる傾向があるし、彼らは単に労働から一定の賃金をもらうだけで、達成感や貢献度のような満足感はほとんどないであろう。そのため、一般社員のような連帯感も生まれてこないし、特に夜勤においてはよく管理しないと不良の山を作るようになってしまう。したがって、正規の技術者のかなり上の地位の人まで夜勤で工程を管理する必要性が生じるため、上司自身も昼夜逆転し、精神的にも肉体的にもボロボロになり、充実感は全くなくなってしまう。
 さらに、派遣労働の実質賃金は正規と比較すると半分以下であり、閉塞感に陥るのは当然である。働けば働くほどばかばかしくなり、頑張ることなど出来なく、一度この生活に入り込むと、あたかも麻薬に犯されたかのごとく抜け出すことが出来ずに絶望し、自殺者まで出るという。このような状況では、若者は将来の希望が持てるはずがない。

バブル崩壊後の90年代から急速に派遣社員が増え、それと共に企業内のモラルが低下してきている。以前に2度くらいこの雑感シリーズで触れたことがあるが、若者たちが正社員になれる確率が低くなり、フリーターや派遣社員ではいわゆる下級君といわれる言葉まで出来ている始末だ。将来が暗く、先が見えず、経済的に安定した若者が大幅に減り、充実感がなく、閉塞感から犯罪がどんどん増え、少子化にも拍車がかかる。
 こうした単純労働などの派遣社員を極力抑え、正社員と同等の待遇を設けたうえで、正社員への登用に対するルール化を明確にするように行政も各企業も早いアクションを取るべきである。

日本は物づくり大国であり、99%の中小企業が担い手となっている。そこに人材がどんどん集まるようにするべきである。
 

神奈川県の社会人研修制度
関東学院大学
山下 嗣人
 
神奈川県では中小企業の振興および人材育成の一環として、高度成長期の昭和38年度に、中小企業技術者研修制度が発足して、今日に至っています。長期研修コース(機械、化学、電子科)のカリキュラムは講義、演習、実習から構成され、工学系大学並みの高度な教育システムが組まれています。私は昭和55年より、工業化学科(現材料化学科)で、基礎化学、物理化学の講義を担当しています。その前年に関東学院大学の専任講師に就任したのですが、担当科目は、物理化学の演習と実験であり、講義法は、この産業教育を通して学びました。

その頃の研修生は、仕事を終えた夜間の授業にもかかわらず、高い目標と使命感に燃えて学習に専念していました。成績優秀者には海外研修の機会があり、見聞を広めることもできます。

 

技術へのこだわりと伝承教育の大切さ

第35回神奈川県中小企業技術者海外派遣団長として、平成18年3月4日から12日迄の9日間、ドイツおよびスイスの化学工業ならびに精密機械加工などの企業を視察する機会に恵まれました。

 ドイツ、スイスの優れた科学技術は歴史が物語っており、世界が認めるところであります。科学技術の専門分野はもとより、歴史、文化、考え方、技術レベルの高さを保障し、産業発展や技術の伝承に貢献している教育制度、さらには、環境問題を含めた先端技術の現状と動向を認識し、将来を展望する指針になればと、大きな期待を抱いて訪欧しました。

 訪問した6企業は、世界あるいはドイツ・スイスのトップメーカーであり、高い精度と耐久性を維持するための「ものづくり」に対する思想が伝わってきました。両国ともに基本に極めて忠実で、自国の限られた資源を大切に活かし、これらを適切、且つ、効率良く最大限活用するための工夫がなされていました。

世界的に有名なBASF社では、数種類の原料から中間物質を経て、約8000種類の製品が作られていましたが、その利用効率は98%と極めて高く、卓越したシステムに感嘆しました。高精度と高密度化が要求される装置の製造には、材料の選択・調整・準備やデザイン、加工方法などに十分な配慮がされており、たとえ高価になっても「良いものをつくる」という、技術へのこだわり、技術者としての誇りが、ものづくりの基本姿勢にあると感じられました。また、技術者が高く評価されていることも特出すべきであります。

中学卒業後、医師、教師、弁護士志望の一部を除き、職業学校で3年(文系)または4年(工学系)間勉強しながら、週3日はマイスターの資格を有した先輩の指導を受けて、技術を習得します。それが伝承されていく微笑ましい光景を見ることができ、大変印象的でありました。資格を取得すると、大学卒と同等の給料が保証されている制度も適切に機能していました。

留学経験のある恩師から、「研究以外でも朝早くから真剣に働くドイツ人の勤勉な姿勢が印象的あった」と聞いていた私は、このような制度の中で、自分が学んだ技術を活かし、仕事に対する自信と誇りが、各職場での真摯な態度に?がっているものと思いました。

工場内は整然と配置されており、作業スペースは広く、人間工学的にも十分な配慮がなされていました。米国のゲイリー氏により提案された「安全第一」の標語が、まさしく遵守されていて、労災事故は皆無とのことでした。職業教育を受けた優秀な技術者らは、フレックス制度を利用し、マイペースで仕事に励んでいました。

世界に誇る製品は、このような恵まれた環境、素材を活用する工夫、技術者の高い意識と技術などによって、生まれるものと思われます。

一方、わが国の現状を見ると、「ものづくり」や「技術者」に対する評価は低く、人材不足が深刻な問題であります。したがって、技術の伝承もなされず、結果として、重大事故の発生およびトラブルが多発しています。団塊世代の定年に伴う人材確保が各分野で急務でありますが、教育現場では、すでに「引き抜き」や「大量採用」が始まっています。試験科目の削減、倍率低下による教師のレベルダウンも懸念されています。また、教員採用や昇任人事における不正が次々に明らかとなり、教育界を揺るがす社会問題に発展しています。

  

最近の大学入試と学生気質

2009年4月に開設予定の某大学新設学部では、学生が朝食をとり、新聞を読み、メールをチェックし、余裕をもって講義に出席できるよう、「1時限の講義開始時刻を午前10時40分に繰り下げる」と発表しています。専門分野の特異性を強調している一方、通学可能エリアが拡大することで、優秀な学生を集める入試戦略の一環とも考えられます。少子化に伴い、各大学では、学生確保を最優先しています。他方、受験生は「面倒見が良く、青春を謳歌できる大学」を志向しており、互いのベクトルは、「真理を追究する」という本来の大学教育を逸脱している感があります。受験生人口の激減、入試の多様化、「偉くなりたくない、のんびり暮らしたい」を希望し、無気力・無関心のまま入学してきた学生の意識を、どう改革すべきかが、今後の重要な課題となります。

学生が勉学への意欲と興味を持ち、自ら行動できるよう、少人数教育による演習と実験、さらには、インターンシップを課して、学習や働くことの意義、職業意識の高揚、社会の厳しさを体験させるべきです。これらを通して、学習や生活態度は改善できると思います。

大学教育における現実を正確に認識、分析して、学校・社会における教育や制度を早急に見直す必要があると思います。



地球温暖化防止は脱深夜型から

コンビニの深夜営業は必要でしょうか?軽井沢町では、1976年より実施していますが、最近、京都市や埼玉県などでも、「深夜営業自粛」を求める動きが広がっています。二酸化炭素の排出による地球温暖化防止の一施策として、自冶体が「脱深夜型」のライフスタイルを目指して、その取り組みが始まっています。

 数年前に、「早寝、早起き、朝ご飯」を実践した広島の小学生の成績が、全国平均より10ポイントも高かったことが報告されました。昔から、午前の頭は金、午後は銀、夜は銅の頭であると言われてきましたが、現実に証明されたことになります。「早起きは三文の徳」と言うことでしょうか。



生活スタイルの見直し

最近、若者による信じ難い凶悪事件が多発しています。彼らの共通した言い分として、「ストレス、イライラ、気に入らない」など、身勝手な理由を挙げています。将来を展望できない現実、非正規雇用者の増加、成果を第一に求める企業側にも要因はありますが、風土気候に合致した日本独自の風習、食事や生活環境に戻すことも必要です。

畳には集中力持続効果があります。畳教室で問題を解いた子供達の解答数が15%、正答率は3%増加したとの報告があります。「い草」の黄緑色が安心感を与え、その香りが心を癒し、集中できるのです。「い草」は昔から薬草として、最近では、食品、和紙、入浴剤としても利用され、抗菌効果も認められています。

 厚木市内にある大手の研究所では、20年前から畳の休憩室が用意され、研究員は横になって、休息、思考、読書など、自由に過ごし、その中から斬新的なアイデアと優れた研究成果が得られていました。

環境に優しいことは勿論、昔から受け継がれ、日本人の気質にあった「和風家屋」の良さを見直す時代が来ていると思います。
 

政局安定と景気対策
関東学院大学
本間英夫
 
政局が混迷する中で、国内総生産指標であるGDPは、ついにマイナスに転じた。急激な円高、原油・原材料の価格急騰、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライムローン)問題に端を発し、ほとんどの産業界にダメージを与え、世界的規模で景気が減速、更に追い討ちを掛けるようにリーマンブラザーズの破綻で、景気は完全に後退局面に入った。

政府は8月時点になっても「景気後退」という表現を極力避け、慎重な言い回しに終始してきていたが、GDPがマイナスに転じ、現実的な判断を下した。日本銀行も10年ぶりに景気判断を「停滞」に下方修正し、日本経済は本格的な不況に突入した。日本の実質GDP成長率は、内需が弱く外需依存なので、戦後最長の景気拡大と言われてきていたが、実感を伴わないのは当然である。しかも、投資資金は欧州や新興国にシフトしたが、欧州も景気が停滞し、新興国の経済成長率も低下してきている。従って、外需は更に落ちこみ、輸出が伸び悩む。このような状況を打開するためには内需を喚起せねばならない。
 多くのエコノミストは景気を支える「輸出」「生産」「雇用」が悪化しているが、「落ち込みは小さく、来年には回復する」とコメントしてきたが、金融不安や政局の不安定化、流動化で、しばらくは凌ぎの時か。

最近の報道によると、景気浮揚策として財政出動を求める声は高まり、予算のばらまき復活への懸念も強い。政府は財政再建と景気回復をどう両立するのか。経済財政運営は厳しい局面に立たされている。

これまでは、インフレなき持続的な成長であったといわれる。その背景には、中国など人口の多い新興国で、規格工業製品や単純労働力を利用する製品が大量に安価に生産されてきたことがある。そのため、消費物価は長期にわたって安定していた。また、新興国の貿易黒字が先進国へ流れるシステムがうまく機能し、日本国内では低インフレ、低金利での持続的成長を可能にしてきた。
 しかし、商品市場でのエネルギーや食料品はのきなみ暴騰。更に、このサブプライム問題の影響はまだまだ続き、世界同時の金融不安から世界的規模での景気減速で、業績の悪化→雇用低下→消費低迷と負の連鎖に繋がる。このように、世界的規模で景気が停滞すると各国で迅速な景気対策がとられる。中国はすでに低金利政策を打ち出している。日本はトップの顔が見えず、政党間での争いばかりに終始しているようでは、どんどん打つ手も後手になる。

今はまさに、これまでの成長システムの基本になっていた大量生産、大量消費、大量廃棄から有限の資源の無駄遣いを避けた少量生産、少量消費、少量廃棄へとのシステム変換に本腰を入れなければならない。
 省エネ、省資源をテーマとして高付加価値を生む技術が、これからメインのテーマとなる。資源の少ない日本では、高付加価値製品の創出を中心とした技術が底流に流れている。

産業の活力をいかに回復させるか、従来どおりの延長線上では事はうまく運ばない。大きく産業構造を変革する時期が到来し、農産物の自給率を上げるための方策、公共事業の選択と集中、新規住宅着工やリフォームの優遇税制改革など。個人の持ち家率が高まれば、住宅関連の住環境、自動車、家電製品、その他波及効果は絶大である。



自動車業界の変調

トヨタ自動車の昨年第一四半期の連結決算によると、いずれも過去最高を更新し、世界に急拡大するトヨタを象徴していた。北米ではガソリン価格の高騰を背景に、ハイブリッド車をはじめとする燃費の良さなどが評価されて、販売台数は294万台と、前期比15%の大幅な伸びを示し、また、欧州も同20%の増と、欧米の先進市場で躍進が続いていた。このように、自動車業界は日本経済の牽引力の担い手になっていた。しかし、今年に入って、国内外ともに新車販売に変調が見られ、国内での新車販売は29年ぶりの低水準。登録車市場は低迷し、経済性や実用性を求めて軽自動車に人気が移っている。  

テレビのコマーシャルには軽自動車の宣伝が多くなってきている。また、実際走っている車を意識して観察してみると、確かにコンパクトカーやミニバンが多いのに気づく。このような軽自動車を加味しても、国内市場全体が収縮していることが鮮明になってきた。

自動車メーカーの経営のグローバル化は当然としても、国内市場で調子が振るわない企業の繁栄が長続きするはずはない。大型車や中型車の高級車は利益率が高いが、軽自動車は低価格で利益があまり出ない。ハイブリッド車は、開発コストの負担が大きく、利益率は低い。メーカーは、利益率の高い高級車に注力してきたが、世界的な景気後退、原油の高騰、新興国での乗用車購入の増加により、国内は勿論、世界的に軽自動車やハイブリッド車などにシフトしている。実際に北米などでは、それまで売れ筋だった大型車が、景気減速の影響で減産体制に入っている。小型車やハイブリッド車の販売で当面凌がざるを得ないのが、自動車メーカーの現況のようだ。

このように、大型車や中型車の売り上げは伸びず軽自動車にシフトしているということは、300万円から500万円くらいの大型、中型車から、100万円ちょっとの軽自動車への買い替えや新規購入で、トータルとしての売上総額が激減し、市場が大きく縮小することに繋がる。更に追い討ちをかけるように、最近の若者は「堅実・小規模な」暮らしを好み、車への関心が薄くなってきている。



厳しい自動車業界

 以上のように、自動車業界全体が厳しい状況に追い込まれているが、その中でも特に「トヨタの不振」があげられるという。

これを裏付ける報道として、7月28日号の米ビジネスウィーク誌によると、北米における各自動車メーカーの販売台数(対前月比)はGM、フォード、トヨタ、日産がいずれもマイナスで、特にトヨタは激減。一方ホンダ、ヒュンダイ、マツダはプラスになっていた。世界の自動車業界は全体的に厳しい状況にあり、このような状況を見据えて、上手くブレーキを踏んで柔軟に対応できた企業とそうでない企業の間で明暗が分かれている。 

ホンダやマツダが比較的好調を維持できていたのは、原油高の影響から米国市場が大型車を敬遠し始めたタイミングを見逃さず、素早くブレーキを踏むことができたからだと解釈されている。ブレーキを踏めず、苦戦の様相を見せていたのがトヨタ。先に記したように、国内市場では若者の車離れはもとより、景気停滞で乗用車は軽自動車にシフトし、買い替え需要は大きく落ち込でいる。

トヨタ自動車は、4人乗り乗用車では世界最小クラスの超小型車「iQ」を年内に発売する計画を打ち出した。更に、欧州日産は、10月2日に開幕するパリモーターショーで、新型「ピクソ」を世界初公開すると発表した。ピクソは「マーチ」よりもひと回り小さいコンパクトカーで、欧州における日産の入門車に位置づけ、新興国での販売も視野に入れた世界戦略車となるとのこと。消費者の「安くて燃費の良い車」に対するニーズから、低燃費コンパクトカーの投入が加速している。従って、自動車の高機能化、小型軽量化、長寿命化、多様化、燃費向上、省資源、省エネルギーなどの多様なニーズに対して、表面処理の役割は益々重要になってきている。

近年、地球環境問題が大きくクローズアップされている。自動車においても各種の環境対策が進められ、自動車の「生産→使用→廃棄」というサイクルを通し、生産段階においては、産業廃棄物の低減、低燃費、低エミッション、環境負荷物質の低減など、多くの課題に対する取り組みを積極的に展開せねばならない。

6月中旬に開催された表面処理の国際会議、その後7月に開催されたエレクトロニクス実装学会の分科会での技術講演で、プラめっきのクロム酸フリーエッチングとしての高濃度オゾン処理やUV処理の可能性、六価クロムめっきから三価のクロムめっきへの転換、低燃費対応のハイブリッドカー、燃料電池、電気自動車の開発状況、安全やナビゲーターシステムのための各種センサーの開発状況などが発表された。

表面処理業界は車の高性能化とともに、これらの高付加価値化した技術に対応する技術力を持たなければならなくなってきている。ピンチがチャンスといわれるように、八方塞で先行きを悲観するのと、今まさに技術力を高める絶好のチャンスとプラス思考で捉えるのとでは、大きな差がついてくる。

電動アシスト自転車

順調に販売が伸びている商品がある。「電動アシスト自転車」である。2000年以降、電動アシスト自転車の国内市場は右肩上がりで拡大しており、昨年の出荷台数は28万3000台で、5年前と比べると42%の増、2008年1~6月でも、前年比10%の増となった。

ヤマハ発動機が1993年に日本で初めて発売した電動アシスト自転車は、その後、車体の軽量化、電池の進化などで性能が大きく向上し、通勤・通学に使う人が増えてきているという。その背景には、健康や環境意識の高まり、そしてガソリン価格の高騰が後押ししている。さらに、欧州では日本以上の勢いで市場が急拡大している。
 ドイツでは、2007年の販売台数が2005年の3倍の6万5000台に増加。2008年は、8~10万台という予測がなされている。 

オランダの2007年販売台数は、前年比倍増の9万台で、2008年は12万台を予測。フランス、イタリアも前年比各66%増、33%増とのこと。背景には、日本国内以上に環境意識が高い事があり、追い風となっている。

欧州で販売されている電動アシスト自転車は、現地メーカー製や中国・台湾製が主で、日本メーカーは直接輸出していないが、電池、モーター、制御装置などの基幹部品は、性能やブランド力から日本の製品が注目されている。

私自身も自転車の性能が向上してきているので、たまの休日には近くの海岸や公園のあたりを散策したいのだが、残念ながら自転車道はヨーロッパ諸国と比較してほとんど整備されていない。オランダ、デンマーク、スウェーデンでは自転車道は完備に近く、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツといった諸国でも自転車道の整備が進んでいる。日本では自転車専用道路の総延長は、2006年4月1日現在で475キロメートルであり、「自転車道の整備等に関する法律」にいう自転車道の総延長7万8638キロメートルに占める割合は0.6パーセントに過ぎない。また、一般にサイクリングロードと称される自転車専用道路等として整備された道路5113キロメートルに限定しても、自転車専用道路は9パーセントで、残りの91パーセントは歩行者と共用する自転車歩行者専用道路である。公共事業としての道路整備を行う際に、もっとこのあたりを意識して整備が進むことを期待している。自転車の使い道は、通勤・通学、買い物、健康管理などである。若者の中では以前から何泊かの自転車旅行や自転車レースもある。

最近、政府も、いままでのクルマ中心の道路作りから、自転車のことも考える道路作りという方針に変えているとのことだが、その整備のスピードはきわめて遅い。
 

株式投資
関東学院大学
本間 英夫

 
低所得者向け高金利型(サブプライム)住宅ローン問題に端を発した金融危機から、最近の報道では、アメリカの金融工学の終焉、カジノ資本主義に決別と、投機マネー呼び込みへの反省しきりである。

東京株式市場の株の売買では、外国人投資家比率が六割を超えていた。従って、先月は金融不安から全業種にわたって、株が売りたたかれ、多くの株価は半値から3分の一になっている。確定しないで放っておけば、別にショックを受けることはないと強がってみても、パソコンで証券会社の個人アセットを開く気持ちになれないのが偽らざる気持ちである。

しかも、これまでは投資信託などのような間接的な投資は妙味なしと思っていたが、老後は安定が大切と、小額の資金を昨年から廻してみた。これでさえ評価額が元本の60%になっている。

このような状況から、これまで投資にはあまり興味なかったが株式投資をしてみようかと思っていた人たちは結局、ゼロ金利にもかかわらず貯蓄が一番安全ということになってしまう。一方、株式投資を行っている人にとっては、余裕資金があれば、今が千載一遇の買い場であると買い出動をすべきところであろう。小生は、もはや目減りした資産を取り返そうとか、更に資産を増やそうとする気持ちはなく、塩漬けにしている。

これまでの投資スタンスも、日本の産業界の成長とともに資産は増加するのであるから、貯金のような間接的な方法よりも直接投資のほうが効率的だと考え、頻繁に売買するのではなく、その企業の応援団のつもりで、ほとんど長期投資で臨んできた。

しかし、もう歳だから老年の生きがいを探すようにして、むしろ多少の金が入ったら後進のために役立てたいと実際に微力だが実行している。

先日、ある証券会社の支店長と話す機会があったので、中高年層の小金持ちに絶好のチャンス到来と投資をすすめたらと話したばかりだが、これからもヘッジファンドなどの投機基金による売買が主であるようならば、健全な株式投資はまだまだ日本には根付かないのかもしれない。       

日本はすでに不良債権を整理しており、健全な財政状況になっている。従って、ドルに対してもユーロに対しても円が独歩高で、原稿を書いている10月後半の時点で、円は一時90円台、10月26日現在で94円台に突入している。これからも円高が進行し80円台になるのではとの予測も出てきている。

ドルの信頼が大きく低下したことによる円高であるので、輸出産業に依存してきた日本にとっては、円高の進行に伴って大打撃を受けることになる。主力の輸出関連株は10年くらいのスパンで見てみると最安値に落ち込んでおり、純資産倍率が0・5と売りたたかれている。


歴史は繰り返す

1929年10月24日、木曜日。ニューヨークの株式市場が突如として大暴落に見舞われ、この日を境に世界経済は大恐慌に突入した。

米国の株式市場から始まった大恐慌は、アメリカだけでなくヨーロッパに伝播し、世界経済に大打撃を与えた。物価の下落、生産活動の急減少、企業や銀行の倒産が続出して、アメリカでは工業生産は半分以下に落ち込み、街中に失業者があふれた。今回の状況も、この80年前の状況と類似している。

歴史的に見て、大暴落が起きる前は株式市場が大活況に沸いていて、株式や不動産投資が大ブームとなっている。

個人も企業も、ブームに乗って株を買っていた人たちは残らず大損し、投資家の中には一夜にして破産する人も出てくる。直接投資をしていない一般の人には関係がないと思ったら大間違いで、この損失は国民経済に大打撃を与え、消費活動は冷え込み、モノが売れなくなり、企業の生産は急減する。

一般に株価が大きく上昇している時には、株式や不動産も大きく値上がりしている。株式や不動産などの資産価値が上昇すると、それを担保にして銀行からの貸し出しが増える。銀行の貸し出しが増えるということは、必要以上にお金があふれていることになり、それが景気を更に押し上げることになり、カネ回りがよくなると、それがまた株式市場や不動産に流れ込み、ますます景気はよくなる。その結果、株式や不動産の資産価値は暴騰する。

しかしながら、株価が急落すると、このお金の回転が逆転し、株式や不動産が急激に下がり担保価値がなくなり、お金が回らなくなる。銀行は貸したお金を回収しようとするが、借り手側はお金がなくなり、その結果、株式や不動産を売らざるを得なくなり、セリングクライマックス状態になる。

したがって、一度にみんなが手持ちの資産を売ろうとするので、ますます価格は下落する。銀行は貸したお金が回収できず、担保価値もどんどん目減りする事態に直面し、いずれは銀行の経営危機が表面化して、連鎖的に企業倒産が広がることになる。

まさに現在の状態が歴史は繰り返すことを如実に示している。チューリップ相場から始まり、これまで何度も経験してきた株式、不動産に端を発する金融危機に関してほとんど学習経験が生かされていない。

企業が成長するためには、設備投資を行って企業の規模を拡大する手法がとられてきているが、事業の拡大を計画している時に、株価が暴落したら、設備投資計画をストップせざるを得ない。

このように企業の活動が鈍化すれば景気は益々悪化し、賃金は下がり、新規採用減、失業者の増加につながる。株式市場の暴落は、株式に投資している人たちだけの問題ではなく、我々にも大きな影響をきたすのである。

最近、学生には意識付けのために、来年の君達の就職は大変のことになるぞ、これまでのように単に大学を卒業しているでは通用しないぞ、今のうちに実力をつけるよう真剣に取り組むようにと忠告している。

これからの減速経済で給料は減るし、さらにはこの十数年にわたり経験してきた50歳以上の希望退職や肩たたきの復活、退職金の大幅減額、若者に対しては正規雇用のチャンスが減るなど、マイナスの予測ばかりが目に付く。学生には、真剣に充実した学生生活を送るように促している。


4年ぶりの電気化学講会に参加して

10月の中旬にハワイで日米の合同電気化学会が開催された。この講演会は4年に一度開催されてきたが、一度だけ変則的に5年に一度開催されたので、第一回目が21年前の1987年に開催され、本年は5回目になる。

その第一回目は忘れることは出来ない。例のブラックマンデー、まさにその月曜日から講演会が開催された。当時は今のようにインターネットや携帯電話が発達していなかったので、大学の研究室に電話をしたら、すべての銘柄がストップ安で値をつけていないという。

確か一日で多くの株価が20%くらい下がったと記憶している。その後も、ハワイに出かけているときには不思議と株価が暴落している。今回もまさにその会期中に大きく株価が下がった。

それはともかく、これまで5回とも講演会に参加しているが、年々参加者が多くなり、前回は日米あわせて2000名以上の参加があった。今回は更に参加者が多く、おそらく3000名に達したのではないかと思われる。

これだけの参加者になるとセッションごとの会場数が多くなり、人気のある会場では部屋から聴講者があふれるセッションもあれば、逆に講演者と数名の聴講者しかいない会場も出てきてしまう。

我々の研究室では、学生がポスターセッションで3件、ポスドクと神奈川県との共同研究者の口頭発表が2件の発表で、小生は発表せず興味のある会場を渡り歩いた。

中でも最も興味を持って聴講したのは、MEMS技術を用いた化学センサの開発に関するセッションであった。

マイクロマシーニングは化学センサ、システムの微小化、一括大量生産を実現する上で、極めて有効な技術である。様々な微細加工技術を用いて、酸素電極、二酸化炭素電極等の化学センサや、ガス分析システムなど各種分析システムの微小化の研究に興味を持った。

このように近年、センサのみならずより総合的な分析システムの微小化を目指す微小化学物質分析システム (Micro Total Analysis System (mTAS)) の研究が活発に進められている。

この背景には微小化、一括大量生産による低コスト化や、その場での計測が可能になるなどの利点があげられる。特に電気化学センサはこれらを実現するのに最も適している。

化学センサ、分析システムの微小化には様々な微細加工技術が用いられてきた。

電極等のパターン形成に用いられるフォトリソグラフィー、シリコンの異方性エッチング、アクチュエータの作製に用いられる微細加工技術が重要になってきている。

微小酸素電極作製の一例としては、ガラス基板上に電極パターンをフォトリソグラフィーにより形成し、電解液を蓄える容器を、シリコンの異方性エッチングにより形成する。

この種の微細加工技術にはめっきがかなり重要であり、我々の研究室でも3次元の微小構造体を作成し、すでにエレクトロニクス実装学会に論文を投稿したが、その写真の一部が学会誌の表紙に採用されている。
 

金融不安から実体経済の影響
関東学院大学
本間 英夫
 
アメリカ発のサブプライムローンに端を発する今回の世界的な大不況が、業界に対して与えた負の影響は甚大であり、今回もこの話題に限ってしまったことを御了解願いたい。

金融危機に対する一時の過度な不安心理は緩んできているようだが、世界景気は依然として下振れが著しい。

経済協力開発機構が発表した世界経済見通しの中で、主要国経済は景気が後退局面に入ったと分析、さらには経済の後退は長期化するとの見方を示した。このように、景気の先行き懸念が株価の上値を抑え、リスク回避指向は根強く、現金化の動きが続いている。

日米ともに決算発表は一巡したが、好材料には乏しく、市場環境はネガティブな要素ばかりだ。唯一、原油の価格が7月に付けた最高値から、景気の先行き不安による需要減で暴落、たったの3ヶ月くらいの間で3年半前の安値。石油化学製品原料のすべてを輸入に頼る日本にとっては朗報である。

国内では先月、7~9月期の実質国内総生産(GDP)1次速報、10月の貿易収支が発表され、いずれも実体経済悪化を裏付ける厳しい数字であった。

輸出に主力を置かざるを得ない日本にとっては、米住宅市場の底入れ時期は依然不透明であるし、米自動車業界の救済問題も米政府の対応待ちとなっている。

来年1月にミシガン州デトロイトで開かれる北米最大の自動車ショー、北米国際自動車ショー(デトロイトショー)で、大手メーカーが出展を見送る異例の事態が起きた。日産自動車、三菱自動車、スズキの日本メーカー3社が先月25日、見送りの方針を明らかにした。米国での新車販売が低迷しているため経費削減を優先させる狙いで、米国市場の地位低下が鮮明になってきた。

また、半導体大手のインテルは、第4半期の売上高が従来予想を約14%下回るとの見通しを示し、企業業績の悪化は鮮明になっている。 

さらには、これまでの大手金融機関のクレジットクランチから、ノンバンクや企業、個人のクレジットクランチに移行している。したがって、個別企業の悪材料はこれからどんどん出てくるのだろう。

このような流れの中では、当然、今年のクリスマス商戦は厳しいものになる。実体経済がどこまで落ち込むのか、市場は不安心理が支配している。したがって、世界的な景気低迷の出口が見えぬまま、株式市場の重苦しい雰囲気は晴れず、ちょっとしたニュースによって日米とも株価の乱高下が続くことになるだろう。

日本国内では業績予想の下方修正が相次ぎ、日経平均の予想EPS(一株利益)は大幅に低下した。現状の予想PER(株価収益率)は13~14倍とすでに割安感が薄れている。

米国不況と円高のダブルパンチで、輸出企業の業績悪化は著しく、株価の下落に企業業績の落ち込みが追いついてしまった形になる。

このように、株安と企業業績の悪化が同時に進行した結果、実体経済の悪化の底が見えない展開が続き、輸出関連企業、特にエレクトロニクスを中心とした製造業では20~30%の落ち込みとなった。

政府の迅速な思い切った対応が必要にもかかわらず、政界は不安定な状態が続いている。このような状態では、回復にかなりの時間を要することになるのは明白である。

2兆円のばらまきに至っては煩雑で、ほとんど効果がないだろう。教育、医療、自給率を上げる農業、中小企業へのサポートなど、社会基盤の更なる充実化に向けた政策を執るべきである。政治家や官僚の考えだけに左右されるのではなく、いずれの領域おいても公正な専門家の意見を尊重し、税金を有効に使うようにしてもらいたいものだ。



自動車産業

日本の自動車大手8社が、2008年度中に世界で生産を減らす自動車の台数が、合計で179万台以上に達することが、先月の新聞に発表されていた。この数値は、07年度のマツダ一社の生産台数(132万台)を大幅に上回る規模の減産となる。これに伴い、期間従業員や派遣社員は大幅に削減され、自動車市場の急激な落ち込みが景気悪化を加速させる。

ホンダは先月21日、日米欧での当初生産計画(300万6000台)から、5%弱にあたる約14万1000台を減らすと発表した。国内では欧米向け「アコード」、米国ではアラバマ工場の大型車「パイロット」、「オデッセイ」を中心に生産台数を減らすほか、英国工場の生産ラインは、09年2~3月に休止すると報道された。

トヨタ自動車の減産台数は、8社中で最も多く、当初計画(887万3000台)に占める比率は10%を超える。これまで業績を引っ張ってきた米国での落ち込みが大きく響き、利益も75%減。9000名いた派遣社員を大幅に減らすという。

生産台数が減ることに伴う人員削減は、8社中7社(ダイハツ工業は非公表)で、三菱自動車も年末までに、国内工場の期間従業員と派遣社員、計約3500人のうち約1000人を削減する方針を固めた。さらには、来年3月末までの人員削減は、計2000人規模に拡大する可能性があると報道している。

今のところ、人員削減を実施していないのは富士重工業だけで、時短や休日出勤取りやめなどで対応するという。

トラック大手では、いすゞ自動車が08年度内に2万8000台を減産し、年内に期間従業員と派遣社員合わせて1400人のすべてを減らすとのニュース。

当然これら大手の企業が減産すると、部品メーカーを直撃することになる。人件費を削減するために派遣社員やパートの削減を行い、さらには製造コストのダウンとこれまで以上の効率追求を推進し、閉塞感だけが増幅されていくだろう。

このように、まずは弱い立場の非正規社員から切られ、一部の企業では内定取り消しも断行されだしている。したがって、今後ますます社会の安定が著しく低下し、世の中が荒んでいく。 



白物家電は堅調な伸び

金融危機のあおりで、実質的にも心理的に不景気感が強い中、冷蔵庫、洗濯機などの白物家電が堅調な伸びを示している。

家電のなかでも、この「白物家電」は唯一売り上げが前年比プラスで、なかでも「省エネ」「高機能」の商品が好調であるとの調査結果が新聞に発表された。

それによると、08年10月20日~11月16日の白物家電の売り上げは前年同期比で約2%増。薄型テレビなどの大物商品が投入されるAV家電を除いて、全カテゴリーのなかで唯一のプラス成長になった。

冷蔵庫は3・3%、洗濯機は1・5%、調理家電は4%の伸びで、国内景気の減速傾向で家計消費の落ち込みも予測されたが、「白物家電」は健闘し、堅調なのが注目される。

特に省エネや高機能といった付加価値商品が好調で、冷蔵庫では冷凍機能や保温機能などの機能面が重視されている。エアコンでは省エネをアピールする商品が好調である。

デパートに家内をつれて買い物に行っても、目的は食料品を買うくらいで、ほとんどほかの売り場には立ち寄ることがない。たまには家電製品を見てみようと売り場に足を運んだ際に、省エネ、高機能の表示が目にとまり、我が家でも今年夏過ぎから、冷蔵庫と電気釜、洗濯機を購入した。



大学の資産運用に変化

先月末のニュースによると、資産運用を目的とする金融取引で、2つの大学において、約150億円程度の評価損を抱えていることが明らかになった。このように、世界金融危機は企業のみならず、大学経営をも直撃している。

ほかの大学の現状は明らかにされていないが、程度の差はあろうが同じように大きな評価損を抱えていると思われる。

多くの大学では、授業料収入の減少が経営上問題となっている。少子化で受験料収入も大きく減少し、しかも定員を大きく下回る大学や学部も出てきている。したがって、授業料の引き上げを行わないかぎり収入が落ち込み、積極的な資産運用にシフトせざるを得なかったのであろう。

日本の大学では投機性の高い商品に手を出すのはタブーであったが、利息が極めて低い現状から、運用当事者はある程度リスク覚悟の上で、リターンの高い商品に手を出さざるをえなかったのであろう。

米国では、大学も積極的な資産運用は当たり前であった。一方、日本の大学は、預貯金中心に運用が行われてきたが、今後、大学経営を支えるためには、海外の例にならい、リスクとリターンをとる積極的な資産運用に取り組む必要に迫られていた。

運用自体は運用会社への外部委託が一般的であり、国内の証券会社や銀行を通じて行われていたという。

大学による資産運用は、リスクを回避するために、株式だけではなく複数の金融商品に投資する「分散投資」や長期投資のスタンスがほとんどのはずである。それでも今回のように世界中のほとんど市場が大幅に下落している現状では、大きな損失を抱えてしまう結果につながってしまった。

少子化による授業料の減収と金融危機というダブルショックが、大学の経営を脅かし大学倒産につながる恐れが出てきた。