参院選での自民党の大敗

関東学院大学
本間 英夫

 参院選での自民党の大敗、さらには次期総裁を巡って為替相場が荒っぽい展開になりました。市場では小渕さんなら円売り・株売り、梶山さんは円買い・株買い、小泉さんはドラスチックで乱高下のイメージがあるようでした。               
当初は小渕さん有利で展開していたようですが今後の自民党の体質改善に対する真剣な論議により従来の派閥抗争がそのまま反映されるのか感心が高まっていたようでした。いずれにしても程度の差はありますが、だれが総裁に選ばれようと今までの様なリップサービスでは市場が許さないことは、すでに学習されており、誰に決まっても以前より景気や不良債権問題を真剣にとらえると市場は醒めてみていました。
結果は小渕さんに決まりました。マスコミは小渕さんの不人気を煽っていましたが、不良債権処理を始めとして、ドラスティックな改革よりパニック状態になる危険性を避けた今回の選択の方が実際には良かったのかもしれません。
今後本気で問題解決に向かって民間からもブレーンを導入して組閣されるようです。しかし政治の世界は先の予測が全く困難であり、経済情勢にも大きな影響を及ぼします。一方、我々の携わっている技術の世界では、かなり長期にわたって予測可能です。特に、エレクトロニクス領域では来る二一世紀に向かってロードマップの作成が盛んになってきました。そこで今月号と来月号ではめっき技術の将来を展望する一助として、皆様に、ここまでめっきが新しい領域に入り込んでいることを理解していただけるように技術を展望してみました。 

 技術というのは実際にはこんなふうにいっているんだよ、というようなことも含めてお話をしたいと思います。日本は、エレクトロニクスの領域ではリーダーシップをとっていくような立場になったのに、このままでは、並みの国に戻ってしまうという危惧があって、国を挙げて産学官が連携していかねばならない時代になりました。物づくりにおいて、今までは効率優先でゆとりがない感じで来たわけですが、「これじゃ、もう駄目だよ」というふうになってきています。もう少し創造性を持って、物づくりの中でも自分たちが率先してベースをしっかりやっていかねばなりません。オリジナリティーを持って人のやってないこと、しかも非常に奥の深い、技術的にも力のある形でやっていかねばならない思います。本業に集中することが必要で、その中で差別化していくと言うか、力のある所が生き残っていくという体制にしていく必要があります。
 教育というのは企業においても大学においても同じだと思います。1番ベースにあるのは信頼と愛情です。今は失敗したら減点主義というのが多いですが、その人の着眼点がどこにあるかということを見てやって、それを伸ばしていくようにしていかなければならないでしょう。
 それから、その人が本当にとことんまでやっているかどうかを見ないといけない。とことんまでやらせて、キラッと光っているかどうか。目標に向かって、前向きにチャレンジしているかどうかということが大事です。皆さんの会社の中でそういう人材がいますか。いない場合にはいるように仕向けていくのです。若い時に、成功体験を持たせてやるということが大事です。成功したものを上の人があたかも自分がやったかのごとく取っていってしまう。それはいけない。
 めっき技術というのは回路の実装においてはキーテクノロジーです。ビルドアップ工法はめっきがないとできません。この夏からIBMが新しい半導体を出します。それは、今までアルミで回路形成していたのを銅配線に変えたものですが、それを全部、めっきでやっているとのことです。今まで半導体はドライプロセスでやってたので、めっきを知ってる研究者が殆どいません、これからめっきというのは重要になります。

〈めっきについて〉

 めっきというのはどのへんぐらいまでマイクロにできるのか。それから、実際に回路実装のところの話をさせていただきます。
 サブミクロンからミクロンオーダーでめっきが可能かどうか。
電気めっきでもサブミクロンまでできます。皆さんご存じのコンパクト・ディスク、CDは全部めっきでつくっています。情報がイチ・ゼロの信号としてピットで入っているわけで、その情報はだいたいサブミクロンからミクロンのオーダーで入っています。
 それから、コンピュータの中のハードディスクにはヘッドがあって、そこから信号を読み取ります。その信号を読み取る時のヘッドがスパイラルのコイルになっています。今はフラットなフィルムになっていて、このフィルムの所をコイルにするのは、プリント基板の原理を使って、ペタッと張り付けているような形で、ミクロンのオーダーで回路を形成しています。
 それから、フォーカスコイル。皆さんご承知のように、ビデオの自動焦点などは全部フォーカスコイルが用いられています。このフォーカスを調整するためのコイルは、スパイラルになっていて、だいたい五〇ミクロン。既に十年ぐらい前からそういうのをつくるような状況にあったわけです。その当時のプリント基板は、一五〇ミクロンとか二〇〇ミクロンぐらいでしたから、めっき技術は、既にほかの所でもっとファインなことをやっていたことになります。半導体は今、まさに微細なことをやっています。ダマシン法といわれていまして、今一番ファインなものは、〇・一八ミクロンの回路をめっきで作製しょうというものです。
 しかし、光を使って回路を作っている以上、光の波長の問題でそれ以下はちょっといかないだろうと言えます。今、電子線、X線等を使って、量子ドットとか分子レベルでやろうというのはありますが、それは次世代のことで、まだまだ先の話です。
 それに対して、プリント基板メーカーが実際におやりになっているところの基板の一番ファインなものを六〇ミクロンとしても、その一〇〇分の一のオーダーが〇・六ミクロンです。半導体が〇・一八ミクロンまでいっている訳ですから、半導体とそれを担うところのプリント基板のギャップが一〇〇倍以上あるわけです。
ファインになっているものを実装させるためのプリント基板を、どういうふうにファイン化していくのか。今のMCM、マルチ・チップ・モジュール。その中でも、今ビルドアップというのが出てきたのはこのような背景があったからです。
 しかし、ここで話題にしているのはファインなところは、すでに三十何年ぐらい前から研究が進んでいたのです。
二十数年前に「フィリップスという会社でプリント基板をつくる時に光を使ってやってるらしいぞ。一〇〇ミクロン以上をやってたんだけど、なかなかうまくいかないから実際の製造ラインには使うのをやめたらしい。」と驚いた人がいますが、それはすでに文献に出ていましたし、実は当時、私の研究室でそれを遊びでやっていました。その時、「一〇〇ミクロンではなくて、一ミクロンぐらいのパターンつくってやろうか」と考えました。
 その時、大手のメーカに、それができる露光装置を造ってもらいました。今の業界で使っているのは二五三七とか、三八四九オングストロームぐらいの波長のものですが、一八四九オングストロームの波長の光を出す超低圧水銀灯を使いました。その時に使うパターンの大きさがだいたい五センチ角の合成石英で、そのうえに最小線幅が一ミクロンのパターンを作製してもらいました。ただ、光が干渉して、回路が揺らいでいましたが、確かに一ミクロン迄解像しているパターンを作ってもらいました。
 当時、プラスチックスの上のメタライディング、つまりプラスチックの上にめっきすることは、中村先生が世界に先駆けてやりました。(三十二~三十三年前)
 その技術をベースにして、ABSの樹脂の上にパターンを形成しました。このようにかなり前から、我々の研究室でも現在のファイン化につながる技術をやっていたわけです。
 それから、なんと 〇・一ミクロンぐらいの穴の中に金属を無電解めっきで入れるという研究をやっている人が都立大学にいました。それは、アルマイトを使っていました。アルミニウムの陽極酸化膜というのは、ハニカム構造、蜂の巣みたいな形になっていて、陽極酸化は時間を長くすれば、酸化膜がどんどん厚くなっていきます。穴の径が〇・一ミクロンですから、どんどん酸化してやると、何十ミクロンもできるわけです。それで、一番下から、その穴の中に無電解ニッケルめっきを析出させたわけです。幸いなことにはアルミニウムというのは両性金属ですから、アルミはアルカリに、つまり苛性ソーダに溶けます。ところが、ニッケルはアルカリに溶けませんから、成膜されたかどうかを見るために、それをアルカリの中に入れてアルミを溶かしたわけです。
 つまり、無電解でやったら 〇・一ミクロンのものをいくらでも作ることができるということです。ただ、これをやるのに一カ月かけて、ゆっくりゆけらしいです。それは実用化とかの考えではなく、学問的な興味性からこういうことを追求しているからですが、そういう研究も必要なんです。
 だいたい一ミクロンぐらいのドットにめっきをする時に、ある穴の中だけにパラジウムの触媒をつけて、無電解めっきをするときの、めっきをつける前とつけたあとの違い。こういう研究をいろいろなところと情報交換をしながらやってます。
 そうしているうちに、シリコンのウエハーに、コンマ数ミクロンの溝を切って無電解めっきで回路形成をしようということになりました。無電解銅めっきの溶液の中にウエハーをスタックしておいて、下から液を吹き上げるような形でオーバーフローするときに、フィルターを使います。
 これははどういうことかと言いますと、ものすごく微細なところにめっきするわけで、通常のめっき液では、粒子がウワーッと飛び回っていて、ものすごく汚れています。ウエハーにコンマ何ミクロンの回路形成をしますから、フィルターやセンサーを使って溶液濃度のバランスをとって、新しい液をフィードしていくという方法をとります。
光通信用や近接場光学用のファイバーのめっきもやっています(図一)。光が出てくるファイバーの径が二ミクロンぐらいですが、そこを一〇ナノメーターから二〇ナノメーターぐらいにして、そこだけ開口させあとは全部めっきで覆ってしまう。このようなことは、めっきでしかできません。
前述しましたように、半導体産業がずっと伸びてきました。ところが、〇・一八ミクロンに達し、それ以上行くためには、なんらかの技術革新、ブレイク・スルーが必要になってきました。高速回路では今まで通りのアルミ配線ではもう無理だとなって、銅でやろうということになったわけです。銅配線をやることによって、より小さく、より高速に、より安価にということです(図二)。今、盛んに研究されているのが、〇・五ミクロンから、〇・二ミクロンぐらいの所で、そういうところまでいっています。めっきというのは、ドット状のバンプみたいなものも非常に安価にできるわけで、これからもますます重要性が増します。