新時代の曙光
関東学院大学
本間英夫
経済に関しては、ここ数年間、暗いニュースの連続でした。地価の大幅下落、失業率の増加、金融機関の破綻、消費マインドの冷え込み等々。しかし、いつかマイナスはプラスに転じます。昨年から今年にかけての経済企画庁が出した景気判断キーワードを、ピックアップしてみましょう。
月例報告で示された景気判断の変化
九八年一月 このところ足踏み状態
二月 このところ停滞
三月 引き続き停滞
四月 停滞し一層厳しさを増している
七月 停滞が長引き引き続き厳しい状況
八月 低迷状態が長引き、はなはだ厳しい
状況
九月 低迷状態が長引き、きわめて厳しい
状況
十二月 一層の悪化を示す動きと幾分かの改
善を示す動きが入り交じり、変化の
胎動も感じられる
九九年三月 このところ下げ止まりつつある
四月 下げ止まりつつある
六月 下げ止まり、おおむね横ばいで推移
景気の大きなうねりの中で、本年の四月頃に底を打ったとの解釈が、これらのキーワードから読みとれるのではないでしょうか。現在は将来に向けて、より強い体質を構築する試練の時期です。
失業率の増大は、社会の構造の変革期においてどうしても避けることが出来ません。現在(六月中旬)大学生の新卒者の有効求人倍率が〇九九、本年はかなりの学卒者が、職にあり就けないのではと心配です。今年はいち早く学生の就職について手当をしました。本当は彼らの能力や、適正がどこにあるか判断するには、もう少し時間が必要なのですが、中間報告会を例年より早く行い、彼らの能力を確かめ、企業を選択することにしました。
本然は、小生からお願いできる会社は例年から比べると少ない、というよりもお願いしづらい状況と判断しました。案の定、学生主導で受験したところは、ことごとく不合格の通知をもらいました。彼らのほとんどは、三年間遊ぶことに精を出し、英語を初めとして基礎的な能力は低下しています。おそらく、面接で自分をアピールする事もできていないでしょう。しかし、彼らに目的意識を持たせると、見違えるように能力が付いてきます。大学四年になるまでは、モチベーションが見いだせなかっただけなのです。最後の大学生活で自己研鑽に努めるようにし向けています。
私は決して研究に対して、彼らを道具に使うようなことはしたくはありません。成果をあげればよいとするやり方は、結果的には逆に成果が出ないものです。朝は相変わらず九時過ぎから約一時間、英語の基礎勉強をやらせています。これが配属前の三年生はたまらなく嫌で、研究室の評判は決してよくないようです。今年は特にその傾向が強かったようです。それでも私は学生に迎合しません。
一つの信念のようなもので、英語くらいは若干話せて論文が読めるようになって欲しいのです。大学院の学生の中で、英会話の学校に通うものもでてきました。どのやり方が良いか、自分で経験してみる必要があり、それぞれの学生間で切磋琢磨する雰囲気が出来てくることは、多いに結構な事です。学生時代に自分の将来を深く見つめ、何に向いているか、何をやっておかねばならないかを考えさせるためにも、就職試験の為だけに時間を費やすようなシステムは、改善の余地が大いにあると思いますがいかがでしょうか。
最近は、ピンポイント採用をする会社が少しずつ増えてきていますので、学生は十分に研究活動に専念できます。特に大学院の学生は学部時代の一年間(卒業研究)とマスターコース二年間で私自身驚くほど成長します。
さて話を戻しますが、護送船団方式の行政はたちゆかなくなり、金融システム安定化の枠組みも整備が着々と進んでいます。従来型の既得権益ごね得型から、制度の改正、規制の見直しをもっと徹底してやってもらいたいものです。
今回の不況が終われば大きなプラス転換は確実です。現在の不況はそのための誘導期です。新しい時代の曙光を見いだすべく、悲観的なマイナスの諸現象をプラスに転換して行かねばならないのです。
科学技術の醸成
最近、次世代の産業を育成するためには、基礎研究機関を充実させ、研究レベルを高めねばならないという論調の記事が多くなってきています。また、基礎研究の成果を応用に結びつける期間も、年々短縮される傾向にあります。
前回も述べましたが、日本を代表する企業においてすら、基礎をスキップして迅速に応用や生産をする、いわゆる垂直型の立ち上げが強く要求されるようになってきています。したがって、基礎研究の進展が期待できるのは、益々大学と国公立の研究機関ということになります。国が掲げている重要分野は生命科学、情報通信、環境科学、超精密技術等です。国レベルで、世界に通用する大規模な研究機構を構築してもらいたいものです。
私はこの原稿を書くのに月に一度、草津の近くの山小屋にこもって、ない知恵を絞っています。たまたま、草津温泉を世に大きく広めたベルツ博士の日本在留二五周年記念祝賀会の演説文を切り取ったものがあるので、紹介いたします。
「日本人は、西洋科学の起源と本質に関して誤った理解をしている。西洋科学は、傑出する学者が幾千年の努力の結果得たものである。西洋諸国はその種子を日本にまき、樹木が生長するように教師を送ってきたのに、日本人はその精神を学ぼうとせず、科学の果実のみをかりとろうとしている。」
これは明治三四年およそ百年も前の忠告です。現在でも通用する忠告です。製造から創造へ、日本の科学技術をじっくりと育て上げる環境が今、正に必要なのです。
日本の電子部品産業
カラーテレビ、VTR、ステレオなど既存のいわゆるAV機器は商品としては成熟し、最早、頭打ちです。次の商品としてのデジタル機器へ転換した企業は、更に高度な成長を続けています。
現在は携帯電話、デジタルカメラ、カーナビゲーション、MD、DVD等が急激に売り上げを伸ばしています。これらの機器を担う電子部品の製造メーカーの中でも、成熟部品だけを追っかけてきた企業は、完全に後塵を拝す結果となっています。
日本の電子部品の世界シェアは五〇%と言われています。デジタル化に伴い、更にシェアが増大しているようです。デジタル化で更に小型、高速、高密度、低消費電力、低ノイズが求められてきています。日本の電子部品産業が、世界のエレクトロニクス機器を支えることが出来るのは、材料開発力および加工技術力が勝っているからです。技術に対する要求が厳しくなればなるほど日本の部品メーカは、強みを発揮しています。
日本の電子部品メーカの中堅および中小企業が、セットメーカーからの厳しい要求に対して応えてきています。最近では、セットメーカーと部品メーカーが開発初期から、必要な情報を共有して事に当たっています。したがって、開発能力、生産能力、コスト対応能力が強く求められており、クリアーできた企業だけが益々活躍の場を広げるようになってきています。電子部品にめっきが多く使用されている今、正に優勝劣敗、思い切って積極策に出る時でしょう。
深刻に受け止める? 二〇〇〇年問題
昨年あたりから二〇〇〇年問題の報道が活発化してきました。英語では二〇〇〇年(the year of 2000)でY2K(Kはキロで一〇〇〇を意味する)ワイツーケー問題とも言ってます。従来、コンピューターでは年号を表すのに下二桁しか使ってきませんでした。したがって九九から〇〇になってしまい二〇〇〇年と一九〇〇年を間違えて、誤動作する可能性が高いのです。
この二〇〇〇年問題、すでに米国では誤動作による不安から、コンピューターのプログラマーが、身を守るために砂漠地帯に移動式住宅を造り、毎週その準備に出かけているといいます。これは極端な例ですが、二〇〇〇年問題での生き残りを身近な問題として考える人が増えてきています。
大型の小売店には、避難用具や非常食を集めた生き残りコーナーを準備しています。これは、昨年あたりからメディアが最悪の事態を報じてきたからでしょう。
電気、ガス、水道のストップ、交通機関の混乱、通信機能のダウン、預金データの消失等々。預金データの消失の不安から、年末十一月頃から十二月にかけて、一斉に多額の預金が引き出されたらどうなるでしょうか。飲料水や缶詰等の非常食を買うために、スーパーに人が殺到したらどうなるでしょうか。年末、ガソリン確保にと、皆がスタンドに駆け込んだらどうなるのでしょうか。
社会心理としての人間の行動パターンについては、すでに日本でも七三年、あのオイルショックが産み落としたトイレットペーパー事件で実証されています。家庭の主婦がトイレットペーパーを確保するために、スーパーの店頭に朝早くから並んで、一人ワンパックを手に入れたものです。
昼間は、店頭からすべてのトイレットペーパーが消えてしまいました。米国では、政府が年末にかけて想定される最悪のシナリオを描いています。
一、物不足 生活に欠かせない物資は需要が集
中し店頭から消える。
二、通信機能のマヒ 物資の需要が追いつかな
いので物流ネットワークが滞る。したがっ
て情報確認のアクセスが殺到し通信機能が
マヒする。
三、物価高騰、生活物資の需要増から急激なイ
ンフレがおこる。
四、暴動 買いだめ商品を求めて店頭に殺到、
混乱から暴動が生じる等々…
日本でも三菱総研が、二〇〇〇年問題で不安なことは何か調査をしました。その結果、銀行振込の不安が五〇%、交通機関に対する不安が四〇%、クレジットカードの有効期限や病院の機器の誤動作に対する不安が四〇%弱と、日本でも情報の開示とともに不安が高まってきています。
二〇〇〇年問題に対する企業の対応
本誌を読んでおられる方々の中には、経営にタッチされている方が多いので、私がここに書いたことなど、とっくの昔に対処済みだよと、お叱りを受けるのかもしれません。
六月中旬に郵送されてきた各企業の決算報告書には、一、二社を除いて全て二〇〇〇年問題の対策を進めている旨、付記されていました。
聞くところによると、特に米国企業に部品、材料を供給している企業では、二〇〇〇年初めに何が起こるか予測できないので、最悪の事態を想定して在庫の増加、エネルギーの確保、すなわちガソリンの備蓄や停電時の対策として、極端な場合、自家発電装置を持っているか、そのほか綿密な計画が分野毎に、ありとあらゆる事を想定し、着々と実行に移されているとのことです。このようなわけで企業によっては、八月以降から二〇〇〇年問題の特需が起こるとも云われています。
身の回りでの二〇〇〇年問題
十二月三十一日の夜、時計が十二時を告げる。まるでシンデレラ劇のように! 九九から〇〇に変わるその瞬間、各種の電子機器は誤動作する。怖くなってきます。まず一番簡単なことから、文字化けです。研究室にあるコンピューターで制御している機器の中でいくつかは確実に文字化けします。プログラムでその対策は出来ていません。実害がありませんからそのままお使い下さいと、これなどは他愛のないことですが、生活の根幹を担っている電気、ガス、水道がストップしたら、正月早々から暖房はなく、風呂にも入れず、冷蔵庫、特に冷凍室からは解凍され水分がしたたり落ちる。電話はどこにも通じない。交通機関はすべてマヒ。車で出かけようとすると、信号はすべてストップ、危険で走れない。ジェット機はすべてコンピューターでコントロールされているため、あわや墜落事故。
最近の医療機器は、これまた、すべてME
(Medical Electronics)、手術中に誤動作しないとはいえません。しばらくは健康に留意して、家の中で自給生活を送らねばならないでしょう。
ある程度落ち着いたからと、銀行で預金を確認、なんと預金が全部消えている。愕然! 誤動作よりも、この種の不安に対する諸々の行動の方が、
一九九九年問題として年末までに大きくなることが危惧されます。対策は着々と進められ、現実は何も問題が起こらないことを願っています。
また、単にこれらの問題を煽って、したたかに利益を上げようとしている集団の思惑に、踊らされているのではないかと云う人もいます。実際二〇〇〇年対策ビジネスが盛況だとのニュースも流れています。
個々のパソコンの中に潜む問題を把握して、解決策をアドバイスするパソコン用のソフトが六月の中旬に発売されました。このソフトは米軍や世界銀行で、すでに使用されており、日本語に対応したソフトがイギリスのソフトメーカから発売されました。このソフトはハード構成や、ソフト環境が一台毎に異なるパソコンを対象にしたもので、データーファイルに存在するY2K問題を診断、対策を助言するものです。
最もこのソフトは問題を発見するだけで、その問題が判明した後、年内に長大な業務用のデーターをいかに修正するかは、依然として問題とのことで、各社が真剣に二〇〇〇年問題に対処しなければならないわけです。
もっと問題か!もう一つの二〇〇〇年問題
太陽活動の活発化に伴う磁気あらし
太陽表面の活動が活発化しており、来年一月から四月にかけてピークを迎えるとのこと。したがって、世界各地で電波障害など様々な影響が出るおそれが指摘されています。これはデマではありません。れっきとした米天文学会での、米海洋大気局の研究チームによる報告です。
太陽活動は、約十一年周期で盛衰を繰り返します。来年はその極大期にあたるのです。太陽活動は、磁場の変化に関連した現象で、ピーク時には黒点の数が増大します。活動が激しくなると大量の電子線やエックス線が放射され、地球は磁気あらしにさらされることになります。
特に懸念されるのは、飛行機や船舶が自らの位置を確認する、全地球測位システム(GPS)の混乱でしょう。また携帯電話の不通、北極に近い高緯度地域における大規模な停電等々も挙げられます。
実際、前回の磁気あらし(一九八九年)では、カナダのケベック地方や米北東部の送電線網に異常電流が流れ、広域で停電しました。
今回は当時とエレクトロニクス化が比べものになりません。電磁波による障害については、私がここで解説する必要はないでしょう。読者のほとんどが、めっきと電磁波の関わりを知っておられるので、これだけの情報から直ちに、こちらの方が、むしろ二〇〇〇年問題として深刻なことが解っていただけると思います。
そういえば最近、私のカーナビのGPSが時々誤動作します。来年、この期間は飛行機に乗るのをやめた方がいいのかな?しかしあまり煽ってもいけません。それこそコンピューターの
二〇〇〇年問題と同様、飛行機での旅行を控えたり、そのほか予測される影響を列挙すれば、景気への影響は甚大となるでしょう。
しかし本当に今回は、 エレクトロニクス化が進んでいるので、ちょっとしたノイズで大事故が起きるかも知れません。これからは宇宙天気予報に毎日アクセスしなければならないのでしょうか。