高速インターネット整備

関東学院大学
本間英夫

 政府の諮問機関であるIT戦略会議が、高速インターネット網の整備の遅れから、このままでは国際競争力の点で、大きく先進諸国に遅れをとると指摘した。IT国家となるためには、超高速のネットワークの整備が最重点課題であると。

 日本のインターネット利用人口は、新聞やテレビなどの報道によると、3000万人くらいであるといわれている。データの取り方にもよるが、どれくらいの頻度で利用しているか、厳密にデータを取ってみる必要があるだろう。

 真に、インターネットを利用している人口は、国民の25パーセントにまでは、到底到達しているとは思えない。先ごろのインパク開会時に、一斉にアクセスがあり回線が繋がらなかった。

 1時間に10万回線、それが一度に1時間に150万くらいのアクセスがあったとのこと。150万人がいっせいにアクセスしたと捉えるのは間違いだと思う。

 私も新しいものにはすぐ飛びつくほうでアクセスしてみた。繋がらない。再度回線を繋いで見る、やはり繋がらない。

 このように、常識として一度繋がらないから、それであきらめる人はいないだろう。特に新規なものには、上手くいかなければ、心理的に、これでもかと、しつこくトライするものだ。

 したがって、おそらく多く見積もって、数十万人の人が大晦日に自分の部屋から、一斉にアクセスしたのであろう。立ち上げ時はしょうがない、定常時は10万回線もあれば十分であろう。

しかしながら、緊急時や何かの出来事で、一斉に情報を取りたいことは必ず起きる。そのためにも政府がITを標榜するならば、容量を上げておかねばならない。

 少し時間がたってから、再度インパクにアクセスしてみた。そのホームページは政府主催であるので、格調高く、且つ、ITを理解させるために分かりやすく作られているものと思っていたが、開いてみて多少がっくりした。

 この種のホームページを構築しているのは、委託を受けた会社の20代から30代の人たちであろう。我々から見ると、どうもついていけない。漫画が多すぎる。

 内容と背景がちぐはぐ、漫画文化に育った人たちからみると、これが当たり前なのだろうか。アメリカのホームページでこんなふざけたような漫画の多いホームページは余り見ない。

 何だか学会のプレゼンテーションでプロジェクターやOHPの背景にばかり凝って、中身が無いのとダブってしまう。それに電話回線からでは通信速度が余りにも遅すぎる。だからこそ、IT革命でインフラ整備が緊急課題なのである。

 私の研究室に現在、ドクターから学部生まで22名いるが、全員どこかのプロバイダーに入っている。

 皆、電話回線を用いているので、ネットサーフィンしようと思っても、遅くていらいらしてしまう。回線使用量も学生にとっては苦痛であり、従って、深夜の11時過ぎからのテレホーダイを使っている。

 オタッキーな学生は、いつも研究室にいるときは眠そうで覇気が無い。夜になるとキラッと目が輝き夜型人間になってしまっている。

 IT戦略会議では、5年以内に世界最先端のIT国家となるための重要施策として、ネットワークのインフラ整備を提案している。具体的には、この一年以内にインターネットへ常時安価な接続を可能にし、2005年までに、3000万世帯が高速インターネット、また、1000万世帯が超高速インターネットアクセス網に常時接続可能環境を整備する、いわゆるブロードバンドの整備を実現するというものだ。

ブロードバンドに対する説明は後にして、先ずインターネットの普及に対するネット人口について取り上げてみたい。

 ネット人口

 昨年11月、民間の調査会社2社が、ネット人口は4人に一人と調査結果を発表している。日経新聞によると、エーシーニルソン社とネットレイティング社の2社が、毎月無作為抽出で数千世帯を対象に、電話でインターネット利用率の聞き取り調査した結果、昨年の11月でパソコンでインターネットに接続した推定人口は、2474万人であったと報じている。しかも、昨年の1月の調査から、1.5倍に増えたとのこと。

 これらの調査結果に基づいて、ITを今後どのように進めるか、国家レベルでのIT革命の戦略が練られ、また、民間では、E‐コマースやE‐ビジネスの戦略が練られるのであろう。しかし、先にも触れたが、この4人に一人がネット人口であると早合点してはいけない。利用頻度が重要である。

 どこの大学でも学生は授業で一度は必ず触れている。全国の小中高等学校でも、正規科目として採用しているか定かでないが、何らかの形で教えているはずである。したがってこのことからも、千数百万人は数回接続しただけということにもなりかねない。

 卑近な例だが、確かに小生の研究室の学生は、何度も大学でインターネットに接続している。利用の方法は人それぞれであるが、有効に利用している学生は22人中5名程度である。

 授業で化学科全体の学生に、パソコンを持っているか、インターネットに接続した経験はあるか、メールのやり取りはしているか、この数年、必ず新学期になると聞くことにしている。3、4年前は、100人中数名しかパソコンを持っていなかった。現在では5割程度になった。学生にレポートはインターネットで送ってもいいと、これも数年前から言っているが、実行した学生は今のところ、総勢400名中10人にも満たない。

また、私の講義に対するコメントを遠慮なくメールで知らせてもいいよと言っているが、今年は60名中10名程度コメントしてきた。このように未だ多くの学生はインターネットを有効に利用していないようだ。

 工学系の学生の中でも、特に電気電子を専攻している学生の意識は高いと思うが、いずれ電気科の先生にこれらの件について聞いてみたいと思っている。

 さて、体連の学生はどうだろうか?

サッカー部の学生が今現在40数名いるが、彼らにはサッカー以外に、もう一つ、自信の持てるものを今のうちから探せと、いつも言い聞かせている。

 また、卒業までに必ずパソコンが使えるようにならないと、どこにも就職が無いぞと意識付けしているが、一向にその気が無い。それでも、しつこく彼らに説いているのだが、最近やっと2人の学生からパソコンを買いました、とメールで連絡を入れてきた。

 このように自分の身の回りを見ても、利用率は決して高くは無い。

 まだ、魅力的なコンテンツが少ない、単にけばけばした?入れ物があるだけ。また通信速度も大きな律速で利用率が上ってない。

ネット社会は何時頃やってくるか?

 各世代に応じた魅力のあるコンテンツ、ビジネスへの有効利用を真剣に考えないと、単に器だけを作ったことになりかねない。

 今のところ、ネット社会のキーワードが一人歩きし、夢を追いすぎ、実は余り期待したほどの大きなビジネスにはなっていないのではないだろうか。

 最近、あちこちのネット販売のホームページを開いてみたが、かなり小さな個人商店でも、おそらく業界ぐるみなのか、街ぐるみなのか、定かでないが、ここまで上手くホームページを作ったなと感心する。これだけ作るのに、かなりのコストがかかっただろうな、でも作った割にはアクセスも少なく、余り商売にならないだろうなと。

皆、同じようにインターネット販売をやるためのホームページを作れば、ぜんぜん差別化できないし、この種の情報が多くなると、情報自体が拡散し希薄化されてしまい、意味がなくなる。

まー・・・、結局は本業に余禄として少し注文がくる位か。

 現在、ホームページを作るビジネスは注文の殺到で大忙しであろう。しかし、実際の効果のほうは、となると今ひとつということになりかねない。

 個人商店の場合は、やはりベースは地域社会密着型で、サービス向上の一貫として、どのようにインターネットを活用するか、考えねばならないだろう。

 我々の業界はどうだろうか。ホームページを構築したことにより、今までよりもビジネスが大幅に増えたという企業はどれくらいあるだろうか。どのビジネスでも同じだが、魅力のある技術を持っていても、何らかの形で宣伝しなければならない。ホームページにその魅力のある技術を上手く紹介できれば、自然にアクセスが増えてくるだろう。そのためには如何に上手くネットを張るか、如何に技術を紹介するか、一度ヒットすれば、もうそのホームページには必ず訪れたくなるような、仕掛けを作ることが大切である。

 今のところ、物流の効率化には効果抜群であろう。迅速化、効率化にはもってこいである。

 すでに、肥大化した物流拠点を整理し、電子化を促進することで、物流コストを大幅に削減しているところが出てきている。今後ますます中間の業者はいらなくなってくる。

また、役所への届け出、申請、銀行や郵便局での支払い、ホームバンキングなどサービス向上にはこれまで以上に役立つであろう。選挙のやり方も、いずれは投票場に出向くやり方から直接電子投票になることも考えられる。

 インフラを整備し、また、全ての人が簡単に安価に利用出来るようになれば確実にネット社会は訪れるであろう。

 アメリカでは一昨年まではドットコムと名が付けば内容はともかくとして株価が一斉に上がった。しかしながら昨年の春頃から、虚業だ、思ったような利益が出ない、赤字続きだと急にドットコム産業が失望売りにさらされ、夢から醒め、設備投資意欲も急激に冷え込んできている。しかしながら、今まさに夢から現実へと選別が始まり、IT革命が緒についたばかりなのである。

インフラ整備としてのブロードバンドとは

このように、今、ブロードバンド時代をまさに迎えようとしており、新聞や雑誌は最近この話題にはこと欠かない。

 ブロードバンドとは、直訳すると「broad」(=幅の広い)、「band」(=帯域)、すなわち、高速なインターネット接続環境を指している。今まさに、ブロードバンドによって、インターネットが本格的に使えるようになり、インターネットビジネスが大きく現実のものとなる。ADSL、CATV、FTTHなどを利用した高速通信のことを指しており、NTTが提供してきたISDNはブロードバンドではない。

ISDNではCDを一枚ダウンロードするのに約10分、2時間くらいの映画の場合は100時間もかかる。この速度では音楽配信をはじめゲームを楽しむことが出来ないし、企業間取引(Bto B)もできない。そこでISDNに替わる高速なアクセス網の整備が求められてきたわけである。

 2000年9月、NTTは、家庭向け光ファイバー網による超高速インターネットサービスを、2002年度までにすべての政令指定都市に、また2005年度までに全国の県庁所在地でスタートするとしている。これは、当初の計画を前倒し、さらに時期を早めたものとして注目され、具体的サービス計画では、料金は月1万~1万3千円を予定している。 

 ホーム分野ではBSデジタル放送が正式に2000年末よりスタート、モバイル分野では、IMT-2000が2001年よりスタート、これらに加え、ADSL、CATV、無線によるインターネットサービスが大きく動きはじめようとしており、さらには、光ファイバーによる大容量通信サービスも2005年を目処に計画進行している。

 ADSLに関しては、3月から本格的に導入されるとのことだが、このサービスは、既存の電話線ケーブル(メタリックケーブル)を介して、高速なデジタル通信と、アナログ音声通信とを同時に実現できるものである。データ通信速度は、下り方向(局→加入者)が最大で6メガビット/秒程度、上り方向(加入者→局)が 1メガビット/秒の伝送速度で、ISDNの8から23倍の速度である。

CATVの光ファイバーを利用したインターネット接続もCATVの普及に伴い利用者が多くなってきている。私の住んでいるところも敷設されたので早速入会した。

このADSLおよびCATVは、光ファイバー網への過渡期である。CATVは、集合住宅への対応が難しく、ADSLは、その仕組み上、電話局から2km程度の距離しか利用できない。人口密集地帯でなければ採算が合わない。多様化するインターネット接続では、敷設資金に比べ、その利益率は低いと云われている。

 まだ先の話になるが、この光ファイバー網の開発競争はT(テラ)ビット/秒単位の伝送速度まで達している。昨年12月、米長距離通信大手のワールドコムが始めた広域ネットワーク基盤の実証実験「テラビット・チャレンジ」に富士通の光波長分割多重(WDM)装置が採用された。WDMは1本の光ファイバーに多数の光波長をまとめて効率的に伝送する技術。既存の光ファイバー利用が可能なため、低コストで大容量化できるとのこと。このように、無限に近い情報量拡大へのニーズは、とどまることを知らない。

テラの次に、いずれP(ペタ)ビット/秒の通信網が求められる時代を想定し、WDMと全く違う方式での情報伝送システムが研究開発されている。極めて短い時間に高エネルギーの光パルスを出すフェムト秒レーザーを光源に用い、複数の波長を合成してできるフェムト秒パルスを回折格子に通して複数の波長に分解し時間軸を延長、それぞれの波長に光信号を乗せてから逆変換するそうだ。

 このような技術開発に対して、日本企業が先行しているにもかかわらず、日本のマーケティングは動きが鈍い。これでは外資通信企業に先を越されてしまう。

グローバリゼーションと共に、数十年来続いた経営体制の構造改革も必要である。真のIT化は、技術開発段階からトップダウンではなくn対nの複雑な体系になり、これらが相互に影響し、ユニークな意見交換が可能となる。

このようにIT化には、インフラ整備のみならず、経営体制の変革も重要なのである。

現在のところ製造業のプロセスに対するIT化に関して、あまり紹介されていないが、まさにこれから重要なのは製造プロセスのIT化であり、我々の研究室では、マイクロな化学センサーの開発に本格的に着手する。