バルセロナ工科大学での産学協同研究センターの設立

関東学院大学
本間 英夫

2年前に、北欧の実装関連の研究機関や大学の研究所の訪問に引き続き、本年9月にもヨーロッパの大学及び研究機関を視察した。本雑感シリーズで過去幾度となく、産学協同の重要性を訴えてきているが、本号では、ヨーロッパの産学協同の一部を紹介する。

今回訪問した、バルセロナ工科大学の研究センターは、大学と企業間の知識・ノウハウを共有し技術的、専門的知識の蓄積と利益還元を目的として4年前に設立された。

 資金は、大学、カタロニア銀行、スペイン文部省、カタロニア州等の行政機関からも援助を受けており、それを私的財団として運用している。

 補助機関として、特許を中心とした知的所有権部門を持ち、特許の管理および調査検索など研究者への支援業務を行っている。

 さらに、海外からの研究情報を的確に得、また研究成果を世界各国に配信するために、英語センターが設立されている。

 この研究所では、メディカルエンジニア(医薬)、バイオ関連をメインテーマと位置付けて、バイオセンサー、その他電子機器関連の共同研究を行っている。企業からの委託研究に関しては、研究開発を通して、知識・ノウハウを提供し、製造は企業にまかせて関与していない。

 現在、すでに2万㎡の新しい研究・管理棟が建築済みであるが、さらに現在バイオセンターを新築している。2006年までに6万㎡の研究所へと拡張の計画である。

我々に関係の深いエレクトロニクス領域の研究としては、電子関連材料、材料化学を扱うグループと、通信、機材、設備、ソフトを扱うグループの2グループに分けて研究が行われている。

 特に、マイクロエレクトロニクス領域の研究テーマは、プロセスからデバイスまでの研究、材料特性評価として、ラマン分光、STM、TEMを駆使してシュミレーションを行っている。又、高温化学に関して、高温ガスセンサー(300℃以上)の開発に注力。さらには、ナノオーダでの結晶を取り扱った研究でイオン注入によって合成したナノクリスタルを使った記憶、発光デバイス(LED)の研究もやっている。その他、微小なメカニカルセンサー、圧力センサー、磁気センサー、バイオセンサー、アクチュエータ(マイクロ域で駆動するセンサー)の研究開発が行われていた。

ガスセンサーとしては、センサーの材料からデバイスの作成までの研究を手掛け、酸化物(TiO2 , SnO2 , SrTiO3)の合成から厚膜化までの研究を行っている。薄膜技術としては、CO2 , NOX また O2センサーの組み立てと評価を行い、スピンオフカンパニーの設立を予定している。

また、カメラ用CMOSのデザイン、ピクセル解像度を上げる研究、インターフェイシングデザインを行っており、開発されたICは工場で生産される。さらには、アンテナのデザイン、シリコンを使った微小アンテナの開発、マイクロロボット、マイクロサテライトの研究に着手。

ガスセンサーの中でエレクトロニクスノーズと称して、コーヒー、タバコ等の臭いを認識する検出器を開発しており、実際にこの分野に関してスピンオフ会社が設立されている。また、スピンオフカンパニーとして、去年設立されたアドバンセルという会社が紹介された。その会社では、研究開発で得られた知識や応用技術を企業に売るビジネスを行っている。2001~2年の職員構成はマネージメント4名、博士5名、ラボアシスタント7名、シニアアドバイザー5名となっている。

主な研究テーマとして、遺伝子(発ガン物質)の遺伝子研究、人間から採取した腫瘍から遺伝子(発がん物質)染色体をペドロ皿上で培養し、顕微鏡下での研究である。依頼先より委託研究を請け負い、結論が出るまで研究を行うことにより資金を集めている。 大学の研究機関始発のベンチャー企業の好例である。日本でも国立大学を中心として、ベンチャー企業の育成に力を入れだしたが、まだまだここまでは育っていない。

研究施設を視察して

約2万㎡の建物は日本に比べて、非常にゆったりと配置され、研究環境は格段に恵まれている印象を受けた。

1000MHzと500MHzのNMRを始め、最新の解析装置が設備されている。また、バイオ関連の研究室も完成間近の段階で、多数の機器の搬入が行われていた。基本的には各研究室は、300㎡単位にセットアップされており、日本の研究室に比べると非常に広々としていた。またバイオ関連として、多数の小動物(ラット、マウス、ハムスター、ウサギ等)を飼育する施設も設置されているが、動物舎というよりは、むしろ完全滅菌で温度管理された病院に近く、徹底的な管理が行われている。いずれにしてもスケール的に圧倒される施設であった。これが2006年までに3倍に拡張されれば、ヨーロッパにおいてもかなり充実した研究機関となるであろう。

 日本の私立大学においては、収入源の約8割が学生からの授業料で占められ、安定財源とされてきた。従って、大学運営のため、多くの学生を集めることに注力されてきたので、卒業する学生と企業が求める学生との間には、大きなずれが生じている。

 近年の少子化傾向で、大学も冬の時代に入り、新たな収入源を見直す必要が出てきている。バルセロナ工科大学のサイエンスパークの試みは、将来の日本の私立大学における一つのモデルを提起している。

大学が企業のニーズに対応し、工業化に結びつく研究開発を行うことは、新たな収入源となる。また開発技術およびノウハウを産業界に還元し、産業の活性化に結びつけることが出来る。

一方、大学で学ぶ学生にとっても、その分野において独立、開業といった個人的成功をおさめるチャンスが与えられる。このように、企業、大学、学生それぞれに、メリットのある仕掛けを早急に日本の大学に作らねば、世界の中で取り残されるのではとの焦燥感にとらわれた。

フラウンフォファー研究所

 

 この研究所には20年位前にも訪れたことがあるが、そのときからすでに産学協同研究を積極的に行っていた。当時、研究拠点はドイツのバーデンブルグ州のシュトゥットガルドにあった。現在は、ドイツ国内に広がり、今回訪問したのはベルリン工科大学内の研究所であった。

現在56の研究部門で構成されており、その中のマイクロエレクトロニクス部門は7つの研究分野で構成、研究予算は1999年度で約60億円、その内、54%の32億円が企業からの委託によっている。研究員は1000名で、350社以上の顧客を有している。実装関連のパッケージ部門には182名の技術者、基礎研究から装置開発、そして製造までの一貫体制をとっている。

実装関連の研究内容

(1) 半導体パッケージング用薄膜処理 

この研究は、半導体上の各種微細バンプ形成を中心に研究を行い、さらにパッケージング技術の研究といった応用技術までと幅広い。

半導体の製造には、クリーンな環境が必要であるため、800㎡のクリーンルームを使用している。従来の200㎜シリコンウェハーから、300㎜ウェハーといった大型のウェハーを使用し、フォトレジスト技術、スパッタ技術および湿式めっき技術の研究を行っている。めっき技術においては、基板の電極に対する配置による影響(垂直型、カップ型)についても研究を行っている。

Pb

Au

Pb

Sn

Au

Sn

めっき技術を応用した、微細バンプ形成では、Au、Pb-Sn、Au-SnおよびPbフリーバンプの各種研究を行い、AMD , シーメンスAT , SECAP , UnaxisおよびSEMITOOLといった半導体関連会社と協力して研究を進めている。

各研究の応用例として、現在までに2㎝×2㎝の小型心臓ペースメーカーの開発、そして5μm幅の銅配線による誘導コイルの作製にも成功している。

(2) ポリイミド上への直接銅めっき技術 

通常、樹脂上へ銅めっきする際、過マンガン酸または、クロム酸等で表面をエッチングしてアンカー効果を持たせたり、接着剤を使用して密着力を高めている。しかし、この研究ではポリイミド上への銅めっきに通常使用される接着剤を使用せずに、柔軟性が高く、密着の良い銅皮膜を得ることを目的としている。

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プロセスとしては、プラズマを利用することにより、銅上にイミダゾール‐銅層の接着層を形成することにより、ピール強度10N/㎝という密着性の高い銅皮膜を得ることが可能となっている。すでに、このプロセスを用いて装置の開発が行われており、reel to reelで15m/min.で操作されている。真空雰囲気下でプラズマ処理を行い、ポリイミド表面に極性を生じさせた後、イミダゾールで銅との結合反応を起こさせ、さらに銅スパッタを行う。その後、直流電気銅めっきを定電流で行い、パルス銅めっきでの厚膜化工程へと続く。

(3) 半導体への無電解めっきの応用 

 この研究では、大きく分けて3つの検討を行っている。1つは、アルミパッド(電極)上またはダマシンプロセス後の銅パッド上への無電解ニッケルバンプ形成、2つ目は再配線形成そしてchip on polymerの検討である。

 本研究の特徴として挙げられるのは、全プロセスを湿式プロセスにより行えるために、低コストであり、ワイヤボンドおよびフリップチップへの適用が可能となることである。アルミパッド上へ無電解めっきによりバンプを形成するには、裏面をマスクした後、アルミ洗浄、ジンケート処理を経て無電解ニッケルめっき、そして無電解金めっきを行い、最終工程として裏面マスクの除去を行う。

 一方、ダマシンプロセス後の銅パッド上、つまり、電気銅めっきで半導体配線形成、そして、CMP(Chemical Mechanical Polishing)工程で平滑化した後の銅パッド上への無電解めっきによるバンプ形成は、銅洗浄、パラジウム触媒付与後、無電解ニッケルめっきを行う。

0.5

 以上の手法で、ニッケルバンプを0.5-5μm形成した後、金を0.1μmめっきしたバンプはアルミワイヤボンドおよびフリップチップに適用可能である。

 また、ニッケルバンプを同様に0.5-5μm形成し 0.5

た後、金を0.5μmめっきしたバンプは金ワイヤボ 0.5

ンド、TABおよびFPCに適用可能である。

 しかし、これらの手法でバンプを形成した場合、ニッケル-金界面においてリンの高濃度層が形成され、この層がボンディング性能に影響を与えることが知られている。この場合、ニッケル‐金層間にパラジウムを0.5-1μmめっきすることによ 0.5

り、アルミ、金ワイヤボンド、TABおよびFPCといった全ての接続に適用可能となる。

 また、本プロセスで開発した装置はすでに、IC interconnect (USA)、Seiko (Japan)、およびKSW (Germany)で実際使用されている。

 再配線形成においては、エッチング工程のないフルアディティブ法によりラインアンドスペース

=20μmがすでに達成されている。以上述べた3つのテーマーに関しては、我々の研究室でも狭隘な研究施設と乏しい研究費の中でも、ほぼ同じレベル、中にはこれらのレベル以上の研究を手掛けている。潤沢な資金が無くても、かなりのことがやれている自信は、大学の事業部時代からの多くのノウハウと、その後サポートしていだいた企業および学生と培ってきたからであると自負している。だからこそ今まさに速やかに研究所を設立しなければ、世界から取り残されていくとの焦燥感がつのるのである。

⑷ 内部接続技術への生体物質の適用

 この研究は、従来までめっき技術に応用されることのなかった生体材料(物質)をプリント配線板の内部接続技術へ適用するという、全く新しい試みであり、すでにこの技術は特許申請中となっている。

 方法としては、生体物質であるリポゾームをめっき反応の前駆体として使用し、そのアルカリまたは酸性領域で有する特異的な挙動を利用している。初めに、ナノオーダーサイズのリポゾームとパラジウムクラスターを基板上に形成し、光を照射した際の各pHにおけるニッケル析出状態を検討したところ、特定の領域でニッケル析出を確認している。現在はまだ開発段階あり、今後、ナノオーダー領域ヘの応用に期待がかかる。この研究もまた、ATOTECH、Max Planck Institute for Biochemistryといった企業と協力し、研究を進めている。

 このように、フラウンフォファー研究所の活動は、基礎研究から応用研究まで極めて活発であり、日本の企業からも委託研究を受けている。

 以上、研究所の研究動向に関して説明してきたが、今回の視察のもう一つの目的はヨーロッパにおける環境問題の取り組みであった。その中で、特に自動車の耐寿命性に関することに関して次号で解説する。