国際競争力大幅に低下
関東学院大学
本間 英夫
日本の国際競争力は12、3年前世界のトップ、ところが本年10月中旬、アメリカのシンクタンクの調査発表によると、フィンランドがトップ、日本は21位。経済大国と評価されていた日本の短期間での凋落。バブルがはじけ不良債権が増大し、政府も色々な対策を行ってきたが、アクセルをかけながらブレーキをかけるような結果になり功を奏さなかった。さらに追い討ちをかけるように本年9月、あの忌まわしいテロ事件からアフガン戦争、炭疽菌事件と世界の同時不況はますます深刻化してきている。
自民党圧勝のもとに小泉政権は2、3年を目途に不良債権の最終処理に着手し、整理回収機構も当面は強制的な債権回収を控え、経営再建を支援する方針。短期的な回収よりも、経営再建を待ったほうが、長期的には回収金額が多くなる。
8月下旬、ハイテクを中心とした企業の業績がさらに悪化し、日経平均株価が最安値を更新した。その後、9月のあの事件で株価はさらに急落し、特にハイテクにウエイトをおいた投資家の懐は、4月の時点からすでに3分の1くらいになった勘定だ。世界同時不況で打つ手無しの状態か?
これからの雇用体制は?
失業者は政府の見通しをはるかに超え、実際は400万人ともいわれている。
しかも、その対象者は高給の40代から50代。自殺者も3万人以上。新卒者の雇用に関しても門戸が狭く、フリーターになることを余儀なくされ、また、派遣社員としての就職が目立つようになってきた。しかも企業ではリストラの手段として、まずは派遣社員からきり始めている。ある学生がこの現実に対して、「しわ寄せは来ても、幸せは来ないですね。」と、うまく言ったものだ。
先日、久しぶりに故郷(高岡)に帰ってみたが、高速道路は中途半端、新幹線もあちこちで工事が中断のまま。地元の産業を初めとして、いくつかの上場企業が大変な状況である。
何千人の従業員の早期退職、ボーナスカット、昇給ストップ。インターネットでその企業の掲示板を見ると、元社員や現社員からの経営者に対する不平不満が目立つ。北陸一の工業県ですらこのような状態なのだから、もっと惨憺たる状況の地方が多いのではないだろうか。
日本の終身雇用は瓦解しつつある。サラリーマンは終身雇用の下で、安心して中流意識を持って生活を築いてきた。働く人々が安定した生活を維持できるからこそ、日本人のモラルは高く、また企業に対する帰属意識の高さが、これまでの日本の成長を支えてきた。
しかしながら、世界的な同時不況の中で、この雇用体制を維持できなくなってきている。
また、この終身雇用制は、日本の犯罪社会化の抑止力になっていた。最近の犯罪件数を初めとして、犯罪の凶悪化は新聞やテレビで知るかぎり、社会の不安定化に伴い増え続けている。皮肉なことに、警備関連会社の株価は上昇傾向にある。
国家の財政をはじめ、年金、銀行、生保、郵貯、簡易保険等、すべて大赤字。ただでさえ将来に不安を持つ高齢者が、更にこのような状況では購買意欲は冷え込んだまま。
年金財源はパンク状態で、年金積み立て額を大幅にアップしない限りは、年金の支給額は大幅に削減するか、または、年金の支給年齢を繰り上げるしか方策は無い。
改革の骨子が、8月の初めだったか紹介されていたが、セーフティネットと称して、中年の人たちにも再就職のための勉強をしろという。今まで、長年にわたり公共事業に依存してきた建築関連や、一般企業の中高年の働き手が再教育だと、果たしてついていけるのか?再就職で、給料は下がるだろうし地位も下がるだろう。
オートメーションからオトメーション
待った無しのグローバルスタンダードの名のもとに、生産拠点は海外、特に中国本土へどんどんシフトしている。
ますます微細化する電子部品の実装、たとえば、コンマ数ミリのチップのハンダ接続や基板への搭載を、視力3.0の女子がズラーッと並んで、顕微鏡または裸眼で作業しているという。そんなことは自動化すればいいと思われるだろうが、設備導入費用及びメンテナンス費用は莫大であり、しかも技術がドッグイヤーでどんどん変わっていくので自動化するよりも、賃金が日本の20分の1から30分の1の中国でまじめに労働する女子を、何万人も雇ってこの種の作業をやったほうが迅速、しかも歩留まりも高い。
オートメーションからオトメ(乙女)ーション。これには、日本がいくらハイテクの製造だけは守ろうといっても、人件費が世界一になってしまったので、この種の仕事も海外へシフトしてしまうだろう。
貯めるから使う
従来型の産業の空洞化と労働力余剰、終身雇用制度や金融システムの改変等、先進諸国から求められる要求を受け入れ、結果として雇用不安、土地の値下がり、株価の暴落、結局は日本の資産が大きく目減りした。
国は完全なる破綻状態。個人の資産だけが中高年者を中心に停滞した状態である。タブーとされるような調整バブルとか調整インフレという言葉が最近聞かれるようになってきた。また、先日のNHKの経済討論会で財務担当大臣の発言として、インフレターゲットだったかターゲティングだったかという言葉が出てきた。このままでは、デフレスパイラルの渦の中に入り込んで抜け出られなくなる。したがって、インフレに軌道修正する必要があると経済学者は言っているが、インフレターゲットという用語に至っては、何のことやら解説も無く横文字が一人歩きをして、なんだか横文字を使うと心地よく聞こえるのか、言葉の遊びをしている余裕など無いはずだ。政府は迅速に的確なアクションを取らないといけない。
個人消費が旺盛にならない限り、景気は上昇しない。なにしろGNPの60%以上が個人消費なのである。しかしながら、現在個人のお金は滞貨となって、通貨としての役割をなしていない。今までは堅実な投資や貯蓄の対象は銀行や郵貯であったが、10年位前までの高金利時代から、一貫して円高対策として公定歩合の引き下げ、規制緩和の改革が行われてきた。昨年までに、その高金利時代の償還が終了した。
郵便局や銀行に定期で預けておくと、10年にはお金が倍になったのだから。しかし高齢者は何も買うものが無い。金利がほとんどゼロに近くなったのに、再度、郵便局に預けた人が半数以上になるという。お金が貯まっても、ちっとも消費には回ってこないのである。
衣食住の食にだけは、生きるために老いも若きもお金を使わざるを得ない。デパートやスーパーの地下の食料品のフロアーだけは、いつも人であふれている。上の階にいくほど、だんだん人の数は減って、買い物袋も食料品だけ。
上の階では、海外を生産拠点とし、安く高品位な衣料品と銘打ったコーナー、パソコンやゲームを中心とした若者のフロアー、それとレストランや喫茶のような場所だけが若干混雑している。
よく言われているように、お金を持っていても高齢者は買うものがない。今までのライフサイクルから土地を購入して家を建てたり、スペースの広いマンションを購入できる年齢は30代後半から40代であり、しかも20年以上のローンを組んでの一生に一度の大型の買い物なのである。
したがって60を過ぎてから、新しく何かを購入しようと思っても、もう老後のことを考えると、これで満足ということになる。
個人の住環境整備から
先ず個人消費を喚起しようとするならば、土地の価格が安くなった今、大いに一般の消費者も巻き込んだ新都市計画、住みやすい地方都市、もう少し落ち着いた中高年向けのセカンドハウス構想等の波及効果は絶大であろう。
平均寿命が世界一。戦後の廃墟からここまで豊かになったが、この戦後の55年間は今の中高年者ががむしゃらに働き人生を豊かに送る余裕など無かったのである。今こそ政府は不良債権対策、構造改革を的確に押し進めねばならない。従来の内需喚起イコール公共投資から、中高年者が老後の不安を取り除き、豊かに楽しめる仕掛け、中年に差し掛かった人たちも快適に過ごせる住環境整備を政府主導で構築すればいい。住環境が整備されれば、車、家庭電化製品等々、その波及効果は甚大である。携帯電話の安売りで、後は通話料で利益を上げるのとは訳が違う。
日本列島改造の名のもとに、都市機能が全国に拡大し、土地神話、不動産バブルを生んだが、その間に行われてきた公共投資、特に新幹線網と高速道路網の整備は、その後大きな財政赤字を出すことになったが、ここで、全国の土地と交通網を有効に活用するには住宅政策が一番だ。
また景気が停滞し、それに伴ない株価が下がり、各々の企業の資産価値は低下している。預貯金である個人財産も銀行や生保を初めとした機関投資家から、株と債券にまわっているのだから、当然、株価の底ばい状態を放っておくことは出来ない。株の持ち合い解消も株価低下の原因であるが、外人投資家にいいようにやられっぱなしである。
株価を上げる手段として、政府は個人資産の参加を促進する方策を模索しているという。
ドイツは個人を株式市場に呼び込むことに成功したという。その方策は、たとえば、株式購入奨励金制度、株式売却代金課税制度、特に年齢が60歳を過ぎれば、株式売却代金を非課税にするアメリカ方式の導入、源泉分離課税の廃止など色々あるようだが、健全な個人投資家を育てる雰囲気を作らねばならない。日本はその意味では、まだまだ資本主義経済というよりも、社会主義経済である。決して資本主義経済が万能ではないし、これからは21世紀型のシステムを構築されねばならないのだが。
以下は先月号のヨーロッパ視察記続報
耐寿命性指導要項について
耐寿命性の指導要項は1975年に立法として生まれた。一緒に公害廃棄物におけるEU内のマネージメントの評点も出された。2000年9月18日 ポルトガル会議で議決された。2002年3月18日英国でも、そのために法律にしなければいけないことになった。内容的には複雑なので、ホームページ等で調査してほしい。耐寿命性指導要項を一言でいうと、毎年800万~900万トンの車が廃棄されているヨーロッパの規制のことで、英国では、自分で使えない車をわからない様に道路にでも捨てれば、その人の責任ではないという実態をなくすこと。その目的は3つあり、
1.廃棄物の量を減らす→捨て場がない
2.車の中に鉛とか6価クロムが入っているので、そういった危険物質の排除
3.車のリサイクルを進めていく→自動車に使われている原材料のリサイクル
EU15の各国はリサイクルを含め車の寿命を延ばしていくことが、廃棄物を減少し環境に優しくなる。実際には2006年1月1日までに85%のものをリサイクル、残りの80%を取り外して再使用等の再利用をしなければならないし、2015年にはリサイクルを95%、再使用等を85%にしなければならない。また、2003年7月1日までには全ての鉛、6価クロム、カドミは全廃になるとのことであった。
6価クロムと車
車1台、2gの6価クロムの使用量を認めている。6価クロムにおける規制の一番の問題は、クロメート処理にある。車一台に2gということは、使ってはいけないと同じと言える。黄色~黒色までのクロメート処理では6価クロムの含有量は高い。使用している部位はメタル類(鉄板類他)と固定する部位で、車一台に2gとなると実質的には使用禁止である。2003年モデルから6価クロムを使用しないグリーン調達に変えていく計画である。2003年1月1日以降の車には、2g迄は使って良いということだが実際には難しい。1999年にはフォードは2003年モデルから6価のクロメートは使用しないと発表。三菱も使用不可の指導をはじめた。6価の規制は、EUの立法が車以外にも出されている。2008年1月1日より電気製品には全て危険物を使用してはならない。
これらの規制が、サプライヤーに対してどのような影響を与えるのか。コストアップになる。下請は整理されるかもしれないし新しいサプライヤーを探すかもしれない。新しいめっきのプロセスを開発し、供給しなければならなくなるかもしれない。これがプラスとみるかマイナスとみるか。ここがビジネスチャンスとヨーロッパの薬品メーカーは戦略を立てた。地域社会に認められる商品ブランドのロイヤリティを高め、品質の保持もすでに確立されているようだ。