熱狂的なワールドサッカーを終えて

関東学院大学
本間英夫

日本戦、研究室はがらんどう。日本戦、委員会も気がそぞろ。日本戦、家内までもが手を休め。一月にわたる世紀の祭典ワールドサッカーも幕を閉じ、生活のリズムを元に戻すのにはすこし時間がかかった。

 サッカーの試合で折角チャンスであったのに、ミスから相手にボールを取られたときなどコーチは「切り替えて!」という。その切り替えに今回は時間がかかったのである。全くサッカーのルールも醍醐味も知らなかった小生が、6年位前から本学のサッカー部部長として5年間、今年からは顧問として部の面倒を見てきている。

 したがって、今回のワールドサッカーは楽しみであった。夜8時頃からのほとんどの試合はテレビで観戦。さすがに昼間の試合は授業や委員会その他の雑務があるので、日本戦以外は夜のダイジェストで見ることにした。

 さて、日本が決勝リーグに進出すると予測していた人はどれくらいいたのだろうか?

おそらくサッカーを知っている人の多くは、世界強豪チームとの差から厳しい予測をしていた。個人のスキルとチームの組織力、フィジカルとメンタルな面での総合力からみて、世界との差を感じていたはずである。今回はホームでの戦い、また熱狂的な声援の中で持てる力を発揮できたのであろう。

 素人なりにじっくり一人でテレビを観戦することが多かったが、外国選手は身体能力では高さ、重量感、瞬発力、俊敏さ、持続力があり、組織力更には個人のスキルは抜群である。彼らがワールドサッカーに向けてきっちり調整して最高のコンデションでこられると、日本はまだまだの感がある。4年後のドイツでの大会に向けてJリーグをベースにどんどん力をつけて行くことを期待したい。


経済効果は


 それにしても、日本各地の拠点で応援に駆けつけたあの若者のエネルギー、あれだけの若者がどこから集まってきたのかと思うくらい、国立競技場やその他の場所に集合し応援していた。

 学会の委員会に出かけた折、たまたま試合が終わって少し時間がたっていたのであろう、JR山手線にはかなりの若者が、顔にペインティングし青色のユニホーム、ほとんど全く同じいでたち、ほとんど何も持っていない。

 職業柄、即座に経済的な波及効果はどれくらいあったのかと考えてしまう。また外国からの応援に駆けつる団体をあてこんで、ホテルも万全の体制で臨んだようだが、それも不調に終わっているらしい。大会中、新幹線に乗る機会があり、多くの外国からの応援に駆けつけた人たちを目にした。

 新幹線は会期中乗り放題で、均一料金だったようだ。サッカーの観戦だから当たり前のことだが、みんな身軽な服装だ。開催地区の商店やタクシー会社やホテルは、今がチャンスと大分皮算用していたようだが、これも当てが外れたようだ。

 そもそも、サッカーはボール一つで楽しめる庶民のスポーツとして発展してきているので、初めから経済効果をあてこむのではなく、純粋にスポーツの祭典として、世界の民が理解し合えるようになることが大切なのであり、経済波及効果などと邪心を持ってはいけないのだろう。


アメリカの株価5年前に逆戻り


 ITバブル、あの9月11日の忌まわしいテロ事件後につけた株価を下回り、7月3日なんとニューヨークの平均株価は9000ドルを切り5年前に逆戻り。

 日本の株価も10年以上前のバブル絶頂期と比較すると、現在の平均株価は3分の1以下である。今回、アメリカの株価下落の直接要因は、エンロンの不正会計処理にはじまり、今回はワールドコムという情報通信の会社の不正が発覚し、これからも同じようなことが他の企業でも芋ずる式に露呈されてくるのではないかと不安からである。

 日本の株価はアメリカとの連動性が高く、今回は世界市場でも同時株安が進行している。日本では金融機関の不良債権処理が、世界標準としてのBIS規制のもとに、2年位前から進められているが、デフレスパイラルの中では、処理しても処理してもどんどん不良資産が増えつづけている。持合の株も不良化しているとの事で、その額なんと30兆?これがこの1年くらいの間に市場で売られると言う。したがって、このような状態では来春からのペイオフは延期しようとの意見も自民党から出ているとのこと。

 我々素人にはわからないが、経済が右肩上がり成長時には今までとってきた先送り戦略は効をそうした。しかしながら、この10年間、この策は全て裏目に出ているのか税金をつぎ込んでもつぎ込んでも、どうにもならない状況である。あたかも乾いた砂に水を注ぐかのように。アクションが遅いと効果は大きく減殺されてしまう。

 グローバルスタンダードの名のもとに、全てが大きく変革し日本はどのようにこれから対応していくか正念場に来ている。

 エントロピーは常に増大するのであるから、加速的に秩序は低下し混乱度は増大する。ドラッガーが最近著したネクストソサエティー、そこには刺激的な内容が書かれている。歴史が見たことの無い未来が始まる、ビジネスの常識が根底からくつがえると。


本年の就職状況


 企業はこの10年以上に及ぶ血の出るような努力を重ねてきている中で、リストラの名のもとに余剰人員をカットし新規採用も大幅に縮小してきている。

 雇用は社会の安定の根幹をなすものであるが、失業率も5%を超え学生の就職に大きな影響が出てきている。10年位前までは大学さえ出ていれば、どんな学生でも受け入れるとの時代とは隔世の感がある。

 大手企業の多くは、これまではあまり株主を意識しない経営であったが、これもグローバルスタンダードの名のもとに、最近は大きな変化が見られる。そのあおりで、本年の大企業の採用計画はかなり遅くなっているようである。

 学生及び教える我々のサイドからすると、なるべく早く就職を決めて、卒業研究に集中するのがベストである。ところが本年は大変である。企業は人員の削減、即戦力要員の効率的確保、当然新卒にしわ寄せがきてしまう。

 しかも、本年の場合はこのような状況で、インターネットによるエントリーが一般化しており、学生はどんどん自宅からアクセスしているようだ。

 しかしながら、募集人員が少なく、苦戦を強いられているようである。5月連休明けに、ある中小企業の社長から電話を頂き「先生、募集をかけたら45名くらい応募があったのだけど、大学院の学生が半分以上いますよ、それも有名大学ばかりですよ、先生のところの学生さんどうされますか?」

 これは大変なことになったなと、いつもは6月の終わりくらいから、ぼちぼち動けばいいかなと思っていたが少し早めねばと。

 5月の中旬から6月上旬にかけて知り合いの企業、昨年から予約の入っていた企業に電話をして、今年は6月の中旬までに全員の就職を決めることが出来た。全員決まった後も、大手や中小の幾つかの企業から連絡があり、今年の採用計画がやっと決まったので学生を紹介してくれという。

 今日は7月3日であるが、昨日までそのような会社が10社以上あった。うれしい悲鳴である。きちっと実情を話し、来春はよろしくと、お伝えしておいた。

 採用の仕方も、最近は大学の名前よりも研究室を選んでくれているようであり、即戦力の人材を確保する傾向が強くなってきた。

 先月号に書いた表面工学研究所が少し遅れているが、やっと実験台、実験器具、備品がそろった。本格的に学生ともども、フレッシュな感覚で、産業界において十分通用する能力を持てるよう、表面工学の幅広いテーマーと先駆的なテーマーにも取り組む。

 研究所の実質的な研究開始が少し遅れた理由は、現在の社会情勢を反映しているが、設備投資が大きく減退しており、注文しても在庫の無いものが多く、それが律速となってしまった。