年頭所感

関東学院大学
本間 英夫

新年明けましておめでとうございます。本年

も宜しくお願い致します。

昨年後半から、景気回復の兆しを示す指標が上向いてきているようですが、それを実感している人はそれほど多くはないと思います。基本的には人件費の抑制を始めとしたジョブレスからジョブロスによる景気回復とまで揶揄されているのが現実ではないでしょうか。

表面処理関連分野に携わっておられる方々にとっても、なかなか先が予測できない混沌とした状況が続いていると、悲観的にお考えの方が多いと存じます。しかも、これからの少子高齢化、国および地方レベルでの財政の悪化により、社会の構造改革、システムの変革が強く求められてきております。この「変革の時代」の到来に対していずれの分野においても、的確、機敏な変革が求められています。変革のときを反映し、年初めのテレビドラマは勝海舟に代表される明治維新物でした。

変革のときこそ新しいビジネスのチャンスがあります。これまでも事あるごとにピンチをチェンジのチャンスと熱く語ってまいりました。この変革期を乗り越えるために各企業は、時代の先を見据え、高い技術力、情熱と勇気を持って行動されることが望まれます。

エレクトロニクスを始めとしてナノテク、バイオからビル、橋梁のような大型の建造物に至るまでめっきがキーテクノロジーになってきております。最近、一般の方にめっきをわかりやすく説明するために髪の毛(平均100ミクロン)の更に千分の一の極めて細いところにまで電気めっきが使われているのですよと、半導体のダマシンプロセスを説明しています。

また、川柳調に「ハイテックめっきがなければローテック」と、めっきの重要性を訴えてきております。

このようにめっきを中心とした表面技術は、ますます産業界の中で、重要な役割を担ってきていることを我々はもっと認識し、自信を持って表面技術を生かしていかねばなりません。

日本の技術力は、近年アジア諸国に追いつかれ、さらには追い越されるのではないかと危惧されております。

今後はこれまで以上に表面処理関連団体が緊密に連携をとり、技術に取り組んでいかねばなりません。

ぜひとも各企業におかれましては、高い技術力を構築する為に積極的に産学官の連携、さらには各企業間で活性化につなげる競争と協調が肝要かと存じます。

以上が表面技術協会の代表として書いた年頭所感に少し手を加えたものである。

ジョブレスからジョブロス

今年で私は62歳になるが、OB会の住所録の勤務先欄にサンデー毎日??と記入する友人が増えてきた。企業における定年は多くは60歳、一昔前の60歳と違って元気で活気にあふれている。経験も豊富だし発想も豊か。中には会社の役員、子会社の役員、技術嘱託として活躍しているものもいるが、多くの友人は企業のルールで去らざるを得ない。

2、3の友人の話によると、これからは生活にゆとりを持った第2の人生、毎日何の拘束もなく楽しく送れるぞ!と老後の人生設計をしたとの事。しかし、1ヶ月くらいは朝起きるときに今までの習慣で「あーいけねー!会社に遅れる」と一瞬ひゃっとしたことが度々であったとの事。毎日庭いじりをしたり、色んな趣味にとあちこち出かけたが、ところが3ヶ月もするとまったく充実感がなくなり、生活に疲れさえ感ずるようになったとの事。収入が年金だけになり、退職金もあっという間に目減りしていくものだよと、聞いているとわびしくなってくる。

特に我々のように幼児期は何もなかった戦後、ほとんどみんなが貧乏であった戦後、水っぽくまったく甘みのない配給のサツマイモを食べた戦後、麦の入った弁当でお互い恥ずかしくて隠しながら食事した小学校時代、DDTを頭から散布された小学生時代、給食で出てきたコッペパンの硬い耳の部分だけがおいしく感じ、後はこっそり捨てた小学校時代、脱脂粉乳がまずく全て洗面所に廃棄した小学校時代、その後の池田首相による所得倍増計画が出された中学校時代。

話は拡散するのでこれくらいにするが、それからの日本の工業化は目覚しいものがある。オリンピックの年またはその翌年に我々の同期は大学を卒業した。 みんな同じように、何もなかった時代から立ち上がってきているいわゆる第一次ベビーブーマーの走りである。

それから三十数年、ほとんどの同僚は、企業の戦士として各領域でがむしゃらに働いてきた。趣味を持たないというよりも、持てなかった時代である。人生設計などするゆとりがなかった。それが60をすぎて何もすることがなくなった空虚さ、真剣にもう空っぽだよと嘆いている同僚達なのだ。

がむしゃらに生きてきた我々世代にとって、老後の人生を充実して送る人は一部を除いて数少ないのが現状である。彼らの多くは多趣味ではなかったし生きがいが仕事であった。したがって、おのおのの領域でまだまだ、能力があるはずだ。長い経験に基づいて培かわれてきた技術をグローバル化しているからとアジア諸国を初め、外国にもって行くのも致し方ないが、国内で何とかして次の世代に伝承できる体制を、企業においても国レベルでも地方レベルでも真剣に考える時期に来ている。

また、この数年、特にエレクトロニクス産業界をはじめとして、ほとんど全ての産業領域で大幅な人員整理が行われた。大学を卒業するときは大企業の技術職に採用され本人は勿論、先生も親も大喜びであった。

これで自分の一生は安泰と、毎日仕事に精を出し20代後半から30代前半で結婚し、家庭を持ちそろそろアパート暮らしから、一軒家またはマンションと、退職までのローンを組み、思い切って多額の借金をして購入している。

それが10数年前にバブルが潰え、さらには製造業の海外シフトでリストラ。いったい自分の人生はなんだったのだろうかと悲嘆にくれる人も多い。新規の採用に関しても、製造業においては、このようにジョブレス(雇用低下)から明るさは見えてこない。

さらには、きわめて悲観的になってしまうが、コンピューターの急速な発展により、従来必要とされた技能者および技術者の領域は、一部の特殊の領域を除いてコンピューターを駆使したデジタル技術に取って代わってきている。各種の設計を見てわかるように、今ではほとんどがCAD,CAM、バーチャルエンジニアリングに置き換わってきている。

日本が得意としてきた金型や工作機械産業も、最近ではデジタル技術によって韓国、東南アジアで作れるようになってきている。しかも、アメリカ的な経営が導入され、従業員よりも株主のほうに目が向くようになってきており、短期的な視野にたち利益を上げる必要から、手っ取り早く即効性のある人件費の抑制や率先して日本から海外へのシフトを推進してきている。

これは、今までの日本的な経営のよさが大きく失われてきているように思える。

デジタル技術はこれからの産業のキーになり、ますます駆使されるようになるため、コンピューターを駆使したソフト技術がこれからの産業の担い手になると、ハードからソフトに転換した企業が多い。

しかもソフト開発はインターネットを介してどこでもやれるので、アメリカの企業では、もともと数学に強くソフトのセンスがあるインド人に開発を委ね、しかも拠点をインドに移している。

このようにどの領域をとっても、このままでは、日本からはますますジョブロス(雇用喪失)が起こることになる。実際、昨年12月上旬の新聞でも報道されたように、この春卒業する大学生の就職率は60%程度、各大学では90%以上の就職率とパンフには載せているがデーターにはフリーターや無職者などは載せていない場合が多い。

年頭から悲観的な話になってしまったが、まさにこのような社会構造の大きな変革期にあっては、さらに高度な技術者の必要性が高くなってきている。

これからは、大学は入り口よりも出口で評価されるようになるであろう。即戦力になると同時に発想性の豊かな高度な技術者の養成を目指して今年も教育と研究に邁進したい。