特許論争

関東学院大学
本間 英夫

世界で初めて開発された青色発光ダイオード(LED)に関する中村氏の訴訟で、東京地裁は開発当時勤めていた日亜化学工業に対して、二百億円を支払うよう命じた。この判決に対する技術者や研究者の反応は、おおむね歓迎とその後の新聞は報じた。

一方、技術開発型の企業にとって、このように大幅な特許権の対価を支払うよう命じた判決は、これからの技術者の処遇に大きな問題を投げかけた。

このニュースが報道された翌日、輪講会のときに大学院の学生10人にコメントを求めた。実はケーススタディと称して輪講会を始める前に、話題性のあるテーマについて学生と事あるごとに論議している。学生は、修士論文の仕上げの時期であったので、夜遅くまで研究室で論文をまとめていた。何人かは夜11時過ぎのニュースで内容を知っていた。他の学生にも、事実経過のみ説明し彼らのコメントを聞くことにした。

今の学生はドライだから発明者の権利として当然と受け取る比率が高いのではないか。みんなからのコメントを聞いてから最後に本件に関しては、批判的なコメントをすればいいと思っていた。 

ところが、10人中1人だけ(マスター1年)が発明者の権利として当然ですと答えた。後の9人(マスター1年2名、2年5名、ドクター2名)は行き過ぎではないか。研究者として、もうすこし純粋であるべきだ。みんなの協力で研究は進められているのにと否定的であった。

おそらく毎年、数件の特許を研究室で申請しているし、その際、何故特許をとるのか、これまで研究室で申請したのは、その技術の権利を守るいわば防衛的な手段であること、これまで数十件申請しているが、その中の二件は産業界で大きく利用されロイヤリティーが入ったこと、そのほとんどを大学に寄付したこと、本学は特許に対して積極的に推進する考えがなかったので、委託を受けた企業とタイアップして申請してきた経緯、一昨年研究所を設立したので、今まで個人名で申請してきた特許を全て研究所名義に書き換えを終えたなど、彼らに語っていたので以上のような結果になったのであろう。

今回のニュースが報道される前から、国内の企業や研究機関は、既に知的財産の重要性を認識し、特許使用料の配分をめぐるルール作りが進められてきていた。

しかし、この裁判の結果は大きな波紋を投げかけた。

経済同友会の代表幹事は記者会見で、会社側に二百億円の支払いを命じた訴訟について日本の研究開発の空洞化をもたらすと懸念を表明している。
 発明の対価については給与が保証されて研究しているのであるから、報奨金は通常数百万円、国際競争力を念頭に考えるべきだし、また製品化や販売に至るまで、いろいろな人の努力があって利益が出るのであり今回の判決は問題を多く残す結果となった。

これまでは、特許発明人にはほんのお涙金しか支払われていなかったのは事実だ。しかしながら、企業や研究機関によって異なるが、ここ数年の間に見直され、ライセンスの供与につながれば一千万円程度、中には一億以上の報酬を定めるようになってきた。しかし、今回の判決の二百億円という額はあまりにも巨額であり、報道機関のインタビューで「日本の技術者を力づける、満足している、今回のことで、将来を担う子供に夢を与えた」とコメントしていたが金儲けが、夢を与えることにはつながらない。理工離れの中で純粋にもっと研究の楽しさを伝えてもらいたかった。

 国立大学では、今年四月の独立行政法人化に伴い、発明者と特許使用料収入をどう配分するかなどのルールを作成中であり、特許の帰属先が発明者個人から各大学に移り、あいまいだった大学の知的財産の取り扱いで発明者の権利も明確になる。その際、研究者の意欲をそがないように考慮がなされている。 

 大学の研究成果に関しては、産業界に橋渡しするTLOを介し、特許出願などの経費を除いた収入の配分として大学教官、大学、TLO機構にそれぞれ均等に配分するのが一般的のようだ。

4月の国立大法人化を前に、知的財産の取得や有効活用についての独自規定をつくりつつあるが、京都大学では、教員らが取得する特許にたいして、発明者には収入の最大70%を配分することなどを盛り込んだ法人化後の「知的財産ポリシー」をまとめた。

このように京大では個人の取り分を大幅にアップさせ、これをインセンティブに積極的な出願を期待していると話している。お金だけが技術者のインセンティブになるわけではないし、本来の特許の意味をもうすこし多角的に理解しておかねばない。

先に述べたように、各企業では既に発明者を優遇すべく報奨金制度に関して見直しがなされており、特許の出願、登録時や、開発技術を採用した製品の売り上げに応じて一定額を支払うものが多い。

一例を挙げれば、特許出願で一万円、登録で五万円、売り上げに応じて報奨金を設定し、上限を数百万円から一億円くらいに設定している。我々の研究所でも発明者にどのように処遇するか、議論を始めている。

今回の報道を契機に、今一度技術立国としての日本を見つめ直すべきではないだろうか。そして技術者に対し正当な評価がなされ、待遇改善につながればと願っている。

増加するハイリスク・ハイリターン企業 

 ハイリスク・ハイリターン、それなりのリスクをとらなければ、大きな利益は得られない。

逆にローリスク・ローリターン、リスクを限定的にすれば、利益は大幅に減少する。

2月から3月にかけて各企業の決算報告がなされたが、売上増加よりも経費節減、特に人減らし、いわば、ローリスク・ローリターンで増益となった企業が多い。

 しかし、デジタル景気、中国市場の拡大などから、大型設備投資に踏み切るハイテク企業が目立ち始めた。また海運業界も輸送力増強に動き出した。さらには、大手スーパーの新規出店計画は昨年比50%増と、これまでのローリスク・ローリターンから、積極策・成長路線に転換する企業が増加してきている。

 政府の経済報告で、3年ぶりに「景気回復」という文言が盛り込まれ、景気の回復は今度こそ本物と強気の企業が増えてきている。これまで十数年の間で、景気の回復基調にありながら何度か腰折れている。

たとえば消費税引き上げ時期の判断ミス、ITで活況を呈したと見ての各社の積極設備投資、その後のITバブル、さらにはイラク問題の長期化、SARS、BSE、鳥インフルエンザなど不安定要素があるが、今度こそ本格的な景気回復さらには安定成長になることを願う。

滅私奉公タイプ

先月15日の新聞にメニエール病に関しての記事が出ていた。たまには健康問題にも着目し要約して、さらに自分の体験談も付記する。 

性格や日常生活などについてアンケート調査の結果、他人の期待に沿いたい一心で徹底的に仕事に打ち込み、嫌なことも我慢する滅私奉公タイプの人は、めまいや難聴を起こす「メニエール病」になりやすいことが分かった。「親や上司の期待に沿うよう努める」「嫌なことも我慢する」「他人の自分に対する評価がストレスになっている」「1度に2つのことをしようとする」「仕事その他に熱中しやすい」など物事に徹底的に取り組み、心を休める時間が少ない人にこの病気が多い。

メニエール病の原因は不明だが、自分だけの自由な時間を持つことが大切のようだ。

小生も今から15年位前の40代後半から50台の前半にかけて耳鳴りがひどく、毎晩のようにめまいに悩まされた。病院に通ったがあまり復調の兆しも見られなかった。初め、耳鳴りはニイニイ蝉だったが、その後、油蝉に変わり、車を運転していてもエンジン音がしているのに耳鳴りが聞こえるくらいのときもあった。

めまいのほうは、天井がぐるぐる廻り、何でこんな症状が起きるのか家庭医学書を恐る恐る調べたものだ。一時は睡眠不足でノイローゼ状態であったのであろう、それが学生にも気づかれるほどひどかった。

それがいつの間にか、まったく症状が現れなくなった。おそらく、どちらかというと何事もプラス思考、悪く言えばノー天気なので自然治癒したのであろう。だが、還暦を過ぎシニアの年代に入ったので、これから少しは健康管理をしなければならないと思うが、ついつい忙しさにかまけて不摂生な生活になりがちだ。