即戦力の確保

関東学院大学
本間 英夫

 長引く不況、それに伴う就職難から、資格や技術を持たねばと専門学校へ進む人が増えている。特に介護や医療などの分野は人気が高い。

文部科学省の学校基本調査によると、昨年度の新規高卒者の専門学校への進学率は過去最高の18・9%。5年前に比べ2・5ポイント増で、進学者が減少している短大や横ばい気味の大学に対し、増加傾向にある。 最近は大学を卒業した人たちの学び直す場にもなっている。なぜならば、大卒ではもはや企業は魅力を感じないからである。ほとんどの大学では即戦力となる職業人の養成を目的とせず、幅広い教養と見識を持ち、その上にたった高度技術者を育てるとされてきた。

しかし、現実は3年間遊びほうけて4年生になってはじめて目覚めるようでは、ほとんど基礎力がつかない。さらには最近の就職難から、数ヶ月から、中には丸々1年間リクルート活動のみになる学生が、かなり増えてきているようである。

そろそろ本年度も2ヶ月が経過するが、ある企業の技術面接の担当者に聞いてみると、インターネットを通して応募者が殺到しているとの事。1万人の応募があれば、先ずその時点で上位10%に絞りこむ。それから説明会、人事面接、専門面接を経て、最後に役員面接、それでやっと仮内定にこぎつける。したがって4年生はリクルート活動が中心にならざるを得ない。一般的なこのような傾向の中で、この種の非効率的なリクルート活動をやめても、就職できる環境を構築してきたつもりである。

中村先生の後を継ぎ、実務的な職業人の卵を養成することに私自身は一心不乱に注力してきた。 

これは多くの先生からは批判的に捉えられていたのである。卒業前に実務的なエレクトロニクスや表面技術の学会で発表させることに関しても、学会は卒研の発表の場ではないと誹謗され、研究内容に関しても「のこぎりの目立てをするようなのは研究ではないよ」と釘をさされる。かといって、この種の先生方は高度な研究をしているかと思えばそうでもなく、学生の出来が悪いと嘆く。したがって、研究以外の講義にも熱が入らないのか、入れようにもその策がわからないのか、先生のやる気はどんどん失せる。その結果、学生は講義もろくに聞かず、かなりノイズの多い教室もあるようだ。

私自身は本学の卒業生であり、少しでも彼らの力を伸ばしてやりたい。教室は今までうるさかったことはない。うるさくなるような兆候が見えれば、それはこちらの講義の仕方が悪いのであり、即座に軌道修正をかけるようにする。結論的に言うと、現在卒研生には1年間研究を通して人間教育の場を提供している。

先ず、電話の応対の出来ない学生には、強制的に電話係りにする。字の下手な学生には、連絡用のホワイトボードの記録係になってもらう。これまでの3年間、彼らの自由というか怠けた生活態度を正しいリズムに仕向けていく。大学院の先輩を交えて実験の中身を論議し、月一度の進捗報告会で発表力、表現力を鍛えていく。

また、いつもこのシリーズに書いているように、彼らの英語力は高校時代から大きく低下しているので、毎朝9時半から輪講会を習慣づけている。今年度からは少し照れくさいが、英語で論文を解説し、考えを述べるようにしている。彼らの多くは、ちっともわからないだろうが、そのうちにやる気が出てくるであろう。今年はこの5月に中国、9月にギリシャとハワイで学会があり、中国で3名、ギリシャで5名、ハワイで7名、英語で発表することになっている(小生が強制したわけではなく彼らが自主的に発表したいという。但しドクターコースの学生は強制しているが)。このように研究を中心とした生活を通して、彼らが大きく育つ一歩になってくれればと思っている。この種の研究教育の実践に理解を示してくれている企業が少しずつ増えてきている。したがって、学生が選り好みをしなければ即座にどこかに決まるのだが。しかしながら、世の中に出る一番大切な選択なので、昔のように君はここに行きなさいと命令は出来ない。 

企業のほうは不景気で新卒を自社教育する余裕はなく、即戦力を求めるようになってきている。

他の先生方もこの現実を直視してもらいたい。わが研究室は、色々批判の声もあるようだが、これまで培ってきた職業教育のノウハウが研究室の強みだ。これを生かし、中堅から、高度な職業人を送り出して行けるよう卒研生および大学院生を指導する。

専門学校の台頭

 先にも述べたように、大学は出たけれど、と大卒の就職率が大幅に低下している中で、それならば大学に行かずに専門学校へと最近は進路を決める高校生も多いようだ。

専門学校は学校教育法に定められており、都道府県知事などが設置認可を行う。2003年5月1日現在、全国に国公私立合わせて約2900校。約68万人が学んでいる。

これまで大学は専門学校との違いを意識して、職業教育をおろそかにしてきた。我々の大学でも高度の技術者の養成は大学院にシフトしている。製造業のキーを担う人材の養成には、益々高度の職業教育、専門教育が必要である。現状では本学においては大学院への進学率が低いので、これまでのカリキュラムを大幅に見直し、3年生から高度な職業教育を徹底的に指導したほうが良いのではないだろうか。しかも、卒研を3年のときから携わらせるのも一案である。但し、多少きつい言い方になるが、教育の美名の下に、学生を小間使いのように扱ってきていた先生方の意識の変革が、先ず必要である。学生の将来を考え、また自らも産業界との連携をとるように心がけニーズを知りシースを探求する。

学生を受け入れるインプットだけに注力するのではなく、アウトプットに対してこれまでのような就職科の窓口だけに依存させる体質から抜け出て、自ら営業マンになり、自ら経営者になったつもりで対処しないとジリ貧だ。同じような危機感が法科大学院にも当てはまる。

本年からスタートした法科大学院にも受験者が殺到し、競争率はいずれの大学も十倍以上。これまでの大学の入学試験では、歩留まりを考慮して合格者を出しているので、実質倍率はかなり低下する。しかし、今回の法科大学院の入試では合格者を出した後の手続きが低くて定員を満たさなくても、いずれの大学も追加合格を出さなかったようだ。彼らは2年間または3年間後に司法試験を受験する。したがって、その合格率で大学院の評価が決まる。各大学とも赤字覚悟で学生を厳選したわけだ。

技術系の45%はやる気減退 
 成果主義賃金の導入や人員削減が進む中、技術立国日本を支える技術系社員の45%が、3年前に比べて仕事へのモチベーションが下がったと伝えている。これは昨年12月、全国のメーカーなどに勤務する正社員のエンジニアを対象に実施されたもので、仕事へのやる気は「かなり下がった」が13%、「多少下がった」が32%で、両方で半数近くに上った。一方「かなり上がった」「多少上がった」は合わせて29%にとどまったとのこと。
 やる気低下は、職場の人間関係の悪化、事業戦略の閉塞(へいそく)感、評価・待遇に対する不満などが主な原因。以上ヤフーのHPから引用。技術者の約半数がやる気がないとは嘆かわしい。この10数年間多くの企業ではトップダウンで思い切った改革が進められてきた。これからはまさにボトムアップの改善を始めねばならない。経営者はその環境を構築することが急務である。