代わり映えしない就職活動

関東学院大学
本間 英夫

厚生労働省の調査によると、1995年以降、大学卒業者の3割以上が最初の就職先を3年以内に辞めているという。この間、日本の経済環境は停滞期に入っており最近では大卒の就職率は70%を切っている。

したがって学卒者が最初に就職した企業に定着しているのは50%くらいになる。残る学生の多くはフリーターや派遣社員、進路変更と専門学校に入りなおす。

このような状況下では価値観は多様化したと言われているが、若者の多くは将来に対する夢はなく、どんどん所得格差は広がり、精神的にも安定した生活が送れないような状況になってきている。

さらには少子化、高齢化、核家族化、これまでの世代間を共有した家庭教育的な伝承もほとんどなくなりつつある。したがって身勝手で、自己保身的で、他人に対する配慮がない若者が増加してきているように思える。

さて、5月下旬、大手企業における本年度の実質的な就職試験もそろそろ終わりとか。学生がやっと卒研に入り、やっとその研究の目的を把握できるとき、また文科系ではゼミが始まったばかりのときに、学生がリクルート活動とHPを開いてエントリー。その後、会社説明会には多くの学生が繰り出し、個々の企業の人事または総務の指示により、いくつかのステップを踏む。その段階で多くの学生はふるい落とされ、最後の人事面接までに残る学生はほんの一握り。

おそらく1ヶ月くらい拘束されるのではないだろうか。学生も必死でいくつかの企業を掛け持ち受験せねばならない。したがって、いわゆる面接受けがよく、成績がよく、一流といわれる大学の学生は、複数の企業からほぼ内定と役員の最終面接まで残ることになる。

そして「本当にわが社に来てくれるのですか」ということになる。例年のように30社も40社もHPを開いてエントリーするという。合格する学生は3から4の複数企業に合格し、合格しない学生は逆に何十社も受験し1年間は受験に明け暮れる者もいるようだ。次代を担う学生の実態がこれでは、大きな教育問題であり社会問題であるがそれほど大きく取り上げられていない。

昨年もこのシリーズで同じことを言ったが、本年も採用方法に改善が認められず、相変わらず学生の取り合い。学生もその間はまったく自分を磨く時間はなく、どんどん彼らのポテンシャルは低下することになる。多くの先生方はお手上げのようだ。

こんなやり方で、しかも採用した学生の3割以上が3年以内に辞めてしまうこの現状を、社会現象とあきらめてしまっているとすれば大きな問題である。

生産現場では血眼になって歩留まりを上げ、工程を改善して生産効率を上げ、また事務の合理化を進めている割には、新入社員を養成し、これからまさに一人前の社員として活躍してもらおうというときに、バタバタ辞められるようでは企業の将来計画に大きな痛手である。経営者および人事関連担当者はこれまでの採用方式を見直す時期に来ていることを認識すべきである。

この種の社会現象をただ現象として捉えるのではなく、国、地方自治体、教育界、経団連や商工会議所などが真剣に考える必要がある。しかし、それには時間もかかり、待ったなしの状況から我々の領域だけでも現状を打破する方策が必要である。

魅力作りの方策は?

リクルート活動に関して上記のように変革期に来ていると述べたが、それでは我々の研究室の就職状況はどうなのか。

そこで労働省の今回の調査に対応して1995年以降、我々の研究室を巣立っていった、約50名の学生について調べてみた。3年以内に最初の就職先を辞めたのは3名で、定着率は極めて高い。これまで中村先生の後を継ぎ、35年以上経過したがその間に公募ではなく、企業と話し合い就職した卒業生は300名くらいになる。これらの卒業生のほとんどは、表面処理を中心とした材料化学関連の領域で活躍している。 

このシリーズでも何度も取り上げているが、近年、産学連携が大きく叫ばれている。産業界と技術的に連繋すれば、学生も自分が手がけている研究の目的、意義を理解し、単位を修得するためだけの受身的な態度から、積極的な研究姿勢へと意識は大きく変わるであろう。

昨今の産業界からの高度技術者の要請から、工科系学科ではいずれの大学においても、学部生4年間、大学院生2年間の6年間一貫教育になりつつある。昨年4月、独立法人化した国立大学を始めとして、いわゆる有名私立大学では、ほとんどが学部から大学院の博士前期課程(マスター課程)に進むようになってきた。

したがって、ここ数年の間に企業の募集条件が大きく大学院修了者に変わってきている。ちなみに、我々の関連業界のケミカルサプライヤー数社の人事担当者の話によると、昨年はほとんどがマスター修了者であり、学卒者はというと教授からの推薦のみという。

また多くの製造工場でもマスター修了者は3割から5割に達しているようだ。大手企業はかなり以前から営業職や事務職以外は、ほとんどがマスター修了者になっている。

したがって、我々の大学でもマスターまで進学させるようにすべきであると、先生方には説いているのであるが、マスターまで進むのは化学関連学科および建築関連学科で25%程度、その他の学科では20%に満たない。これでいいと判断するのであれば、本学の学卒者はほかの大学とは違った魅力(付加価値?) をつける努力をしない限り、工学部として生きていけず淘汰されていくだろう。

卒業生からのコメント

毎回取り上げたテーマーに沿って小生の考えや思いを述べた、このシリーズも長年続けてきたが、ありがたいことに毎回多数の方々が読み、それについての感想のメールを送ってくれる。

そこで今回はその一部を拝借し、卒業生のコメントとして掲載させていただいた。

『ところで、HP上の雑感シリーズ読みました。特に、今月(4月号)のコメントは共感 する事が多々ありました。特に、私がマスターの頃も、既に、3年も浪人していたので、学部生の考えは少し違うな~と思いましたが、最近は特にそれが、加速度的に進行している様に思います。

今年からテクニカルセンター勤務になって、何回か会社見学の学生さんにショールームの説明を行う役が回ってきてしまいました。(でも、これは結構勉強になるのですよ…)

その態度も、聞く態度ができていない学生が多い気がします。入社後も、そのような社員が多い気がします。これは、逆を言えば、我々、入社10年目程度の社員が、そのような後輩をみても、見て見ぬふりになっているのではないかと反省しています。また、先日も少々、ある飲み会で話しがあがりましたが、これはメールの普及(隣の席にいても、メールで連絡する、コミュニュケーションがはかれない人物が増えている感じです。

本間先生のコメントを読ませていただき、私自身、どきっとすることや、反省すべき点が多々あり、有り難うございました。』