踊り場を脱した日本経済

関東学院大学
本間 英夫

8月上旬、4年ぶりに日経平均株価が高値を更新した。先日、雑感シリーズの読者の一人から「たまには以前のように、ちょっと砕けた内容の読み物も頼みますよ。株に関する雑感面白かったですよ」との感想をいただいたので、株について少し取り上げることにした。

このシリーズで5年位前に、財産管理に関して自分なりの考えを記したことがある。金利が低下しているから銀行に預けても利子がお涙金、それならば自分で直接投資をするのが得策と。

さて、高度成長期(89年12月)につけた3万8千円のダウ平均が、バブルが潰えて7千円台(2001年4月)までに下がったときは、株には手を出すものではないと一般投資家も数が減り、ましてや新規に投資をしようとする人は変わり者扱いされていた。

実際、ダウで5分の一近くに売りたたかれたのだから、株を売買しないで塩漬けにしていた場合は、平均すると資産が5分の一になったことになる。中にはこれからIT時代到来とソフトバンクやNTTを集中して高値で購入していた人にとっては、さらに資産を減らしたことになる。当時はもう株式欄を見るのがイヤになって、気持ちがすさんでいた人も多かった。健康にも良くなかった。しかも、そのような状態が長く続いたから、なかなか株式投資を話題にすることも出来なかった。

ところが、金融機関の不良債権処理を初めとして、多くの企業で思い切ったリストラを始め、整理統合が進められ、血のにじむような努力を重ねた結果、企業の体質も健全になりつつある。日本株は低位に放置されており海外投資家からは魅力があるようだ。

やっと日本経済も踊り場を抜け出したと政府、日銀ともに8月上旬に一致した見解を発表した。しかしゼロ金利は依然として続いており、しかも銀行は何度も再編、銀行がつぶれた場合はペイオフで全額保証から定期貯金の1000万円しか保証されない制度になった。日本では、貯蓄することが美学のように言われてきたので、それでも一般の人は銀行や郵便貯金とせっせと貯蓄している。しかも今後の少子高齢化に伴い、年金に関しても不安材料が多く、老後の不安から貯蓄せざるを得ない。

健全な投資を

個人の貯蓄総額は1500兆とも言われているが、昨年あたりから証券会社が個人投資家を獲得する動きが出てきている。

たまたま、ある会社のSOを行使し新株が郵送されてきたので、何年ぶりかで証券会社の窓口に出かけた。証券会社の窓口のイメージは、主要企業の株価が大きなボードに示されており、そこには数人の年配の男性が食い入るように見つめている。そして、中年から年老いた女性が窓口の若い女性と相談しているような、これまでの証券会社の窓口風景は、だいたいどこも同じで、あの雰囲気にはどうもついていけず、よっぽどのことがない限り窓口には出かけなかった。

しかしながら、雰囲気はまったく一変していた。クライアント用にいくつかのブースが作られて照明、フロアー、そのほか雰囲気がまるで違い、一人一人に綿密に対応しているようであった。サービスを向上させ、高額貯蓄者をターゲットに、個人投資家の獲得に注力する戦略が、主要証券会社で進められているようだ。果たしてこれが成功するか、中高年の資産を持っている人に狙いが定められているようだが。

プッシュホーンが世の中に出て、しばらくして電話回線で注文が出せるようになって、もう20年くらいになるが、そのシステムを利用していた人は限られていた。最近はインターネットを介してのイートレードによる取引が一般的になり、いちいち証券会社を介して注文を出さなくても、パソコンおよび携帯電話からも注文が出せるし、そのほうが手数料も安く煩雑さがなくなり便利になった。

デイトレーダーと称して、退職した人、会社を辞めた人が毎日パソコンの前で首っ丈になり、一日のうちに何度も売買するという。

テレビでもこの種の内容が報道されたこともあるが、ギャンブル的でゲーム感覚。これまで蓄積してきた自分の財産を投じて、没頭している姿を想像すると幻滅を感じてしまう。それでも最近は、そのような人が増えているというから、毎日がお金お金で、それこそ日々の生活には充実感があるのか、守銭奴というか欲望に凝り固まった醜い人間の一面が見えてくる。

若い頃に、数百万円を親からせびるとか、アルバイトで稼いで、それを資金にして投資の訓練が出来ていれば、自分なりの投資のスタンスが出来上がってくるものだ。

株式投資はあくまでも「投資」で「投機」ではなく、経済情勢、技術動向を知りながら長期投資のスタンスで臨み、大きく下げたときに買いを入れ、大きく上がったときに一部を売るようにすれば、ほとんどリスクはないはずであり、これが個人投資家として一番健全な姿ではないのだろうか。

景気は上向く

大企業の3分の2が今年度後半に景気はさらに上向き、過半数の企業が自社の業績も良くなると見込んでいることが、主要企業のアンケートでわかったという。政府は8月9日、景気の「踊り場」脱却を宣言したが、企業も景気の先行きに自信が出てきているようだ。ただし、郵政民営化法案の参院否決で急きょ総選挙が実施され、政治の空白が景気に悪影響を与えることを懸念する声もあるが、一時的には影響するかもしれないが、実態がよけなれば問題はないであろう。
 景気の現状については「緩やかに回復している」との回答が、「横ばいの状況」の2倍に上った。05年度後半の景気見通しについても「今より良くなる」が、「変わらない」を大きく上回っており景気の先行きに対する企業の見方が大きく改善している。
 特に製造業では「良くなる」とした企業が7割近くに達し、設備投資を増やす動きも顕著で、輸出が好調な自動車産業や、需要が急増している鉄鋼などの素材産業で回復感が強まっている。景気を表すのにガイ、トウ、ショウ、コウという言葉がある。すなわち、外需→設備投資→消費→公共事業、このサイクルで景気が循環するという。今まさに踊り場を脱却しその循環のスタートラインについたのか。原油価格の高騰、それに伴う素材価格の上昇が、今後の企業業績を圧迫する懸念材料であるが、衆院解散・総選挙の結果とあいまって景気に与える影響は?

空の不祥事

日航機墜落事故から20年を迎えたまさにその8月12日に、離陸直後のJAL便、エンジンから火が噴きだし、急きょ空港に引き返した。乗員13人、乗客216人にけがはなかったが、空港近くの住宅地に同機の部品とみられる数百個の金属片が落下。国土交通省は対策本部を設置し、調査を開始した。
 日本航空によると、エンジン排気口から、金属片が見つかり、エンジン内にあるコンプレッサーブレードかタービンブレードの破片とみられ、破損して落下したと報告している。離陸前の目視による点検では、異常はなかったというが、テレビの画面に映し出されたエンジンからのズドーンと赤い火が噴出した状態を見ていると、あれでよく大惨事にならなかったものだと胸をなでおろす。相次ぐ空の不祥事。絶対におきてはならないような不祥事が続いている。利益が出る体質を急ぐ余り、効率追求、コスト削減、子会社化、安全対策までが人員削減、コスト削減、効率追求に曝され、細心の整備、点検がなされていなかったのではないだろうか。

愛社精神の欠落、担当業務の無責任、特にエンジニアリング部門において、技能者、技術者の誇りと自信がもてないような状況が根底にあるとすれば、この種の空の事故は勿論のこと、車のメーカーに見られた事故、食品メーカーの改ざんを初めとしてその後に続いた事故、放射性物質取り扱い事故、プラントの爆発事故、その他もろもろの事故は続くだろう。JRの事故も元をただせば効率追求、安全管理体制の不徹底に起因していたのであろう。団塊世代の大量退職時代を迎え、如何に技能、技術を次の世代に伝承していくかまさに大問題である。特に若い世代は責任感が欠落しているし、マニュアルどおりのことしか出来ないとか、応用が利かないとか、中には無気力でいわゆるニートといわれる若者が60万人以上いるとか、若者に対して余りプラスのコメントは聞かない。

ここ数年、時間が許す限り、学生と朝から晩まで付き合うようにし、人間教育に努めている。幸い社会人ドクターからマスター、学部生まで年齢構成は22歳から35,6歳、さらにはスタッフが40過ぎ、小岩先生が40歳後半、小生が60代。いろんな話題、学生の意識付けには教員が一人で当たっているわけではないので、この三十数名からなる小集団は教育と研究の理想的な単位ではないかと自負している。