日本の人口、自然減が確定

関東学院大学
本間英夫

厚生労働省は2005年人口動態統計(確定数)を発表した。

出生数と死亡数の差である人口の自然増加数はマイナス2万1266人となり、明治32年の人口動態統計開始以来、初の人口自然減に転じたことになる。
 2005年の出生数は106万2530人と前年比4万8191人の減少で出生数は5年連続の減少である。一方、死亡数は108万3796人と5万5194人増加した。

インターネットで厚生労働省のページを開いてみると平成15年度のデーターでは死因の1位は、がんで死亡総数の30%であった。2位は心疾患の15%、次いで脳血管疾患13%、肺炎9%、不慮の事故4%、自殺3%、老衰2,3%と続いている。

天寿を全うしている人は、たったの2%弱で、しかもなんと上位の3位までの疾患で亡くなる人がほぼ60%である。

ということは、もしこれらの疾病を予防したり、抑えたりするなど、死亡原因にならないよう医療が更に充実すれば、人口の自然減少は大きく抑制できることになる。

それにしても、最近の出生数が100万人程度、団塊の世代およびそのジュニアの時代の半分以下であり、このままでは着実に少子高齢化社会に突入することになる。

ところで、出生率を人為的にコントロールできたデーターとして昭和41年(1966年)の丙午の年があげられる。

丙午は、江戸時代の大火災を引き起こした八百屋お七が丙午の生まれということで「男を喰らう」「災害をもたらす」などとして嫌われたことに由来しているという。
 丙午前年の昭和40年は1,785(千人)生まれているが、丙午の年である昭和41年は1,386(千人)と約40万人も激減、次の年は1,726(千人)と回復している。

このように丙午の昭和41年には出生人口が20%強も少ない。このことから人為的にコントロールがなされたことは歴然としている。

したがって、逆に言えば現在の社会情勢では出産適齢期になっても経済的、また将来の人生設計においても明るさが見えないので、出産を控える傾向が強い。特に若い世代に対して企業が雇用環境を整備し、出産から幼児教育も含めて優遇措置を講じ、国や地方自治体のサポート体制が充実すれば、丙午と逆の現象が起こることになる。したがって一挙に自然減は解消し、年金問題をはじめとした少子高齢化でのいろいろな問題は解決できることになる。

しかし、現実は着実に少子高齢化が進んでいる。一般的に65歳以上の人口比率が7~14%を高齢化社会、14~20%を高齢社会、20%以上を超高齢化社会と呼ぶようだが、日本はスウェーデンを追い抜いて65歳以上が21%くらいで超高齢化社会になった。
 このままではどんどん人口が減少し、年金は破綻すると、年金不払いや未納者がかなりの数に上り、事実上は破綻の坂を転がり落ちている。

問題は年金だけではなく為政者は強力な指導力の下に、日本の将来をどのように導くか、夢のあるグラウンドデザインを描いてもらいたいものである。

がんと喫煙

さて次に健康問題に絞って話を進める。このように、がんでの死亡率がダントツであることは新聞などの報道で知っていたが、インターネットで開いたグラフを眺めていると、更に男女間に顕著な差異があることに気づいた。

すなわち女性は55歳あたり、男性では65歳あたりに、がん死亡率のピークがあり、この違いは女性の更年期すなわちホルモンと、がんの発症と大いに関係があることを意味している。また、このグラフを見るまでは、がんは年齢と共に増加するものと思っていた。

そういえば加齢と共にがん細胞の活性度は低下するので老年になると、むしろ肺炎やほかの病気で亡くなる比率が上昇するのである。

また、2位の心疾患と3位の脳血管疾患、これは肥満に大いに関係しているし、しかも1位から3位までの死亡原因は大いに食生活を中心とした生活習慣に関係が深いが、先ず喫煙とがんの関係について述べてみたい。

なぜこれをテーマーとしたかというと、研究所を設立してからは企業を訪問する機会が増え、しばしば講演を依頼される。

休憩時間が来ると我先に喫煙場所に真っ先に走る経営者、技術のトップを見るにつけ、この種のテーマーを扱う必要を感じたからである。

喫煙とがんに関しては米国を中心として、これまで動物実験や疫学研究など、さまざまな研究が行われ、世界各国で数多くの総括報告書が出版され、肺がんをはじめ呼吸器・消化器系のがんと喫煙との間に因果関係があることがわかっている。それでも依然として日本のタバコのパックの側面には「吸いすぎ注意」と書いてあるだけ。米国のタバコには喫煙はがんの原因になると医師が判定したと書いてある。
 また、世界保健機構(WHO)の国際がん研究機関(IARC)も、喫煙とたばこ煙のヒトに対する発がん性を分析し、その中で、喫煙とたばこ煙はヒトに対し発がん性があると認めている。
 喫煙とがんの因果関係は肺がんだけと思われるが実は、肺がんのほかに、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん(扁平上皮がん)、膵臓がん、膀胱がん、腎臓がん(腎盂)、鼻腔・副鼻腔がん、食道がん(腺がん)、胃がん、肝臓がん、腎臓(腎細胞)がん、子宮頸部がん、骨髄性白血病を喫煙との間に因果関係があると報告されている。またこれらのがんでは、喫煙者におけるリスクが非喫煙者に比べて20倍以上のリスクのものをはじめ、おおむね2~3倍のリスク上昇が観察されているとのことである。
 胃がん、肝臓がん、子宮頸部がんは、それぞれ、ピロリ菌、肝炎ウイルス、パピローマウイルスという微生物感染との関係が高いが、それらの感染の影響を除いても喫煙と関連があるとされている。
 鼻腔・副鼻腔がんや腎細胞がんなどは、他のがんに比べて症例が少ないようだが、喫煙年数や喫煙本数によるリスクの上昇傾向が報告されている。

このようにがんの発症と喫煙の関係が極めて高いにもかかわらず習慣となってしまった喫煙をやめられない人が多い。

長々このテーマーについて書いているのは、意外と経営者や技術のトップ連中にヘビースモーカーが多いのでそれを意識しているわけである。

自分自身30代の後半まではヘビースモーカーで授業のときも学生にもタバコ吸っていいぞと促しながら授業をしたくらいであった。それをぴたっとやめた理由は、先ずは喫煙中の煙にどれくらいシアンが含有しているかの実験をやったことに端を発している。当時は表面処理のシアンの処理やクロムの処理がテーマーであったのでついでに分析してみようということになったわけだ。

河川からシアンが1ppm検出されたら大問題になる。ところがなんとタバコの煙を分析してみると何百ppmも検出される。これは紙巻タバコの紙にはニトロ化合物がコーティングしてあり一度火をつけたら消えないようになっている。それがタバコの葉の中の炭素と反応してシアンガスが発生するわけである。

また当時は、防疫の観点からバナナの燻蒸処理にシアンガスが使われていたようであり、バナナの皮を分析してシアンの多さに驚いたものである。それを契機に自分をはじめとして当時の研究室の学生の多くはタバコをやめた。

タバコの副流煙では2.5μm、フィルターを通った主煙流では100nm‐1μmと小さな粒子になる。この粒子は小麦粉の百分の一、花粉の十分の一であり、このように細かい粒子は肺胞の奥底まで到達してしまう。

一般に、粒径が10μmより大きい粒子は、呼吸により鼻から入っても大部分は鼻腔の粘膜に吸着され、肺に到達しない。しかし、10μm以下の浮遊粒子状物質は、気管に入りやすく、特に粒径が1μm以下の粒子は、気道や肺胞に沈着しやすく、呼吸器疾患の原因になる。

我々は最近ナノテク分野の研究にも注力し、たとえば微粒子を用いたコンポジットをはじめ、いろいろな検討に着手しているが、先ずは粒子の爆発性の有無をチェックし、更には吸い込んだり、大気中に拡散したりしないように細心の注意を払っている。

アスベストはあれだけ注意を呼びかけ綿密な管理の下に処理されているのにタバコの害は株の投資と同じく自己責任でということか?!

このように、三大疾患を克服できれば寿命が大きく伸びることになるのだが、たまたま1ヶ月ほど前にある企業の社長といろんな話をしている中で「病気にならない生き方」というタイトルの本がベストセラーになっているので是非読んでみたらと進められた。

早速インターネットでその本を購入した。帯には100万部突破、一年で32版をかさねている。著者は胃腸の内視鏡のパイオニアとして米国および日本で活躍されている。日本ではがん患者が数百万人もいるのでそれらの多くの方々は読まれたものと思われる。

来月号にはその本の感想をはじめとして太く、長く生きる方法について我々の業界の長老の生き方もヒアリングし、まとめてみる予定である。