モラル低下とその対処法

関東学院大学
本間 英夫

先に自民党の中川秀直幹事長は現閣僚に対して苦言を呈した。新聞報道の一部を抜粋させていただくと

「安倍晋三首相が(閣議で)入室したときに起立できない、私語を慎めない政治家は美しい国づくり内閣にふさわしくない。」と異例の厳しい表現で政権内の緊張感欠如に苦言を呈した。

多くの企業や組織体の会議で類似のことが散見されるようになってきているのではないだろうか。先ず会議が始まる前、お互いあまり挨拶をしない。会議の導入部は大切で会議内容によっては儀式的で意図的に会議に重厚さを出す場合、また気楽にみんなの意見を出し合う会議などいろいろだ。その際の会議責任者の役割は重要であり、その場にあった雰囲気を作るセンスを磨いてもらいたい。がみがみ苦言を呈するのではなく自然体でその場にふさわしい舞台が出来上がるようにもっていければスマートでクールだ。

しかしながら、最近のモラル低下にはいささか私自身も閉口している。自分の講義で学生ががやがや騒いだことは無いのだが、多くの講義では私語はもう当たり前のようになっているようで、先生方はあきらめているようだ。もちろん、これは学生だけが責められるのではなく講義自体に魅力が無いからであろう。ファカルティー・デベロップメント(FD)と称して先生方の教育力を向上させるための方策も各大学で検討しているようだ。先生方には嫌味になるようだが、そんな方策を練らなくても研究成果を外部にむけて積極的に発表するように訴えてきた。そうすれば、自然にあちこちから講演依頼や講師依頼が来るようになり、いつの間にか魅了ある講義が出来るようになるものである。 

要は企業においても大学においても、すべてのことにおいて相手の非を責めるのではなく、自らを磨き魅力作りをすれば自然に解決することが多いのである。

新入社員

社会経済生産性本部の牛尾治朗会長は先月26日、2007年度の新入社員のタイプを「デイトレーダー型」と命名した。自己主張型で、常に良い待遇・仕事を求めて転職する傾向を、一日に何度も取引をして細かく利益を確定する個人投資家になぞらえたものだ。
 最近の新入社員は、愛社精神に乏しく、短期間に会社を辞めるという。終身雇用制時代の社員のように、一度就職したら定年までというのではなく、友達同士が連絡を取り合い安易に転職する。私はこれまで研究室の学生には3年間は会社を辞めないように、3年間は給料をもらって勉強させていただいているようなものだと一貫して言い続けてきた。

3年間が経過して自分に適していないと判断したら、それからアクションをとるようにと。これまでの学生はその考え方を受け入れてくれていた。しかしながら一昨年くらいから年に一人くらいだが3年どころか1年以内に辞めるという。しかも後ろめたいのか、私には何の連絡もせずにやめていく人もいる。また、理由が希薄で忍耐力や持久力が無く辞めていくように思える。我々の知り合いの企業では、新入社員の3分の1が1年以内に辞めてしまうと聞き愕然とする。

確か最近のデータによると3年以内に転職する人が3分の1だったと思う。これでは企業が新入社員を教育し実際に戦力になるには3年くらいかかるのに大きな社会問題である。特に製造業においてはバブル崩壊後の十数年にわたる人員の削減、派遣社員への依存、企業に対する忠誠心、求心力が大きく低下し品質も安定しない。「企業は人なり」というがまさに崩壊寸前の様相を呈している。更に追い討ちをかけるように2007年問題といわれる団塊の世代の大量定年退職を迎える。世界的な規格の統一、高品質の物づくりへの転換などで企業は余裕が無く利益の出にくい体質になってきている。

従って最近特に大学の「知の活用」が大きくクローズアップされてきているが、果たしてこれまでの大学の体質が即座に変わるだろうか。また、短期的な成果ばかりを追うと、これまでの大学としての長期にわたる基礎的な研究がおざなりになり、本末転倒である。このあたりは先生方がバランスよくテーマを選定すべきである。ところで我々の表面工学研究所でこれまで検討してきた一部の成果を示す。

PET素材へのめっき

各種電子部品、電子機器においてPET素材を用いたフィルムアンテナやフレキシブルプリント配線板(FPC基板) が実用化され、その数量は増加傾向にある。

PET素材への導体形成には大きく分けて以下の手法があるが、これまでの方法はいずれも長所、短所を有している。

①導電性ペーストを印刷する手法

安価ではあるが、導体抵抗が大きくなるうえ、

ペースト導体がフレキシビリティーに欠ける。

②接着剤を介し銅箔を接着する手法

接着剤部分の特性が回路信頼性に影響を及ぼす事もあり、且つ、素材作成にコストがかかる。

③PET表面にドライプロセスでメタライズする手法

導体密着性、コスト面が懸念される。

④PET表面を粗化しウェットプロセスでメタライズする手法

素材を粗化する事で透明性に欠ける。

 今回、我々が開発した技術はPETのもつ電気的特性、透明性を損なうことなくPET上に密着の良い導体膜をウェットプロセスにより形成することを目的とした。開発された手法は、PET表面に密着に優れ、且つ絶縁信頼性の高い親水化膜をサブミクロン領域の厚さで形成し、独自のめっき技術により導体形成を行うものである。得られた析出界面はミラーライクで極めて平滑な状態で、且つ良好な密着のめっき皮膜である為、一般的な回路形成プロセスでの回路加工が可能である。ミラーライクな析出界面を持つ利点は、導体損失を低減できるなど高周波通信用途や高速伝送用途において大きなメリットになる。また、導電性ペースト導体にくらべ、導体抵抗の低減、フレキシビリティーの向上において改善効果をもたらす。今後、フィルムアンテナ、FPC基板はじめ様々な用途への展開が期待される。

シクロオレフィンへのめっき

近年、電子機器の高性能化、多機能化に伴い信号処理速度の高速化は重要な課題であり、また通信分野においては多くの情報を伝達するため、より高周波帯域の周波数が利用される傾向にある。

 高速化、高周波化に対応するため素材は低誘電率、低誘電損失(低tanδ)を有するものが利用されており、PTFE(フッ素)素材はその代表例である。

しかしながら、フッ素基材は加工が困難な上、高価な素材でもあり、また廃棄処分の際、焼却時にフッ化水素ガスが発生する事などから焼却できず産廃扱いとなっている。そのため、これらの問題点に対応する為、各種の代替材料が検討されてきた。

 そこで、我々は光学レンズや筐体などに使用されているシクロオレフィン系素材に注目した。本素材の電気特性はPTFEに匹敵するものがあり、加工性においてもPTFEに比較し優位性がる。 

 信号の高速化、高周波化対応においては表皮効果の影響を軽減させるために、凹凸のない回路が理想であり平滑回路の形成が切望されている。我々は、独自のUV改質技術により、誘電特性に優れたシクロオレフィン系素材表面へ低粗度な表面改質を施した後、改質面へ導体めっきを施すことで、樹脂上に鏡面に近い常態で且つ良好な密着を有するめっき皮膜を得ることに成功した。

この手法により、平滑性に優れた導体が得られるので、今後、高周波用アンテナ、高速伝送回路基板への展開が期待される。