日本の国際競争力
関東学院大学
本間英夫
日本は80年代から90年代前半にかけて、国際競争力はトップであった。ところが、その後競争力は急速に低下し、スイスのIMD(経営開発国際研究所)が公表した「2010年世界競争力年鑑」では、日本の競争力は27位まで落ち込んだ。
この凋落の原因としては、負の20年と言われて久しいが、日本経済が長期デフレ状況から抜け出せず、莫大な財政赤字を抱え、しかも他国と比較して法人税率が高いため、企業の活力が出てこない事に基づいていると言われている。
最近、ガラパゴス化という言葉を度々耳にするが、これは南米ガラパゴス諸島に生息するゾウガメやイグアナなどが、海に囲まれた完全に閉鎖された環境の中で、特異な進化をとげてきた状況と、日本企業の技術力が、独自に進化してきた状況とを絡ませてガラパゴス化と言っているのである。
このガラパゴス化の典型例が携帯電話で、高度な技術力とサービスを保持しているにも関わらず、国内市場だけで特異かつ独自に進化した結果、世界市場とは大きく乖離し、世界標準になれなかったのである。
この様に、日本の技術力や競争力の強みが一人歩きをしてしまい、強みが弱みになり、日本の経済力も大きく低下し、これまでの終身雇用制度や年功序列の賃金体系、人事制度などにまで見直がなされるようになってきている。
日本の技術のガラパゴス的進化として、上記の携帯電話の他、産業用ロボット、テレビゲーム、カラオケ、アニメなど枚挙にいとまがない。まず海外で開発され、それが日本で改良進化し、グローバル商品になったものも少なくない。このように、日本のモノづくりの技術は、世界の中で大きな強みを持ってきたはずだ。
しかしながら、この強みが一人歩きをして、ガラパゴス化と揶揄されるようになったのは、強みを生かせていない事に起因している。日本は「戦略が無い」と言われているように、独自に進化した技術やサービス、商品をグローバル展開する手法に長けていないのである。
次代を見据えた中長期戦略を
日本の携帯電話は、電子部品の軽薄短小をベースに多くの機能を付加し、常に数年先を見据えて発展してきている。通信インフラも10兆円以上かけて整備されている中で、先進性を生かして世界市場に打って出る戦略性が必要である。
国内市場と世界市場を常にウォッチしていかないと、技術力はありながら、ビジョンや戦略がなく、場当たり的な海外進出に留まってしまう。その一方で、欧州の通信企業は、中長期的なビジョンを見据えて、展開している。
日本における携帯電話の普及率はほぼ100%と言われるが、昨今の少子高齢化の中で、国内市場は伸び悩み、新興国をはじめとする海外市場への進出が必須となってきている。
このように、日本の通信業界や携帯電話業界は、技術力では優れているが、「世界標準の取得に先手を打つ」という戦略を取らず、日本標準にこだわったため、世界から孤立してしまったのである。今後、次世代をリードできる技術を如何に世界に広めて行くかがポイントになるだろう。
日本の技術標準をデファクトスタンダードへ
上記のように、1990年代以降、日本は技術、企業戦略、ビジネスモデル、産業構造などに対して、国家的な視点で課題を捉えず、現在に至っていると指摘されている。
携帯電話業界における戦略ミスとして、具体的な例を挙げると、日本はNTTを中心に、世界で最も進んだPDCと呼ばれる技術標準を開発したのに対し、欧州メーカーでは、各国に共通のGSMと呼ばれる欧州基準を作り、その採用を世界に呼び掛けた。
結果的に、アジアを含めたほとんどの国々で、このGSMが採用され、世界標準になった事で、日本製の携帯電話は海外に進出できなくなった。
この様に、日本企業は優れた技術を持ちながらも、戦略ミスが原因で大きく立ち遅れてしまっている。
今後、日本の通信業界が、次世代技術の分野で世界標準を作り出せるかどうかにかかっているが、LTE(Long Term Evolution)もしくはSuper 3Gと呼ばれる、次世代の通信規格が1つの大きなトピックとなっている。これらは、本年10月以降にサービスが開始されると8月上旬の新聞に報道された。
この技術の魅力
LTEとは、W-CDMAの高速化規格の事で、NTTドコモは、第3世代携帯電話の上位版という意味を込めてSuper 3Gと呼んでいる。
複数のアンテナを利用する事で高速化し、100Mbps以上の高速通信が可能になるLTEは、いわばFTTHの無線版。屋外など、どこにいてもストレスなくインターネットを利用できる環境を提供可能となる。
LTEの魅力は、高速サービスが提供可能となるだけでなく、現在のW-CDMAで利用している周波数帯をそのまま利用できるため、既存の設備に大きな変更がいらない。さらには、遅延がほとんどないため、動きの早いゲームも可能になる。
スマートフォンや電子ブック端末といった大容量のコンテンツ利用が多いモバイルネット端末の普及で、通信量が増大する事を見越し、世界に先駆けて本格的サービスを開始するという。日本独自規格のままで終わった2Gの「PDC」、さらには世界に先駆けて実用化が始まった3GのW-CDMA(サービス名は「FOMA」)の反省の上に立って、世界の標準化が意識されている。
ドコモは、ガラパゴス化の元凶とも言えるSIMロック(携帯端末を他の通信会社で使わせないようにする装置)を解除する方針を明らかにした。これまでの垂直統合の一角がオープンになり、日本の携帯業界にも新風を吹き込む可能性はある。
ドコモとソフトバンクの協力関係のもと、IP(インターネットプロトコル)ベースで、オープンなインターネットとLTEのメリットを活かして行けば、これまで築き上げてきた通信のインフラがそのまま使えるため、大容量のモバイルインターネットが使用可能な国として、世界をリードできると期待されている。