若者及び中年層へ

関東学院大学 材料・表面工学研究センター
本間英夫
研究員 梅田  泰

我々の若いころは技術開発に夢があった。皆、前向きに真剣に取り組んできた。ところが、この20年を振り返ってみると成熟から停滞、技術よりもコストが優先し、多くの若者は技術関連の仕事に対して夢も、情熱も失っているように思えてならない。そこで、これまでの経験から最近の閉塞状態から脱却するには、ごく常識的な内容になってしまうが、若者及び中年層を鼓舞する意味で幾つか梅田君と論議した考えを述べてみたい。

①技術関連の仕事では自分の意見をもち、上を向いて進む。また、協調性を常に意識する。

自分の置かれている立場でどのようなことをどのように進めて行こうか自問自答しよう。いつも辛いことが多くつまらない日々ばかりで研究や技術関連の仕事への情熱が失われていないだろうか。確かに毎日ニュースを見ていると、技術の海外移転、コスト優先などから日本の技術関連の仕事は今後どうなるのかと不安になる。この閉塞状態を打破するには、国家レベルでは勿論、個人レベルからも強い積極的な姿勢が必要である。最初はうまくいかなくても向上心を持って毎日少しずつ進めて行くと必ず前進していくはずである。自分なりのアイデアで前進するための提案ができる人間になろう。しかし、自分だけがうまく行けば良いのではなく周りの人も幸せになれるように考えよう。

②計画を持って事を進め、常にPDCA(計画,実行、評価、改善)のサイクルで先に進んで行こう。計画通りいかないからといって諦めることはない。絶対成功すると信じよう。

自分は成功する人間であるというシナリオは描けているだろうか。先行きへの不安が多く、消極的になる人が多い。成功するだけが人生ではないが、目標が無ければ自分が進んで行くべき道を定めるのは非常に難しい。まずは自分がどのように技術の仕事を進めるかアイデアが出た段階で成功するか感覚的にわかるものだ。最近の傾向であるが、人の言われた通りしかできない指示待ち型でいいのか少し考えてほしい。下働きは常に命令されて動くため、自分の思い通りのリズムでは技術関連の仕事が出来ない。自ら進んで仕事をしない限り満足を得ることはできないことを知っておいてほしい。

成熟して停滞した社会において若者も中年層も、いつも愚痴ばかり言っている人が多くなってきた。研究や技術開発の設計にあたっては、ある程度の先見性と綿密さが無ければ思い通りの成果は得られない。若いうちにはなかなか気付かないが、多くの意志の強い人は節目、節目で目標を再設定し、常に実験や研究の進捗や解析を十分に理解するように努めている。計画通りにいくことが望ましいがその通りに行かなかったとしてもそこには新しい発見がある場合が多い。常に挑戦し目標に達することを忘れないでほしい。

③自分の能力を信じよう。ここで終わりということはない。いつも進んで事を進める努力をしよう。

例えば入社したばかりの右も左も分からない時には、技術開発の一部だけを担当することになるだろうが、一つ一つの役割を大事にし、失敗を恐れず直面する問題を解決して行こう。能力はここで終わりということはない。精神力を鍛えれば無限大の可能性を持っているのだ。限界があるとすればそれは自己規制してしまっているのだ。どんなことにでもチャレンジし、何時も自分から進んで物事を進めて行こう。その途中で失敗をすることがあるかもしれないが、失敗を恐れず次から次へのチャレンジする力をつけよう。また、失敗と思っている中に新しい発見が潜んでいることが多い。

④自分の今置かれている立場だけでなく、相手の色々な立場、他の世界のこともバランス良く調査、研究をしよう。それには情報を与えてくれる仲間が必要。

何かをやろうとすると一人ではなかなか事を進めることが出来ない。仲間と協調し相手の立場に配慮する。何事も強引に進めようとすると、相手が力を出し切れず大きな力とならない。周囲の情報を集めバランスの取れた方法を常に調査しよう。その方法やタイミングは大変難しいが経験を重ねることで培われる。そんな技術を身に付けて色々な分野の人とも協力しあい、また日本の中だけでなく世界に仲間を持ち、大きな視野を広げよう。言葉がしゃべれないからと外国の仲間を持つことに苦手意識はないだろうか。紙に絵を書いてもコミュニケーションは取れる。ここでは名前を控えるが、今も表面処理業界で活躍している全く英語が出来ないが、アメリカを初めとしてどこへでも臆することなく出かける後輩がいる。しかし、言葉がしゃべれることでより深い情報のやり取りがスムーズに出来ることは確かである。普段から必要な言語のスキルを磨こう。特に英語は世界の共通語であるので意識して日常会話くらいは出来るように日頃から訓練しておこう。

⑤最後まで諦めない忍耐力を付けよう。大変だからこそ大きな成功を体験できるのだ。

これまで手掛けたことのない新しい技術関連の仕事を成功させるためには大きな困難が待っている。目標に向かって、なかなか先に進めないことがあるかもしれないが、その壁を常に突き崩す努力を出来るようにしよう。失敗した時には次にそのまま体当たりするのではなく、なぜ失敗したか考え直し、失敗しない方法を色々な角度から考えてみる。解決策は簡単には見つからないことが多いだろうが必ず見つけ出すという意思を持とう。もうこれ以上体力が持たない、でも何とかしなければいけない限界状態になると不思議と解決策が見つかることが多い。発想も同じで、ぎりぎり限界の時に閃いて新しい技術開発に繋がったことが多い。また、若い時の成功体験は、その後の人生に大きな影響を与える。成功の経験のない人は成功への喜びの経験がないので、自分からリスクを跳ね除けて先に進むことに躊躇しがちである。小さな成功の積み重ねから大きな成功が導かれる。

⑥何事を行うにも体(健康)が重要だが、いつも健康で調子が良いとは限らない。どんな時でも自分をコントロール出来るようにしよう。

社会人は責任を持って技術の業務にあたらねばいけない。

人間である以上絶対に病気をしないということはない。風邪を絶対に引かない人はいない。しかし、不摂生で風邪や腹痛を起こして休んでしまう社員がいたら、一緒に働いている人はどのように思うだろうか。休む際に肩代わりをすることで相手に負担が掛るという気遣いも必要だ。自分の体を常に管理し、病気に掛りにくい体を作ろう。最近は体調管理が出来ていない若者が多くなってきている。時には体調が悪くても仕事に立ち向かって行かなければいけない事にしばしば遭遇する。その時には自分の体力の極限を知り、うまくコントロール出来るようにしよう。倒れてしまう限界を知っていないと、かえって迷惑をかけてしまう。体が弱い人ほど体調のコントロールが出来るように努力し、仕事に穴を開けないよう健康管理能力を身に付けよう。病弱では集中力や持続力は大きく低下し、またいいアイデアもう浮かんでこない。しかし、あえて付け加えておくが病気になってしまった場合は勇気をもって休養を取ることも必要である。