「工学博士の思考法」

関東学院大学材料・表面工学研究センター
本間 英夫

研究者として、教育者として、私は四〇数年間、関東学院大学に勤務してきた。
 四月以降も、材料・表面工学研究所の所長として、産官学連携のさらなる進展のため、重責を担っていく。
五年前に「工学博士の思考法」と題して一冊の本にまとめたが、その後5年間の「雑感シリーズ」の原稿を基に、加筆修正し、日常の研究生活の中で感じたこと、産官学連携プロジェクトを推し進める過程で考えたこと、また、教育を担当する者として学生と交わってきた日々に頭に浮かんだことなどを更にまとめて「教育・研究と産学連携の軌跡」と題して大学の出版局から上梓することになった。
 原稿を読み起こしながら、本書をまとめていくにあたって、私は一つテーマを揚げた。
 それは「次世代に伝えたい言葉」をしっかりと刻もう、というものである。
 私は、閉塞感にある日本の表面処理関連の方々や若い人達にどうしても話しておきたいことを、しっかりと形にしたいと考えた。言葉を厳選しながら作業を進めたが、あれもこれもと、思いは募り、最終的には五十の提言となった。
 多くの人にとって、戸惑うことの多い時代である。日本のものづくりはどこに向かうのか、中小企業の明日はどうなるのか、次代を担う若者に希望はあるのか―。
 しかしながら、このような厳しい時代にも頭角を現す企業は、規模の大小にかかわらず、現に存在する。未来を真に明るくするには、いくつか、意識を大きく変えなければいけないことがある。これまでの方針を見直さなければ太刀打ちできないこともある。
 日本の製造業が、また、経営者を含めた働く人達が、次の一歩を決断をもって踏み出せるにはどうすればよいのか。私なりの考えを、五十の提言に託した。
 是非、ハイテクノの会員の皆様にお読みいただきたいが、ここではその内容を示します。
 第一章は「発想力よりも、時には粘り腰を」と題し、なによりまず伝えたい私の研究哲学、日々の生活理念をまとめた。
 第二章は「大発見するには、鉄則がある」。研究・開発に携わる人、製造部門に従事する人、すべてに読んでいただきたい。仕事に臨む中でこういう考えが大切であろうというポイントをつづった。
 第三章は「動かない組織を、どう動かすか」。経営戦略の要諦から、日常業務での留意点に関して、私の思うところを述べている。
 第四章そして第五章は、個人的な経験を含めて、私が教育と研究の生活をおくる中で思索を巡らせた数々をまとめたものである。とりわけ第五章は、若いみなさんにぜひ目を通していただきたい。ものづくりに携わりながらも迷いが出ている経営者や若者に向けて、私なりの励ましであり、アドバイスでもある。
 「最終講義」と題した最終章では、私の研究人生の軌跡をお伝えしながら、今後のものづくり、産官学連携のあり方について、私の考えを記している。
 本章につづった五十の提言のいくつかでも、みなさんの仕事生活に向けたヒントなり、明日への活力につながってくれればと願っています。

幻の原稿

本号が皆様に届く少し前、三月十日に最終講義を行うが、それ迄に出版できる様、原稿のチェックをしているところである。大学からの出版になるので次の原稿はカットされた。一般の出版社から個人の資格で出版する場合は問題なかったのであるが、その幻の原稿をそのまま紹介したい。

編集後記

表面工学の権威にして、熱血の教育者としても知られる、本間英夫先生の最新刊が出来上がりました。
 先生がおまとめになった五十の提言。最初から順にたどっていってもいいですし、興味を惹いたところから読んでもいい構成となっています。迷いが出た時、すぐに助けとなりそうな提言もあれば(富山弁混じりで叱咤する本間先生の声が聴こえてきそうです)、頭の中にとどめておくと、ある時に大きな支えとなってくれそうな提言もあります。
 本書を編集するにあたり、本間先生と二十年近くの交流がある、中小企業の経営者の方とお会いしました。もちろん今も、先生が力を注いでおられる材料・表面工学研究センターの活動を支えるなど、親しいお付き合いを続けている方です。
 この経営者に「本間先生とはどのような人ですか」と伺ったところ、語ってくださった本間先生像が実に明快で、先生の行動哲学がそこからじわりと滲み出てくるかのようなものでした。本書の解説に代えて、ここでご紹介します。その経営者の語った言葉をそのまま掲載することにしましょう。
●分け隔てしない
 私が初めて先生にお会いしたのは二十年近く前です。めっきの研究で強い大学はどこかと調べたら、すぐに本間先生の名を知ることができました。面識は全くなかったのですが、電話をしたところ、「すぐに来なさい」と。私どものような中小企業にも、等距離で接してくれるのかと、驚きました。
●話もアクションも早い
 初対面なのに、先生の対応は極めて早いものでした。私からのお願いは「技術を教えていただきたい」「新卒の学生を紹介していただきたい」というものだったのですが、すぐに答えをくださった。しばらくして、先生から連絡が入り、「欧州への視察に行こう」と先生から直接電話を受けました。この視察旅行で、いろいろな企業メンバーと知り合えたのも、私の財産になりました。また、我が社では、すでに八名もの関東学院大学OBを採用するに至っています。その誰もが大きな戦力です。
●これではいけない、と常に考えている
 日本の産業界はこのままでは沈没する、と先生は日夜、精力的に動いておられます。ものづくりを大切にすれば、日本国内に生産拠点を置いたままでも、まだまだいけるのだ、と先生は強調されます。こうした思いに賛同するからこそ、私たち企業人と先生との交流が長く続いているのだと思います。
●大学再生への思いが強い
 材料・表面工学研究センターは、関東学院大学の一組織です。本間先生は「大学に、この研究拠点を置くことの意味」をいつも仰います。技術者を育てる素地が大学にはある、中長期的な視点に立てば、継続性という意味で、大学がこうした組織をもつことは大きい、というのです。大学の持つ力、大学の魅力を、もう一度復興させたい―先生のそうした信念がひしひしと伝わってきます。
●クリーンである
 こういうお話をするのもなんですが、先生はお金にとてもクリーンな方です。かつて、ご自身の研究功績が認められて賞を受けた時の賞金も、すべて寄付され、基金に回したと聞きました。その一方で、先生は自費を惜しげもなく使っておられる。いつでしたか、大学院生を海外の学会に送り出すために、何人分もの旅費をポケットマネーから捻出していました。だからこそ、いざ、材料・表面工学研究センターを立ち上げるという時にも、この不況下であるにもかかわらず、すぐさま三〇社を超える企業がはせ参じたのだと思います。
●情熱の人
 日本の産業界を育て、人を育てるということに、心底熱心な方です。それは確実に伝わるものです。だからでしょう、毎年の研究室OB会の出席者は、かなりの多数に上っているそうです。それはそうですね。OB会に顔を出せば、そこは表面工学の最前線にいる人達が集う空間なわけですから。 

 以上のようなお話を、経営者の方から伺いました。本間先生は常々、「閉じこもるな」と力を込めて言われます。先生ご自身がいつも外に目を向けていて、数々の企業の困難を救ってきたからこそ、門下生にも、企業人に向けても、こう仰るのでしょう。
 先生は二〇一二年三月、最終講義の時を迎えます。しかしながら、先生の挑戦はこれからもまだまだ続きます。日本がこういう局面であるだけに、先生のさらなるご活躍を待ち望む方は、これまでにもまして多くなりそうです。
 本書を手にした方、みなさんが、明日のものづくりへの希望を見出せますように。
以上が編集後記で幻の原稿となった内容である。大学からの出版なのであまりにも本人を自画自賛しているような内容なので「没」になったわけである。お読みいただいて是非この本書を紹介いただきたい。一般の書店からも購入いただけますが、大学の出版局からの発売となっておりますので、大学の窓口の関学サービスを通して一括購入いただきますと10%割引となります。是非FAXまたはメールで申し込みいただきますようお願いいたします。
是非、企業でまとめて購入いただければ幸いです。

申し込み先
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