研究所のその後の展開
関東学院大学材料・表面工学研究所
本間英夫
国立大学では数年前に法人化されて以来、自ら大学が企業や市場ニーズに沿って、研究活動に力がそそがれるようになってきた。したがって産業界のニーズを意識して研究が実施されるようになり、研究によっては事業化につながる可能性は高くなり企業側も大学の知を活用するような機運が大きく盛り上がってきている。
これは学生にとっても、より実践的な研究開発を通して力をつけることになり、教育や研究という観点からも有効な手法である。我々はこの様なスタンスで実学的な内容を中心に学生を育てるよう研究活動を進めてすでに40年が経過している。ただいつも研究を推進するに当たって念頭に置くことは大学が企業の下請けとなり研究をするのではなく、我々が積極的にこれからの高度技術の基礎から応用に至る研究活動を大学から発信していくという意気込みと使命感を常に意識している。
多くの地方大学では、地域の産業活性に貢献する役割を担うようになってきている。企業と大学側が共同研究を行い企業側にとっては利潤を追求するという従来の産学官連携の枠組みから研究室に企業の人材を派遣して技術者を育成したり、大学側が人材育成セミナーを開催して企業経営者の後継者を育てると言ったプログラム展開である。これまで20人のドクターを育ててきたがすべて社会人ドクターである。マスターには80人くらい育ててきている。彼らの多くは就職した後、企業からマスターやドクターのコース生として研究所にて研究に勤しんできている。
さらには大学の研究機関の役割としては、産業界でコンソーシアムを構築し「企業間連携」を推進することも重要になってきた。
産学連携において大学側は一企業の利益につながる研究ではなく、関連領域の産業界全体に貢献できるようなテーマーを選択し、そのような体制を維持していくことが産学連携の公正で大学としては重要な役割である。
企業経営者は、世界経済の低迷、超円高、震災、タイの洪水被害、海外展開等、何重苦ものり越えねばならず苦戦を強いられてはいるが、ピンチがチャンスの意気込みで果敢にチャレンジしてもらいたい。
私自身は70歳を過ぎてまだまだ現役で産業界に貢献しようとの意気込みがあるが、若い技術者の芽をつぶすことなく技術を如何に伝承していくかに腐心せねばならない。IT化、デジタル化により何事もマニュアル化すればいいと躍起になっているようだがルーチンの作業は綿密に誰にでもわかるようにマニュアル化すべきであるが、技術開発にまでそのような考えを入れているようでは、先が思いやられる。創造すること、技術の面白さ、やりがいを後進に伝えるような教育指導するようにしている。また、企業経営者とは対話の機会を大幅に増やすよう、大学の授業が無くなったので、会社を訪問したり研究所に来ていただいたり、または経営者向けの講演会なども実行していく。これまでも「本間の言うことを実行してみよう」と経営者がトップダウンで号令をかけて成功した例がいくつもある。
大学の知を活用すれば一企業では「ヒト、モノ、カネ」が不十分でも、情熱と誠意をもって事にあたればいい結果をもたらすものである。
この数カ月は大学附置の研究所を設立してきた背景とスタッフについて紹介してきた。これまで我々が注力してきたウエットを中心とした表面処理に加え、この4月から高井先生が本学に着任され、研究所を中心に国内外に活躍いただく下地が整ってきた。4月号に紹介したように高井先生は超撥水材料の研究をベースに電子材料、バイオ、医療材料と多岐にわたる領域に展開され世界的に高く評価されている。研究所長としてお迎えする予定であったが、諸般の事情により数年は副所長として研究所の研究内容をつかんでいただき御自身のこれまで長期にわたり実績をあげてこられた分野と我々がこれまで進めてきた領域の融合を図りさらに魅力のある研究開発が進むと確信している。現在、材料科学分野の国際学会の副会長で来年から会長に就任予定であり、さらには文科省関連、経産省関連を初め多くの役職にあたられている。表面工学分野に厚みを増し、文科省の科研費を初め外部資金の獲得、大学院の教育研究に対しても大きく貢献いただけ、本学にとっては計り知れない効果をあげるであろう。また、ハイテクノの上級表面処理講座の講師としてこれまでは年に一度の講義をお願いしていたが、科目名の変更や新企画を推進し若手の有能な技術者も動員してハイテクノ会員企業に貢献したい。
研究所時代の特許の取り扱いとこれからの特許申請の考え方。
研究所設立して2年を経過しその間に申請した特許が10件以上にのぼるがすべて特許の申請は単独出願にしている。この様な出願の仕方に切り替えたのはこれまでは、幾つかの企業との共願が主であったので、色々問題が発生していた。そこでセンター立ち上げ後は単独出願をベースに、さらに電子申請のシステムを導入して出願するようになってきた。企業との共同研究の場合でも原則関東学院の単願とした。発明者には名前は入れて貢献度によってロイヤリティーを配分するやり方に対して企業経営者からも賛同いただいているし、大手の企業の技術者は反対すると思ったが、よく説明すると皆さんが納得してくれ、この様なやり方には反対する人はいない。事務を担当していただいている山田さんは5月号に紹介したように特許申請には明るい。ハイテクノの会員企業の方々にも相談に乗っていただける。
教育講座.およびハイテクノの社会人教育講座
昨年8月に実技を伴う講座を横浜市のセンターと合同で開催したが募集2,3日で定員を超えたので9月に再度講座を開催することになり、これも通知後数日で定員となった実績から現在ハイテクノで40年以上に渡って開催されてきた上級めっき講座にくわえさらに他の実習付きの講座やシンポジュウムなどの共同企画を行うことも考えている。
研究開発の進め方および企業からの研究生の受け入れ.
現在研究所で実質的に研究を行うスタッフは3名(田代、梅田、クリス)と 大学院生(後期コース3名、前期コース9名、)学部生3名、研修生5名で研究活動に勤しみ、実質的には本間とスタッフが指導に当たっている。 現在企業から派遣されている技術者には企業からの研究テーマよりもむしろ研究所でのオリジナルなテーマーで研究をしていただいている。 このように、スタッフ、学生、企業の研究生を入れると最大人数で20名以上になり、実験のスペースは狭隘となり、横浜市の工業支援センター内の実験室を3部屋使用している。研究設備もようやく整備されてきた。
連携事業について
カリフォルニア州立大学(アルバイン校)との提携に関しても、一年の協議のすえこの6月から2名派遣する。積層MEMSを初めとして、色々多伎に渡るテーマーが提案されている。 さらには国際センターからの要請に基づき上海応用技術学院、タイのチュラロンコン大学との連携も具体的になってきた。
奨学金制度の充実
表面工学奨学金(8年前に神奈川文化賞の副賞をベースに企業およびOBからの寄付)毎年4名に授業料相当分を授与してきたが、本年から材料・表面工学奨学金と改め6名選定。 これまでの原資に浄財の5%程度とロイアリティー収入の一部で補填して奨学金制度をさらに充実させていきたい。