情報収集の変化

関東学院大学材料・表面工学研究所
所長 本間英夫

幼い頃から新聞は地元紙、読売新聞、日経紙または産経新聞の環境にあった。したがって親のもとを離れ、大学院生の頃から日経を購読していた。最近は新聞社の勧誘が少なくなったようだが、数十年前はトイレットペーパーなどの景品つきで新聞の勧誘が盛んであったようだ。家内の話では日経を購読していると伝えると、しつこい勧誘はなかったようだ。
 さらに40過ぎから読売新聞と日経産業新聞のあわせて3紙を購読し現在に至っている。一般紙である読売は家族が優先的に読んでいる。自分自身は40代のころまでは、親から引き継いだ多少の株があったので、日経の経済欄と株価欄に目を通していた。従って当時はまだ記憶力にも優れていたようでほとんどの企業の株価を把握していた。
また50を過ぎてからはほとんど株に興味がなくなったというより売買に精を出すと研究に没頭できないので、すべて塩漬けにして全く売買しなかった。しかし企業がつぶれるときや激変が起こったときは証券会社から電話がありそれに対応するだけであった。そのようなわけで50代からは、まずは日経産業を手に取り、見出しを見てから興味のある記事に目を通し、技術的にホットな話題があるときは早速「新聞見た」と自分にとっては弟のような付き合いをしていたE君に電話するのが習慣であった。
新聞からITを中心とした情報収集へ
最近ではITを中心とした情報の取得環境がすさまじい勢いで発展してきており、また私自身も歳の所為か、今までのような集中力と気力にかけてきており真剣には新聞を読まなくなってきているが、3紙とも継続購読している。
 以上のように新聞に目を通さないようになってきて、テレビでのニュースや報道番組、さらにはパソコンや携帯で情報をつかむようになってきた。新聞を読まなくなってきているので情報に疎くなったり、的確な最新情報が取りにくくなったのではとの焦りがあったが、新聞を読まなくても、情報収集量は変わらないように思えてきた。
 実際、新聞の購読部数も情報社会では大幅に低下しているようであり、最近では新聞がインターネットから配信され購読できるし、朝のテレビの番組で新聞記事が紹介されるようになり、ますます講読者の減少がおきている。
 さらには、学術関連の雑誌は自宅と研究所で読めるし、ほしい本があれば、アマゾンから翌日配達でその本を購入できる。以前からIT 社会では情報過多で正確な情報を得るには情報の取捨選択が大切と言われてきたが、自分なりに使い方を工夫すれば、的確な情報を即座に入手できる。便利になったものである。あとは一次情報の収得、交換である。
 我々研究所での実験を伴う一次情報については、いかに管理し、いかにサポートしていただいている企業に迅速に公開するか、最終的には学会を通して広く社会に公開することが大学の研究機関としてのおおきな使命であるが。
 我々の研究所の魅力は一時情報として伝える前の学生と研修生による生の研究結果である。企業の方々は、年間数回開催する研究発表会に参加いただいているが、感覚の鋭い方々は、我々の研究所の実験に取り組む姿勢、オリジナルなアイデア、テンポの早さを理解していただいている。
 そういえば先月、大学で国際会議を開催し、評価委員として東大名誉教授の増子先生と神奈川技術アカデミー専務理事の馬飼野さんにご出席いただいた。我々の研究に対するコメントのなかで本学の産学協同の取り組みや、表面工学の関連の産業界への貢献は素晴らしいと絶大な評価であった。その際にダイナミックレガシーという自分にとっては初耳のフレーズを使って増子先生が説明された。動的遺産と訳すようであり、早速インターネットで検索した。アマゾンを通して関連の解説をカッコ付きでそのまま引用する。「デル、HP、ZARA、トヨタ、松下電器、ソニーなど、世界の主要企業500社を面接調査して徹底解析する。世界的ベストセラー『Made in America』から16年、MITのチームが新たに挑んだグローバル経済における企業競争力の独創的な分析である。グローバル化の急激な進展によって、世界の企業環境は大きく変化した。生産の外部委託や生産拠点の海外移転が頻繁に行われ、企業活動はもはや一国の領域に留まらず全世界を舞台にきわめて多様かつ複雑に展開されつつある。このようなグローバル環境において、成功する企業と失敗する企業との命運を分かつものとは何か『Made in America』の主要メンバーであったバーガー教授とMIT産業生産性センターは、5年の歳月をかけて米・日・欧・アジア諸国の主要企業約500社を訪問し綿密な面接調査を行った。そのデータをボトムアップの手法で積み上げて解析し、グローバル経済における企業活動の実態と問題とその解決法を考察する。本書は、きわめて高い評価と信頼性をもつ研究レポートの全訳である。」以上この本の書評であり、最近コピーアンドペーストが問題となっているので、ここではそのまま引用させていただいたことを再度強調しておきます。アマゾンで購入すると、翌日配達があり注文の翌日、本が届いた。早速読んでみたが実際は2006年に出版された本で少し古いように思えたが、内容は今でも通ずるものであるが、正直、私にとっては翻訳本であり、経営に関する長文で具体的な聞き取り調査を主体にしている解説本であまりピンと来なかったが、経営者の方々に一読を薦めたい。「グローバル企業の成功戦略」定価2376円、出版社草思社
2018年問題
大学関係者の間では2018年は18歳人口がさらに減り始め、大学が運営していけるか大きな問題で、これを2018年問題と言っている。これまでも少子高齢化といわれてきて久しいが、団塊の世代と言われた250万人以上の受験人口が減り始め、2009年には120万程度にまで減少しその年を底にして、18歳人口はほぼ安定していたのであるが、2018年から再び減り始め、多くの大学は定員割れになり経営が立ち行かなくなってくる。
 18歳人口の減少問題はこのように、一時の200万人以上のピークから現在は120万人程度へと、大幅に減少している。しかしながら、我々の時代は大学進学率が一けた台であったが、1990年代では大学進学率が大きく伸びて現在は、18歳人口の半数が大学に入るようになってきている。すなわち18歳人口の減少を進学率の増加でカバーしてきている。従って学生のレベルも低下していることが大きな問題となってきている。
 しかしながら、2018年以降大学進学率は、今後も50%程度で推移するだろうが18歳人口の大幅な減少により、現時点でも、私立大学の約4割程度が定員割れの状況にあるといわれており、さらに2018年以降、定員割れの大学が現実となり経営が破たんするであろう。大学進学者数20万人程度減少するということは本学のような一万人規模の大学が20校も経営破たんになる。また学部を廃止するとか縮小するにしても私学ではこれからは特色のある教育をしていかねば、誰も入学しなくなるであろう。このまま多くの大学が特色のある大学づくりに消極的であれば、ますます偏差値偏重の教育が残り、発想力豊かな学生が育つ環境にはない状況の可能性を示している。  そのような状況の中、現在、本学を始め全大学が「生き残り」を掛けて「大学改革」を推進しなければならないが、経営者人は真剣だが個々の教授陣はそれほど危機感を持っていないようだ。
 大学改革に当たっては奇をてらわないように、真の教育、工学分野では発想力に優れた学生の養成が大切である。それには研究を通した人材の育成が大切であり、短期的な実績に汲々としている先生方が学生に何を教えるのか、どのような学生を育てるかに思いをはせるべきである。また経営者はフットワークよくトップダウンで、組織や経営基盤作りの再構築を今すぐ実行せねばならない。
通常、教学の領域は教授会が、経営の領域を理事会が担っているがある主要大学では経営陣が猛スピードで改革を進めている。本学も迅速に特色ある大学づくりに今すぐ着手せねばならない。