今、想うこと

関東学院大学 教授
関東学院大学 材料・表面工学研究所 副所長
香西 博明

 新型コロナウィルスの影響で生活がめまぐるしく変わり、今まで普通にできていたことや、気にもとめなかったことの貴重さやありがたさ、大事さを感じることが増えているように思います。

1、「介護」どう支えるのか
 新型コロナウィルス感染症の拡大で、高齢者や基礎疾患がある人が、もし、新型コロナウィルスに感染すると重症化リスクは高いとされています。国内の一部の老人保健施設や特別養護老人ホームではクラスター(感染者集団)が発生し、死亡者が相次いだことも報告されています。では、現場の対応はどうだったのでしょうか。
 私の母が入所していた介護施設では、2月から面会時間は短時間に限られ、3月には面会ができなくなりました。そのまま母との楽しい会話もできず5月1日に亡くなりました。それまでは、毎週、家族で面会に通っていましたが、亡くなる前の2ヶ月余りは電話をかけて施設職員から状態を聞くことしかできませんでした。もちろん、介護における新型コロナ対策については理解しています。でも、認知症などを抱える高齢者は特に人間的な触れ合いが欠かせず、対面を意識した対策を考えて欲しかったです。最近の施設においては、利用者と家族が会えない状態をなるべく避けるため、オンラインの面会などインターネットの活用が進んでいることを聞きました。利用者も交えてみんなが知恵を絞り、感染症の知識と理解を深めながら、今後の高齢者向けの介護サービスのあり方について、取り組んでいくことを期待しています。

2、コロナの日々から学ぶこと
 新型コロナウィルスの影響で、多くの大学の授業がオンライン中心となっています。学生たちはキャンパスへの立ち入りを制限され、不自由な大学生活を送っていることでしょう。ここに来て感染が再拡大の傾向を見せたため、秋からの後期(秋学期)の授業も原則オンラインとする大学も多いようです。学内施設の利用も制限され、サークル活動などができないケースも生じていて、学生からは不満の声は上がっています。心配なのは、学生が大学で学ぶ意味を見失い、学業を放棄することが出てこないかということです。学生諸君の健康を守りつつ、意欲をそがない対策が求められます。一刻も早く感染拡大が収まって欲しいです。
 長期の休校措置がとられた小中高校では、遅くとも6月には学校が再開されたが、8月上旬には1学期が終わりました。年度初めから先の見えない日々が続きました。3密(密閉、密集、密接)の回避、手洗いやうがいの徹底、換気や消毒など、できうる限りの対策を続けてきました。特に、学校内外に限らず“新しい生活様式”として最も定着したのがマスクの着用です。学校生活でも、マスクの着用が当たり前となり、教員も生徒もマスク姿のまま過ごす日々であり、お互い先生、生徒の素顔を知らないまま1学期が終わりました。異常な日常になりつつありますが、早く素顔で話し合える日々が来ることを願うばかりです。
 そして、新しい生活様式に合わせ、「Zoom」などのインターネットのウェブ会議システムが多くなりました。先方の指定する場所まで移動する必要もないし、自宅にいても会議ができます。確かに、無駄は少ないだろうが、今、雑談をする機会が減っています。
雑談は人と人をつなぐために大切なものように感じています。そこには、思わぬ発見に遭遇する時もあります。それが、最近では、いつも余計なことをしゃべらずに、時間が経過し、ウェブ会議システムが終わると、終了ボタンをクリックすると、一瞬でパソコン画面に戻ります。余韻の残らないため息のみの毎日です。
 春先にあれだけ「ない、ない」と騒がれていたマスクが、今は、どうでしょうか。
常時、店頭に並ぶようになりました。夏の暑さでも不快にならない冷感タイプもあり、あの大騒ぎが嘘のようです。その中、とても気になってきたのが路上に落ちているマスクです。以前はみんながのどから手が出るほど欲しがっていた不織布マスクです。マスク自身、どのような人生を送ったのでしょうか。緊急事態宣言中は、マスクの捨て方もよくニュースなどに取り上げられていました。それなのに、このような無神経な行動が出てきてしますのは、とても残念です。新型コロナウィルスの感染症が再び増加している今、一人一人が基本的な感染対策を見直し、注意深く行動をしていくことが大切だと、思います。さらに、感染拡大防止に必死である中、少しでもプラス情報をという気持ちなるのは十分理解できますが、大阪府知事が発したうがい薬推奨のメッセージはどうでしょうか。その根拠となる研究内容などについて専門家から批判が相次ぎました。その上、うがい薬が薬局から消え、歯科医でも入手が困難となりました。一刻も早い収束を、とはやる気持ちはとても分かりますが、もう少し考えて欲しかったです。

3、球児の思い、心から拍手を・・・
 「甲子園高校野球交流試合」が8月17日をもって全日程を終えました。春の選抜高校野球大会の出場32校による交流試合は8月10~12日、8月15~17日の6日間、阪神甲子園球場で行われ、選手や関係者から新型コロナウィルス感染者を出すことなく無事に終了しました。第92回選抜高校野球大会、第102回全国高校野球選手権大会と初めて春夏連続で甲子園が中止となり、今夏、あの歌は甲子園球場の入場行進で流れませんでした。
 ♪雲は湧き 光あふれて 天高く 純白の球 今日ぞ飛ぶ♪
 全国高校野球選手権の大会歌「栄光は君に輝く」で、NHK朝ドラ「エール」の主人公のモデル、古関裕而さんが作曲した曲です。きっと、試合を渇望していた選手たちにとって、充実感が漂う日であったことでしょう。1試合限定の戦いを「決勝」に例えるチームもあり、やはり敗戦に涙する球児たちの姿もありましたし、彼らは全力で応えたことと思います。試合は、密集を避けるため一般客は入場できませんでした。開会式は開幕試合に登場する2校だけで行われ、例年のように全校が入場行進もありません。検温や消毒、滞在日数の短縮などの感染防止策もとられました。応援団のいないアルプススタンドや人っ子一人いない外野席を見るにつけ、はたして元の姿に戻るときがこの先やって来るのだろうかと思ってしまいます。今年は、部活動に取り組む中高生の全国大会が軒並み中止となり、生徒らには割り切れない思いが募ったに違いないでしょう。だが、さまざまな形で発表の機会を作ろうと、各地で関係者が力を尽くしてくれました。高校野球はすべての都道府県で独自の大会が開かれました。長梅雨で日程を消化しきれず、途中で打ち切りになった大会もありましたが、部活動の集大成の場が設けられたのは救いとなったことに違いありません。交流試合において、花咲徳栄(埼玉)の野球部主将は選手宣誓で「一人一人の努力が皆を救い、地域を救い、新しい日本を創ります」と力強く語ってくれました。
 今年は、異例づくしの特別な年であります。だが、限られた環境の中でも、知恵を絞って新しいあり方を考えることで、前に進めることの大切さを感じました。