<< コロナ禍によるテレワーク渦 >>

関東学院大学 材料・表面工学研究所
盧 柱亨

 今年の2月から突然世界を襲った新型コロナウイルスは、我々の生活に多くの変化を及ぼしている。「密閉」「密集」「密接」の3密を避け、社会的な距離を維持しながら感染防止に向けて、テレワークが進むようになっているが、あまりにも突然のことで充分な準備もなく、「テレワーク渦」に巻かれているとも言える。
 特に、テレワーク時代のコミュニケーションにかかせないのが「Web会議ツール」である。筆者も以前は、ほとんどスカイプでのビデオ会議しか使っていなかったが、突然訪れたコロナ禍によるテレワーク渦に巻き込まれながら、大学でのオンライン講義、国内外の大学や企業など研究協力先とのWeb会議ツールの導入から、その運用後の感想、Web会議に必要な通信ネットワークやデバイス、気になるセキュリティーの動向までWeb会議ツールの現況をまとめてみた。

<主なWeb会議ツール>
 Web会議や画面共有などの機能を備えるWeb会議ツールは、テレワークでの協調作業に不可欠である。
Web会議ツールは、多くのツールが発売されているが、世界的にアメリカ勢がとても強く、米Googleの「Google Meet」、米Skypeの「Meet Now」、米Cisco systemの「Webex」、米Zoom Video Communicationsの「zoom」、米Microsoftの「Teams」など5つのツールが多く使われている。
表1に、5つのWeb会議ツールの「使いやすさ」「繋がりやすさ」「セキュリティー」「無料プランの最大使用人数」「長所」「短所」を個人的な感想と周りの評判などをまとめてみた。
5つのツールの中で使いやすさと繋がりやすさで人気が高いのは、「zoom」であり、その次がCiscoの Webexでないかと思う。

・Google「Meet (Hangout)」は、GoogleやGmailのアカウントを活用すれば、手軽に使えるとの評判だが、画面共有の際、コンテンツのみ映すことができず、背景がすべて映るのでプライバシー保護ができない短所がある。
・Microsoftの「Teams」は、Windowsのパソコンには基本的にインストールされるものであり、パソコンの電源を入れた瞬間からビジネス・グループのチャットができるなどの便利な機能があるが、グループ構築が面倒なので、なかなか使えないアプリになってしまっている。
・意外と知られていないのは、Skypeの「Meet Now」である。おそらくSkypeの煩わしさの印象での不人気だと思うが、「アカウントの登録不要」「アプリのインストール不要」で一番手軽く使えるものであった。
 Meet Nowのホームページで、 1. リンクの生成 → 2. リンクの共有 → 3.クリックでスタート できる優れもので、しかも使用料無料で1通話24時間 まで可能であるが、最大接続が50名であることが唯一の弱点である。
・「Cisco Webex」は、zoomのセキュリティーの懸念からヨーロッパなどでは広く使われており、使いやすいが、朝10時や午後1時など会議を始める時間帯に、接続が遅れるトラブルに遭遇したことがある。Meet Nowより大人数でしっかりしたセキュリティーでのWeb会議をするためには、一番勧めたいツールである。
・「zoom」は、zoom飲み会などお洒落なイメージングで、iPhoneを使う人が好むツールの印象があり、一番使いやすいことは確かである。しかし、会社の根本とセキュリティーの懸念からは、あまり勧めたくない。Zoom Video Communicationsは、アメリカの会社であるが、Webexで14年間働いていた中国人のユアンCEOが設立した会社で、中国のサーバーを通すことに不安が残る。
 
<人気のzoomのセキュリティーの懸念>
 Zoom-bmbingと言う新造語が言われるほどのセキュリティーの危険性が問題視され、ヨーロッパ諸国やアメリカ国内で使用を禁じる機関が続出し、しまいにはFBIが乗り出すことになった。
Zoomは、「End to Endの暗号化」を主張していたが、カナダ・トロント大学のCitizen Labが調査・発表した結果によると、zoomは「End to Endの暗号化」をサポートしていないことが明らかになった。
「End to Endの暗号化」は、利用者以外は情報を復号できない暗号化に指す。Web会議なら、会議の参加者だけが暗号鍵を共有し、やりとりする情報を暗号化および復号する。サービスの提供者であっても情報を復号できないことが当然である。しかし、zoomは、実際はzoomの鍵管理サーバーが暗号鍵を生成および管理し、会議の参加者に送っているという。zoomは、やりとりする情報を復号できるのである。

 図1に示すように、73ある鍵管理サーバーのうちの5つが中国に設置されているようだとしている。そして、中国以外にいる参加者同士の暗号鍵が、中国の鍵管理サーバーから送られていたという。中国の鍵管理サーバーの暗号鍵が中国政府当局と共有された場合、ビデオ会議の内容が中国政府当局に筒抜けになる恐れがある。これについてzoomは、中国のサーバーを増強した際の設定ミスと説明し、現在ではこの問題は解消したとしているがどこまで信憑性が欠ける。暗号化に使用しているAES(Advanced Encryption Standard)の鍵長は256ビットだとzoomは説明していたが、実際には128ビットだったことが明らかになった。暗号文においても、一般的なCBC(Cipher Block Chaining Mode)を使わず、平文と同じパターンが現れるECBを使うのも気になる。
 専門用語のオンパレードでわかりにくくなったかも知れませんが、 Zoomは、以上のように暗号化が強固とは言えないので、各国の政府機関や機密情報を扱うことが多い企業がzoomの使用を禁止しているのは十分納得できる。
しかし、Web会議をしたい相手がzoomしか使えない環境で仕方ないと判断された場合には、拒否をするよりもzoomのセキュリティーの懸念をしっかりと認識したうえで、zoomを使用することも良いかもしれない。
・機密情報は、他の手段で相手と共有する。
・ビデオ会議を識別するためのミーティングIDを公表しない。
・会議の参加にパスワードを設定すること。
・参加者を事前にチェックできる「待機室機能」を使うことも効果がある。

 <Web会議に必要な三拍子>
 上記では、Web会議のツールについて話したが、Web会議を円滑に行うためには、「ハードウェア」「通信ネットワーク」の三拍子を看過してはいけない。Web会議のツールのほとんどは、パソコンのみならずスマホでもWeb会議ができるように開発されている。しかし、複数の人が3密を避けるための距離に離れて1台のデバイスを共有する場合には、音声と映像の送受信するためのデバイスの選びも重要な要素である。最近、ほとんどのノートパソコンに付いているカメラやマイク、スピーカーでは、音量が小さくなったり、人の顔がよく映らなかったり、モニターの上に設置可能なWebカメラだけでも同じ問題で困ることもある。そのためには、Web会議に特化された高性能のデバイスに大胆な投資も必要と思う。また、今回のコロナ禍で3密の環境であるコールセンターの950名をテレワークに切り替えた、ある保険会社の例を見ると、Web会議ツールと同じく苦労したのがネットワークの確保であった。Web会議に使われるデータ通信量は、1時間に1GBほどに及ぶためネットワークの負荷も多く通信大乱に陥る寸前だった。また、コロナ禍によりアルバイトの場を失った一人暮らしの学生がオンライン講義を受講するためにスマホのプランをデータ使い放題に切り替えるための負担も大きかったのだろう。
 このように、なかなか収まる気配のないコロナ禍によるテレワーク渦に対して、今まで考えていなかったこと、今までやったことのないこと、これから行うべきことなど頭が複雑であるが、ある自動車会社のCMにちなんで「やっちゃえ・ニッポン!」と、みんなが力を合わせて頑張れる手段としてWeb会議が活用できればと思う。