私は肥満か?
関東学院大学
材料・表面工学研究所
所長 高井 治
自分の体重が気になってきた。以前はあまり気にしてなかったのに。
さて、自分が肥満かどうかの判断は?
自分で勝手に決めればいいでしょう、と言われそうですが。
体重について、何が正常か?
正常なんてあるのか?
体重に基づいて肥満かどうかの判断に使われている指数に、BMI(ボディマス指数;Body Mass Index)があり、体重と身長の関係から求められる。この指数は、身体の総脂肪量とよく相関するとのことである。
BMIの計算は、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で求められる。例えば、身長が170 cm(1.7 m)で体重が65 kgの人のBMIは22.49となる。この人の体重が75 kgに増えればBMIは25.95となり、85 kgに増えると29.41となる。
さて、このBMI値をどう評価するか?
この値を用いた肥満の判定基準は国によって異なっている。
世界保健機関(WHO)や欧米諸国は、25.00以上を過体重(overweight)(太り気味)、30.00以上を肥満(obese)としている。ちなみに、普通体重(標準)は18.50以上25.00未満である。
日本では、日本肥満学会(この学会があるのですね)が基準を出しており、18.50未満が低体重、18.50以上25.00未満が標準、25.00以上35.00未満が肥満、35.00以上が高度肥満となる。WHO等との違いの理由は明らかにしていない。
このBMIは、性別、年齢に関係なく用いられる。人種、骨太の人、足長の人といったような人の特徴には配慮していない。ただし、学童についてはローレル指数(Rohrer index)(体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)÷身長(m)×10)が用いられる。
性別、年齢に配慮しない指数はどうかと思うが、指導者にとっては細かいことを言わない方が指導しやすいか。日本の基準によるとBMI値は結構容易に25をこえてしまい、肥満と判断される。健康診断では、肥満の判断された人には、指導が入り面倒なことになる。
BMI30以上を肥満とすると、日本では成人人口の約4%があてはまり少数です。ところが、BMI25以上とすると、日本で、成人男性の約28%、成人女性の約20%が肥満にあてはまるとのことです。学会が基準を変え、肥満者を増やしていることになる。
一方、日本人のBMIと総死亡率を調査した研究がある。この調査によると、男性ではBMI25以上27未満の人、女性では23以上25未満の人の総死亡率が最も低くなっている。太り気味の人の方が死ぬ率が低いとなります。BMIが30をこえてなければ、減量する必要がないと考えられ、BMIが30をこえないように注意することが必要です。逆に、BMIが19未満の方の死ぬ率は高く、やせすぎに気をつけた方がよいとデータは示している。やせすぎの方が、危険性が高いとなる。
さて、BMIのことを書いてきたが、BMIには科学的根拠があるのかというと、ないようです。BMIは、もともとケトレー指数と言われ、ベルギーの数学者、天文学者、統計学者のアドルフ・ケトレー(ランベール・アドルフ・ジャック・ケトレー、Lambert Adolphe Jacques Quetelet;1796年2月22日-1874年2月17日)が本式を導入した。
ケトレーは、数学者、天文学者であったが、社会学に統計学的方法を導入し、「近代統計学の父」とも言われている。平均値、ヒストグラムなどの方法を開発した。ちなみに、「近代統計学の母」はだれかと言うと、イギリスの看護師で有名なフローレンス・ナイチンゲール(Florence Nightingale;1820年5月12日-1910年8月13日)と言われ、ケトレーの著作を読み、統計の重要性を広めた。
ケトレーは統計手法を導入し、本式を提案したが、筋肉量、脂肪量などを無視しており、その欠陥は十分わかっていた。都市の人口とその相対的な身体の大きさを評価する目的で考え出され、肥満度を算出するにはあいまいであると言っていた。ところが、1945年にアメリカの保険会社の人が、体重の重い人は保険料の支払い額が大きい傾向にあることを見出し、標準の人を肥満に変えれば、より高い保険料を得ることができると考え、このために、ケトレー指数が使われるようになった。保険会社の金儲けのために、「肥満」を増やそうとケトレー指数が使われ、広められた。
1972年には、アメリカの高名な生理学者が、ケトレー指数をBody Mass Index(BMI)に変更し、肥満評価に利用し、有名な指数になったようです。ただし、この生理学者の研究には疑問が投げかけられています。
あやしげなBMIが、今でも広く使われています。何かおかしいですね。