発想を豊かに

関東学院大学
本間英夫

 来年一月で82歳、人との会話流暢さがなくなり、滑舌が悪く的確な言葉がスムースに出てこない。特に朝起きがけは、その傾向が強くなってきたなーと自覚(自覚できるからまだいいだろうと自己肯定)。この様に、80も過ぎると物忘れが多くなるが、更に自分が今何をしようとしていることがわからなくなって来るようになったら、即引退との気持ちでいる。そういえば中村先生が後年「本間くん、俺ボケたらはっきり教えてくれよ」といわれていたものだ。先生は大正生まれで英語が得意でなかったので、皆さんを前にして講演されたとき、ビジョンをピジョンといったり50を英語でファイブテーンといわれたので、小生は忖度せず講演後、訂正してあげたことを思い起こす。又、先生は講演する前に内容の骨子を小生に話され、講演されることが多かった。小生はすでに中村先生が活躍されていた頃より20年以上歳を取っている。そろそろ完全引退なのだが、環境が整うまでは研究所とハイテクノをサポートして行かねばと言うのが偽らざる心境だ。大学に研究所という環境、若い学生と常に接することが若さを保っている秘訣なのだろう。
 今回のタイトルは発想を豊かにとしたが、小生が言い続けてきた偏差値教育から発想型に切り替えていかねばとの機運は出てきている。スタッフの一人が先生はコンサルタントに向いていないという。1対1または1企業とのコンサルテーションでなく、信頼できる関連企業が集まりコンソーシアムを構築、皆さんと技術力をあげていくのが使命と思っている。
 先ずは先日電話での会話をAIで文字起こしを研究所スタッフの堀内先生にお願いした。認識率はまだ低いようだが手をいれれば文字起こしができる。カッコでくくった箇所は修正文。話の内容は私の5、6年後輩でめっきを中心としている企業の工場長でドクターコースに入りこれまでの研究をベースに実験をしている後輩とのやり取りである。この電話内容から思い付きや発想の豊かさ、オープンな会話のやり取りの大切さを感覚的にとらえていただければ幸いである。

後輩:あ、すいませんね、何度も。先生やっぱり面白かったよ。イメチルアミン。(ジメチルアミン)これをね。最初に先生言われた通りに、まず、シアン化金カリウムの液を作って、えー、例えば、シア(シアン)10ppmの液を作って、そこにホラン(ボラン)を入れて、一応、1日放置したの。1日駅(液)の中入れっぱなしで。で、翌日、それをろ過して、ブクブクオゾンでやりましたよ。うん、落ちるよ。
私:あー、よかったじゃん。 その、1日放置してたら、dma(DMAB)入れて、その時心電物(沈殿物)はどんな色してた。紫色、真っ黒。
後輩:なんか紫っぽいような感じだったかな。
私:紫色のそれが金なんだよ。
後輩:これが金なの。
私:それ金だよ。紫色だろう。
後輩:あー、そういや。じゃ、ちょっとね、今度それをまた分析してみよう。
私:だから言ってんのは、初めにオバブさ(オゾンバブル)使うんじゃなくって、金を先に析出させてしまうとフリーの治安(シアン)になるから、簡単にシアンは分解するよ。という風に俺、提案したんだよ。
後輩:先生の。先生の推測通りです。
私:俺。自分で言うのおかしいけどね、今まで60年間色々やってきたろ。大体ね、自分でイメージすんじゃん。 意外と当たるんだよ。
後輩:ぴったりですね。
私:意外と当たるんだよ。それも俺1人でやってるわけじゃなくて、学生とこいつもこの、あのーと町長発(丁々発止)。色々やり取りしながら、 やっぱ俺は年上だから、自分なりのアイデア出したりして、やってみたらどうだ。意外とどんどん、どんどん当たるんだよな。で、楽しくなって、 え。要するにほら、刑事じゃないけど、漢字(判じ物)を解くような感じだよこれ。だから今でもね、こんな年とってもね、いろんな発案したり、いろんなことできるわけだよ。
後輩:先生の、先生の感(勘)がみんな当たってるよ。ほんとだよ。すごい。ほんとに。でもね、最初さ、ただ、言われたままに、シアンの、その、キンカの駅(シアン化金の液)の中にね、あれ入れてから、オゾンでブクブクやったら、何も反応しなかったわけじゃん。でもさ、だから、先に1回反応させるっちゅうのが、
私:そうなんだよね。そうそうそう。あのね、sbh(SBH)ではもっと早くバーっとはんでいくと(反応していくと)思うよ。
後輩:今、それを調達してますから。
私:はい、やってください、これでもう全部できたじゃん。
後輩:いや、でもこれ。これは。これはこれで。ただ、俺ね、3本目、排水処理で苦労してるね。例えばロッカク。ロッカクロム(6価クロム)に試案(シアン)を一緒に入れると、
私:自分のデーターをもとに書いた方がいいぞ。
後輩:それの方がさ、もう、だって、データまとめればいいんだから。
私:今までのデータ全部いけるじゃないか。それ。だから、新しいことやることが脳(能)じゃないんだから。過去にやったものをちゃんと論文にすればいいんだから。よかったじゃない、それで。
後輩:ま、一応。だから、これ、よかった。ペット(ホット)したよ。
私:シアン分解ができるってことはまずわかった。それはそれでいいんじゃない。
後輩:ということで。本当、ありがとうございました。じゃあよろしく。またsb、sbエ(SBH)だっけ、また報告します。どうも。

 以上がドクターコースに在籍中で本人は環境計量士の資格を持ち長年多くの経験をしているので、テンポよく実験が進むしお互い頻繁に電話で話し成果を上げている。
 この会話で何をやっているのかは類推できると思う。実はオゾンのナノバブルをプラめっきの表面改質に応用し、成果を挙げてきている。また、研究所設立に際しゼロディスチャージを採用、排水は全て原点で引取り、水洗水はイオン交換を通して循環利用。従って配管の中は主にバイオフイルムにおおわれていたので、強い水流で洗浄したら真っ黒で泥々の液が出てきた。そこで梅田先生がプラめっきの表面改質に使用していたナノバブルで洗浄してみたら真っ黒で泥々していた処理水がシャワシャワ透明になったと報告、それを聞いていた小生は硫酸銅やニッケルめっきの活性炭処理の代替を思い付き、スタッフの田代先生を中心に研究を進めている。又、小生は60年前シアン含有めっき排水の処理が卒業研究のテーマーであった。現在もこの塩素2段処理が使われている。今回はオゾンで処理すれば、一段で処理ができシアンの分解と貴金属の回収も容易だろうと思い付き、上述のようにドクターコースで研究に励んでいる後輩に提案、その電話のやり取りを紹介した。企業ではなかなか提案型の基礎研究はできない。本学に表面工学コースを今年から構築、奨学金も給付型で充実し、産業界と一体となって、新しい発想に基づき学生を養成していきたいと願っている。みなさまの会社へ高卒で入社されようとしている生徒に関東学院大学の表面工学コースに入学を促していただければ幸いである。