見込み違い

関東学院大学
本間英夫

 携帯電話は世界の需要2億8千万台が7億台に増えるとの予測から、昨年電子部品メーカーは、こぞって膨大な設備投資をした。

発注が従来の3倍にもなると言うんだから、いずれの企業でも建物の増築や設備投資を積極的にやってきた。ところが、昨年の9月から10月頃にかけてどうも様子が一変した。相次ぐ注文のキャンセル。それもゼロの数字である。なぜ!経営者はじめ責任者は積極的に設備投資を進めてきたのに自分の目を耳を疑ったであろう。

発注は、携帯電話4億台分で、その内1億台分は売れ残り在庫となってしまった。したがって、2千万台しか増えなかった勘定だ。需要予測が大きく外れたことになる。

携帯メーカーは膨大な売れ残り携帯電話在庫を抱えて、膨大な赤字発生となってしまった。部品生産能力を3倍に上げた各部品メーカーは結果として、稼働率を上げて部品を値下げし、生き残りを賭けた競争に入っていかねばならず、ますますデフレスパイラルの泥沼にはまり込んでいく。

関連の装置、薬品メーカーも痛手が大きい。

4月下旬大手電機メーカーの昨年度の決算が発表になった。ほとんどが増収増益、しかしながらその利益の大半は昨年の上期に集中し、下期は半導体を初めとしてエレクトロニクス関連企業は需要停滞により利益を上げていない。1999年後半から始まったDRAM好況は僅か1年で変調をきたした。インテルの業績見通しが下方修正され、その後ハイテク株が軒並み大幅にダウン。

いわゆる「インテルショック」である。したがって、今年は各社とも相当厳しい年となりそうだ。

予測は難しい

携帯端末機器、当然部品は限りなく小さく軽量に高密度になっていく。当然これらの製品に関連する製造業では微細加工の占める割合が多くなる。しかも、そうなってくると今までの設備はどうなるか。

当然陳腐化し、新しい設備を導入しなければならない。勇猛果敢に攻めの経営とばかりに設備を更新し、さてこれからと準備が整った段階で、その仕事はありません。東南アジアにて生産することになりました。あるいは、もうその部品は使いません。他の方法にします。エレクトロニクスメーカーも部品供給メーカーもグローバルな視点を持っていないと大変なことになる。今回の携帯電話は、この種の技術競争というよりも、需要予測の完全なる思惑外れ。

 もう一つ卑近な例としてハードディスク。パソコンの需要拡大と共に数年前まで、アルミのハードディスクは、生産が追いつかないくらいの需要拡大期にあった。それが、その後のパソコンの需要一巡で、生産量が停滞から下方に向かってきた。アルミのハードディスクはご承知のようにめっきが使われている。

 磁性膜をアルミ上につける前に、20ミクロン程度の無電解ニッケルめっきが被覆される。もう10年以上前になるが、めっき業界で積極的な経営者はこの仕事を取り込もうと動いた。しかし、これは大型の設備を要するし、また、めっき工程はディスク製造のキーになる要素技術ではあるが、一工程に過ぎない事から参入しなかった。これは正解だった。

 結局は、数社の大手のアルミメーカーが下地のニッケルめっきをやることで毎年増産が続いた。設備メーカーも薬品メーカーも拡大基調であった。しかし、パソコンの需要一巡でそのテンポは急激に落ちこんだ。

 実はそれだけではないのである。ディスクの記録密度を向上させるには、書き込んだり読み取るためのヘッドを小さくしなければならない。そのヘッドは、10年前200ミクロン程度の大きさのコイルから作られていた。このコイルにもめっきが使われている。それが5年前には百数十ミクロンで、それほど小さくはなっていなかった。

99年には100ミクロン前後の大きさで、95年以降の5年間は、あまり微細化が進んでいなかった。しかしこの間に、着々と研究が進められていたのである。なんと99年から2000年の1年間で、ヘッドのコアの大きさが10分の一の10ミクロンになったのである。

 ということは、同じ大きさのディスクに今までよりも、何十倍の記録が出来る。または性能を同じにするのであれば、アルミディスクを何十分の1かに小さく出来ることになる。したがって、アルミを用いなくても、これ位密度を上げれるのであれば、ガラスの小さなディスクでもいいことになる。パソコンに使われるディスクは、このようにして、今までの5インチくらいのものが、コイン大の大きさで同じ記録が出来るようになった。実際にかなりアルミがガラスに変わったのである。

 さて、設備投資を積極的に展開してきた会社はどうしようもない。設備はやむなく廃棄しなければならない。この種の需要予測、判断のミスは命取りになってしまう。エレクトロニクスの領域では体力がないと、また利益をサーッとだし回収を早くしないと、大変なことになる。一つ判断を誤ったら一巻の終わりである。

 現在、日本全体が土地、金融を初めとして不良債権で大変な事態に追い込まれている。

 このような事態になることに対して警鐘を鳴らしていた専門家は多かった。国の間違った舵取りが、この事態を生んだと後講釈しても仕方が無い。

 中村先生は7、8年位前だったか、いつもこれから大変だぞ、俺は先は長くないから関係ないがな、と口をすっぱく言われていた。

トレンディにもその事が書かれている。

 話を戻すが、アルミディスクに関しては予測できなかったのか?受身の経営をやっていたから予測できなかったのであろう。技術に関しては、常に5年から10年のスパンで、先を予測して開発をするグループを置いておかねばならない。

 自社内で開発をきちっとやり、グローバルにウオッチし技術関連のシンポジウム、国際会議、学術講演大会、その関連領域の大学とのコンタクトを通して、予測は出来るはずなのだ。

 余り大局的には判断できないような私でさえ、いつも講演のイントロで、まさに、このコイルを例に上げ、また回路のロードマップを例にあげ、先を予見する事の重要性を説いてきた。

なぜそれでは大手の企業で知識や情報をもちながら、こんな大きな失敗をするのか?

それはいつに物まね社会であったことに起因しているのではないだろうか。自ら積極的に開発投資をやってこなかったので人材が育っていない。いつも外国崇拝主義で企業内での開発をおろそかにしてきた付けが回ってきている。ちなみに、リーダー的な企業は常に新しい創造に向かっているので、逆にこの種のリスクは余り無いだろう。彼らの多くは国際的な視野に立ち、日本で発表する前に国際会議で発表しトップ集団と情報を交換している。基礎的なところでは大学との関係はきちっと連繋しながら。

 今まさに大変革が各企業ですさまじい勢いで行われている。この表面処理業界においても、まさに21世紀を担える企業作りを着々と進めている会社が、実はいくつかある。今までの下請け、受身のイメージを払拭し、自ら表面処理の重要性をアピールし、それが現実に機能してきている。

身近な需要予測 e‐ラーメン

 半年くらい前、水を注いで後は電子レンジでチン。e‐ラーメンの発売間近と、日経産業新聞に小さな記事が載っていた。学生に発売日、いろんな種類のe‐ラーメンを買ってくるように言っておいた。さて当日学生5、6人と何種類かのラーメンを電子レンジで調理?試食してみた。味はそんなに悪くは無い。

 しかし、今までのインスタントラーメンと比較して、電子レンジで過熱する時間が少々長い。これではインスタントではない。また価格が20%くらい高いらしい。これも需要予測の読み違えであろう。スーパーでも、余り大きくブースを確保していないようだ。インスタントのラーメンに関しては、各社熾烈な戦いをやっている。テレビの特集番組で報道されたことがある。

 商品開発の企画部が新しいコンセプトの元に、このe‐ラーメンも考え出されたのであろう。勿論当然ながら、主婦や若者のモニターからの意見も参考にしながら発売に踏み切ったのであろう。

 モニターは、おそらく有料でアルバイトのような形式を取っているのであろう。とすれば、データは会社よりになってしまう。e‐ラーメンといえば時代にマッチし、新鮮さと清潔感がイメージされる。包装もなかなかしゃれている。だけど食品だからイメージだけでは駄目で味で勝負だ。時間がかかり、味も今までのものと比べて変わりがないとすれば、私のように何でも新しいものに飛びつく連中が、一度購入したらそれでおしまい。

 その後、下宿している学生からこの話は全く聞かないし、我が家の食事担当者はまずe‐ラーメンの意味が分からないだろう。実際、販売半年になるが、夜食やちょっと腹ごしらえにと台所の隅にボックスが置いてあるのだが、一度もこのラーメンは入っていない。

研究室でも、学生が時々インスタントラーメンを買ってくるのが、私と試食した後は、e‐ラーメンは全く研究室では不評のようである。

 担当者はおそらく、かなり期待して自信を持って発売したのであろうが。需要予測はなかなか難しい。

 一方、マスコミによる選挙予測は、かなり確実である。事前のヒアリングを初めとして、ノウハウが蓄積されている。

 来月の参議院選挙はどうなるだろうか?マスコミの取り上げ方で、票が一気にいずれかの方向に振れる。今回の自民党総裁選は、結果としてマスコミを上手く利用した形になった。4人の候補者は誰一人欠席者は無く、ほとんど全てのテレビ局にはせ参じ、自民党をアピール。他の政党もマスコミの有効性を認識しているので、焦りからか、テレビジャックと批判。国民から遊離していた永田町の論理から国民世論へ。

 小泉総裁選出の経緯は、明らかに新しい胎動を感じる。小泉氏が総理総裁となった場合、短期的には株価は低迷するが、抜本的な改革をすれば長期的に株価が上昇するとするのが一般的な見方。国民的な人気が一気に上昇している。

 ヤフーのサイトに小泉新総裁は何点かというのがあった。確か80点以上が投票総数の80%を占めていた(その後新聞に新総裁の支持率80%と出ていた)。

 この人気をバックに、参議院選挙は一転自民党が有利に展開するのではないだろうか。いままでは、発足時に高い支持率を得た政権は短命に終わっている。

 しかし、党内各派閥の従来のしがらみを国民的な人気で打ち破り、不良債権処理、構造改革を積極的に実施すれば、長期政権の可能性大である。抜本的な改革の推進は一部では大きな痛みを伴い、日本経済に一時的に打撃を与えるが、その後は健全な日本が復活する。

果して、シナリオ通りに展開するだろうか?